日常編 D&M③
今回からゲーム開始です。
「じゃあ今からゲームを始めるけど、シオンくん以外はこういったゲームは始めてだろうから、今回はロールプレイは無しでいくよ」
「ロールプレイとはなんでしょう?」
「簡単に言うと、今回のゲームのキャラになりきることを言うんだ。演劇のイメージだね」
「……それは少し恥ずかしいわね」
「でしょ。だから無しでいいよ。でも、やってれば自然とキャラに入っていくと思うよ」
そうそう。最初は恥ずかしがっていても、やってれば本当にそのキャラになった感覚になるんだよな。
「ただ一つだけ条件を付けるよ。今回のゲームは四人は同じパーティー仲間なんだから、ゲーム中はお互い名前を呼び捨てで呼ぶこと」
「えっそれは領主様もでしょうか?」
「もちろん。ゲーム中は領主様じゃなくて、ラスティンという魔法使いなんだから。問題ないよね?」
「もちろんだ。私もせっかくゲームをするなら楽しんでやりたい。領主なんて他人行儀な呼ばれ方をされては興醒めしてしまう」
「そういうことでしたら……クリス、シオン、ラスティン。ですね」
ワイズさん――いや、ワイズは少し照れたように名前を呼ぶ。うん可愛い……じゃなくて、ゲームが始まったって感じがするな。
――――
「じゃあ導入部分から始めるよ。君たち四人は冒険者になったばかりの新人冒険者。毎日採集の依頼をこなしながら細々と暮らしていたよ。そんなある日、君たちはこの近くに新人にちょうどいいダンジョンがあることを知る。採集の依頼も飽きた君たちはここで一山当てようとダンジョンに潜ることに決めた」
「考えたら、いきなりダンジョンはハードル高すぎない? 私なら受付で止めるわよ」
「そんな細かなことはいいんだよ!」
これはゲームだぞ。そんなこと言ってたらいつまでも始まらないじゃないか。
「今回のマップはこちら。全30マス。ダイスは1~3。移動のターン制限は48ターン」
テーブルの上には双六のようなマップが広げられる。マップはスタートから最初の数マスとゴールまでは見えてるが、それ以外は隠されている。
「48ターン? ってことは48回ダイスを触れるの? 30マスで?」
「そうだよ」
「もしかして戦闘ターンも含む?」
「いや、戦闘は含まないよ」
「じゃあなんで? 仮にダイスの目が全部1だとしても、30ターンあれば十分だけど?」
「この1ターンってのは1時間で考えてるんだ。だからダイスを回さなくても1ターンが過ぎてしまうんだよ」
「? ごめんなさい。ちょっと意味がわからなかったわ。1ターン1時間なのはいいとして、ダイスを回さないってどういうこと?」
「そうだね……例えばクリスくんは丸二日間、寝ずにダンジョンに潜ることができるかな?」
「私は本当の冒険者じゃないから分からないけど……多分無理でしょうね。ただ起きているだけじゃなく、戦ったり、周りを注意深く観察しないといけないんでしょ? ただでさえ通常よりも神経をすり減らしてるのに、二日間も起きていられるわけないわ」
「そう無理だよね。だからダイスを振らない代わりに休憩を取ることが出来るんだ。休憩は1ターンでHPが2、SPが1回復するよ。仮に回復の必要が無くても丸一日――24ターンが経過する前に最低5時間分の休憩を取らないと、寝不足や疲れの設定で、25ターン目以降からステータスの値が減少するから」
「じゃあ48ターンの内、最低5時間は絶対に休息を取らないといけない訳ね」
効率的に考えれば、23ターンの時に5時間休憩を取れば、休憩が一番短い時間で済む。まぁ今回はそんなに切羽詰まらないと思うから、適度に休憩は取ると思うけどね。
「あと30ターンで辿り着くって言ってたけど、ダンジョンはそもそも一本道じゃないからね。行き止まりにぶつかったら戻る時間も必要になるし、落とし穴みたいな罠に引っ掛かると、脱出するのにも時間が消費するからね。あと戦闘は……さっきはターン経過しないと言ったけど、流石に長引くと考える必要があるかもね。そうだね……10ターンを超えると1時間が経過したとしようか」
「そう考えると48ターンってのは以外とギリギリだったりする?」
「そこまでギリギリじゃないと思うよ。今回は初心者マップだから分岐もないし……多分40ターンも掛からないんじゃないかな?」
初級から無理ゲー感だしたら、中級以降誰も遊んでくれない。ゲームってのは程よくクリアできる位が丁度いい。
「じゃあ1ターン目だね。隊列はどうする?」
「クリスは剣士だから前列だろ。あとワイズも危険察知のスキルがあるから前列がいいだろう。ラスティンは後列かな。本来なら不意打ちの危険があるから中列がいいけどワイズがいる限り不意打ちは考えなくてもいいからな。俺は中列で様子を見る。こんな感じでいいかな?」
「いいと思うわよ。戦闘が始まったらワイズは一番最初に動くはずだから、すぐに中列に移動してね」
「分かりました。罠に関しては任せてください」
「ねぇ、盛り上がり始めてるところ申し訳ないけど、ギャラリーにも分かるように隊列と戦闘のシステムについて説明してくれるかな?」
俺達は昨日の時点で説明書を読んでるので戦闘のシステム面はある程度把握しているけど、リュート達は分からないか。俺は簡単に説明することにした。
――――
隊列は前列三人、中列三人、後列三人が配置できる。これは敵も同様だ。
敵側
〇〇〇後列
〇〇〇中列
〇〇〇前列
〇〇〇前列
〇〇〇中列
〇〇〇後列
味方側
今回俺達は四人しかいないから関係ないが、戦闘時は最大7人が参加できる。
また一回のダンジョンに入る人数は最大10名までになる。
参加できない三名は補欠となり、後列の人間といつでも交代することが出来る。死にそうな仲間がいれば、後列で交代して安全圏に行くことも出来る。
攻撃のタイプは近距離・中距離・遠距離の三種類がある。剣など直接攻撃は近距離、弓やパチンコ、魔法は遠距離攻撃になる。中距離は今回はいないが、槍や素手で投げる投擲具などがある。また一部射程の短い魔法もある。
近距離は一マス前の列にしか攻撃できない。前列にいれば敵の前列に攻撃できるが、中列に配置したら敵に攻撃することが出来ない。
中距離攻撃はニマス先まで攻撃できる。
中列に配置していれば、敵の前列に攻撃。もし前列に配置していたら、敵の中列まで攻撃が可能だ。これは敵にも適用されるので、敵の中距離攻撃できる相手が前列にいたら中列に配置の俺にも攻撃が来る。
遠距離は敵がどこにいても攻撃することが出来る。ただし後列になればなるほど命中率は落ちる。
もし前列に敵がいない場合は、近距離の攻撃しか持ってなくても、中列の敵に攻撃できる。また更に与えるダメージが二倍になる。
これは前列がいない場合のみ有効。仮に遠距離で相手の中列や後列に攻撃をしても、前列に敵がいれば等倍になる。
また、スキル【スラッシュ】は前列の三か所に、拡散魔力弾は列問わず、ランダムの敵にダメージが入る。
戦闘は敏捷の高い順に行動が可能となる。行動は1ターンで最大二回まで可能だ。
出来る行動は移動とそれ以外の行動の二回、攻撃・防御・スキル等だ。
また魔法だけは特殊で詠唱と発動で二回の行動が必要だ。これは移動のターンを消費することが出来るので、もし移動をしなければ詠唱と発動で1ターンで発動できるが、もし移動してしまった場合はそのターン中に魔法を発動することは出来ない。
敵味方全員が一回行動を終えたら1ターンが終了。2ターン目に入る。
それから特殊な処理として、敏捷に三倍以上の差がある場合は、その対象が動く前に、もう一度行動することも可能だ。
今の場合だとワイズの敏捷が10だから、敏捷が3以下の敵が相手なら、その敵が行動する前にワイズはもう一度行動することが出来る。
逆にクリスの敏捷は5なので、敵が15以上の敏捷ならクリスの行動前に敵にもう一度行動される。
――――
「大体こんな感じかな。他にも細かいのはいくつかあるけど、実際見ながらの方が分かりやすいと思うぞ」
「とりあえず隊列のことが分かっただけで十分だよ」
「じゃあ今度こそ本当に始めるよ。移動のダイスは基本ワイズくんでいいのかな? それともクリスくんかい?」
「そうだな。基本は前列の二人のどちらかだろうけど……ここはトレジャーハンターの腕の見せ所じゃないか?」
「責任重大ですね……分かりましたダイスを振ります」
ワイズが振ったダイスの目は……2。俺達は2マス先に移動する。
「ここは空白マスだね。空白マスは一般イベントのカードから一枚引いてね」
空白マスは通常イベントがランダムで起きる。通常イベントは戦闘、罠、宝箱、何も起こらないの全四種類だ。
空白マス以外のマスは必ず止まる強制イベントマス。空白マスよりも強力な魔物が出る強敵マス。同じく空白マスよりも良いものが貰える宝箱マス。
敵が出てこない安置マスなとがある。
「今回のイベントカードは……戦闘だね。ワイズくんが前列にいるから、不意打ち判定はなし。ワイズくん。敵の数を10面ダイスで決定してね」
「分かりました……5ですね」
「了解。じゃあ五体の魔物……次にGMの僕が魔物カードを一枚引いて……ゴブリンだね。じゃあ今回はゴブリン五体と戦闘開始だよ」
早速戦闘か。初戦闘だからドキドキするな。……と、ここでクリスが中断させる。
「あっちょっと待って……これがモンスターカードなのね。へぇ表が写真と魔物の説明。裏がこのゲームのステータスとデフォルメされたイラストね。随分と可愛くしてるけど……これゴブリンなのよね? それから表の詳細……かなり具体的なのね」
そういえば説明書だけで実際のモンスターカードを見せてなかった。クリスやワイズさんを呼んだのはこれを見せるのがメインなので、一旦ゲームを止めよう。
「表の写真は実際に撮ってきた写真だ。……まぁ俺が撮った訳じゃないけど」
もちろん俺が撮った写真もあるが、殆どが他の人――特にゼロを始めとした夜魔城の面々が撮った写真が多い。今回作ったモンスターカード百種類の内、七割がゼロ達が調べたんじゃないか?
「表の詳細もかなり具体的に書かれてるのね。主な生息場所に、戦い方、弱点、レア個体に進化個体に関しても書いてあるのね。それに何々……『ゴブリンは繁殖能力が高く、どんな種族とでも交配することが出来る。』って、結構キツイことも書いてあるのね。それからレア個体のゴブリンキングは知ってるけど、他のレア個体のレッドキャップってのは初めて聞くわね。そのモンスターカードもあるの?」
「もちろんあるよ。ゴブリン系はホブゴブリンにゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジにゴブリンキング、レッドキャップだったかな」
「へぇ是非見てみたいわね」
「それはゲームが終わってからにしようか。今は裏面のゲーム情報の方だけにしてね」
――――
ゴブリン
レベル:1
HP:8
SP:2
力 :3
体力:4
知力:1
敏捷:3
運 :2
攻撃力:4(こん棒:+1)
防御力:0
――――
「流石に最初の魔物だけあってステータスは弱いわね。防御力0って……私の攻撃一発で死ぬじゃないの」
クリスは力をメインで振ってるからな。逆に一撃じゃなかったらターンが掛かって少し面倒なのかもしれない。
「じゃあ戦闘に戻るよ。えっと……ゴブリンは前列に三体それぞれA,B,C。中列に二体D,Eがいるよ。じゃあ最初はワイズくんからどうぞ」
「わたくしは……この程度なら下がる必要はなさそうですが、一応最初の戦闘ですから真面目に行きますね。中列に下がってパチンコで攻撃をします」
「了解。ワイズくんは力が4パチンコの威力が2だから攻撃力6。敏捷の差が倍以上あるから確定命中だよ。中列のゴブリンDは残りHPが2だね。次に敏捷が高いのはラスティンくんだね」
トオルはプレイヤーじゃないから呼び捨てじゃない。でもさっきまでは領主様って言ってたから、場の空気は読んでいるみたいだな。
「じゃあ私は【魔力弾】(小)を中列のゴブリンEに唱えることにしよう」
「了解。攻撃スキルは基本的に必中だからこっちも判定なしだね。魔法攻撃力が10と装備の杖の効果で11、魔法は防御力じゃなくて知力が防御判定になるからダメージは10。無事にゴブリンEを倒すことが出来たよ」
「よしっ! では後四体だな」
「次はシオンくんとクリスくんが同じ敏捷5で並んでるね。この場合はダイスで決定だね。二人だから奇数が出たらシオンくん。偶数ならクリスくん。ダイスを振るのはGMの僕が振るよ。……あっ、0だからこの場合はクリスくんが先行だね」
「私の番ね! じゃあ【スラッシュ】を前列に使うわ!」
「ゴブリン相手に【スラッシュ】使うの? SPが勿体なくね?」
「いいのよ! 使用感を見てみないとこれから困るでしょ」
……確かにその通りか。
「じゃあ【スラッシュ】でいいんだね。スキルだから必中。攻撃力は武器も合わせて12。これで前列三体全滅だね。これで残るはHPが2のゴブリンDだけ」
「よしっ! 一気に三体倒したわよ。残りは一体だからシオン。トドメは頼んだわよ!」
「ええと、じゃあ俺は中列にいるから一旦前列に移動してゴブリンDを攻撃する」
「魔法じゃなくて、通常攻撃でいいんだね? 通常攻撃ならシオンくんの敏捷はゴブリンの二倍ないからゴブリンの回避行動があるけど……」
そっか、敏捷が二倍離れてないと、攻撃が外れる可能性があるのか。
「ちょっと待ってください。そのゴブリン、わたくしの攻撃を受けて、行動が鈍ってたりしません?」
そこでワイズがすかさず助け舟を出す。
「そういうシステムはないけど……その考え方は嫌いじゃないよ。それにロールプレイっぽい感じがするからアリにしようか。この辺はGMの采配次第で自由にしていいと思うよ。それに……まぁどのみち1d100で運の差額分回避率が上がるだけ。今回は運も負けてるからファンブルでしか回避できなかったしね」
「1d100?」
「あっごめん。専門用語だったね。これは100面ダイスを一回振るって意味だよ。1d6なら6面ダイスを、1d10なら10面ダイスを一回振るんだ」
「100面ダイスなんてあるの!?」
「一応存在はするけど、ちょっと使いにくいから代わりに10面ダイスを二つ使うんだ。分かりやすいように色の区別を付けて、片方を10の位に当てれば意味はおんなじだよ。ダイスは00~99。99を引くとファンブルって言ってミスになるよ」
「なるほど。理解できました」
「じゃあゴブリンDはワイズくんのパチンコが当たって体勢を崩した。その隙をついてシオンくんの一撃が命中。ゴブリンは全滅したよ」
「よしっ、ノーダメで所詮突破だな。この調子でどんどん攻略していこう」
―――――
この後も特に苦戦することもなく、俺達はダンジョンを攻略していった。
空白マスで出てくる魔物はゴブリンやスライムなど弱い魔物ばかり。唯一バットが飛行だったため、クリスの剣が届かなく苦戦するも、ワイズのパチンコで打ち落としたあとに攻撃、ラスティンと俺の魔法で倒すことができた。
空白マスの宝箱では消耗品や魔石位しか出なかったが、宝箱マスの宝からはクリスの武器、鉄の剣が手に入った。
これにより攻撃力がさらに2上がって敵の殲滅率が上がった。
罠に関してはワイズのお陰で苦労せずに突破することが出来た。
【罠サーチ】と【アンロック】があれば全ての罠を回避できる。正直肩透かしだった。
「ちょっとトレジャーハンターのスキルが強すぎるね。これは調整を加えた方がいいかもしれないね」
確かに今のままでは罠がほとんど無意味になっている。ナーフもやむなしか。
「さて現在地点は25マス目。早ければ後二回のダイスでボス部屋に到着だよ」
マップも全部公開になり、残るは5マスになっていた。
「現時点で30ターンね。ここまでは楽勝だったわね」
途中SPを回復するために、こまめに休憩を入れてきたからか、安定してここまでこれた。
「レベルも全員5まで上がりましたし、この調子ならこのままボス部屋に入ってもいいんではないでしょうか?」
「いや。もしかしたらボスがやたらと強い可能性はないか? まだターンに余裕があるのなら、戻ってレベル上げも考えるべきではないか?」
「そんなに慎重にならなくても大丈夫でしょ。15マス目の強制イベントの中ボスも雑魚だったじゃない」
「確かに楽に倒せはしたが……あれはクリスの【気合い溜め】があったからだ。タートルスライム。まさか甲羅を持つスライムが存在するとはな……甲羅に籠られると魔法が効かない上に、防御も高い敵が出てくるとは思わなかったぞ」
スライム系のレア個体。魔力で表面を甲羅のように固くしている。スーラ曰く、普通のスライムよりも内気でシャイな性格らしい。要は引きこもりになったスライムだな。
「その代わり攻撃力は全くなかったじゃない。ダメージも1は入る仕様だから、【気合い溜め】がなくても倒せたわよ。あれは単純にターン消費を狙った時間稼ぎボスだったんでしょうね。それよりも、これ以上レベル上げしてもどうせ多分6か7で止まるわよ。新しいスキルを覚える訳じゃないんだし、このままさっさと行くべきよ」
「わたくしもクリスの意見に賛成です。ラスティンは慎重すぎますよ」
「そうか? ……シオンはどう思う?」
「俺はこの後のボスや展開を知ってるからノーコメントで。三人の決めたことに従うよ」
せっかく三人が盛り上がってるからな。この後のネタバレは避けたい。
「分かった。なら多数決に従おう」
「どうやら決まったようだね」
「ええ、私達はこのまま進むわ!」
クリスがトオルに向かって宣言する。いつの間にかこのパーティーのリーダーはクリスになっていた。
「分かったよ。じゃあクライマックスを始めようじゃないか」
ゲームは最終局面を迎えようとしていた。




