第202話 泣かれよう
色々と暴露させられたり、正座させらりしたが、トオル達も竜宮城へ出発し、俺もようやく解放された。
流石に疲れた。宴会も中止になったし、部屋に戻ることにしよう。
だけど多分ルーナが部屋に訪れて、また正座させられることになるんだろうが。でもロストカラーズの話をしてから、ルーナの様子が少しおかしかった気がする。
ロストカラーズの死の呪いが漏れて、シクトリーナに被害を及ぼすとでも思ってるのかな? いつの話か分からないって言っても、不安になるのは当然かな?
――――
「あー疲れた!!」
部屋に入るなり叫びながらベッドにダイブ。
もうこのまま寝てしまえればどれだけ幸せだろうか。
《シオンちゃん!! まだ寝ちゃ駄目なの》
うつ伏せになった俺の背中でスーラがピョンピョン飛び跳ねる。
「もういいだろ? 俺もう疲れたよ」
《そんな名言風に言っても駄目なの!》
やっぱり駄目か。まぁどうせすぐに……。
『シオン様。いらっしゃいますか?』
ほらね。早速ルーナが来た。
俺は起き上がり、扉のを開けた。
「えっルーナ!? どうした!?」
そこに立っていたルーナは、顔面蒼白で今にも倒れそうだった。
ルーナの種族であるシルキーの特徴として、色白で生気のない肌をしている。それでもちゃんと体温はあるし、照れたりするときはほんのり赤みがかったりする。
それでもハッキリと分かるくらい今のルーナの顔にはいつも以上に生気が感じられない。
俺は慌ててルーナを中に入れて椅子に座らせる。ルーナも抵抗せずに大人しく座る。
……しばらく待ってみたが、ルーナは何も話さない。
どうしたんだ? 俺はてっきり怒られる前提だったんだが……。
ルーナがおかしくなったのは、恐らくロストカラーズの件を聞いてからだ。もしかして内緒にしてたことを怒って……いや、内緒にされていたことに悲しくて……いや、違うな。
「……もしかして責任を感じているのか?」
俺がそう言うと、ルーナがビクッと震える。やっぱりか。
どうせ、スミレが飛ばされた原因が自分達にあると考えてるんだろう。
「あのなぁ。ルーナが気にする必要は何一つないんだぞ?」
「ですがっ! シオン様とスミレ様を引き離したのはわたくし達なんですよ!!」
「いや、ルーナ達のせいじゃないだろ。悪いのはスミレを召喚したやつだ」
「それでも! シエラ様がロストカラーズを見つけなければスミレ様が召喚されることはなかったかもしれません」
「それだけが原因って訳じゃないだろ。虹って珍しい属性だったんだから、他の……変な理由付けて召喚されてたかもしれないし。それにロストカラーズの封印が解かれる原因は、シクトリーナじゃなくてロストカラーズ大陸自体の封印かも知れない。何万年前の封印だろ? いつ壊れてもおかしくないじゃないか」
実際にはスミレが召喚された時に、結界の外に現れた……とかなんとか言ったのを聞いたらしいが、それを言うと追い打ちをかけるので黙っている。
ただ、こんな話をしてもルーナの気が晴れる訳がない。実際に目の前のルーナの表情は変わらない。
ってか、そもそもロストカラーズとシクトリーナを繋げたのはシエラであって、ルーナとはなんの関係もない。ルーナが気に病む必要もないんだが……それでも考えてしまうんだよな。
「俺もさ。スミレにこの話を聞いた時にさ、今のルーナのようにすごく自己嫌悪に陥ったんだ」
「シオン様……」
「ほら、スミレの属性に紫ないって言っただろ。本当はあれは俺がスミレから奪ったからじゃないか? とか、本当は俺とスミレが一緒に召喚される予定だったのに、俺がスミレと一緒に居なかった所為でスミレ一人が召喚されたとか。色々考えちゃってな」
「しかし、シオン様はスミレ様が召喚されることを知らない訳ですし、仕方がないことでは?」
「スミレにもそう言われたよ。そして気にせずに前を向けってね」
その言葉があったから俺は今ちゃんと前を向いて生きている。それまでは後ろ向き……というか、スミレに会うことしか考えてなくて将来とかさっぱりだったもんな。
「スミレ様は強いですね……」
「ああ、本当にな」
一人で異世界に飛ばされて、辛い目にあって、それでも前を向いて進むことが出来ている。
「俺もスミレもルーナやシエラ、それにこのシクトリーナを恨んでもないし、悪いとも思っていない。それでも、もしルーナが気にするって言うなら……」
「気にするなら……」
「これからも俺達のメイドとしてしっかりと働いてくれ」
ここで俺だけの……とか言えばカッコいいんだろうけど、流石にその台詞を言うのは俺の方が準備が出来てない。
《ただのヘタレなの》
違うっつーの!
「わたくし実は……シオン様に嫌われてるのではないかと思っておりました」
「はぁ!? なんでそんなこと……」
「だってシオン様わたくしが何度言っても連絡くれないし……」
グサッと心に突き刺さる。
「い、いやそれは単純に面倒くさかったり、忘れてただけで……」
「すぐに何処かに出かけようとしますし……」
「そ、それは……せっかくだからいろんな場所に行きたいだけだし……」
「挙句の果てにはキャバクラなんて場所に行くつもりだったとか……」
「えっ!? もう知ってるの?」
ギロっと睨まれる。おいおい落ち込んでたんじゃないのかよ!
「シオン様はお優しい方ですから、その話を聞いてシクトリーナのことが嫌いになっても見捨てられないでいるだけかと」
「何言ってるんだよ。ここはもう既に俺の故郷なんだ。嫌いになる訳なんかないさ」
「ですが……」
「ああっもううるさい!」
俺は座っているルーナの前に行って強く抱きしめる。
すると、ルーナは驚いて……そして目から涙が零れ落ちる。
「わ、わだぐじ、本当に不安だったんですよ! 連絡がないのは嫌われてるんじゃないかって! それで今回の話を聞いてやっぱりって……」
「今度からちゃんと……まぁ忙しくて毎日じゃないかもしれないけど、連絡もする。何処に出かけたってちゃんとこの城に……ルーナの所に帰って来る。だから心配するな!」
そう言って俺はルーナが泣き止むまでそのままにしていた。
――――
「落ち着いたか?」
俺はお茶を入れてルーナの前に置く。
「取り乱しまして大変失礼しました」
ルーナは少し恥ずかしそうだ。まぁあんなに泣いたらな。
「これで、シオン様に泣かされたのは二度目です」
一度目は俺が我を失ってヴァスキと戦っていた時だ。あの時は俺が醜態をさらして、城主として恥ずかしくないように……って怒られたんだっけ。
「そうだったな。恥ずかしくない城主にって言われてたのに、また泣かすようなら城主失格かな?」
「ふふっ確かに報連相をしない城主はどうかと思いますが……」
報告も連絡も相談も……確かに全部出来てない気がする。
「それでもシオン様はあの頃に比べると色々な方と知り合って確実に成長していると思いますよ」
その評価は嬉しいな。
「それで……今回の話ですが、シエラ様が……シクトリーナがやってしまった過ちを消すことは出来ません」
俺は違うと否定したかったが、ルーナの真剣な目を見て、言うのを止めた。とりあえずルーナの話を最後まで聞こう。
「まずはメイド全員に今回の話を共有させていただきます」
ルーナやトオルに話した時点でそうなることは分かっていたので特に異論はない。
「償いや謝罪という言葉や態度はシオン様のお望みではないと思われます」
「そうだな。さっきも言ったように、俺とスミレはシクトリーナの所為だと思ってないし気にしてない。償いや謝罪って言われたら逆に迷惑だ」
「ですので、メイドの意識改革をして今まで以上に尽くさせていただこうと思います」
「お、おう……」
今まででも十分頑張っていたと思うのに、それ以上……?
「あの……あまり張り切り過ぎて倒れたりしないでね?」
またブラックな職場って言われたくない。ってか、ルーナの想いが強すぎて若干引くぞ。
「さしあたっては、シオン様が旅行に行かれてからどんな行動をされたのか、しっかりとお話しいただければと思いますが」
「えっ!?」
「それからキャバクラの件もじっくりとお伺いしたいのですが……」
……これ、今からお説教コースなの? さっきまで泣いて落ち込んでたのに……でもまぁ落ち込んでいられるよりはいいか。




