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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第189話 言い訳を考えよう

 ゼロとトオルは船が港に着く前に海底へと出発した。


 やはり気になる為、トオルには逐一状況を教えてくれとはお願いしている。

 まぁ聞いても役に立てないかもしれないが……それでも地上から出来ることがあれば、すぐに協力をする気だった。


 ただ、それ以上に今俺はトオルが最後に残した言葉に頭を悩ましていた。


『シオンくん達が亀の元へ向かった後、あの人達にはシオンくんが説明すると言って何も説明してないから』


 全部俺に投げた形になるのだが、正直言うと下手に説明されるよりも助かった。それに、どうせある程度バレてそうだしな。問題はその後の言葉だ。


『あと……流石に誤魔化せないと思ったから、ルーナくんに問題が発生したとメールしておいたよ。ついでに何時でも応援に来れるように待機してた方がいいよって付け加えてね。もちろん詳しい内容は書いてないよ。だけどこの船は城とゲートで繋げてるから、呼べばすぐに来ると思うよ』


 ふざけんな!! トオルめ……このまま残ってたら俺と一緒にメイド達に怒られるから急いで出ていったんだ。


 まぁ確かに海魔王が関わっているなら、確かに隠し通せる話ではない。だからトオルがメールしなくても説明するつもりではあった。

 でもそれは夜にそれとなく打ち明けようと思ってた。それに自分から説明するのと他人から伝えられたのでは印象が全く違う。

 今ならまだあまり怒られないか? いやいや、そんな筈はない。間違いなく土下座コースだ。ホーキング達がいる前で土下座は勘弁してほしい。


 うん、どうせ怒られるのは決定事項なんだったら、とりあえず現状は放っておいて、当初の予定通り夜に連絡しよう。忙しかったと誤魔化せばなんとかなる……はず? よし、そうと決まればまずは目先の問題を片付けよう。俺はホーキング達のところへ向かうことにした。



 ――――


 ホーキング達は甲板からエントランスホールに移動していた。エントランス内では各自自由に行動している。


「すいません皆さん。お待たせしちゃって……」


 とりあえず待たせたことを謝罪する。


「いや、大変そうだったからいいんだけど……後の二人は?」


「二人は用事があるって船を降りちゃいました」


 俺より早く部屋を出たけど……このエントランスは通らなかったのかな? まぁきっと見つからないように出たんだろうな。


「降りたって……この動いてる船を? ……って、今さらだね」


 ホーキングも俺達の非常識にあまり驚かなくなったな。まぁ俺が一回飛んで行ってるから本当今更だな。


「それで? 僕達には説明してくれるのかい?」


「聞きたいですか? 聞いたら戻れなくなるかもしれませんよ?」


 説明する気ではあったけど、しないで済むに越したことはない。一応念押しするように脅してみる。


「僕は聞きたいねぇ。レムオン君もだよね?」

「当然だな」


 やっぱりこの二人は引かないか。


「俺は別にお前さんが誰だろうとどうだっていい。それよりも今日も家に泊まるってことでいいよな?」


 本当はガロンさんも気になるだろうに……しかもまだ泊めてくれると言ってくれる。


「ガロンさん……ありがとうございます。お言葉に甘えてお世話になります」


「良いってことよ。俺の知らない料理を教えてもらったし、世話になったのはこっちの方だ」


 やっぱりガロンさんはいい人だな。あっ、そうだ。どうせ後でルーナに連絡するんだ。その時に欲しがってた調理器具を送ってもらおう。


「……私は少し聞きたいです。それからあの魔物のことも……ギルド職員として知っておかないといけない気がします」


 カタリナは話を聞きたいらしい。そっか、いくら町には近づかない魔物だからと言っても、ギルドの受付としては魔物の存在とかは知っておきたいよな。


 残りは……ガロンさんの奥さんはガロンさんに従うみたいだし、ホーキングとレムオンの付き人は自分の意見は出さないだろう。ノーマンには後で説明すればいいだろうし……。


「じゃあ三人かな。とりあえず港に着くまでもう少しあると思うから、三人は別室で時間まで説明しようか」


「あっそれなんだけどさ。この船って秘匿性高いじゃない。だから話が終わるまでは港に着いても降りたくないんだけど……駄目かな?」


 それは情報が漏れるのを恐れているのかな? 確かにここの方が、領主の館よりも話すにはいいかもしれない。


「でも、結構時間が掛からない? 俺はいいけど、他の人が暇なんじゃ……」


 俺達が話している間は、港に着いても勝手に降りるようなことはしないだろう。


「なに、俺達のことは気にせんでも、この船の中にいれば暇することはないさ」


「……そうだな。じゃあ、ノーマンとイチカ達と一緒なら、船内は自由に動いてもいいから……なんなら案内の続きをしてもいいんじゃないか?」


 俺はイチカをそっと見る。


「シオン様がそう仰られるなら、案内を続けさせて頂きマスガ?」


 トオルが不在の場合は俺に従うようにって言ってくれたらしく、イチカ達は今は俺の命令に従ってくれる。


「じゃあ頼む。あと、俺達の話が終わるまでは港に入らず、近くの邪魔にならない場所に停船していてくれ」


 この大きさの船が港に入ったままは迷惑すぎるもんな。


「畏まりまシタ。陸地から少し離れた場所で停船いたしマス」


 いやぁ命令を聞いてくれるって嬉しいな。これで安心して任せることが出来る。俺は三人を連れてさっきの部屋に戻ることにした。



 ――――


「さてと。じゃあ説明を……って思うんだけど、何を説明すればいいのかな?」


 正直、俺達の正体を話してもそこまで意味はないし、そもそも彼らが何を知りたいのかが分からない。


「そうだっ! そっちから何か質問してもらえます? それに答えていくってことでどうでしょう?」


 これなら俺が色々と考えなくても答えるだけでいい。


「あっでもあまり時間がないから、本当に聞きたいことだけにしてくださいね。魔道具とかの説明なら後日でいいですよね?」


 ケータイや写真、モンスターカードとか今はどうでもいい質問をされると時間だけが過ぎてしまう。今は三人が本当に知りたいことだけでいいだろう。

 さて、どんな質問がくるかな? と思って三人を見たけど……あれっ? 三人とも芳しくない顔をしている。


「いきなり質問って言われても……ねぇ」


 どうやら三人とも何を質問していいか戸惑っているようだ。……もうこれ何も説明しなくてもいいんじゃね?


「……では私から質問しよう」


 おっ最初はレムオンか。……正直彼が一番怖いんだけど。


「貴公は……【魔王のヒモ】か?」


「違っ!!!」


 俺は反射的に思わずバンッと机を叩いて立ち上がる。突然のことに三人は驚愕の表情で俺を見る。


「うう……違わないんだけど……違うんだよ……」


 嘘を吐くわけにもいかず、俺は半泣きになりながら答えて椅子に座りなおす。何でこんなところにまでその二つ名が浸透してるの? 黄の国だけじゃなかったの?


「……違うのか、違わないのか。どっちなのだ?」


「いや……その……そう呼ばれてるのは知ってるけど、俺はヒモじゃないんだよ……」


 なにこれ。なんで最初の質問からこんな悲しい気持ちにさせられるの?


「そ、そうか……と、とにかくヒモかどうかはさておき、貴公が【銀乙女】の旦那というわけか」


「ちょっ!? 旦那ってなんだよ旦那って。別に俺はルーナと結婚してないぞ。俺とルーナはあくまで城主とメイドって立場だからな」


 ヒモとか旦那とか……どんな浸透の仕方をしてるの!? もうこっちの方が質問して聞きたいわ!!


「【銀乙女】……ヒモ……えええっ!!! シオンさんって、あのシオンさんなんですか!?」


 俺とレムオンの会話に一呼吸遅れてカタリナが驚く。どうやら彼女は気づいてなかったみたいだ。

 しかし、あの……ってのが気になるな。聞いてみたいところだけど……いかん。聞いたら多分本当に泣いてしまいそうだ。


「それで、その貴公が何故この町にやってきたのだ?」


「えっ? だからそれは魚が食べたかったからで……普通に旅行だけど?」


 これは何度も説明したはずだけど……だが、レムオンとホーキングは予想外の表情を浮かべる。


「ま、まさか本当にそれだけなのか? この町やこの国を占領しに来たわけでは……」


 ああ、そういうことね。ハンプールでも最初はそうだったっけ。


「本っ当に皆同じこと言うよね。占領とか支配とか……大体なんでそんなことしなくちゃいけないんです?」


「いや何でと言われても……」


 どうやらレムオンも答えられないみたいだ。


「じゃあ占領することでメリットは何でしょうか?」


「国力の増加ではないのか。資源の確保、捕虜にした人間の労働力などメリットはいくらでもあると思うが」


「じゃあ次にデメリットを考えましょうか。まず占領する際の経費に幾らぐらい必要だと思います? それから占領時に発生した戦いで疲弊した土地を再生するのにどれだけ時間と労力を費やすと思います? 次に土地を管理するのに更にコストがかかります。何せ労働者は捕虜。元々敵ですからね。治安維持にどれほどコストが掛かるか見当もつきません」


 適当に日本で聞きかじったことを言ってるだけなんだけど、間違ってないよね?


「それに、ホーキングさんならこの町を治めてるから分かると思いますけど、町の管理って大変じゃない? ハンプールの領主のラスティン様なんて毎日書類に追われて忙しいって大変そうでしたよ」


 そのうち半分以上が俺達のせいってのは黙っておくことにする。


「……そうだね。僕も毎日も書類に追われてるよ」


「ですよね。それに新しく治める町が増えると、さらに書類や雑務が増えるんですよ? きっと今日みたいに遊ぶ時間すらなくなるでしょうね」


「それは嫌だね」


「でしょ? それよりは取引でやり取りした方がお互いにWin-Winってやつですよ」


「ウィンウィン?」


「どっちも勝ち。お得って意味です。例えば今回ウチは魚が欲しい。ホーキングさんは余分に魚を持ってる。じゃあウチらは買い取ればいいだけ。ウチは魚が、ホーキングさんはお金が手に入る。商売の基本じゃないですか」


「……占領すれば金を払わずに魚が手に入るぞ」


「それは先ほど説明しましたよね。魚を買う金額をケチって、占領するためにより多くの金を使うだけです。それに、もし占領時に漁師が死んでしまったら? 船が壊れてしまったら? そもそもホーキングさんがマフィアを放置してるのもそれが原因なんですよね?」


 争いによる町の衰退。それがあるからマフィアが今も野放しになっているんだ。


「いやぁ耳が痛いね」


「あと……労働力ですけど、働くってのはその対価が貰えるから頑張るのであって、無理矢理働かせても効率が悪いだけですよ。レムオンさんだって部下にやる気を出させるために褒美をやったりするでしょう」


「むっ……確かに」


「捕虜にしたところで食費や経費は掛かります。結局そのお金で売買した方が皆が幸せになるんですよ。ねっ、占領してもいいことなんか一つもありません」


 実際はこんな簡単な話ではないだろうし、感情やら何やらもある。だけど……これでいいよね?


「さて、こっちの事情は大体話しましたよ。魚が食べたかったからここに来た。まぁ少しだけマフィアとも揉めちゃいましたが。でも本当にそれだけなんですよ。もう質問は終わりでいいですかね?」


「いやいやいや、何を言ってるんだい。これからじゃないか!」


 ちぇっ。なぁなぁで終わらせようと思ったけど、やっぱり駄目か。


「あの……色々と気になることはあるんですけど、結局さっき出て行ったのは何でですか?」


 そう質問したのはカタリナだ。やはり魔物の方が気になるか。


「それは……正直俺もよく分かってないんだ。だからトオルとゼロの二人が詳しい話を聞きに行った」


「その、シオンさんは魔王のヒ……聞きましたけど、ゼロさんとトオルさんは何者なんですか?」


 カタリナめ……咄嗟に誤魔化したみたいだけど、ちゃんと聞こえたからな。


「トオルは俺と一緒にシクトリーナ城に来た昔からの友達だな。一応俺が城主ってことになってるけど、本当はトオルが城主でも良かったんだぞ。ゼロは……まぁ知り合いの魔族だな。んで、さっきの亀は知り合いだったらしい。まぁそれ以上は二人から追加の情報があってからにしてくれ」


 ゼロやティアマトが元魔王とかは話さなくていいだろう。


「はぁ……あの、町に被害がある可能性は……」


「ないとは思うけど……その辺りもゼロ達の連絡待ちかなぁ」


「……そうですか」


「まぁ漁業もいつも通り三十キロ以上先に行かなければ大丈夫じゃないかな。三十キロ以内には魔物は来ないんでしょ?」


「そうだね」


「他に何かあります?」


 俺の正体と目的。ゼロとさっきの魔物の話。他にも色々聞きたいだろうけど、早急に話さないといけない件はこれくらいじゃないかな?


「シオン君はこれからどうするんだい?」


 あっ確かにそれは必要な話かな。


「そうですね。今日はガロンさんの家に厄介になって、後は……トオル達の連絡待ちですかね」


 流石に城に帰る訳にも行かないし、二人がいないのに観光って気分でもない。何をするにしてもトオルからの連絡待ちだな。


「では、僕達に協力してくれないかい?」

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