第171話 条件を聞こう
「お願いします。どうか俺達だけで旅行に行かせて下さい」
男だけで青の国に旅行に行く。
俺はその説得をする為に、現在ルーナの前で土下座をしていた。
ただ旅行に行くだけ。それなのに何がそこまでさせるのか? 本当にここまでする価値があるのか? 頭の中で疑問は尽きない。
始めは旅行を却下したルーナも、俺が土下座をしたらドン引きした。
「……わたくしはシオン様が何故そこまでするのか。意味が分かりかねます」
それは俺にも分からない。何で土下座までしてるんだろう?
「始めに殿方だけと言われたときは、色街に女性を買いにでも行くのかと思いましたが……流石にそれだけのために土下座はされませんよね」
「そんなことするわけないだろ! そんなの後で怒られるだけじゃないか! それにトオルだって誘うんだ。トオルがエキドナを裏切るようなことすると思うか?」
内心ドキッとしながらも反論する。キャバクラくらいならノーカンだよね?
「そうですね。失礼致しました」
「今回は本当に気兼ねなく楽しみたいだけなんだ」
「わたくし達がいたら気が休まらないと?」
「そういう訳じゃなくてだな。ほら、やっぱり女性がいたら遠慮したりする場面だってあるだろ? ルーナだって女性だけしかいない時の方が、少し気が楽になったりしないか?」
「………では一つだけ条件があります」
どうやらルーナも心当たりがあるのか、少しは理解してくれたらしい。条件付きでOKが出そうだ。
「何だ? また毎日連絡しろとかか?」
「それは条件以前に義務ですから、条件に関係なくしていただきます」
あっそうですか。義務なんですか。だとしたら条件って何だ?
「条件とは……常識人を最低一人は連れていくことです」
……それって、ゼロとトオルは非常識認定されてるってことでいいのかな?
「常識人? そんなのリュートで良いだろ? まさかリュートも非常識とか言わないよな?」
元々三人だけじゃなく、リュートも誘おうと思ってたから特に問題はない。
「確かにリュート様なら問題ありませんが……今は冒険に出られてて、いらっしゃらないですよ」
「冒険って依頼か? 何日くらいで戻ってくるんだ?」
ルーナへ伝言する依頼って……まさか、またサンダーバード退治のように、俺に内緒で面白イベントをやってないだろうな?
「えっ本当にご存じないのですか!? リュート様は現在、デューテ様とアイラ様と三人で黄の国巡りをしてますよ。恐らく後一月は戻らないと思いますが」
「はぁっ!? なんだそれ? ……そういえばここ最近アイラを見てなかった気がする」
いつから居なかったっけ? ってか、そんなに長期間の旅なのに、何で俺に報告が来てないの? おかしくない?
《シオンちゃんシオンちゃん。アイラちゃんはちゃんと挨拶に来てたの。シオンちゃんはアイラちゃんにお土産よろしくって言ってたの》
「はぁ!? 全く記憶にないぞ! ……一体いつの話だ?」
《今月の頭なの。その時シオンちゃんとエイミーちゃんが二人でゲーム十番勝負をしてたの》
……そういえば先日、暇に明かせてエイミーと二人で丸一日耐久ゲーム十番勝負なんてバカなことをしていた。
その時に報告があったのか……集中してたから全然覚えてないや。
にしても、リュートとデューテとアイラの三人か。そこはかとなく修羅場の匂いがするな。リュートの気苦労が絶えなさそうだ。
「えっ!? 待って、じゃあリュートいないの?」
俺はようやく事の重大さに気がついた。リュートが誘えないってことは常識人がいないってこと……。
「ですから、そう申しているではありませんか」
「くっそ。何でこんな時に……そもそも黄の国巡りって何が目的でそんなことしてるんだ?」
「リュート様とデューテ様はSランク冒険者ですので……内乱が終わった村や町が無事か確認に出られているのです。特にデューテ様は裏世界のこともご存じなので、そちら方面も探るご予定だとか」
そういえばデューテは俺達に盗賊をけしかけたり、賞金首にしていたよな。
過激派がいなくなった後、裏社会がどうなっているのか……確かに調べた方がいいことではある。
「それ……むしろ三人で大丈夫なのか?」
「一応バックアップ体制は整っておりますのでご安心ください」
バックアップ体制まで整っていたのに知らなかったとは……本当に俺って居ても居なくても関係ないのな。
しかし……なんてこった。流石にリュートが帰って来る一か月後じゃゼロは待ってくれないだろう。
仕方がないから他の常識人を……いや、だからこれ以上、俺に友達なんかいないっての。
くそ……ルーナめ。リュートがいないから、この条件を出してきたな。
次に思い当たるのは……セラか。いや、駄目だ。セラが来ることになると【黄金の旋風】もついてくるだろう。イオンズは男だから問題ないが、獣人とはいえ、リャンファンは女だ。
リャンファンなら別に小言なんかないとは思うが、女性がついて来ることになったら、メイドを断る口実がなくなる。
ルーナなら『リャンファン様が行くのでしたらリンが一緒に行っても問題ありませんね』とか言い出しかねない。
常識人……あと、思い当たる人物は……。
――――
「それでノーマンを貸せと?」
俺はハンプールの領主の館に来ていた。執事のノーマンを旅行のお供にするためだ。
彼とは黄の国を一緒に旅したから、ある程度気心は知れてるし、何よりも執事としての能力も高い。ウチのメイドにも負けてないはずだ。
少なくとも旅の途中に関しては、リンよりも働いてた気がする。
そして俺が知る中で一番の常識人だ。彼ならばルーナも納得せざるを得まい。
「もうノーマンしか頼れないんだ。なぁいいだろ?」
「しかし私も今は忙しくてな。ノーマンを連れていかれると困るのだが……」
「そんなこと言って……内乱騒ぎも終わったんだし、この間フェスもしたんだから、今はそこまで忙くないだろ?」
「私の仕事はフェスだけじゃないんだが……それよりも、お前は自分のせいだって自覚は全くないのだな」
領主はなんか含んだ言い方をする。
「えっ? 俺のせいだって言うのか? いやいや、領主が忙しいのと俺がなんの関係があるんだよ!」
「フェスで販売したD&M――正確にはモンスターカードだな。あれをフェスで発売してから問い合わせが多数押し寄せてきている」
「えっそうなの? 確かに本店や各町の支店でも結構売れてるみたいだし……いやぁ嬉しいな」
「違うっ! ……いや、売れてるのは事実だが、問い合わせの殆どがクレームだ!」
「はぁっ!? 何でクレームがくるんだよ」
「まず一つ。パック販売があくどいと……破産をする人が続出だ」
どうやらガチャ商売はこちらでも中毒者を出しているみたいだ。
「言っておくけど、パックはあくまでも追加要素で会って、決してカードのコンプを目的としたゲームじゃないからな?」
「そんなことは分かっている。だが……」
「だが?」
「モンスターカードの完成度が高すぎた。魔物の詳細について、常識的なことから、知られていない生態まで書いてあり、さらには弱点やレア個体、進化個体まで網羅してある」
「そりゃあ調べるのに随分と苦労したからな」
主にゼロやカミラ達夜魔族が。それからメイド達。俺は冒険途中で出た魔物くらいだ。
「だろうな。そして、極めつけは、モンスターカードにある写真。私はカメラの存在を知っているから驚きはしないが、カメラを知らない者達が驚いているぞ」
明らかに絵ではないからな。写真というものを知らない人から見たら、一体どうなってるのか見当もつかないだろう。下手したら本物を封じ込めてる……なんて思われるのかもしれない。
「まぁ写真を使うのは悩んだんだけど……出来るだけ正確に伝えたかったからな。仕方ないね」
「このモンスターカードは最早ただのゲーム商品ではなく、冒険者にとっては生存率を上げるための必需品で、コレクターにとっては芸術作品、研究者にとっては貴重な資料扱いを受けているのだ」
「だからって、クレームを受ける筋合いはないと思うが?」
勝手に芸術認定したり、研究資料にするのは構わんが、クレームを付けるのはお門違いだろう。
「そもそもクレームを言ってるのは誰なんだ? どうせ貴族とかなんだろ?」
「そうではない。むしろコレクターの貴族は金を持ってるから、金にものを言わせて買えばいいだけだ。まぁ目当てのカードを出すのにいくら使うかは知らんが、一パック百G程度じゃいくら買っても痛手にはならん。クレームを言ってるのは、主に二ヶ所。冒険者ギルドと国の研究機関だ」
「はぁ……はぁ!?」
予想してなかった所からのクレームだったので、俺は思わず気の抜けた返事になってしまった。
「冒険者ギルドはこの情報は冒険者の生存率を上げる情報だから、金儲けに利用せず、平等に公開すべきだと」
「いやいや、別に隠してないだろ! 全部公開してるじゃないか! それにハンプールのギルドには見本として全種類渡してるし。生存率を上げるだけなら、カードじゃなくても自分たちで書き写せばいいだけだろ」
確かに他のギルドにはないかもしれないが、それでも別に書いてある内容は秘密にしてるわけではない。ギルド間で伝達すればいいだけの話だ。
「私もそう言って返答しているところだ。しかし、写真がないだのうるさくてな」
「流石にそこまでは知らんよ。第一、冒険者が出会いそうな魔物はゲーム本体のベーシックカードに入ってるぞ。拡張パックは普段出会わないようなレアな魔物だけだ」
普段見たこともないお目に掛からない魔物相手の情報で生存率云々は関係ないはずだ。
「そうは言ってもな、こうやって写真に収められてる以上、この魔物たちは現存している証拠。いつ何があるか分からないと言ってな……」
「そんなこと言いだしたらキリがないぞ……んで、もう一つの研究機関ってのは?」
そもそもこの国にそんな機関があったことすら初耳だ。まぁ考えたらどんな国にも研究機関くらいあるか。
「主に魔物について研究をしている機関が、自分達も知らないことを一介の商人が知っていて、それを然るべきところに発表もせずに販売してるのに文句を言ってる」
「どこだよその然るべき場所って?」
「自分たちのような王国研究機関とかだろうな。国家間の公的な研究発表会やら研究論文で正式に国民には正式に公表やらなんやら……私にも良く分からんことを言い出していた。要は自分達が長年研究してきたことが、より正確に先に広まったから嫉妬しているだけだ」
「そんな嫉妬するくらいで文句言う無能な研究者たちは、女王に言ってクビにしてしまえ!」
「あとレアカードのワイトキングだったか? その写真について具体的な返答を求むとも言っていたな」
「ワイトキング? 何でだ?」
「どうやらそのワイトキング。元々赤の国の宰相のオズワルドに似ていると……その顔は何か知っている顔だな」
どうやら俺の顔色で俺が知っていることに気がついたようだ。夜魔城にはワイトは結構いるみたいだが、ワイトキングは一人しかいない。結構レアな存在だ。
「いや、その、まぁ……本人だしな」
俺は赤の国が崩壊した城で発見したこと。その後、夜魔城で研究者として働いていることを説明した。
「本人は赤の王に仕えていた頃よりも好きな研究が出来ると言って、生前よりも生き生きしているらしい」
「死んだ後に生き生きしているとは……随分と皮肉が効いてるな。しかしまさか本人とは……。なんて説明すればよいのだ」
「別に他人の空似じゃね? で、いいんじゃないか?」
というか、本人と分かったらどうする気だったのかな? どうやら領主もその線で説得することに決めたようだ。
「他にも細かいクレームだと冒険者がスラッシュの真似をして発動しなかったと」
「そんな馬鹿はほっとけ!!」
ゲームだっつってんだろうが!! 真似して出来ないって子供かよ!!
「ただ、中にはゲームを参考にして仲間への支援魔法を開発したら戦闘が楽になったと報告もあったぞ」
「それは嬉しいな」
そういう報告だけ欲しかったよ。
「まぁこんな感じで、一つ一つは取るに足らんクレームなのだが、如何せん量が多い。ノーマンを連れていかれたら書類の整理が滞って、私が困る」
……確かに領主の目の前には大量の書類が積まれている。まさかこれ全部がそんなクレームじゃないよな?
しかしノーマンがいないと俺が旅行にいけない。
「要は書類の整理を手伝ってくれる人がいればいいんだな?」
「ノーマン以外にそんなこと出来る人物がいればな」
「じゃあノーマンの代わりを連れてくるから……そしたらノーマンを貸してくれるか?」
「そんな人がいるのか? ……ああそうか。そちらのメイドは優秀だったな」
確かにウチのメイドなら領主の手伝いも出来るだろう。ただ、その為にメイドを貸してくれと言ったら、ルーナが貸す代わりに旅行にメイドを……等と言い出しかねない。
「メイドではない。が、一人だけ心当たりがある」
「メイドじゃない? 言っておくが、クリスやワイズ女史では駄目だぞ。ノーマンの代わりなのだから、不在の間は毎日来てもらわないと困る」
ったく、俺の知り合いはそれだけだと思ってるのか? 他にもいるっつーの。
「大丈夫。任せとけって」
俺は急いで彼女を呼びに行くことにした。




