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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第213話 辻褄を合わせよう

『シオンくんの話は興味深いところも多かったし、個人的に調べたいこともあったけど、流石にこれ以上時間が取れないから要点だけ聞くね。……解毒剤は作れそう?』


 海底も忙しそうだもんな。なのに関係ない考察させてしまって悪かったな……。


「この会議が終わってから開発に取りかかる予定だから、現状では何とも……。ただ、簡単ではないと思う。十日、いやもう九日後になるのかな? 伝令の天使がルーアンに来るはずだ。そこで敵にダリオが死んだことがバレるから、それまでには完成はさせておきたい」


 仮に伝令の天使を殺したとしても、伝令を任されているくらいだから何かしら通知手段があるはずだ。生かそうが殺そうがその時点で敵にルーアンに何かが起こっていることがバレる。その時には既に対抗策があった方が良いに決まっている。


『結構難しそうだね。何か協力することはある?』


「これは頼みづらいことなんだけど、多分症状を診ないと駄目な可能性がある。だから、毒にかかった魔物の触診と、薬の効果を試す被検体が欲しい」


『それは……流石に僕の一存じゃ決められないね。相談してみるよ』


 治療のためとはいえ、実験体になるんだそう簡単には決められないだろう。


「頼む。それから実験をするとなると、魔力波の関係でルーアンとシクトリーナでは出来ないと思う。魔法も使えないし、クルーズ船は目立つから使えない。どこかいい場所がないか調べてくれ」


 ガブリエルの魔法を無効化するんだ。魔力が無効化されたらガブリエルにも気がつかれるのでそこの場所は特定される。


『それなら多分海上になると思うよ。元々海でしか活動できない魔物が多いから、町や城には連れていけないし、ホリンくんがいたら海上でも問題ないよね』


 海上なら魔物が死んで魔法が解除されたって思われる可能性もあるし、海中でなければ問題はない。


「うん、それでいいと思う。じゃあ詳細は決まったら教えてくれ。俺も出来次第連絡する」


『分かったよ。じゃあ会議の途中だけど僕はこれで失礼するね。ルーナくん。悪いけど詳細は後でメールでくれるかな?』


『畏まりました。会議のレポートは後程送らせていただきます』


 グループ通話からトオルが消える。向こうの状況も少し聞きたかったが……それは解毒剤の時に聞けばいいだろう。



 ――――


「さて、随分と脱線したけど、俺の話は以上だ。次は誰だ?」


 ホーキングが立ち上がる。どうやら次はホーキングが報告する番のようだ。


「僕からはまず今回の報告だね。今回の作戦による死者はゼロ。兵士に若干の怪我人が出たけど、軽傷だったし、貰ったポーションで既に完治してるよ」


 良かった。どうやら重傷者もいなかったようだ。


「敵側にも死者はいないよ。何人か暴れたから取り押さえるのに怪我をした人はいるけどね。こちらは重傷者は治療済み。軽傷者は後回しにしてるよ」


「治療はしないの?」


「もちろんするけど、その辺りは交渉材料になるからね」


 交渉材料って、傷を治す代わりに情報を吐けってこと? まだ必要な情報ってあるのかな?


「今回捕まえたマフィアはこちらが把握している八割。残り二割はもうこの町から逃げたのか、別の隠れ家があるのか……引き続き捜索してるよ」


 あっ、アジト以外の隠れ家とか仲間の情報を吐かせるのか。


「幸いなことに一般人には被害はなかったし、避難所の対応のお陰で大きな問題は何もなかったよ」


「避難所の話は後でウチから説明するわ」


 ってことはホーキングの後はミサキかな?


「今回ここまで上手くことが運んだのは全部シオン君のお陰だよ。あの霧があったから、被害が全くなかったし、今後に関しても有利になったよ」


 そう言われると嬉しいな。


「まぁ、私としては、事前に話して欲しかったところではありますが! 私が上空でどれだけ慌てたと思いますか?」


 うっ、それはちょっと申し訳ない気分になるな。


「確かに、ラミリアさんの迅速な誘導がなかったら、こちらも混乱していたかもしれないね」


 どうやら最終的に上手くいっただけであって、ひとつ間違えればこっちも危なかったのか。


「で、でもさ。霧を使う案はあの場でリンと決めたんだ。伝えるのは無理があったんだよ」


「ちょっ、シオン様!? 勝手に私を巻き込まないでくださいっス! シオン様は私に話す前に五択で考えてたっスよね! しかも殆ど決めてた状態で。なら私に会う前にラミやんに教えれたっスよね?」


 あっ、こらリン!? バラしちゃ駄目だろ。


「いやー。ほらラミリアもホーキングさんも忙しそうだったからさ。邪魔しちゃ悪いと思って……」


「作戦に必要な話なら忙しくても聞きます! まったく……。トランプに誘うよりも大事なことですよ」


 ですよねー。


「なんや、シオンさん。作戦前の大事なときにトランプで遊んでたん?」


「皆が俺を仲間はずれにするからだろ! やることなくて暇だったんだよ!」


「うわっ! シオンさん。それ、ただの逆ギレですよ」

「シオン様。流石にラミやんを遊びに誘うのはどうかと思うっス」

「せやせや、いくらシオンさんが暇でもラミやんは暇じゃないんやで」


「いや、誘ったって言っても、作戦開始前に呼びに来たときに冗談で言っただけだし……」


 俺は三人に同時に責められ慌てて言い訳する。


「その時に作戦のことを話していただければ……まぁシオンさんが空気を読めないのは今に始まったことではないからいいです」

「せやな。空気が読めとったら、炊き出しの列には並ばんよな」

「えっ!? シオン様私に二人を運ばせてそんなことしてたっスか!」


 三人の視線がこちらに集まる。


「最低ですね」

「サイテーやな」

「最低っスね」


 うう、何でここまで責められないといかんのか。


《自業自得なの》


 ……泣きそう。



 ――――


「えっと、霧で色々あったのは分かったけど、今後も有利になったってのはどういう意味だ?」


 気を取り直して俺はさっきのホーキングの話で気になった部分を聞いてみた。


「君達はその……いや、何でもない」


 俺達にとってはこれがいつも通りのノリなんだけど、それに慣れていないホーキングとレムオンがこの流れについてこれてない。

 会議中に脱線しまくるわ、城主というトップに対する態度じゃないとか、二人の常識とはかけ離れているだろうから仕方ないね。まぁ慣れてもらうしかない。


「えーと、今後のことだったね。当初の予定ではマフィアがこの町で反乱を起こそうとしたから、仕方なく制圧したって筋書きだったんだ」


 うん、確かにそんな話だった気がする。


「でも町の住人にはマフィアが本当に反乱を起こす予定かなんて分からないじゃないか。だから僕達領主側が、マフィアを疎んじて粛清したって思われる可能性もあったんだよね」


 可能性っていうか、事実だよねそれ。まぁいくらマフィアが悪さをしていても証拠はないし、無理矢理粛清するってのは外聞が悪いか。


「それが今回の霧の件で、マフィアが反乱を起こそうとしたって話が現実味を帯びたんだ。僕達は元々マフィアのアジトを制圧する気はなかったし、何も知らなかった。偶々アジトが霧に包まれたのを見て危険そうだったから住人を避難させて、アジトを調査したんだ。そこで反乱計画書が見つかった。そういう筋書きにしようと思うんだ」


 この人筋書きって言っちゃったよ。なんか証拠隠滅を図る、悪い政治家を見ている気分だ。


「アジトでは反乱を起こすための兵器を開発していた。その開発中に兵器が暴走。アジトが毒に包まれた。幸いなことに毒は完成してなかったから、被害は実験中だった二人だけ。アジト内の人間は気絶だけで済んだんだ。そして、未完成だったお陰でアジトより外に被害が及ぶことはなかった」


 俺の毒をその兵器に見立てて反乱の証拠にしようってことか。


「僕達は反逆罪でマフィアの人間を捕まえることにした。当時アジトにいなかった人間も同罪ってことで、こちらは大義名分のもと、全員捕まえることが出来るんだよ」


 結果としてやることは変わらなかったけど、これで住人への印象がガラリと変わったんだな。


「ん? でもその話だと、こっちは何も知らなくて、事故があったから発覚したってことだよな。ならおかしなことにならないか?」


「何がおかしなことになるんだい?」


「避難所だよ。事故が起こってから避難したにしては準備が良すぎないか? まるで事故があることを知ってたってことにならないか?」


 炊き出しとか毛布とか……絶対におかしいだろ。その俺の疑問にはホーキングじゃなくてミサキが答えた。


「それな。バルデス商会があそこで出店の準備をしようとしていたってことにしたんや」


「はぁ?」


 意味が分からない。


「バルデス商会が黄の国の町で行商をしてたのは有名な話や。この町にも商品が流れて来とるんやから、他国でも噂くらいは知っとるやろ」


 初めてカタリナに会った時にバルデス商会の商品については色々と聞いた。娯楽品は流通しているけど、消耗品はまだあまり出回ってないって話だったよな」


「せやから記念すべき他国への進出第一弾がこの町ってことやな。販売品はこの町の特産である海産物の料理レシピや調味料、他にも新しい加工方法とかもええな。元々ウチらのお抱え用心棒の冒険者が事前に町を調査と、この町の特産品を購入。そして領主へ出店の許可を貰ってたってことにしたんや」


 【月虹戦舞】がバルデス商会のお抱えパーティーなのは黄の国じゃ有名。そして、目立ってたトオルとゼロの爆買い……それもバルデス商会が出店する準備だったってことにするのか。


「その出店の準備中に事故が起こった。領主はウチらに住人を受け入れるよう、頭を下げて頼んだ。それをウチらは無償で快く受け入れた。住人の為に頭を下げた領主と無償で提供したウチらの株はうなぎ上りや」


「なるほど……避難所じゃなくて出店の準備ってことにしたのか。……それで本当に誤魔化せるのか?」


「まぁ勘がええ人はおるかもしれんが、元々マフィアって嫌われ者やったんやろ? なら別に騒ぎ立てる人もおらんのちゃう?」


 そう言われれば確かに。マフィアの横暴を知っていれば、どんなに怪しくても口を噤むかもな。仮に騒いだとしても、マフィアの構成員だったって言って捕まえれば……あれっ? 俺達って悪者だったっけ?


「でもこれで近い内にホンマに出店せなあかんやろうけどな」


 まぁ今回のゴタゴタが終わらないと無理だろうけど、出店自体は問題ない。というか、元々旅行が終わったら取引するつもりだったから寧ろ宣伝になって助かるか。

 しかし、俺達の適当な行動も含めて上手いこと帳尻を合わせたな。流石にビックリするよ。


 結局会議はホーキングとミサキの辻褄合わせの話で終了した。今後、皆はまだ逃げているマフィアの捕縛と事情聴取。俺は解毒剤の製作に取り掛かることにした。

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