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ロストカラーズ  作者: あすか
第一章 魔王城散策
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日常編 魔法の名前

 その日、俺はずっと頭を悩ませていた。


「う~ん、どうしようかな?」


 持っていたシャーペンで頭を掻く。そこにアレーナがやって来た。


「先ほどからずっと悩んでいるようですが、どうされたんですか? 皆様すでに出て行かれておりますよ?」


 今俺がいるのは昼食後の食堂だ。皆はすでに昼食を食べて午後の作業に取り掛かっている。


 アレーナはメイド料理隊に所属しているため、この食堂が仕事場だ。

 ただ自分で狩りをしたり、魔物を捌いたりすることも出来る。先日の狩りの際に一緒に行動したのはそれが理由だ。


 ちなみにメイド料理隊以外にも色々な部署があるそうだ。他にどんな部署があるかは聞いてない。知っているのは、シャルティエが第二メイド隊に所属しているってことくらいだ。まぁその内解るだろう。


「いやね、俺も色々と魔法が使えるようになってきたから、魔法名を考えていたんだ」


「魔法名…ですか?」


 アレーナは意味が分からない表情をしている。


 この世界の魔法は、イメージすると魔法が発動するので、呪文や名前は必要ない。寧ろ魔法名を発することで相手に魔法の発動を伝えるデメリットにしかならない。


 実際ルーナや他の人が魔法名を言ってるのを聞いたことがないし、姉さんやトオルも何も言わない。ヒカリだけは「そーれ!」とか「えいっ!」とかかけ声を出している。


「いやー、やっぱりさ。魔法には名前が必要だと思わない? その方がイメージもしやすいし、分かりやすいじゃん」


 トオルにも相談はしたんだが、トオルの魔法は透明になったり転移したりで隠密向けだから、唱えるには不向きだと断られた。トオルなら絶対に理解してくれると思ったんだが……完全に当てが外れた。


 姉さんにいたっては『どうせ安易なネーミングしか考えつかないんだから時間の無駄よ!』なんて言う始末だ。……まぁ確かにネーミングセンスのなさは認めるが。


「じゃんってシオン様……。でも確かにシオン様の魔法は種類が多いですから、名称があると分かりやすいですね」


「だろ? だから考えてるんだけど……中々思い浮かばなくてなぁ。ほれ」


 そう言ってアレーナに今俺が使える魔法のリストを見せる。ルーナですら知らない魔法も書いてあるから貴重だ。


 ちなみに日本語で書いているが、アレーナには料理本を読ませる必要があったので、翻訳飴を舐めさせている。その為苦も無く読むことが可能だ。



 ――――


 俺の渡したリストには魔法名(仮)と効果が書いてある。


【毒射】ベノムレーザー:指先からレーザー光線のように毒液を出す。発動までの時間は短い。威力は小。魔力消費小。また出力を変更すれば近くにある堅い物を溶かすことも出来る。


【毒弾】ベノムブレット:掌から毒の弾丸を打ち出す。弾丸にする課程があるため【毒射】よりも発動時間はかかるが威力は【毒射】よりも上。


【毒矢】ベノムアロー:毒を矢の形に変えて打ち出す。【毒弾】より貫通力がまし威力も上がるが、矢を放つまでに若干時間がかかる。


【毒投与】ポイズンタッチ:直接触れることで相手の体内に毒を注入する。


【毒散弾】ショットガン:【毒弾】を大量に作って広範囲に飛ばす。威力は【毒弾】と変わらず。魔力消費は大。


【毒の雨】ベノムシャワー:空から毒の雨を降らせる。大型魔法。


【毒の霧】ポイズンミスト:辺りに毒の霧を出す。霧の中にいると外からは溶かされ、吸い込むと中から毒に侵される。


【自動防御】オートシールド:自分の周りに何かが近づいたときに自動的に防御する。勿論毒付きのため触ると毒に侵される。悪意や近づいてきたスピードに反応するため、悪意がなくただ呼ぶだけくらいなら反応しない。


【毒の盾】ポイズンシールド:自分で発動させる【自動防御】よりも強力な盾。


【絶対防御】ポイズンガード:強力な毒の壁。地面と接しているため動かすことが出来ないが発動場所は目の前でなくても任意に設定できる。大きさは魔力の量によってどこまででも帰ることができる。


【無効盾】アンチシールド:【毒の盾】と同じ仕様だが、毒の代わりに魔力無効の効果がある。


【毒の契約】カースコントラクト:対象に毒の呪いをかける。相手と契約を交わし相手が契約を破ると毒が発動し死に至る。契約さえ破らなければ何も起こらない。


【武器召喚】:剣やナイフ、槍などを毒の武器を召喚する。毒の付いてない武器は召喚できない。


【強化飲料】ドーピングドリンク:飲むことで最大能力値が伸びる飲み物。魔力、筋力、敏捷の三種類あり、一日一回しか効果がない。


「どうだ? 【毒の契約】や【無効盾】の存在はまだ実践にも出していないから、これを読んでいるアレーナしか知らない魔法だぞ」


 自分しか知らないことがあるって優越感が堪らないよな。


「……どうせすぐに知れ渡るのですから、どうでもいいです。それよりもカタカナの部分が唱える魔法なのでしょうか? 一部漢字と意味が違うように思うのですが。あと、ベノムとポイズンってどう分けているのでしょう?」


「確かに【絶対防御】とか、どう読んでもポイズンガードにならないよな。まぁ……ニュアンス? かな。【毒防御】より【絶対防御】の方が強そうだろ」


 まぁ絶対って言っておきながら、ルーナには簡単に破られるんだけどね。


「他にも……霧って本当はフォッグなんだけど、(もや)の意味のミストの方が格好良かったからミストにした。ああ、あとベノムとポイズンの使い分けだよな。これ、俺も知らなかったんだけど、ベノムって外部から与えられる毒で、ポイズンは内部に取り入れた毒なんだって。だから本当は全部ベノムがいいんだろうけど、防御系や体内に入れるような魔法はポイズンにしてみた」


「では別にカタカナだけで良いのではないでしょうか?」


「あまり書くことはないけど、漢字の方が意味が伝わりやすいじゃないか。でもカタカナの方が呼びやすいって感じかな」


 やっぱり魔法は唱えるなら横文字の方が格好いいよな。


「それで……何を悩んでいたのです?」


「いや、【武器召喚】のところだけ何も書いてないじゃない。何かいい呼び方ないかなぁって。それとも武器種ごとに使い分けるとか? 後は今は毒の種類関係なく同じ名前にしてるけど。例えばマヒなら【麻痺弾丸】にしてバインドブレットとか【催眠霧】でスリープミストにするとか?」


 俺の言葉を聞いてアレーナは驚いているようだ。少し固まっている。


「はぁ。シオン様が残念な人だと再認識いたしました。まぁ人のセンスはそれぞれですよね」


 驚いていると思ったら呆れていたようだ。つーか可哀想な物を見る目でこっちを見ないで欲しい。


「なんだよ。確かにセンスがないのは認めるけど、そんなに呆れなくても」


「いいですか? シオン様は物語が溢れている世界から来たのですよ。もっとこう『ドラ○スレイブ』や『ラ・○ィルト』のようなかっこいい魔法や、例え横文字じゃなくても『我は放つ光の○○』のような魔法名を考えてください」


 アレーナからまさかの名前が飛び出てきて俺の方が驚く。さて、どこからからツッコむべきか。


「何故アレーナが知ってるんだ?」


「読みました」


「読んだの!?」


 てっきりアニメかと思ったが、どうやら違ったらしい。


「サクラ様がお持ちでしたよ。『剣と魔法のファンタジーを勉強しなくちゃ!』って準備していたそうです」


 ……準備の仕方が激しく間違っている気がする。つーか、それなら姉さんも魔法を唱えようよ。


「それに魔法名ならルーナ様に相談すればよろしいじゃないですか。ルーナ様は大型魔法を使うときにはいつも唱えておりますよ」


「えっ? 嘘!? ルーナが?」


 いつも模擬戦してるけど聞いたことがない。……いつもナイフに負けてて、大技を受けてないから聞いてないのか。


「ええ、【審判を下す聖なる矢(ジャッジメントアロー)】や【穢れなき聖結界(ホーリーサークル)】、【全てを浄化する銀光(バニシングレイ)】など……他にも色々とありますよ」


 ぶはっと思わず吹き出す。ルーナって思った以上に中二病のようだ。

 いや、笑ってはいけない。俺だって似たようなものだ。しかしあのルーナが大真面目な顔でジャッジメント・アローとか言ってるの?


「シオン様、笑ったら駄目ですよ。ルーナ様だってま…じ、め………」


 アレーナの声が途中で聞こえなくなる。


 俺はいやな予感がして後ろを振り向く……と、そこには笑顔のルーナが立っていた。普段見せないような笑顔だ。何だろう、怒っているよりも恐ろしい気がする。


「シオン様が遅いから様子を見に来たのですが…一体なにをしていたのでしょう? ふふふ」


 笑ってるけど目がマジだ。怖い……年齢に関する話題をしているときと同じプレッシャーを感じる。


「あっ、そういえばヤカンの火をかけたままでした!」


 アレーナがわざとらしく席を立つ。絶対に嘘だ! 一人逃げる気だな。


「あ、アレーナ。後で話があるので、夜仕事が終わりましたら、わたくしの部屋へ来なさい」


 その言葉にビクッっとなるアレーナ。少し震え声で「畏まりました」と小さく頷く。一人だけ逃げようとするから罰が当たるんだ。


「さて、シオン様は随分ゆっくりされていたようですので、鋭気も十分でしょう。今日はいつもの五倍は厳しくしても大丈夫ですよね?」


「……はい」


 俺は頷くことしか出来なかった。


 その日の午後はまさに地獄のような訓練だったのはいうまでもないだろう。

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