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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第179話 食事をしよう

「お父さん!! お客さん来なかっ……。ははっ、もう来てたみたいですね」


 料理を終え、配膳中にギルドの受付――カタリナがやって来た。

 店の入口に入るなり大声を出して、俺を見つけると恥ずかしそうに誤魔化す。

 ちなみに昼の営業時間も随分過ぎている。俺のことを知らせに来てくれるなら、もう少し早めに来て欲しかった。


「カタリナさん。先程はどうも。お陰さまで無事に料理が出来ましたよ」


「あっ私の名前……父に聞いたんですか?」


「ええ。カタリナさんの名前はガロンさんから教えてもらいました」


「カタリナでいいですよ。あと、話し方もさっきよりも丁寧な気が……」


 それは娘を溺愛する父親に目を付けられたくないからだよ!! って言いたいけど……まぁ口調くらいなら別に普段通りでいいかな。


「そうだっ! お父さ……父は?」


 お父さんじゃなくて父と言い直す。そっちだって丁寧な……じゃないな。これは単純にお父さんと呼ぶのが恥ずかしかっただけかな?


「まだ厨房にいるよ。もうすぐ来ると思うけど……」


 ガロンさんは俺が作った料理を同じように自分でも作っていた。

 俺が一回作っただけなのに、完璧に真似できるのは流石プロの料理人って感じだ。俺よりはるかに手際がいいし……ちょっと嫉妬するよな。


「あん? カタリナどうしたんだ? まだ仕事の時間だろ?」


 確かに……休憩時間には遅すぎるし、退社……って言っていいのか分からないけど、まだギルドは営業中のはずだ。帰って来るには中途半端な時間な気がする。


「あっいや、その……気になって早退しちゃった」


「気になって早退って……」


 おいおい。いいのかよそんなことで?


「あっもちろんそれだけじゃないですよ! ほら、朝のことがあったから、今日は皆が気にかけてくれて、遅くならないうちに早く帰りなって……」


 確かに夜道には気をつけろって脅されてたし、早いうちに帰った方がいいのは間違いない。まぁスーラとホリンが護衛についていたから問題はなかったろうけど、それは本人や同僚には分からないもんな。


(スーラ、どうだった?)

《特に尾行もいなくて問題無さそうだったの。ただホリンちゃんが上空から観察してたんだけど、怪しげな人達が町中をウロウロしてたって言ってたの》


 それって俺を探しているマフィアの連中かな?


(今ホリンは?)

《一緒に戻ってきて、今はトオルちゃんが出した冷蔵庫の上で休んでるの》


 そういえば冷蔵庫を放置しっぱなしだったな。ちゃんと片付けておかないと。


(そっか、じゃあ後でホリンにもお昼を持って行こうかね)


 とりあえず、ホリンにも話を聞きたいが……さっきからずっと待ち構えているゼロ達の相手をしないと……。


「おい、どうした?」


 突然目の前にガロンさんの顔が現れる。


「うわっっ!?」


 思わず驚いていて後ずさる。


「あん? 何でそんなに驚くんだ?」


「いや、いきなり目の前に顔が現れたら普通なら驚くだろ」


「おめぇが呼んでも返事しねーからだろうが」


「すまんすまん。ちょっとスーラと話してて……」

《ごめんなさいなの》


 誰にも聞こえないがスーラも謝る。


「あはっ、やっぱり可愛いですね」


 声は聞こえずとも、スーラが謝る仕草を見てカタリナの顔が綻ぶ。


「そんで二人にちょっと聞きたいんだが、朝の件ってのは何だ?」


 そう言うと、ガロンさんの顔が険しくなる。

 まぁ娘に何か問題が起こったとなるとそうなるよな……。


「えっ? それはその……」


 対するカタリナさんはどうすればいいのか分からなく、オロオロするばかり。


「とりあえず先に食べませんか? 冷めちゃあ美味しくなくなりますよ?」


 それにこれ以上ゼロを待たせると暴れかねない。


「そうだな。俺も早く味が知りてぇ」


 ガロンさんも目の前の料理の魅力には勝てなかったようだ。


「良かったらカタリナもどうぞ」


 ガロンさんが作った分もあるので量はそれなりにある。


「いいんですか!! 実はすっっごく気になっていたんですよ」


 カタリナが目を輝かせる。俺と話してる時も視線は料理に行ってたもんな……。ふぅ。遅くなったが、ようやく昼食にありつけそうだ。



 ――――


「くそぅ……悔しいなぁ俺が作った料理よりも、ガロンさんの方が美味しいじゃないか!」


 俺の作り方を見て初めて作ったのに、俺よりも美味しかった。

 正直、料理にはかなり自信があったのに、プライドがズタズタだ。


「そうか? 俺にはどっちも同じ味にしか感じんぞ」

「うん。僕も正直区別がつかないね」


 このバカ舌コンビが! 細かいけど、下ごしらえや前処理が丁寧だから食べたときの舌触りとか、風味が違うんだよ! ……まぁ飲んでる状態で判別しろってのが無理があるか。


「いやぁ。しかしフライと言ったか? まさか堅くなったパンにこんな使い方があったとはなぁ」


 いつもだったら普通にパン粉を使うんだけど、今日はパンをミキサーにかけて代用した。

 ここではパン粉として売られていないのと、ミキサーが使いたかったからなんだけどね。


「あのミキサー、パンだけじゃなく……というか、通常は果物を入れて、ジュースにしたりするんだ。黄の国では今、いろんな組み合わせの果物のミックスジュースが流行ってますよ」


 これは本当だ。調理器具を発売した後、手軽にジュースが作れるミキサーが流行った。最近ではさらに、そのジュースと組み合わせたカクテルも誕生し始めていた。


「黄の国の食文化革命はやっぱり本当の話だったのか」


 ガロンさんが独り言のように呟く。


「確かバルデス商会でしたっけ? あそこの調味料はスゴいって話でしたけど、本当ですね。いつも食べてる食材が全く違う味付けになってるんですから」


 カタリナはムニエルを口に入れて、味の違いに驚く。

 昨日、潮風亭で食べたのが、この町の中で高水準だったとしたら、今食べてるのはかなり違うと思う。

 下ごしらえはしっかりとしたし、ソースと付け合わせも用意している。うん、結構な自信作だ。


「おいシオン。煮つけがないぞ」


「はあ? 煮つけとか……こんな短時間で作れるわけないだろうが!」


 ただでさえ一時間でこれだけ準備できたのが上出来なんだ。下処理や煮つける時間、味を染み込ませる時間。とてもじゃないが、こんな短時間では作れない。


「シオン。貴様は煮つけが一番日本酒に合うのを知らんのか?」


 日本人でないゼロが日本酒と煮つけの相性を俺に問うのか。


「知ってるよ! だが時間がないものは仕方がないだろ! ……一応、さっき軽く下処理は済ませたから、今日の夜に宿で作ってやるよ」


「本当だろうな?」


「俺だって食いたいからな。そこは信じろよ」


「よかろう。では今のところはこれで我慢してやるとするか」


 コイツ……食ってるだけの癖に、本当に図々しすぎないか?


「おいおいおい! それじゃあ俺はその煮つけってのは食えないのか?」


 その俺とゼロの会話に反応したのはガロンさん。


「そうなるかなぁ」


「……今日泊まる宿はどこだ?」


「まだ決めてないけど……とりあえず、まずは荒波亭に行ってみようと思う」


 他にもギルドでカタリナに紹介された宿や、多分ノーマンも調べて来ただろうからそこにも行って……って、この人まさか宿に食べに来る気なの?


「決まってねぇのか! じゃあ丁度いい。お前らここに泊まれ」


「はぁっ!? ここって宿屋じゃないでしょ!」


 明らかにただの料理店だ。一応奥に住居はあるみたいだけど、それはガロンさんの自宅のはず。宿仕様にはなってないはずだ。


「なぁに心配するな。弟子達が住み込みで働けるように、空いている部屋はある。今は弟子はいないし、四人程度なら平気だ」


 いや、心配するなって言われても……。


「シオン様。ここはお引き受けした方がいいかもしれません」


「ノーマン……どうしてだ?」


 まさかノーマンが賛同するとは思わなかったので、内心かなり驚いた。


「もしかしたら私達……いえ、シオン様を泊めてくださる宿はもうないかもしれません」


「えっ!?」


「シオン様が連中を巻いたことで、彼らは次は何をするでしょうか? もし、シオンが連中の立場だとして、見失った場合、どうされますか?」


 俺が奴等の立場なら……か。


「まずはこの町から逃げられないように入口を見張る。そして人員がいるなら町中を探すだろう。それでも見つからない場合は、聞き込みかな。昨日の宿泊先……潮風亭に泊ったことはバレてるから、そこで詳しく話を聞いて……あと今日泊まりそうな場所に先回り……そういうことか」


 そういえば怪しい連中が町中をウロウロしていたって話を、ついさっきスーラから聞いたばかりだ。既に町の宿はマフィアが見張ってるって考えた方が良いだろう。


「ええ。シオン様なら別に見張られていようが気にしないでしょうが、はたしてそのような問題のある人を宿側は泊めるでしょうか?」


 マフィアに狙われてるけど泊めてね。……うん。確実に拒否されるな。


「……俺の顔を知ってる奴なんか殆どいないんだから、偽名とか使えばいけないかな?」


 ギルドにいた奴等は数人。今現在俺を探している奴らも俺の顔は知らないはず。聞き込みもシオンってやつを知らないかって感じじゃないのか?


「……シオン様。それ本気で言ってます?」


 何やらノーマンは呆れ顔だ。


「わりとマジだったんだけど……」


「では、まずその肩に乗ってるスーラさんをどうにかしていただかないと。あと冒険者カードの提示を求められたらどうされます? 偽造カードでもお持ちでしょうか?」


「あっ……」


 そっか。顔を知らなくても、スライムを連れている奴なんて俺しかいないか。


《シオンちゃん。私、隠れた方がいい?》


 隠れるとしたら、リュートの相棒であるショコラのように鞄の中か?


「いや、あんな連中の為にスーラが窮屈な思いをする必要なんかないさ。それに、どっちにしろ偽造カードなんて持ってないから隠しようがないよ」


 そもそも偽造カードがバレた時点で冒険者資格の剥奪だ。そんな危険な真似は出来ない。


「でもさ、ノーマン。ここにいたら二人が危険じゃない?」


「シオン様。それを言うなら遅すぎます。今ここにいる時点で手遅れですよ」


「でも尾行はいなかったし、誰にもバレてないとは思うけど……」


「ではシオン様はこの店を出た後、この店のことを気にしませんか?」


 ……間違いなく気にする。恐らくまたホリンに見張りをさせることになるだろう。


「そもそも既にこちらの女性には手を打ってたのではないのですか?」


「えっ? 私にですか?」


 こそっと護衛してたことはノーマンにも言ってなかったんだが……流石だな。


 一方彼女の方も何のことか全く分かってない様子。

 ついでだ。スーラの分身を回収しようかな。


「スーラ、よろしく」


「きゃっ!?」


 突然カタリナが可愛く悲鳴をあげる。どうやらスーラの分身はカタリナの背中に張り付いていたようで、ピョンっと分身が飛び出してきた。


「悪い悪い。何かあったら悪いと思って、カタリナのことをスーラの分身に護衛をさせてたんだ」


 スーラの分身はカタリナさんの前でプルプルと震える。恐らく偉いでしょ! とでも言ってるんだろう。


「……そのスライムが私の護衛を? えっ? 分身?」


 カタリナさんは人差し指でスーラの分身をつつく。あっ顔が綻んだ。多分面白かったんだな。


「ああ、このスーラはちょっと特殊でな。分裂したり、巨大化したり、空飛んだりするんだ」


「……スライムなので分裂はまぁ分かります。それが意志を持って私の護衛をしていたのは意味が分かりませんけど……。巨大化も……まぁ膨張的な意味でしたら理解できます。ですが、流石に空を飛ぶはないですよ」


 恐らく彼女の中では分裂は細胞分裂のようなイメージ、巨大化は風船のようなイメージなんだろう。うん、全く違うけどね。それにそんな彼女も空を飛ぶことは信じられない様子。……実際にやって見せたら彼女はどんな反応をしてくれるのかな?


「でも、このスライムさんが私の護衛をしてくれたのは分かりました。ありがとうね」


 彼女はつつくのを止めずに言う。よほど気に入ったのかな?


「おい! いい加減俺にも説明しろ。どうやらカタリナの件にも関わりがありそうだしな」


 あっガロンさんを忘れてた。泊めてもらうことになるならちゃんと説明しないと駄目だろうな。

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