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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第181話 領主に会おう

「へへへっ。ようやく見つけたぞ」


 足音の正体は,昨日ドウェインが倒れた後に俺と話をした奴だった。

 他にも十人くらいいるが、そっちは昨日の仲間とは違う見覚えのない奴等だった。冒険者には見えないから、恐らくマフィアの連中かな?


「なんか俺を探してたみたいだな。ご苦労なことだが、生憎と俺には用事はない。失礼させてもらおうか」


「おおっと! 逃がさねぇぞ。てめぇに用はなくても、俺達にはあるんだよ!」


 男達は俺とノーマンを取り囲む。


「そんな取り囲んでも無意味なのに……昨日のでまだ懲りてないのか?」


「うるせぇ!! 要はてめぇに触らなきゃいいんだろう? こうすれば逃げられねえって訳だ」


「いや、どのみち俺に触れないなら普通に歩いて抜けれるが?」


「おっといいのかい? てめぇが俺達の横を通ったら、俺達はどうなると思う? きっと毒に侵されちまうんだろうなぁ」


「分かってるならさっさと……」


「しかし今回は俺達は手を出してないよなぁ。なら毒になったらてめぇが加害者。一般人を毒になんてしたら冒険者剥奪どころかお尋ね者になっちまうだろうなぁ」


 …………な、なんて情けない連中だ。

 いくら手出しが出来ないからと言っても、ここは商業ギルドの前。大勢の人が見てるんだぞ?


「お前達……恥ずかしくないのか?」


「う、うるさい! こっちはドウェインを治してもらわなきゃならないんだ! 手段を選んでいられるか!!」


「なんだ。結局治ってないのか?」


「あんな正体不明の毒がそう簡単に治る訳ないだろうが!!」


 あの毒は以前エキドナに言われて考えたオリジナル毒だ。まだ試作品なのだが、どうやらマフィアのお抱え治癒師では治らなかったようだ。


「ふーん。でも自業自得だし俺は関係ないね。そうだな……お前らどうせ今までも似たようなことやっていたんだろ? もう二度と相手に絡むことは止めること。そしてマフィアから足を洗って、冒険者家業に戻るってんなら治してやってもいいぞ」


「なっ!? ふ、ふざけたことを言うな!!」


「あっそ。じゃあもう知らん。勝手にするんだな」


「ふん、だからこの場から逃げられ……」


「ホリン!!」


 俺の叫びと共に上空にいたホリンが風を巻き起こしながら降り立つ。もちろん今は透明になってない。


「う、うわあああああ!! グ、グリフォンだ!!」


 俺を取り囲んでいた連中が蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出す。


「お前らも相手を追いかけるなら、ちゃんと相手の情報は仕入れた方が良いぞ」


 名前やランクだけじゃなくて、この町に入るときにも従魔登録してるんだから、少し調べれば俺が白いグリフォンを連れていることは分かったはず。そんなに驚く方がどうかしてるぞ。


「ま、待て……」


 完全に腰が引けてるぞ。それじゃあ誰も待たないと思うぞ。

 俺は男の制止を無視してノーマンと一緒にホリンに乗り大空へと飛び立つ。丁度いいから、このまま領主の館まで行くことにしよう。とは言っても、流石にホリンに乗ったまま領主の館に行くと襲撃と勘違いされそうだから手前で降りるけどね。



 ――――


「いやぁノーマン君。昨日はすまなかったね」


 領主は随分と気さくな感じでノーマンに話し掛ける。


 俺達が領主の館へ辿り着くと、アポなしでも領主はすぐに俺達に会ってくれた。

 今は応接室にて領主と向かい合っている。ここに来る前にノーマンから聞いたが、領主の名前はホーキングというらしい。

 勇ましそうな名前のわりには運動は苦手ですって感じだ。

 別に太ってるという訳でなく、ひ弱そうって意味の方だが。ラスティンみたいな出来るイメージはなく、何処か頼りなさそうな雰囲気を出している。


 応接室内には俺達と領主の他には領主側の執事と侍女、それから領主の隣に一人の男性。誰だか知らないが、こっちの人の方が聡明そうで領主っぽく見える。


「とんでもございません。私の方こそお忙しい中、二日続けて訪問しまして、誠に申し訳ございません」


「昨日も思ったけど、ノーマン君は礼儀正しいねぇ。僕の執事にも見習ってほしいよ。いやぁラスティン殿が実に羨ましいね」


 ラスティンが羨ましいってのは完全に同意する。ノーマン、このまま俺の執事になってくれないかな?


「とんでもございません。ホーキング様の執事の方が、私なんかよりもずっと優秀でございます」


「ははっ世辞なんていいよ。それよりも隣にいる若者を早く紹介してくれないかい?」


 ホーキングはそう言うとチラリと俺の方を見る。これ、俺が自分で自己紹介していいのかな? それともノーマンがしてくれるのかな?


「この方はシオン様。Aランク冒険者で【月虹戦舞】というパーティーのリーダーをしております。ラスティン様の大切な客人です。今回、こちらのシオン様が海を見てみたいと言われましたので、この町をご紹介致しました」


 ……ノーマンの説明だと、俺ってとてつもなく偉そうな人物に聞こえるんだけど? ってか、その言い方だと、俺がすごい我が儘な風に聞こえない?


「ほぅ! ノーマン君にそこまで言わせるとは大した人物なんだね」


「えっいや、その……」


 これ、なんて答えればいいんだ?

 そんなことないです。と謙遜するのか? それとも大物ぶればいいのか?


「ホーキング様。私の方からも聞きたいことがございます。お隣にいらっしゃる方は……」


 あれっ? ノーマンも知らないの? てっきり知らないのは俺だけかと思ってたよ。


「ああ、ごめんごめん。彼は……まぁ僕の友人でね。元々今日会う約束をしてたんだ。別に彼のことは気にしないでいいよ」


 気にするなって言われても……ねぇ。どうやら、かなり親しい間柄のようだし、彼から漂う雰囲気から貴族には違いないはずだ。


「してシオン君。君は昨日の今くらいの時間は何をしていたのかな?」


 シオン君……か。喋り方といい、どことなくトオルと重なるな。

 って、それはどうでもいいことだ。それよりも、今の質問でホーキングの目が鋭くなった。さっそくアリバイ調査か。これ、もう殆ど確信しているだろ。


「いやあ、昨日の今ぐらいだと冒険者ギルドにいたかな……ははは」


 とりあえず笑って誤魔化してみたが……うん、無理そうだね。


「ほぅ冒険者ギルドに……良かったらその時にあった出来事を教えてくれないかな?」


 まぁ最初から話す気だったからそれはいいんだけどね。

 それにしてもこの領主。頼りない外見と裏腹に、話してみると意外と掴みどころがない印象だ。



 ――――


「なるほど……確かに僕が聞いた話とおんなじだね」


 俺はホーキングに昨日あった出来事をほぼ正直に説明した。誤魔化したことと言えば、ギルドで説明した時と同様、相手が受けた毒は魔法じゃなくて魔道具にしたことくらいだ。


「シオン君。その外敵から自動で守る魔道具をちょっと見せてくれないかい?」


「……見てどうするんです?」


「いやぁ何せそんな魔道具は見たことがないんでね。ちょっとした好奇心だよ」


 元々そう言われると思ってたから、俺の持ち物で、それらしいものは準備してある。が、所詮は偽物。詳細な鑑定をされるとバレてしまう。


「決して触らないと誓うならお出ししますが?」


 流石に見ただけでは判断できる人はいないだろう。


「触っては駄目なのかい?」


「盗難防止のために、持ち主以外が触ると防衛機能が発動し、昨日の冒険者のようになってしまいます」


「持ち主以外が……実に興味深いねぇ。でもじゃあノーマン君も触ったことは……」


「ええ。もちろんございません」


 ノーマンは魔法だってことは知ってるはずだから、俺が嘘を吐いてるのは分かってる。


「うーん。触らねば良いだけだよね。構わないから見せておくれ」


 どうやら本当に見せないと納得しないようだ。俺は首に付けてたペンダントをテーブルの上に置く。


 もう数年前になるが、再会したスミレがストールの代わりと言ってくれたペンダントだ。

 エルフの加護があって、実際に身の危険があれば防いでくれるらしい。……効果が出たことはないけどね。一応相当な魔力を秘めてるので、触らなければバレることはないはずだ。


「このペンダントがその魔道具なのかい? 僕にはただのペンダントにしか見えないよ? ……レムオン君はどう思う?」


 ホーキングは隣の男に声をかける。彼の名前はレムオンって言うのか……。


「本当にそんな効果があるかは分からぬが、ただならぬ魔力を秘めていることだけは確かだ」


 へぇ。どうやらこのレムオンって人は多少は魔力を読むことが出来るみたいだ。危ない危ない。適当なものを出さなくて良かった。


「貴公、このペンダントは何処で手に入れた?」


 こっちのレムオンって人の方が、もしかしたらホーキングよりも手ごわいかもしれない。


「……迷いの森の【迷宮天使】に貰いました」


 ここは嘘を言わずに本当のことを言う。【迷宮天使】はスミレの二つ名だ。結構有名らしいから知っていると思うけど……。


「【迷宮天使】だと!? 貴公は会ったことがあるのか!」


 やっぱり知ってた。ホーキングの方も驚いているようだから、知ってたみたいだな。


「ええ、まぁ。ですが、彼女との約束で会う方法はお教え出来ません」


「……仕方あるまい。しかし、貴公の話が事実だとすると、これはエルフの秘宝。これだけ強い魔力を秘めているのも納得できる」


 どうやら納得してくれたようだ。にしても、【迷宮天使】の名前は流石だな。今度スミレに会ったら揶揄ってやろう。


「もういいですよね?」


 俺はペンダントを回収する。


「それで、シオン君の希望は、船を出して欲しいということでいいのかい?」


「そうですね。船は自分達のを使いますし、過剰に漁獲しないこともお約束します」


「うーん。僕としては一向に構わないんだけどね。でも、規則を破ると煩い人達がいてね。つけこまれたくはないから、あまり例外は作りたくないんだよ」


 煩い人達ってのはマフィアのことかな? 船の許可くらいどうとでも……って言いたいけど、下手に騒がれて炎上案件になっても困るのかな。

 支持率みたいなのがあるのか分からないけど、民衆の信頼を失えば失脚するのは変わらないだろう。


「でもね。例えばその船が僕の私船だったら問題がないんだ。一応領主だからね。個人的な船を持っていてもおかしくないからね。新しい船を手に入れたから試運転に出掛けたいと言えば大丈夫だよ」


 ……領主が船とか買ったら俺達の税金で贅沢しやがって!! とかならないのかな? しかし何となくホーキングの狙いが分かったぞ。俺達の船が欲しいんだな。


「……それはつまり、俺達の船を寄越せば乗せてやるぞ、と?」


「いやいや、流石に僕もそこまで欲張らないよ。試運転で今ひとつだったから購入は止めたって言えばいいんだから」


 あれっ? 違うのか? 船が目的じゃないんだ。じゃあ何だろう?

 というか、俺達の船を今ひとつって噂を流されたら、それはそれで嫌なんだけど。


「じゃあ何が目的で?」


「別に裏がある訳じゃあないよ。実は【月虹戦舞】の噂はここまで来ていたからね。バルデス商会の躍進にも関係があるんだろ? そんな君達の船……これはもう是非とも乗ってみたいじゃないか!」


 あっこの人やっぱりトオルと同じ人種だ。自分の欲の為には協力を惜しまない人。

 ただ、その欲は独占欲や所有欲じゃなくて、知識欲の方。探究心や好奇心が強いんだ。だから別に自分が所有しなくても、楽しめればいいと。

 さっきのペンダントも本当に見てみたいってだけだったんだろうな。


 なら……その欲求を存分に満たしてやることにしよう。

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