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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第170話 羽を伸ばそう

今回から第六章、青の国編に入ります。

 黄の国の内乱が過ぎてから一年以上過ぎた。


 黄の国はすっかり元通り。むしろ今はシクトリーナの商品も出回って、以前以上の活気を見せていた。


 少し前にはハンプールで第二回フェスを行った。俺達も新商品を出し、第一回以上の盛り上がりを見せた。


 そんな俺達は……相変わらず偶にハンプールの冒険者ギルドで依頼を受けながらバルデス商会の手伝い。

 だけど以前みたいに頻繁には行かず、大半を城で過ごしていた。


 黄の国で逃がした敵……プラナ達の情報はあれから全く聞いていない。トオルが情報を仕入れてはいるようだが、俺には教えてくれていない。必要になったら教えるとは言ってるが……。


 その為、今の俺に出来ることは強くなることだけ。一年前の悔しさを忘れないためにも、以前にもまして俺は修行に明け暮れるようになった。

 お陰でこの一年。今まで以上の成長を遂げたと思う。傲慢と思われるかもしれないが、誰よりも強くなった。俺に勝てる奴はいないんじゃないか? そう思うくらい自信があった。



 ――――


 そんなある日のこと、全ての始まりはゼロの一言だった。


「なぁシオン。この国には物資が豊富にあるが、ひとつだけ足らないものがあるとは思わんか?」


「……別に思わんが?」


 城に遊びに来ていたゼロが突然そんなことを言い出した。特に足らないの何てないよな?


「そんなことはないだろ! 海産物だ。この城には圧倒的に海の幸が足らんと思わんか?」


 ゼロは最初に塩辛を渡してから、塩辛だけでなくその他の魚介にもハマっていた。

 刺身やたこわさに始まって、カニ、エビなど甲殻類。特に好きなのは珍味系。特に日本酒に合う肴がいいんだとか。


 ったく、魚介が好きなヴァンパイアってなんなんだよ! しかも本人は現存する最古のヴァンパイア。

 大人しく血でも飲んでればいいものを……いや、それで人間を襲ってもらっても困るんだけどね。


「海の幸か……」


 ふむ。と俺は考え込む。確かにゼロの言うことも一理ある。

 現時点で海産物はフィーアスに住んでいるニンフのナーイアス族やネーレイス族が漁で手に入れたのを分けてくれるくらいだ。

 ただナーイアスとネーレイスは総人口が少ないので、大量には手に入らない。

 後は俺が趣味で個人的にツヴァイスの海岸で釣りをするくらいだ。もちろん俺個人分しかない。いや、偶にアレーナに分捕られるが……。


 バルデス商会――黄の国でも海産物の販売は行っていたが、殆どが干物などの加工品。黄の国は殆どが内陸。川魚以外は他国からの仕入れになる為、鮮魚の取り扱いは殆どなかった。

 そもそもが行商人が鮮度が必要な生モノの取り扱いをしないんだ。日本と違い流通環境が整ってないこの世界では、地元以外では鮮魚の取り扱いは不可能だろう。


「要は海産物が食べたいと? それなら自分で獲ってくればいいだろ」


 実際、塩辛の材料になるイカは何度か一緒に獲りに行ったこともある。


「てめぇ……モンスターカードに協力したことを忘れたとは言わさんぞ」


「うっ……」


 それを言われると弱い。確かにゼロにはモンスターカードで随分と協力してもらった。モンスターの情報は七割はゼロや夜魔族達のお陰でもあるのだ。


「それにシオン。貴様だってこの辺りで釣れる魚以外の魚介を食べたくはないか?」


 確かに……俺がいつも行く釣りスポットでは最近同じ魚しか釣れん。


「それにイクラ、数の子、キャビア……魚の卵はこの世界では食べてなかろう?」


 イクラや数の子とか……食べる食べない以前に、この世界にその魚がいるかどうかすらも知らん。ってかコイツ、一体どこまで調べたんだ?


「それに、昆布、ワカメなど海藻が足らんと言っておったではないか」


 確かに。特に昆布などダシとしての価値があるのは多めに手に入れたい。


「それで? ゼロは俺達に海産物の仕入れルートを開拓しろとでも言いたいのか?」


「まぁ最終的にはそうなるが、その前に俺達で海の幸を楽しみに行かないか?」


「……どういうことだ?」


「いやな。少し前にエキドナと飲んだんだが、アイツ……その時に人間の町に行って楽しんだと随分と自慢してな。そこでふと考えたら、俺はもう何年も人間の町を訪れてないことに気がついてな」


 エキドナはウチの女性陣と随分と仲良くなったからな。内乱時にドタキャンした後、日を改めてミサキやレンと町をブラついたという話も聞いた。


 本来魔王が人間の町に行くことはない。当然だ。頻繁に町を訪れてバレたりしたら大混乱だ。

 だからこそエキドナはゼロに随分と自慢をしたに違いない。ゼロが人間の町で遊んだことがないのを知っているから……。


「つまり羨ましかったと」


「身も蓋もないが、端的に言うとそうだな」


 誤魔化さないところをみると、本当に羨ましいようだ。


「ん? でもお前以前赤の国に行ってなかったか?」


 ヘンリーを退治した時に邪魔された覚えがある。


「あれは遊びではないだろうが! 俺は楽しみたいんだよ。それに現地で食べる飯はいつもより美味いんだろう?」


「まぁ釣れたばかりの魚をその場で処理して食べると最高だろうな」


「俺はそれがしてみたい」


 それがしてみたいって……子供か!?


「一人で勝手にやれば……」


 いや……と思い止まる。

 コイツを一人で人間の町にやるのは危険すぎるな。常識知らずのゼロのことだ。下手したら町を崩壊させかねない。

 でもこのままでは諦めそうもないし……仕方がない。モンスターカードのお礼もあるし、海産物の仕入れルートが開拓できれば俺達にも十分メリットはある。少しくらいなら付き合うとするか。


「しかし海の幸が食える町なんて俺は知らないぞ」


 さっきも思ったが、黄の国は川魚くらいしかない。本格的な海の幸が楽しめるとしたら……。


「青の国か……」


 思わず考えが口に出る。確か以前、青の国は漁業が盛んだと聞いたことがある。


「俺はその辺りの事情は知らんから任せるぞ」


 コイツは……言い出したくせに、完全にこっちに任せる気だ。

 その態度には若干イラッとくるが……下手に口を出されて邪魔をしないだけマシと思うことにした。


「じゃあまずは海の幸が特産の町を調べて……これはハンプールで情報を仕入れればいいか。あっあと、旅に出るなら皆のスケジュールを確認する必要があるな」


 俺とゼロは決定で、後は【月虹戦舞】の面々と……。


「おいシオン」


 俺を呼ぶゼロの声は先ほどよりも真面目な雰囲気だ。


「ん? 何だ?」


「今回の旅は……男だけで行かんか?」


「はぁ? 何を言って……はっまさかお前。そんな趣味が?」


 俺は身の危険を察知し、思わず後ずさる。


「ふざけるなっ!! んなわけないだろうが!!」


「……じゃあどういうことだよ」


「最近な。カミラや侍女達がいちいちうるさいのだ」


「うるさいって……どうせお前が悪いんだろ」


「そうじゃない。俺は変わってない。変わったのは奴らの方で……元々素直で従順だったのが、小言を言うようになったのだ。全てお前らのせいだぞ」


「はぁ!? 何でそうなるんだよ!!」


「俺の侍女達が貴様のメイド達を見習った。主にアレーナやルーナをだ」


 ウチのメイド達を見習った?

 ウチのメイド達……間違いなく一般的なメイドとはどこか違う。

 特にルーナやアレーナは城主である俺を敬うような感じは一切ない。何かあるとすぐに小言が飛んでくる。


「……なんかすまん」


 別に俺が悪いわけではないのだが、何となく謝ってしまった。


「確かに以前よりも仕事が出来るようにはなっている。だが隠居した俺にまで仕事をさせたり、部屋にいるだけで、やれ運動しろだの、邪魔だの……お陰で居場所がないんだ」


 コイツ……もしかして城に居場所がなかったから、モンスターカードの収集を積極的にやってくれたんじゃないのか?


「じゃあ夜魔城に住まなくても、隠居した森に帰ればいいじゃないか。元々あっちに住んでたんだし……ほら、名前は忘れたけど泣いたら人格が変わる面白レイスもいるんだろ?」


「……フレアのことか? 奴なら夜魔城で侍女の真似事をしている。それどころか率先して働いておるわ。それに……森に帰ると飯が食えないではないか」


「……飯食うなら、文句を言わずに働けよ」


 働かざる者食うべからずってね。


「だからちゃんとカミラに魔王として毎日修行をつけてやってる。奴も大分強くなったぞ。もうヘンリーよりは確実に上だな」


 へぇ……カミラ頑張ってるんだ。


「つまり俺が言いたいのはだ。侍女たちが喧しくなったのは諦める。だが、偶には小言を言われないようなメンバーでゆっくりと、羽を伸ばしたいと言ってるんだ。お前だってたまにはメイド達の監視なく伸び伸びと過ごしてみたいだろ?」


 ちょっと想像してみよう。

 小言を言うメイドやラミリアがいない。そんなところで美味しい海の幸が食べられたら……。


「いいなそれっ!」


 それだけじゃなく、女性がいたら気を使って普段は出来ないようなことも、男たちだけの旅行なら出来る。


「別に女が欲しければ、現地の色街にでも行けばいいんだ。どうだ? 美味い魚を食いながら誰に咎められるわけでもない旅。最高だと思わんか?」


 別に色街に行く必要はないが……あっでも綺麗なお姉さん方にチヤホヤされながら飲むお酒は格別かもしれない。それがたとえ彼女たちの仕事だったとしても……。


 うん最高だ。だが二人で行くとなると、ゼロの面倒を俺が見ることになり、気苦労が耐えない。俺が羽を伸ばせなくなる。

 二人で行ったら絶対に問題しか起こらない気がする。


「おい、俺達二人は手続きやらが面倒だぞ。流石にあと何名か誘おう」


「ならトオルでいいんじゃないか? アイツだってエキドナとずっと一緒だと息が詰まるだろ」


 いや、トオルは結構マイペースだぞ。エキドナの方が苦労してそうだ。

 だがトオルの知識は役に立つ。青の国の情報もちゃんと知っているに違いない。


「トオルと……あとはリュートでも誘うか」


 というか男友達がそれくらいしかいない。リュートならゼロも顔は見たことあるから問題はないはずだ。


「誰誘ってもいいが、準備は急げよ」


「分かってるよ!」


 自分は出発を待つだけでいいかも知れないが、こっちは準備が大変なんだぞ。


 とりあえず最初に最大の難関であるだろうルーナへの説得というミッションを済ませることにした。

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