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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第218話 ラピスラズリと話をしよう③

 部屋の中が非常に気まずい。

 ルーナは三十分でまとめとけって言ったけど、こんな空気の中でどんな話をすればいいんだよ!


 リースはさっきのルーナとのやり取り後、ずっと考え込んでる。

 また発狂しないか心配だったけど、それはないようだ。それだけが救いか。


《シオンちゃん。私に任せるの!》


 おおっ、そうだ! 俺にはスーラがいた。スーラに任せれば……さっきの二の舞になる未来しか見えないが?


《シオンちゃん。飴ちゃんを出すの》


 そっか、スーラと会話ができればいいんだ。……リースに飴を渡すのは勿体ない気もするが、背に腹はかえられない。


「おい、リース」


 俺が呼び掛けると、顔だけこちらを向く。そこに俺は飴を投げる。一瞬取ってくれないんじゃないかと思ったが、リースは両手でしっかり受け取ってくれた。


「それを舐めろ。……別に毒なんか入ってない」


 リースは躊躇っているようで、手のひらで飴を転がす。そして、しばらくの間逡巡して飴を口に含んだ。


 リースが飴を舐めたのを確認するとスーラがリースの前まで跳ねて近づく。

 おい! そんなに不用意に近づくとさっきみたいになるぞ!


 リースはスーラにビクッと驚くが……さっきと違い、今度は振り払おうとはしなかった。


《こんにちはっ! 私はスーラなの!》


「えっ!? 声が……」


《さっきの飴ちゃんを舐めると私とお話しできるようになるの》


 スーラだけでなく、全ての魔物と話せるようになるのだが……そこは後でちゃんと説明しよう。


《あのねっ、シオンちゃんがたくさん意地悪してごめんなさいなの》


「えっ、いや……その……」


 さっき思いっきり突き飛ばした相手に謝罪される。しかも相手はスライム。

 戸惑う気持ちはよくわかる。


《シオンちゃんもね。悪気があった訳じゃないの。むしろ助けようとしたの。でもシオンちゃん不器用だから……》


 これ……俺はフォローされてるのか? それとも貶されてるのか?


《ルーナちゃんもキツいこといっぱい言っちゃったけど、ちょっと感情的になっちゃっただけなの。リースちゃんと同じなの。だから許してあげてほしいの》


「私と同じ?」


 リースは同じと言うところに疑問を覚えていた。俺もだ。


《リースちゃんはお兄ちゃんが大好きなんだよね?》


「ええ……」


《だから大好きなお兄ちゃんがイジメられたから怒ってたの》


 リースはチラリと俺の方を見る。うん、何を考えているのか読み取れない。苛めやがって……とでも思っているのか?


《ルーナちゃんはシオンちゃんが大好きなの。だから、シオンちゃんの悪口を言われたからちょっと感情的になってたの》


 あの……スーラさん? ルーナの許可なく他人にそういうことは言わない方が……。


「だから私と同じ?」


《リースちゃんのお兄ちゃんが暗殺者で人をいっぱい殺してるから、悪人だって周りから言われたら嫌でしょ? 本当は優しいところもたくさんあるのに、上っ面だけで語るな! て思うでしょ?》


 スーラの言葉にリースは大きく頷く。


「うん、兄様は好き好んで人殺しをしている訳じゃない! お金のために……皆のために仕方なくやってるんだ! なのに周りは暗殺者ってだけで、人殺しって蔑む。悪いのは暗殺を依頼するやつらなのに……実際に兄様は依頼された人物以外の殺しはしたことがない! 誰も本当の兄様を知らないんだ」


 リースはたかが外れたように一気に捲し立てる。


「兄様は本当は誰よりも優しい人なんだ。泥を被るのは俺だけで十分だって、手伝わせるだけで、私にすら殺しをさせない。手伝いだって私が無理矢理ついて行ってるだけで本当はさせたくないんだ」


《あのね、シオンちゃんも一緒なの。仲間に被害がありそうなときは、仕方なく人を殺しちゃったりすることもあるけど、本当は誰も殺したくないの。だから二人も生きてるの》


 いや、本当は魔法さえなければ殺してたけど……。でも、出来るだけ殺したくないのは確かだ。


《ラースちゃんには手加減ができなかったから、傷を負わせてしまったけど、すぐに回復するよう私に命じたの。その前に人質を取るような真似しちゃったけど……でも、あれもリースちゃんを傷つけないようにするためだったの》


「じゃあさっきの話は本当に……」


 ルーナが俺に向かって怒ってた時のことだな。心ここにあらずってところだったけど、ちゃんと聞こえてたんだ。


《それからあの写真。あれ自体は私もプンプンに怒ってるの! だけど、あの行為自体は天使の攻撃から身を守るためにシオンちゃんがお願いしたの》


「天使……?」


 そっか、ラースはあのとき起きてたって話だけど、リースは俺がちゃんと眠らせたから天使の存在自体知らないんだ。


《とっても悪い黒幕なの。リースちゃんが寝ちゃったあと、あそこで戦ってたの。だから守ってたの》


「そんなことが……」


《だからね。あんまりシオンちゃんやルーナちゃんをを嫌わないでほしいの。二人ともリースちゃんや、リースちゃんのお兄ちゃんとおんなじでいい人なの》


 じっと見つめ合うリースとスーラ。少しするとリースがこちらを向いた。


「私の勝手な思い込みから色々と不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません」


 リースが謝った!?


「いや、こっちこそ勘違いさせるようなことをしたんだし……色々と無礼な真似をして悪かった。謝罪する」


 俺もリースに頭を下げた。


《これで仲直りなの! みんな仲良しなの!》


 ……スーラは凄いな。



 ――――


 ルーナは本当に三十分きっかりで戻ってきた。ラースも一緒だ。

 そのルーナとラースは部屋に入るなり戸惑った表情をする。


「一体何があったんだ?」


 まぁ驚くのも無理はない。

 だって俺の目の前にはスーラを抱き抱えたリースが二人で楽しそうにお喋りしているのだから。


 あれからリースとスーラは打ち解けて二人でずっと談笑をしていた。途中でリースがスーラを抱き抱えてからはスーラの念話も聞こえなくなり、俺にも何を話しているか分からなくなった。


 リースは最初と随分とイメージが変わった。スーラと話すときは言葉を崩し、笑顔を見せていた。


 というか、完全に二人の世界に入ってて、俺一人蚊帳の外。ケータイもルーナにとられている今、やることなくてただひたすらボーッとしていた。


「兄様……私、お友達が出来ました」


「お、おぅ。そうか。良かったな」


「はい!」


 リースが元気よく答える。もはや全くの別人だ。

 一方ラースはスライムを友達だと言う妹を見て、完全に戸惑っている。


「あの……ルーナさん」


「……何でしょう?」


 流石にルーナもリースの急激な変化に戸惑いを隠せない様子。思いっきり身構えている。


「先程ルーナさんに言われたこと。私なりにじっくりと考えてみました」


「えっ? ああ、……どうでしたか?」


 完全に肩透かしだったのか、ルーナはホッとして構えをとく。


「私の中には今まで他人は本当の兄様を知らないのに、勝手に畏怖し軽蔑する。本当にクズばっかりだと思っていました。全て死んで私と兄様二人だけの世界になればどれだけ幸せだろうかと思っていました」


「そ、そうですか」


 ルーナだけじゃない。俺とラースも今の言葉にドン引きだ。恐らく平気なのは本人とスーラだけ。


「でもルーナさんの自覚しなさいって言葉。私は今まで自分の行動がどれだけ兄様の迷惑になっていたのか、考えもしませんでした」


「俺は別にめいわ……」


 ラースが否定しようとしたのを、ルーナがラースの顔の前に手を出して制する。


「己の行動に自覚と責任を持つようにすれば、貴女はもっと成長できるでしょう」


「ありがとうございます。それと……何も知らなかったからと言って、ルーナさんの愛する人を貶したこと。心からお詫びを……」


「ちょっ!? あ、あ、あ愛する人って……わたくしとシオン様はただのメイドと主で……」


 おいおい、そんなこと誰も聞いてないぞ。


「ちょ、ちょっと失礼しますね」


 ルーナは断りを入れ、リースから離れ俺の元に近づく。……何故か後ろからラースもついて来る。


「ちょちょちょシオン様。一体どうなっているのですか? あれでは全くの別人ではないですか!」

「なぁあれは本当にラクウェルなのか?」


 リースに聞こえないように小声で二人が同時に問いかけてきた。どうでもいいが動揺しすぎだ。


「いや、ルーナが叱ったからだろ」


「それにしては変わり過ぎですよ!」

「叱ったくらいであのラクウェルが変わるものか」


「いやぁ、案外変わるものだぞ。それにスーラがちゃんと言い聞かせたみたいだしな」


 ってか、ラースはもう少し妹を信用しようよ。


「信じられません」

「信じられん」


 ……何気にお前ら二人息がピッタリだな。


「リースは今まで叱られたことがなかったんじゃないか? 人が成長するのって、ちゃんと悪いことは悪いって教えないと成長しないんだよ」


「俺が叱らなかったから? 俺の育て方が間違ってたのか?」


「そうじゃない。ラースが叱ってもあまり意味がない。同じ立場の姉弟じゃ出来ないことがあるんだ。叱るのは目上の存在が必要なんだ」


 普通だったら子供の頃に親に悪いことをしたら叱ってくれたり、躾けを受けたりする。

 日本なら学校の義務教育でそういったことを教わる。だが、リースにはそれを教えてくれる人がいなかった。


「それから何でも相談できる気の許せる友達だな。これも普段から尊敬しているラースには出来ないことだ」


 楽しいことや辛いこと。恋愛のことなど気軽に言い合える友達がいることで、他人のことを考え、思いやる気持ちが生まれる。

 何でも打ち明けることが出来る同年代の友達。それがスーラなのは甚だ疑問だが、リースにはそれが必要だったんだ。



 ――――


「さて、ようやく本題に入れるな」


 全員が落ち着いたことで、ようやく魔法の話に入れる。因みにリースは未だにスーラを抱きかかえている。そろそろ返して欲しいんだけど……。


「俺達のは魔法について聞きたいんだったな」


「ああ、だがその前に俺達が知っている二人のことについて話すぞ。まずラースは属性が青、魔力値は二万。リースは属性が水色、魔力値が三万。これは間違ってないか?」


「ああ、そうだがほぼ間違ってはいない……だが、魔力値なんて誰にも教えたことはないぞ。どうやって調べた?」


「まぁそれはその内機会があったら話すよ。んで、俺達と戦っていた時の二人は互いに魔力値は六万以上あった。そして何より変化していたのが属性だ。お互い色の変化はなかったが、属性の色がキラキラ光っていた。これは知っていたか?」


「ああ、知っていた」


 これでキラキラの事を知らないってことになったらどうしようと思ったけど、一応知っていたようだ。


「じゃあこのキラキラについて俺達が知っていることを話す」


 俺達の認識ではキラキラは融合の証みたいなもの。極論、他人の魔力を上乗せする強力なバフって認識だ。


 まず一パターン目は天使や英霊が人間と融合すると光る方法。

 人間の属性と魔力。英霊の属性と魔力が融合して一つの体で混ざり合う。


 二パターン目が魔素ではない自然の力を利用する精霊魔法を使った融合。

 これに関しては現状リュートのみ。彼は精霊のショコラから力を分けてもらうことで光ることが出来る。


 俺も修行中にスーラと融合できないか試したことがある。

 が、英霊と違い、俺の体にスーラ自身が入り込むことは出来ないし、精霊魔法は使えないので、スーラの魔力を取り込んでも混じりあうことはなかった。


 だが、ラースとリース。この二人はそれを可能にしている。その秘密を知りたい。

 そう二人に説明した。


「俺達は【魔力の共鳴】と呼んでいる」

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