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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第185話 目撃情報を聞こう

 釣りを始めて随分と時間が経った。


 俺が料理をしている間に、ほぼ全員が俺の釣ったイサキよりも大きい魚を釣り上げていた。

 だが、こっちだってスーラが結構な大物を釣り上げていたので、勝負には負けてはいない。


「おいシオン。貴様とスーラは違うんだから、貴様の釣果は最初の一匹だけだぞ」


 今頃になってゼロがとんでもないこと言い出した。


「はぁ!? お前何今頃そんな追加ルールを……」


「いやいや、これは個人戦だよね? シオン君だけコンビはズルくないかい?」

「貴公は一匹しか釣っておらぬではないか」

「シオンさんとスライムさんは別人ですよね?」

「おう、料理はもう俺に任せて釣りをしてきていいぞ」


 くそっ俺と勝負している奴等は全員ゼロに乗っかりやがった。そして十分な釣果を得たガロンさんが交代してくれて、ようやく釣りに戻ることが出来そうだ。


「スーラ! 俺達相棒だよな? スーラの手柄は俺の手柄。そうだよな?」


《違うの。私もシオンちゃんに勝って命令するの》


 なっ!? ここに来てスーラまで俺を裏切るなんて……いや、スーラのやつ、最初からこれが狙いで釣りを始めたに違いない。


「ガロンさん。後はよろしく頼みます」


「おう、こっちは任せとけ。お前さんは……まぁ程よく頑張りな!」


 ガロンさんは一メートル級を釣り上げてるから余裕で俺を送り出す。

 この中ではガロンさんとカタリナは生活のために、釣りは日常的にやってたみたいで巧かった。ガロンさんには勝てそうもないな。


「シオン君。もう諦めてこのまま僕達と楽しもうよ」


 一方、俺よりも少しだけ勝ってるホーキングとレムオンは、これ以上俺に釣りをさせないように引き留める。

 この二人はスーラに負けてたのに、釣りを止めてたから諦めたとばっかり思ってたのに……。


 とにかく、今からでもまだ遅くない。俺は急いで釣りに戻ることにした。



 ――――


「それにしても、時間切れになってから言えば、お前にも勝てた目はあったかもな」


 俺はゼロの横に行って釣りを再開した。


「ふん。あのままだと貴様が不憫で仕方なかったからな。お情けってやつだ」


「……お前、一人だけボウズの癖によくそんなこと言えるな」


 釣りを始めてゼロは未だに一匹も釣れてない。だから現時点の俺にすら負けているのだ。


「うるさい!! くそぅ。なぜ俺には引っ掛からんのだ!!」


「お前……そうやって興奮してるから魚に逃げられるんだ。魚って結構敏感だから、気配を消さないと怖がって近寄らないぞ」


「何っ!? じゃあもしかして擬似餌に魔力を込めない方がいいのか?」


 擬似餌に魔力? 何考えてるんだこいつは?


「お前……そんなことしてたのか? そりゃあ食い付くはずがねえよ」


 俺の言葉にゼロは崩れ落ちる。


「しまった。まさかそんな落とし穴があるとは……」


「お前……何でそんなアホなことしてたんだ?」


「そりゃあ魔力を含んだ方が美味いだろ。なら美味そうな方が釣れると思ったんだ」


 確かに動物の肉と魔力を含んだ魔物の肉では、魔物の肉の方が抜群に美味い。

 だからゼロの言いたいことも分かる。ただその考え方には致命的な落とし穴がある。


「お前……それは強いやつの考え方だ」


「むっどう言うことだ?」


「例えば右にただの豚が、左にオークがいるとする。ゼロ、お前ならどっちを狩る?」


「オークに決まっておろう。豚も悪くはないのだが、オーク肉の方が断然美味い」


「うん、そうだよな。じゃあ……あそこにいるカタリナを見てくれ。あの子はオークに勝てそうか?」


「勝てるわけないだろうが。それどころかオークに連れていかれて……」


「はい、その先は言わんでよろしい。でも、その事はカタリナも当然分かってる。じゃあカタリナはオークと豚。どっちを狩ると思う?」


「まぁ勝てないと分かっているなら豚であろうな」


「それが理解できるなら後はもう分かるよな? 魚が餌に飛び付くのは美味そうな方か、それとも確実に食えそうな方か?」


「くっふはははっ。なるほど、そういうことであったか」


 ようやく俺の言いたいことが理解できたようでゼロが不敵に笑った。


「しかし、そうと判れば簡単だ。魔力を解けばいいのだろう。ふはは! シオン敵に塩を送るとはこういうことを言うのだぞ!」


「お前が不憫で仕方なかったんだよ」


 俺はさっき言われた台詞をそのまま返す。


「ふんっ、後悔するなよ。……うおっ!? 早速、何か引っ掛かったぞ!」


「……マジかよ」


 思わず声に出して呟く。まさか本当に効果があるとは……。


「おっおい、シオン手伝え! これ多分かなりの大物だぞ!」


 手伝えって……そんな大物だと、釣られた瞬間に俺の負けが決定するんだけど? しかし、それほどの大物は気になる。


「待ってろ、網を準備してくる」


 勝負なんか関係なく、俺はゼロの協力をすることにした。



 ――――


「ふははははっ。俺はシオンと違って寛大だからな。全員食っていいぞ!!」


「何言ってやがる! どうせ一人で食いきれないだろうが!!」


 ゼロが釣り上げたのは二百キロ級のマグロ。マジで超大物を釣り上げやがった。


 もちろんその後にそれ以上の大物なんて釣り上げれる筈もなく、俺の負けは決定した。

 というか、これほどの大物が釣れたんなら、もう勝負なんてどうでもよかった。


「いやぁ釣りって案外楽しいもんなんだね。以前やったときは、全く釣れなくて、ちっとも楽しくなかったよ」


 ホーキングは過去に釣りをしていたと言ってたけど、その時は釣れなかったみたいだな。

 今日は全員大漁だったから、楽しかったのは当然だろう。


「刺し身と言ったか。それに醤油とワサビ。うむ、これは中々いけるな」


 レムオンは生の魚に抵抗がないようだ。

 ガロンさんですら最初は抵抗があったのに……。ちなみに今日はもう普通に食べてる。


「でも、これは魔道具のお陰ですからね。普通に食べると、寄生虫でお腹を壊すかもしれないから止めてください。どうしても食べたかったら、一回完全に冷凍してからにしてください」


 そう言っておかないと、俺達の知らないところで食べられて食中毒にでもなったら大変だ。幸い寄生虫は冷凍すれば大丈夫だから、冷凍してから食べてくれれば……どうやって冷凍するかまでは知らないけど。


「私は天ぷらが気に入りました。昨日のフライと似ているようで全然違いますね」

「本当に美味しいねぇ。アンタ、これうちの店でも出せないかい?」

「おう。ちゃんと頭の中にレシピを叩き込んだから問題ない。昨日の料理も併せてしばらく研究したら出してみようか」


 ガロン親子は天ぷらを気に入ってくれたようだ。これもすぐに俺より美味く作るのかと思うと複雑な気持ちになる。



 ――――


「しかし結局シオンくんは皆に負けちゃったね」


「いや、仕方ないだろ」


 殆ど料理しかしてないし。だから無効と叫びたいけど……無理だろうな。

 まぁよほど無理じゃない命令なら聞いてやってもいいとは思うけどね。


「しかし、この船は僕の屋敷なんか足元にも及ばないね」

「……黄の国はここまで発展しているのか? いや、本当に黄の国の技術なのか?」


 この二人は大分俺達のことを疑り始めたよな。特にレムオンは少し勘づいているかもしれない。もしかしたらさっきの勝負の命令に色々と聞かれるかもしれないな。


「はぁ。これじゃあ潮風亭じゃ満足しないはずですね」

「ねぇアンタ。あの人達、本当にウチに泊めて良かったのかい? もしかして、とんでもなく身分の高い人じゃ……」

「あ、ああ。俺は不敬罪で処られるかもしれん。だとしたら命令権は命乞いになるな」


 二人と違ってこっちは困惑の方が強いな。

 ってか、ガロンさん。処られるて……んなことしねーっての!



 ――――


《マスター!! 聞こえますか?》


 おっ、ホリンから念話だ。ホリンとは首輪の魔法結晶と俺のケータイが繋がってるので、魔力が防がれてない限りは遠くても念話が届く。


(ホリンか? 聞こえるぞ。どうした?)


 一応周りに人がいるから俺も声に出さずに念話で答える。


《マスター。私は今、船から十キロくらい離れたところにいるんですが……》


 十キロか。結構遠くまで出掛けたんだな。


《私の目の前で大海獣バトルが繰り広げられてまして……》


「はあっ!?」


 おっと。思わず声に出てしまった。いきなり俺がすっとんきょんな声を出すから皆の視線が俺に集まる。


「ああ、ごめん。今ちょっとホリンから連絡があって……すまんちょっと失礼」


 俺は言い訳して、席を離れた。


(すまんホリン、詳しい説明をしてくれ)


 離れた場所に移動したので聞こえないとは思うが、一応念話で話すことにした。


《それが、一軒家くらいの巨大な亀と巨大な蛇が戦っているんです。マスターのいる現在地からは離れているので被害はないかと思いますが、津波の危険性がありますから、一応報告しようかと》


 今は船底にいるから津波が来たら大変だな。


(ありがとうホリン。助かったよ。一応念のため、その亀と蛇の映像を俺のケータイに送ってくれないか?)


 念のためと言うより、単純に興味があるだけなんだが……すぐにホリンから写メが送られてきた。


 送られた映像を確認すると、確かに亀と蛇が戦っている。

 が、ホリンのいる上空から撮影されたもので、周りは海。比較出来る対象がないため、これでは大きさが伝わらない。


(ちょっと大きさが分からないな。何か指針になるものないか?)


 しばらく待つと、今度は亀の甲羅の上に魚が乗った写真が送られてきた。

 どうやら鮫っぽいが、腹の部分が無くなっている。……どうやらホリンの獲物だったようだ。


《どうですマスター? 私と同じくらいの大きさの魚を乗せてみたのですが……》


 ホリンと同じくらいの鮫が甲羅の上で小さく写るってことは、本当にでかいな。甲羅だけで二十メートルくらいありそうだ。

 というか、バトル中の上に魚を置くとか危険すぎる真似を平気でするなよ! 亀もさぞや迷惑だったに違いない。


(ホリン。危ない真似はしないように!!)


《いえ、あれは私の食料をただ落としただけですので、危険はありません》


 ……やっぱりあの鮫はホリンの飯だったのか。


(分かった、しばらく様子を見ていてくれ。またすぐに連絡する)


《畏まりました》


 俺はホリンと一旦念話を切った。一応皆に報告しないとな。


「シオンくん。ホリンくんに何かあったのかい?」


「いや、ホリン自体には何もないんだけど……とりあえず、一旦甲板に戻らないか?」


 せっかくホリンが教えてくれたんだし、万が一を考えて俺達は甲板に戻ることにした。

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