第206話 二階へ行こう
俺とリンはマフィアのアジトへと侵入した。
アジト内は至る所で男たちが寝ている。
「これ、急に起きてこないっスよね?」
リンがツンツンと寝ている男を指しながら聞いてくる。
「問題ない。ここで大きな音を立てても……それこそアジトが爆破されたとしても、半日は目が覚めないと思うぞ」
本当なら念を入れて起きても動けないように縛っておきたいが、一体何人を縛ればいいのか……そんなことに時間をかけるくらいならさっさと終わらせた方が早い。
「さて、地下への入口は何処だ?」
パッと見た限り二階への階段はあるが、地下への入口が見つからない。仕方がないからまずは地下の入り口を探すことにした。
――――
「あっ、あそこみたいっスよ。霧が下に吸い込まれてるっス」
奥の突き当たりで、確かに霧が吸い込まれているのが確認できた。
一見すると他の床と全く変わらない。風の流れが見えなかったら絶対に気がつかなかっただろう。
「ってか、結果オーライなんだけど、紫の霧があったら見えにくいな。もう必要ないか」
考えてみたら眠らせた後に発動させ続ける理由はない。今寝ている奴は起きることがないし、起きている奴にも効かないなら、視界が遮られて困るだけだ。俺は【毒の霧】を解除する。
「うん、これでよく見えるな」
「……自分の魔法で視界を遮られるってどれだけ間抜けなんスか」
文句を言いたいが、これは否定はできない。俺はリンのツッコみを無視してさっさと地下への入り口を調べることにした。
魔法の霧が吸い込まれたことから分かってたが、入口は特に魔法的な処置は施されてない。かといって、取っ手みたいなのもないのだが。
「なぁ。これ、どうやって開けるんだ?」
多分なにかスイッチ的なのがあるはずだが……。
「大丈夫っス」
リンは床に触れて、魔力を流す。するとリンの触れていた手を挙げると、床が付いてきた。
「磁石的な魔法っス」
手と床を磁石でくっ付けて無理矢理開けたってところか。
開いた地下への通路は真っ暗だ。
「……これってさ。絶対に隠してあったよね。この地下の存在を知ってる人って誰だと思う?」
身内しかいないはずのアジト。しかも突き当たりのこんな場所に隠してあるんだから、マフィアの構成員も知らない可能性がある。知っているのは……。
「ボスの隠し部屋か、天使の方の隠し部屋か……のどちらかっスかね」
だよな。これはマジでヤバイかも。
「リン。くれぐれも気をつけろよ。スーラの分身を渡しておくから、ヤバくなったらそれに呼びかけろ」
本当にヤバい時にはケータイなんて使えないだろうからな。ただ、分身に呼びかけるくらいなら出来るだろう。そうすれば分身から本体に救難信号が届く。そこから俺にも伝わるってことだ。分身自体も身代わりとして役目を持ってくれるはずだ。
「分かってるっスよ。じゃあ行ってくるっス」
そういってリンはさっさと地下へと進んでいった。
――――
リンと別れて俺は二階へと上がる。
リンの方が心配だから、さっさと片付けて地下へ向かいたい。
階段を上るといきなり左右の別れ道。【毒察知】で人のいる場所を確認したところ、動いている人間がいるのは真正面。だが目の前は壁になってる。
これはどちらかのルートなのか……って、ここは迷宮じゃない、ただの屋敷だ。多分一周する作りか、U字のどちらかだろう。とりあえず左の方へ進んでみることにした。
うん、やっぱり一周する作りのようだ。外周に扉が並んでいる。恐らく部屋が並んでいるだけだろう。そして、反応がある中央に入る扉は見当たらない。恐らく作りから考えると、中央の部屋が広めの部屋でボスの部屋だろう。作りから考えると、階段と反対方向に扉があるはずだ。
――――
《シオンちゃん。中にいるの》
(ああ、ちゃんと四人いるようだな)
流石に部屋の目の前で声は出せない。念話で会話をする。
《どうするの?》
(こうするのさ)
コンコン。
俺は扉をノックする。
恐らく中にいる連中には既にここにいるのはバレている。静かに入るのも、豪快に入るのも変わらない。
なら、一番意表を突くのは丁寧に入るだったんだが……
《シオンちゃん。何も反応がないの》
心音で動揺を感じ取れるかと思ったんだけど、全く変わらない。
(仕方がない。普通に入るか)
俺はドアノブを回して扉を開けた。
俺は部屋の中央に四人の姿があって驚いた。顔がそっくりの青髪の男女。この二人がラピスラズリかな?
それから背が低いが迫力のある強面の男性。見た目的にはコイツがボスっぽい。その隣にはボスとは逆に長身の男性。並ぶと余計にボスが低く見える。身長差が四十センチくらいありそうだな。この世界には珍しい眼鏡をかけている。
四人はいかにも俺を待ち構えているように見えるが……。扉を開ける前からそれがフェイクなのは分かっている。
俺が部屋へと一歩踏み出すと、何もない俺の頭上に突然【自動防御】が発動する。
一応予想はしていたので、念のため【毒の盾】をいつでも出せる準備をしたが、【自動防御】で問題なかったようだ。
俺が階段で【毒察知】をした時には四人は並んでいなかった。むしろ察知で俺が近くに来たことを気がついたのか部屋の入り口近くで息を潜ませて待ち構えている感じだった。
だから部屋に入ると当時に攻撃が来ると思っていたのだが、姿が見えないのには驚いた。それから正面の姿も……。あれは幻だろうが、見ただけでは全く幻には見えない。【自動防御】が発動するまではさっきも気配も感じなかったし、事前に【毒察知】をしてなかったら気がつかなかっただろう。
姿は見えないが、俺に攻撃を仕掛けた人物は【自動防御】との接触で後ろに弾かれた様子。隠していた気配も攻撃を受けたことで感じれるようになった。
「兄様! 大丈夫ですか!?」
正面の幻からではなく、何もない場所から声が飛ぶ。声を出したらせっかく姿が見えないのに台無しだ。残りの二人も声には出してないが、動揺を感じ取れたので、もう気配を感じることが出来る。姿が見えなくてももう何も問題はない。
しかし、透明になる魔法? トオルみたいな感じか? まぁトオルは動揺した気配や魔力すら隠せるから、どうしようもない所があるんだけどな。
それにしても……姿の見えない暗殺者。しかも幻も見せることが出来る。今は思わず声が出てしまったようだが、本来ならあれで終わってたはず。依頼達成率百パーセントは伊達じゃないってことか。
「ああ、問題ない。しかし、分かっていたこととはいえ、あれで傷一つ負わせられないとは……想像以上の化け物だな」
分かっていた? 力の差をだよな。【毒の霧】と【毒察知】で力の差を気づいたのかな?
「なぁ、力の差が分かってるなら素直に降伏しない? 俺が用事があるのはアンタ達じゃなくて、隅っこに隠れていいる二人の方だからな」
俺は部屋の隅っこを見る。姿は全く見えないが、そこにいるのは間違いない。
《シオンちゃん。この部屋に天使の反応はないの!》
今回スーラには体内に敵の属性と魔力値が分かるグリンの魔法結晶と魔力検査カードを飲み込んでいる。その為、スーラは相手の属性と魔力値が分かる。
天使の反応がないってことは属性がキラキラしてないことを意味する。
(ありがとうスーラ。だが、まだ油断はできないな)
属性のキラキラは天使を意味しているのではなく、現時点での融合を意味する。
ここにいる四人が天使と契約していても現時点で融合してなければ反応はしない。
だが、一つ分かったことがある。それは、少なくとも自我を持っていることだ。
ケインやディランのように自我を消されて無理矢理降臨させられた場合、常に融合状態となって属性にキラキラが出るはずだ。
「お、おいっ! 貴様ら、高い金を払って雇ったんだ! 早くこの侵入者を殺してしまえ!」
今のがボスの声なのかな? 相変わらず姿は見えないが、声からはかなりテンパってるように聞こえる。しかし、気配から感じるボスのプレッシャーは……。
(スーラ、残りの二人の魔力はいくつだ?)
《凄いの! 二人とも十万を超えてるの!!》
やはり……驚くべきことに、ラピスラズリよりも魔力が高い。
ここに来るまでは、ボスは雑魚でラピスラズリが霧の効果を防いだんじゃないかと思ったんだが、明らかにラピスラズリよりも格上の気配を感じる。
雑魚っぽく見せてるのは油断を装っているのか……俺に気づかれないとでも思っているのか?
しかし十万超えとは……。これは状況が全く変わって来るな。
魔力十万は天使の器としての適正を意味する。
事前の会議では側近が天使の配下だと思ったが、ボス自体が天使の配下だった可能性が高く……いや、二人とも天使の配下の可能性が高くなった。
自我がある上で、天使と融合している二人と戦うことを念頭にいれていた方がいいだろう。
これは……リンがこっちじゃなくてよかったな。
地下も気になるが、恐らくこっちの方が本命だったに違いない。
さっさと正体を見極めたいところだが、まずはラピスラズリをどうにかしないといけない。
ラピスラズリの二人は依頼主に言われたからか、はたまたプロ意識なのかは分からないが、俺への敵意は消えない。どうやら諦めるって選択肢はないようだ。
ボスが何を考えているのか分からないが、どうやらまずはラピスラズリを倒さないと先に進めそうにないな。




