日常編 城の生活
今回から日常編です。
今回は到着してから二ヶ月後の話。
魔法に関しては人物が話している台詞にはルビを振ってますが、地の文にはルビを降ってません。
こっちの世界に来て早二ヶ月、今の生活にも大分慣れた。
俺は朝の日課を終え、朝食を食べに食堂へと向かう。肩にはすっかり定着してしまったスーラが一緒だ。
「あ、シオンくんにスーラくん、おはよう。いつものくれるかな?」
食堂には既にトオルがいた。俺を見るとすぐにいつもの特製ドリンクを要求する。
《おはようなのー!》スーラが元気に挨拶する。この二ヶ月でスーラも触れてなくても、目の前の人には声が届くようになった。
「おはよう、トオル。ほら、いつもの。今日は魔力でいいんだよな? あと食後に飲んだ方がいいぞ」
そう言ってドリンクをテーブルの上に置く。
「もう食事は終わっちゃったよ。ん、いつも通り美味しくないね。もっとどうにかならないの?」
トオルは嫌な顔をしながら飲み終える。
「無茶言うなよ。飲めるだけで強くなれるんだから贅沢言わない」
俺が渡したドリンクは飲むだけで魔力がアップする、魔力強化ドリンクだ。他にも筋力強化や敏捷性、体力が強化されるドリンクがある。薬みたいなもので、一日一回しか効果がないため、魔力強化ドリンクをメインに日によって飲むドリンクを分けている。
このドリンクは俺の魔法で生成したものだ。俺は毒=人体や物体に良くも悪くも影響のあるもの、とイメージした。その結果、能力アップという人体に影響のある飲み物を出すことが出来るようになった。ただ基本が毒ベースの為、味は最悪なのだが。
これを飲むと、しばらく舌がおかしくなる。食前に飲むとせっかくの料理が台無しだ。
この魔力強化ドリンクのお陰で基本魔力はかなり上昇した。ルーナからは総隊長クラスの魔力と言われている。魔王クラスになるにはまだ数ヵ月はかかりそうだ。
だが言い換えれば、数ヵ月あれば魔王クラスにまで魔力が上昇すると言うことだ。それならば多少美味しくなくても率先して飲むというものだ。
「それで、トオルは今日はどうするんだ?」
「う~ん、今日は外に出ようかな? 試したい魔法もあるし」
トオルの魔法もこの二ヶ月でかなり進化を遂げていた。自分が透明になるだけじゃなく、対象を透明に出来る。しかも透明化した物は自由に操ることが出来る。
ルーナのように武器や物を召喚することは出来ないが、既製品の物を透明にすればそれを自在に操る……透明化した武器を手元に持っていなくても自在に操れるのだ。本当に卑怯極まりない能力だと思う。
他にも大気を操ることが出来るらしい。対象の周りにだけ酸素を無くして、呼吸をさせなくしたり……相手に何もさせない状態で倒すのがトオルの戦闘方法みたいだ。
「それで? 今度はどんなチート魔法を作るんだ?」
そんなトオルが新しい魔法を作ったようだ。今度はどんな魔法なのだろうか?
「チートだなんて人聞きの悪い……それにシオンくんだって充分チートだよ。でも……そうだね、次の魔法は成功するとかなり便利になると思うよ」
確かにこのドーピングドリンクだけでも十分にチートだ。それにしても便利な魔法か。どうやら今回の魔法は本当に自信作のようだ。
「それで、シオンくんはどうするの?」
「俺は今日はルーナにリベンジしようかと」
俺達はこの二ヶ月ずっとルーナと模擬戦をしている。……のだが、まだ一回も勝ったことがない。俺も結構強くなってると思うけど、正直ルーナは底が知れない。それに他のメイド達もそこらの兵士達より大分強いだろう。
これだけ強ければ戦力として十分じゃね? と思ったが、シルキーは自分が住んでいる家の敷地内でしかその強さを発揮できないらしい。外でも戦えないことはないが、城の敷地外に出ると戦力は半減するとのこと。
城の中だけで言えばルーナは魔王に匹敵するんじゃないか? そう思えるくらい強かった。魔王が女性には戦わせないと言わなければ……もしかしたらソータも倒せたかも。そう思わせるくらい強いと思う。
まぁそのソータがどれくらい強かったのかはもう分からないのだが……。
「さて、と。じゃあ今日こそ一矢報いるか」
《シオンちゃん頑張るの!》
スーラもいつも通り応援してくれる。スーラともこの二ヶ月で本当に仲良くなった。
「一矢報いるだと端から勝てないって言っているようなものだよ。勝つぞ! くらい言わないの?」
「いや、正直勝つのは無理だろ。一発入れるのが目標だ」
「志が低いなぁ。そんなんじゃサクラくんに怒られるよ。あの人も最近強くなってきているしね」
トオルの言葉に少しだけ怯む。
「うっ、そうなんだよ。姉さん、元々合気道してたから素質は十分みたいだし、自分の魔法を覚えてからメキメキ強くなってるんだよなぁ。村のことも任せきりなのに戦闘力でも負けたら……いや、考えるのはよそう。前向きにだな、うん」
姉さんはしばらくは村の仕事に力を入れていたけど、最近は軌道に乗り出して余裕が出てきたのか、魔法と戦闘の訓練に力を入れ始めた。
因みにサクラ姉さんの属性はピンクだった。桜だからピンクなのだろうか。
ピンクの属性で魔法はどうするんだろうと思っていたが、どうやら相手の精神に対する魔法になっているようだ。
誘惑や洗脳といった感じで対象を操る。たとえ操れなくても相手の能力を減少させる効果があるようだ。
そして、その魔法で魔物を手なずけることも出来る。テイマーというやつだ。
まだ実際に魔物と戦ったわけではないが、フィーアス村付近に現れる魔物を手なずけたことがある。
「じゃあ俺は行くから。何かあったら訓練場まで来てくれ」
「いってらっしゃい。僕もすぐに出かけるから…早ければ昼過ぎには戻るよ」
食堂でトオルと分かれる。
《あっ、ヒカリちゃんだ!》
訓練場へ向かおうと進み始めると前からヒカリがやって来た。
「あっシオン君だ。おはよー。スーラちゃんは今日も元気にみたいだね」
《うん、ヒカリちゃんおはよー! 私はいつも元気だよ。》
ヒカリとスーラの掛け合いはいつも微笑ましいな。
「おう、おはよう、ヒカリ。今日も朝から世話を?」
ヒカリは朝は自分が連れてきた牛や鶏、一緒にいる家畜の世話をしている。そして昼からは畑の世話をしてくれている。ヒカリいるから俺達は美味しいものを食べ、修行が出来る。本当に助かってる。
「うん、今日も新鮮な卵が手に入ったよ! それにあの子達も最近はますます元気になって……やっぱり環境の変化が良かったのかなぁ」
牛達はこっちに来てから日増しに元気になっているようだ。最近では魔力も帯び始めてきて牛乳や卵がさらに美味しくなってきたところだ。
どうやら魔素は魔石を持っていなくても植物や動物にも少なからず影響があるようで、持ってきた野菜も通常よりも短い時間でより栄養価も高い状態で収穫できるようになっている。
まだ二ヶ月足らずだが、早いものは収穫が開始されているらしい。そしてさらに畑を増やしているそうだ。
「ヒカリの頑張りがあったからだろうさ。毎日畑や動物たちに魔法を使ってるんだろう?」
ヒカリの属性は橙色だった。緋花梨から緋色や赤に近いと思っていたが、まさかオレンジになるとは。
ヒカリ本人はそこから太陽をイメージして、毎日疑似太陽を作っては必要なエネルギーを分けているようだ。これも収穫や栄養に多大な影響を及ぼしているだろう。
まぁヒカリ本人は日なたぼっこって大事だよね! と、のほほんとしているのだが。
ちなみにサクラ姉さんと違って戦闘訓練などは一切していない。村にいる限り戦う必要はないからな。
おそらくヒカリも俺が戦えと言ったら戦うんだろうが……ヒカリにはそのままでいて欲しい気もする。まぁ最低限自分の身を守れるくらいにはなって欲しいが、何かあった時のためにソータから貰った一つしかない武器や魔道具は全てヒカリが管理している。キューブは全員分あるから俺も持っている。
「うん、それにね、魔法を使ってあげると、喜んでいるのが分かるんだ。声は聞こえないけどなんとなく分かってきたんだ」
「そっか。野菜とかは愛情を込めると答えるって言うもんな。俺たちが頑張れるのもヒカリおかげだからヒカリも頑張れよ!」
「うん! ありがと。シオン君も頑張ってね!」
それじゃあと言ってヒカリと別れる。ヒカリは元気よく手を振って見送ってくれた。
―――――
訓練場ではルーナがすでに待っていた。
「おはようございますシオン様。本日も実践形式の組み手でよろしいでしょうか」
「おはよう、ルーナ。ああ、今日は何としても一太刀は入れるつもりだ」
そういってスーラを下ろす。模擬線はいつも俺一人で行うためスーラは見学だ。
《シオンちゃんがんばっ!》
スーラに元気をもらってルーナに向き直す。
「ふふ、それでは始めましょうか」
ルーナの周りには無数の銀のナイフが出現する。
そのナイフが空中で動いたかと思うと、こちらに向かって襲いかかってくる。
俺は前に進みながら一本、二本と躱してルーナの懐に入ろうとするが、ルーナはナイフの量がどんどん増やしていく。これでは躱すので精一杯だ。
「シオン様、どうしました? 前に進んでないですよ? これではいつもと変わりませんよ」
そう、いつもここで立ち止まってナイフの群れに対処できなくなって負けてしまう。
だが、今日の俺はこれに対処できる魔法を覚えてきた。
俺は魔法を発動させる。【絶対防御】。この魔法は自分の周りに毒の壁を発動させる。壁には金属を溶かせる硫酸が使用されている。
最初トオルに相談したら、『普通の硫酸では金属は溶けないから、濃硫酸や熱濃硫酸の方がいいよ』など意味の分からないことを言われた。
だから俺はイメージで何でも溶ける硫酸を出したところ、無事強力な酸が出来上がった。その時に、イメージは科学関係ないなって思ったよ。
ともあれ【絶対防御】のおかげで飛んできたナイフは壁で止まり、そのまま溶かされていく。
それを見てルーナは少し驚いたようだ。
「わたくしのナイフを溶かしますか。中々強力な防御壁のようですが、それではその場からは動けないのではありませんか? ナイフはまだまだたくさん召喚できますよ」
ルーナはさっきの倍ナイフを召喚する。
「確かにこの魔法は今いる自分の周りを守る魔法だ。だから次はこれを使う。【自動盾】!」
俺は別の魔法を発動させた。俺は【絶対防御】を解除する。目の前にはナイフが迫ってくる。
だが、ナイフが俺に当たる前に防御壁が現れナイフをはじき飛ばす。
さっきの【絶対防御】は俺の指定した場所に強力な硫酸の壁を作る。今回の【自動盾】は俺から三十センチ位離れた場所に自動的に毒のバリアを召喚する。移動しても関係ない。常に俺の周りに発動する。
【絶対防御】よりは頑丈ではないが、金属をはじき返すくらいは出来るし、素手で触れると手が毒に侵されるだろう。
なにより良いのが、普段からあるわけではなく、対象が向こうから来た場合に、こちらが意識してなくても自動的に反射させることだ。
後方から接近していたナイフが俺に近づいてきていたが、俺に刺さろうとした直前、弾かれる。
「よし! これで、近づくことが出来そうだ……っと!」
そう言って、俺はルーナに向かって駆け出す。
「今度は動いても無くならない防御魔法ですか。よく考えますね。確かに有用でしょうが、今はまだあまりそんな小細工は使ってほしくないですね」
ルーナはそう言うと、少し大きめのナイフを召喚し、こちらに向けて飛ばす。
「無駄だ。大きくても【自動盾】で跳ね返せる」
俺は気にせずルーナに向かって行く。
ナイフとの距離が迫り、【自動盾】が発動したところで、【自動盾】が突然消滅した。
「なっ!?」
俺は慌ててナイフを避けようとしたが間に合わず、ナイフが肩に深々と突き刺さる。
「がっっっ!」
ナイフを受けた痛みと反動で俺は後ろに倒れる。
「さて、とりあえずはここまでですね。さて治療をしましょうか」
ルーナは俺に近づき、肩に刺さったナイフを抜き取って、傷口にオレンジ色のポーションをかける。
するとすぐに効果は現れ傷が塞がれる。
「痛つつ……ああ、ありがとうルーナ。痛みが引いてくよ」
俺は痛みが引いてきたので起き上がる。すると端の方で見ていたスーラがピョンピョン跳ねながらこちらに近づいてくる。
《シオンちゃん大丈夫なの?》
スーラが心配そうな声だ。
「ああ、大丈夫だ。このポーションのお陰かな。よく効くポーションだな」
「お礼はヒカリ様に言うといいですよ。このポーションはヒカリ様の魔法で生み出されておりますから」
どうやらヒカリは傷を治すポーションも作り上げていたようだ。
「そっか。じゃあ、あとで礼を言わないとな。それよりも……さっきのはなんだったんだ? いきなり【自動盾】が消滅したんだが?」
俺の【自動盾】は壊されたではなく、消滅したといった感覚だった。
「わたくしの能力の一つでございます。召喚した銀製品には好きな能力を付与させることが出来ます。今回はナイフに【魔力分解】を付与させました。対象に接触するとそれが魔力を帯びている物なら分解されます」
要するに魔法無効化だ。それに当たると魔法で作ったものは全て消滅するのだろう。
「なっ! じゃあそれがある限り、ルーナには魔法での防御は出来ないってことか?」
「防ぐ手立てとしましては、わたくしの【魔力分解】よりも強い魔力を帯びた防御壁にするしかないですね。一応、先ほどのナイフに込めた魔力ではシオン様の自動で発動する防御魔法よりも強力ではございましたが、最初に見せたあの壁には効果がなかったでしょう」
「なら、込めた魔力が高ければ【絶対防御】も敗れると? 話的にさっきよりも強く【魔力分解】を付与させることも出来るんだろ?」
「もちろんです。威力は私の魔力量の分まで強くなりますから」
「なぁ、今の話で気になったけど、例えば【魔力分解】を付与させなくても俺の【絶対防御】より強い魔力を帯びた魔法をぶつければ壊せるんじゃない?」
わざわざ消さなくても壊せばいい。
「いえ、そういうわけではありません。確かに強い魔法で壊す方法も出来るでしょう。ですが、その場合はその魔力は最低でも三倍は必要となるでしょう」
「なんでそうなるんだ?」
「そうですね……それでは物理的な物で考えてください。例えば盾と剣、同じ鉄の素材で剣が盾に斬りかかったら盾は斬れますか? 切れませんよね? 防がれて終わりです。もし盾を切ろうとしたら恐らく相当の力や技術が必要ではありませんか? 守るだけなら防御側の方が有利なのです」
まぁ下手すれば剣の方が折れるだろうな。
「魔法も同じです。防御魔法を壊すに魔法を使うのであれば同じ威力ではなくそれより巨大な力か、相性が必要です。【魔力分解】はその相性を無効化して、同じ魔力よりほんの少しでも多ければその魔法を解除することが可能です」
相性ってのは炎の壁に水の魔法を唱えるみたいな感じだろう。
「しかしそれなら【魔力分解】がある限り、防御魔法は使い道が無さそうだな」
「そこは応用で何とでもなります。例えば防御魔法自体に【魔力分解】無効の付与を与えたり、もしくはより強力な魔法を唱えるか。……ご自分で考えてみてください」
「防御壁に別の付加価値をかけるか。硫酸だけで十分かと思ったけど他のも考えてみるか。そうだな……【魔力分解】自体を付与する?」
「そうですね。それこそ防御魔法にに【魔力分解】を付加すれば、魔法によるダメージそのものが無効化されるかもしれません。ですが、今度は魔法以外の防御に不安が残るようになるかもしれませんね。それに、毒と魔力無効の両方を付与するとなると魔力の消費も半端ないでしょう」
「いや、それ以前に【魔力分解】を使えないから…ん? いや、魔力も体内生成だよな? なら俺にも出来る可能性はあるか?」
魔力という人体に影響のあるものを消滅させる。……やってみる価値はありそうだ。
「それを確かめるのは今度にしましょうか。とりあえず今回の反省ですが、ちょっと防御魔法を過信しすぎましたね」
「そうだな。絶対に大丈夫と思ってた」
「確かに普通は大丈夫でしょうが、今回のように万が一のことを考える必要があります。修正点としては、まずシオン様と魔法の距離が近すぎるということでしょうか。今の距離は三十センチくらいでしたよね? それだと破られたら先程のように反応が出来ないでしょう。せめてとっさに回避できる距離、五十センチくらいには出来ませんか?」
「それは少し調整を加えれば大丈夫だと思う」
イメージを変えるだけで行けるはずだ。
「では最低でも五十センチ以上がよろしいかと。もしシオン様がもっと強くなり反応できるようになったら三十センチに戻しても良いと思います」
「そうだな……距離が遠くなるとそれだけ消費も多くなる。この魔法は常に魔力を消費し続けるから、出来るだけ消費を抑えたい」
「そういえば、最初の方は発動しておりませんでしたが、今はどうなんでしょうか?」
「今は発動してるよ。さっきは最初だったから、あえて使用しなかったんだ」
「左様でしたか。では今後は常に使用した方がいいでしょう。慣れますと魔力の消費も抑えられます。それに常に魔法を使用していることで、全体的な魔力の底上げにも繋がるでしょう」
使ってみて分かったのだが、総魔力、最大MPを上げるにはMPを大きく使って魔力を回復する際に増えるらしい。そのため、普段あまりMPを消費しなかったり、元々最大MPが多くて消費しきれない人だったりすると増えることはない。だから俺のドーピングドリンクは誰でも総魔力が伸ばすことが出来るチート魔法だ。どれくらい増えるかは詳しいデータが取れないから不明だが、確実の増えているのは実感できる。
「うん、俺もそう思ってこの魔法を習得してからはずっと起動し続けてる。まぁ覚えたのが昨日なんだけどね」
「次は最初の防御魔法の方ですね。こちらはかなり堅そうなイメージでしたが、動けなくなるのは問題ありませんか?」
「確かに、だけど強くするためには地面に固定しないと。堅いだけなら吹っ飛んでしまうかもしれないしね。だからこればかりはどうしても……まぁこれは敵の大技を食い止める時用だから」
「まぁ理由があるなら仕方ありません。そのままでいいでしょう。ただそうなりますともう一つ防御魔法が欲しいですね」
「もう一つ?」
「はい。立ち止まっての大防御、自身の近くの自動の小防御とあれは、移動しながら発動する中防御があった方が便利です、【自動盾】で防げない威力の魔法を止まらずに防ぐ盾ですね」
「う~ん、防御の威力を上げるとなると……手の前に出すイメージでなら多分出来ると思う」
「では、採用してみてはいかがでしょうか? おそらく役に立つと思いますよ」
「分かった。じゃあ当面は【魔力分解】と中防御の作成に取りかかろうかな」
「あと……ここまで言っておきながらですが、今後わたくしとの模擬戦では防御魔法の使用を禁じます」
「えっと……何で?」
「わたくしはいつもシオン様がギリギリで避けれられる量のナイフを調整して模擬戦をしております。これはシオン様の敏捷性を上げる訓練なのです。防御魔法を使い楽をして貰っては、この模擬戦の意味は半減いたします。防御魔法に関しては有用ではありますので、別途の訓練を用意しましょう」
さっき模擬戦中に呟いてたのはこの事か。
「小手先の魔法じゃなく実力で勝てってことね。了解。次からは模擬戦では防御魔法は使わないよ」
「防御魔法以外の魔法は使用して問題ありません、あと防御魔法も模擬戦以外ではどんどん使って慣れてくださいね」
「ははっ分かったよ」
結局今日もルーナに一太刀も入れられずに模擬戦は終了した。この後はいつもの座学だ。戦闘に関して効率的な動き方や戦闘での心得を教わる。
しばらくルーナと勉強をしていると…トレーニング室の中央に突然空間の歪みが出来る。思わず身構えてしまったが、そこからはトオルが出てきた。
「えっ?トオル?」
転移扉でない、いつもと違う方法でやってきたトオルに驚いて声をかけた。
トオルは大きく背伸びをする。
「う~ん、長距離になるとちょっと揺れが酷くなるのか。調整が必要かな」
トオルはこちらを無視して一人で考え事をしている。どうやらこちらに気がついてないようだ。
「おい、トオルってば」
俺は近づいて再度声をかけた。
「あっシオンくん。どうしたんだい?」
やっとこっちに気がついたようだ。
「どうしたじゃない! お前がどうしただよ。いきなり現れて……どうやったんだ?」
「ちょっと空間転移を試してみたんだ。ちょっとふらつくけど、いやー、うまく行ってよかったよ」
「空間転移って……一体どうやって…」
「どうやってって魔法でだよ。ほら、空間って色がないでしょ? ならいけるかなぁって…」
どうやら空間=透明をイメージできたらしい。全く意味が分からない。俺には考えられない思考だな。もう何でもアリだな。
「でもさすがに魔力の消費が激しいね。あと、転移先のイメージも付きにくいからどうにかしないと」
あー疲れた、と言って挨拶もなくトオルは帰って行った。
「……わたくし時々トオル様のことが分からなくなります。とんでもないお人なんでしょうけど」
トオルがいなくなった先を見つめながらルーナは呟く。
「奇遇だな俺もだよ」
俺たちはトオル出て行ったドアを見ながらしばらく立ち尽くしていた。




