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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第225話 海に潜ろう

「おっ、見えてきたな」


 以前ティアマトと亀が戦っていた場所。そこには簡易的な足場が出来ており、そこにはゼロ、姉さん、トオルと、もう一人知らない女性がいた。


「すまん待たせたか?」


「いや、まだ予定時間より早いから問題ないよ」


「いや、遅いわよ! もっと早く完成させなさいよ」


 姉さんがこっちを見ずに文句を言う。口調は相変わらずなのだが、いつもの覇気がない。というか、ゼロと姉さんは見ただけでかなり疲れているのが分かる。


「ごめん姉さん。ちょっと手間取った。だけどちゃんと完成させたから大丈夫だよ」


「当たり前よ。こっちが大変なときに生放送なんかして遊んでるんだもの。完成してなかったらぶっ飛ばすところよ」


 あっ、生放送は見たのか。いや、今もこっちも見ずに何か集中しているから、恐らく見てはない。多分ポケットに入れてるケータイから声だけが聞こえて来たんだろう。


「いや、あれはティティが……」


 俺が言い訳しようとするとそれよりも早く、俺と姉さんに立ちふさがる人物がいた。


「貴方がシオン様ですね。この度はわたくし共の為に面倒をかけます」


 彼女は俺と目が合うと丁寧なお辞儀をする。


「えっと……」


「シオンくん。彼女が現海魔王のテティスくんだよ」


 あっ、彼女がテティスか。ウェーブのかかった長い水色の髪。金色の髪飾りがよく似合っている。今は人型の姿をしているが、彼女も海の魔族なんだよな。


「あら、いやですわ。わたくしとしたことが名乗るのを忘れておりましたわ」


 ……もしかしたら意外とうっかり屋さんなのかもしれない。


「では改めまして、お初にお目にかかります。シオン様。今回はわたくし共のために面倒をかけます。これが終わりましたら必ずお礼をさせていただきます」


 ……また最初から挨拶するんだ。


「こちらこそよろしく。礼は別にいいよ。俺は別に薬を作っただけだしね。それよりもゼロやトオル達を労ってくれ」


 俺よりもゼロとトオル。姉さんやリュー……。


「あれっ? そういえばリュートは?」


「リュートくんとエキドナは竜宮城にいるよ。流石にあそこを手薄には出来ないからね」


 そういえばエキドナもいるんだったな。全然話を聞かなかったからすっかり忘れてたよ。


「勿論ゼロ様や皆様にも十分な礼はさせていただくつもりです」


「ねえ! そんな話よりさっさとやってよね! これでも結構キツいんだからね」


 確かに会話はしてるけど、こっちを全く見ない。本当に余裕がないんだ。


「どうやら姉さんが限界みたいだからさっさと終わらせるよ。で、どうすればいい? 流石に直接投与しないとと厳しいんだけど……」


 ティアマトは三十メートル以上の巨体だ。普通の魔物なら飲ませるだけでいいだろうが、ティアマトくらいの大きさですぐに効果を確認するには直接注射で投与した方が早い。


「姉は海中におりますので、トオル様とわたくしで、シオン様を誘導します」


「えっ俺も海中に入っていいの?」


「一応僕の方でシオンくんの魔力を漏らさないように気をつけるよ」


「そっか。よろしく頼みますテティスさん、トオル」


「わたくしのことはテティスで構いません」


「じゃあ俺のこともシオンでいいよ」


「畏まりましたシオン様」


 ……ちっとも分かってねぇ。まぁトオルにも様付けしていたし、テティスにはそれが普通なんだろうな。


「じゃあ早速行こう!」


 俺は海に潜る前にチラリとゼロを見る。向こうも俺を見ていたようで目が合う。


「シオン。頼んだぞ」


「任せとけ」


 俺はそれだけ言って、トオルと一緒に海に潜った。



 ――――


 海中では俺の魔力が漏れないように、ついでに息が出来るように、トオルの魔法で全身がコーティングされていた。

 海の中だけど、完全に体が覆われているから、ウェットスーツってより、透明な宇宙服を着ている間隔に近い。まぁ両方着たことなんかないから想像だけどね。


「シオンくん。それにスーラくんも。一体いつの間にこんなに強くなったんだい? こっちは二人の魔力を防ぐのに精一杯だよ」


「まぁ大分修行したからな。でもトオルだって、ちゃんと俺とスーラの魔力を漏らさずに封じ込めてるじゃないか」


 別にトオルの魔法を破ろうとしている訳じゃないから、同レベルの魔力は必要ないとはいえ、それでも二人分の魔力をちゃんと封じ込めてるのは流石としか言いようがない。


「何言ってるんだよ。ゼロくんやサクラくんは僕と同じ一層分のカバーで済んでるのに、シオンくんは三層分でカバーしてるんだよ」


 トオルの表面は薄皮一枚で覆われている。これが一層と考えるなら、それこそウェットスーツの感覚なんだろう。で、ゼロと姉さんも同じと。

 俺だけ三層で宇宙服みたいにゴツくなってるってことか。


「いいかい、絶対に僕から離れないでよ。離れたらシオンくんじゃなくて、周りが困ることになるからね!」


 いや、俺だって息が出来なくなって困るんだけど?


「分かってるって。トオルこそ俺がどこかに流されないようにちゃんと見張っててくれよ」


 初めての海中だ。俺から離れるような真似はしない。むしろ海流に流されたりしないように、しっかりと繋ぎ止めてほしい。


「シオン様。この辺りは海流も穏やかですので、流される危険は殆どありませんよ」


 そうなのか。でも、ティアマトが動くだけでとんでもなく海流が乱れそうなんだけど?


「それで、ティアマトはどこに……?」


 この辺りに巨大な蛇は見当たらない。

 てっきり海に潜ったらすぐにいるのかと思ったんだけど。

 ってか、今どういう状態になってるんだ? ゼロと姉さんは現在進行でしんどそうだったから、今も何かしているはず。


「今はゼロくんの魔法で見えなくなっているんだよ。すぐ真下にいるから驚かないでね」


 ああ、ゼロの結界か。巨体が目立つから擬態してるってことかな?


「今の姉は我を失っておりますので、正常な判断が出来ておりません。トオル様の魔法で海の一部を切り離し、その部分をゼロ様の魔法で覆い隠しております。その結界の中でサクラ様が幻影を見せてお姉様の意識を逸らしている状態です」


「なんか分かりにくいけど、要は切り離した空間の先で、ティアマトは姉さんが作った幻影相手に暴れてるってことだな」


「まぁそういうことだね」


 多分ティアマトを捕まえるのは無理だったんだろう。だから、まずティアマトをここまでおびき寄せ、トオルの魔法で部分的に隔離する。隔離したことを悟らせないように、ゼロの魔法で正常な海に見せる。それでも、隔離の範囲外に出そうになるのを防ぐために姉さんが囮となって注意を逸らしている。


「……捕獲したって聞いたけど、隔離したの間違いじゃね?」


 これは断じて捕獲したとは言わない。


「まぁ似たようなものだよ」


「いやいや、てっきり動きが封じられているかと思ったのに、自由に動き回ってるんだろ? えっ? まさか俺が取り抑えて薬を飲ませるの?」


「そういうことだね。あっ、僕はシオンくんの魔力を防ぐのと、隔離に魔力を全力で注いでるので戦力にならないよ」


「わ、わたくしは微力ながらお手伝いさせていただこうと……ですが、わたくしは姉には全く敵いませんので、囮になるくらいしか……」


 この人、現魔王の癖にどことなく頼りない印象しかない。


「いや、俺とスーラで何とかするよ。動きを封じて薬を投与するだけなら楽勝だろ。怪我はさせるつもりはないけど、眠らせるくらいなら問題ないよな?」


「え、ええ。ですが、姉には殆どの状態異常は通用しませんよ」


「……ならなんで自我を封じられてるんだよ」


 状態異常にならないなら狂乱状態にもならないでほしかった。


「そ、それは……」


 俺の指摘にテティスが言葉に詰まる。まぁガブリエルの魔法がティアマトの耐性を上回っただけだろう。なら俺の魔法も十分に上回るはずだ。


「あっそうだ。なぁトオル。俺って魔法を使ってもいいのか? 魔法が使えないなら流石にしんどいけど」


「僕の魔力の中でなら問題ないよ。でも僕の魔力から抜け出したり、破ったりはしないでね」


「……それって、どうやってティアマトに攻撃するんだ?」


「ティアマトに僕の魔力の表面部分をくっ付ければ大丈夫だよ。要するにゼロ距離なら良いってことだね」


「なんだ。じゃあ余裕じゃん。まっ、心配すんなって。ティアマトは必ず助けてやるよ」


 俺はテティスに向けて自信満々に答えた。

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