日常編 D&M①
今回から五話ほど、完全に趣味で書いた話になります。
以前書いたハグル回に似た感じで、内容もゲームで遊んでいるだけなので、飛ばしていただいても問題ありません。
それでもよろしければ、お読みいただけると幸いです。
「へぇ。これが完成品か」
この日をどれだけ待ちわびたことか。
俺は目の前には一つのボードゲームが置かれていた。
かねてより考えていた、モンスターカードを利用したボードゲーム【ダンジョン&モンスター】通称D&Mがついに完成したのだ。
さてテストプレイも兼ねて早速遊んでみたいな。
となると……ここはやっぱり城の人間よりも、外の人間の意見が聞きたいな。俺はハンプールで何人か誘って遊んでみることにした。
――――
「それで何故わたくしなのでしょうか?」
「それは勿論、商業ギルドとして忌憚ない意見が欲しいと思いまして」
まず一人目はワイズさん。ギルマスの秘書として、そして商業ギルド一番の目利きでもある彼女なら、ちゃんとした評価をしてくれそうだ。
ちなみにギルマスには話してない。どうせ遊ぶなら、ギルマスみたいな老人よりはワイズさんのようにインテリ美人と遊んだ方が楽しいに決まってる。
「じゃあ私を誘ったのは?」
「クリスならモンスターカードの良さが分かると思ってな」
今回の使用するモンスターカード。
たとえこのボードゲームが不評でも、それ単体で価値があるようにはなっている。
魔物の生態、主な棲息場所、弱点、レア個体や同系列の存在などを写真付きで紹介。カード形式で嵩張らず、バインダーを使えば本のように持ち運べる魔物図鑑としての役割も持っている。
本が気軽に流通していないこの世界では、冒険者が魔物図鑑を持ち運びすることはない。
冒険者ギルドという立場で、それが役に立つか考えてもらいたかった。
「それを私の屋敷で行う理由は?」
「どうせ販売する前に見せろって言うだろ? それに貴族の感想も少しは気になるし……文句を言うならケータイを返して」
「んなっ!? 別に理由を文句は言ってはおらぬではないか!」
最後の参加者は領主のラスティンだ。
どうせ販売するときには必ず口を出すだろうし、部屋も広々としているから報告ついでに丁度いいと思ったんだ。
しかし……最近はケータイの話になるとすぐに逃げようとする。そんなに取り上げられたくないのか。まぁ急いで回収する必要はないからいいけどね。
「じゃあプレイヤーはシオンくん、ワイズくん、クリスくん、領主様の四人でいいのかな?」
今回のゲームでGMを務めるのはトオルだ。
このゲーム。慣れるとGMは必要とはしないのだが、今回はテストプレイ。それに俺以外はゲーム初心者。俺だってこのゲームのある程度の内容は知っていても、実際にプレイするのは初めてだ。
だから説明役としてのGMがいた方がいいと思ってトオルを誘った。
「じゃあ皆。まず最初はキャラメイクから始めてね」
「「「キャラメイク?」」」
いきなり専門用語で困惑する三人。
「キャラメイクってのはね。今から遊ぶゲームで操作する自分のキャラクターを作ることを言うんだよ。……そうだね、キャラメイクの前にゲームの説明からしないと駄目だったね。このゲームはダンジョンの最新部に隠されたお宝を手に入れるゲームなんだ。皆は架空の冒険者を作ってそれを操作していくんだよ」
「では、わたくし達は自分が操作する冒険者を作る必要があるわけですね」
流石ワイズさん。理解が早い。
「そうだね。今回はテストプレイだから初級モードを利用するよ。剣士、魔法使い、サポーター、トレジャーハンターの四種から選んでね」
「トレジャーハンターとサポーターって? ……意味的には何となく分かるんだけど、冒険者の職業にはないわよ?」
クリスは冒険者ギルドの受付だけあって職業が気になるようだ。
「冒険者の職業にピッタリくるのがなかったから、こちらで決めたオリジナルの職業だね。まぁゲームだからそれくらいは勘弁してよ。ちなみに似ているとしたらトレジャーハンターが斥候、サポーターがヒーラーって感じかな」
この世界では野盗の意味での盗賊はあるけど、シーフって意味での盗賊はない。だからゲームで盗賊にするとイメージが悪すぎるからトレジャーハンターにした。
同じくヒーラーはいるけど、単純に回復メインで補助の役目は殆どないんだよな。というか補助の概念が少なすぎるんだ。
自分の魔力で強化するのはあるんだけど、他人を強化するイメージを持つ人が殆どいないのが原因なんだろうな。
「先程初級だから四種類と言ったが、本来はもっと多いのか?」
「そうだよ。初級ではないけど、それ以外では属性があるんだ。だから単純に魔法使いにも赤、青、黄の三種類の魔法使いを用意してるよ。この三属性は三竦みになってるんだ」
トオルは『赤<青<黄<赤』と書く。
「実際はこんな簡単でもないけど、ゲームなら分かりやすくなきゃ駄目だからね。魔法使い以外にも、物理アタッカーなら槍士や斧戦士、拳闘士。長距離では弓士。守備がメインの守護者。さらに上級になったら基本七色の属性まで増えて、更に上級職も増えてるんだけど……今日のところは関係ないよね」
「じゃあ今回はこの四種の職業から選ぶ必要があるのね。それぞれの職業について詳しく教えてくれる?」
「まずは剣士だけど、これは説明不要だよね。剣を使って魔物を倒す。今回の職業の中では力と体力がメインのキャラかな。魔法使いも分かるよね。初級の魔法使いは属性は関係なく、攻撃魔法が使えることにするよ。それに合わせて今回は敵も属性の概念はないからね」
今回は単純に物理攻撃、魔法攻撃の二種類って訳だ。
「サポーターは仲間へのバフ、敵へのデバフ、あと回復もこなすよ。ただし、これもキャラメイクでバフ中心かデバフ中心、回復中心かを選んでもらうからね。オールマイティーにしたら器用貧乏になって、その分上級魔法が使えなくなるから気をつけてね」
うーん。サポーターが一番悩みそうだ。とりあえず今回は回復がド安定かな? でもバフやデバフもないと詰む可能性もあるかもしれない。
「最後にトレジャーハンターだけど、この職業もどちらかといえばサポートよりかな。ダンジョンの罠や宝箱の罠を調べたり、解除したり出来るんだ。戦闘では高い素早さを活かして敵の攻撃を避けたりして、囮としても活躍が出来ると思うよ」
たとえ他の職業はいなくても、トレジャーハンターだけはダンジョン攻略する為には必須の職業だろう。
「今回は四人だからそれぞれ一つずつの職業を選んだらいいと思うよ」
まぁそれが妥当かな。
「じゃあ……まずは誰かやりたい職業はあるか?」
「そう言われてもねぇ。今の説明だけじゃ正直よく分からないわよ!」
まぁ普段ゲームをやったことがない三人だ。分からないのは当たり前だ。
「じゃあ今回は俺が選ぶぞ。まずクリスは剣士だな」
「剣士? 別にいいけど理由はあるの?」
「……一番前衛向きの性格をしてるからだよ」
脳筋で好戦的だから。とは言わない。
さてクリスに追及される前に次にいこう。
「次にワイズさんは……」
「わたくしはトレジャーハンターがやってみたいです」
「えっそうなんですか?」
ちょっとビックリだな。知的なワイズさんには魔法使いか補助師をお願いしようと思ってたんだけど。
「駄目でしょうか?」
「いえいえ。本来このゲームは自分がやりたい職を選べばいいんですから」
その方が絶対に楽しめる。
「では私は魔法使いを選択しよう」
おっ領主は魔法使いか。まぁいいんじゃないかな。
「ってことは、俺がサポーターになるのか」
サポーターは一番キャラメイクが難しそうだから、丁度よかったかもしれないな。
「決まったかい? じゃあ一人ずつキャラメイクをしていこうか。本来なら一人で完成までやるんだけど、今回は初めてだから皆でやろうね。まずは剣士のクリスくんからいこうか」
「また私から? ……いいけどどうするの?」
「まずは剣士の基本シートを渡すね」
そういってトオルは皆に見えるようにキャラシートを出す。
キャラシートには名前、職業が書いてある部分とステータスが表示されている。
ステータスはHP、SP、力、体力、知力、敏捷、運が表示されている。
そしてその下に攻撃力と防御力、スキル欄の表示がある。
「名前と職業はいいよね? じゃあステータスの説明から。基本値は5で、職業によって増減してるよ」
「今これは、力が7で体力は6、知力が3で敏捷が5、運が4ね。剣士だから力と体力が多いってことね。あっでもHPとSPは12と6になってるわよ」
「HPとSPは後で説明するから先にそれ以外を説明するね。大体分かると思うけど、力が物理攻撃力に、知力が魔法攻撃力に関係があるんだ。敏捷は主に戦闘の際の攻撃する順番に影響するよ。他にも命中や回避の補正が入ることもあるね。運は罠の解除や攻撃のクリティカル判定。その他もろもろに影響があるからね」
「体力の説明は?」
「体力はHPと装備品に影響するんだよ。具体的には体力の2倍がHPになるんだよ」
「装備品って?」
「いくらゲームでも、素手でダンジョンに入る訳じゃないからね。皆はちゃんと武器や防具を装備してダンジョンに挑むんだ。その装備には重さがあるんだよ。例えば布製の装備なら重さが1、鉄製の装備なら重さが3って感じかな。もし体力よりも装備が重くなったら、能力不足ってことで、敏捷が下がるんだ。例えばクリスくんが実際にフルプレートアーマーを装備をしたら、重くて歩けなくなっちゃうでしょ? そう考えてくれればいいよ」
「要するに体力が低いと重い物を持てなくなるのね。じゃあ装備じゃなくてお宝やアイテムは?」
「うん。本当はそっちにも付けたいんだけど、あまり細かくしすぎると管理が面倒になるから、今回は装備以外の持ち物に関しては気にしないことにしたよ。その辺りはゲームをする人が自由に決めれるのもこのゲームの特徴だね。今回みたいに持ち物は重さを気にしないで良いってことにしてもいいし、嵩張るものだけ考えてもいい。いっそのこと持てる持ち物を個数制限にしたりするのもアリだね」
「あの……装備と重さは分かりましたけど、そもそもHPとは何のでしょうか?」
あー、そっからか。確かにゲームを知らないとHPって何なんだよって話になるな。
「HPはヒットポイントと言って、そのキャラの命を分かりやすく数値に表してるんだ。攻撃を受けたり罠に掛かったりすると減って、0になると死亡扱いになっちゃうから気をつけてね。今回は関係ないけど、上級モードなら一発で死んじゃう罠もあるからね」
「なるほど、HPが命か。では隣のSPはもしや魔力か?」
へぇ領主も飲み込みが早いな。
「その通り。厳密には少し違うけど、そう思ってくれて問題ないよ。正確にはSPはスキルポイント。スキルを使用するのに使うんだ。この数値は賢さの2倍の数値になってるよ」
魔力って意味ではMPの方が良かったかもだけど、剣士の技とかも管理するから今回はSPにした。
「じゃあ剣士は賢さが3だからSPが6なのね」
「そうだね。スキルに関しては後で説明するから待っててね」
「了解した」
もしかしたら領主は意外とノリノリなのかもしれない。
「次に攻撃力と防御力だね。攻撃力は力と武器の強さを足した数値になるよ。防御力は装備している防具の強さになるね。他にもサポーターのバフや敵からのデバフで変動するから常に自分の数値は確認した方がいいよ」
「結構難しいものなのだな」
「説明だけ聞いたらそう思うかもしれないけど、実際はそうでもないよ。基本的に攻撃力引く防御力が敵に与えるダメージになるんだ」
「魔物も防具を装備してるの?」
「違うよ。魔物は皮膚の固さや甲羅などで防御力を出してるんだ。攻撃力もだね。爪や牙等から攻撃力を決めてるんだよ。もちろんゴブリンのような魔物なら装備している可能性もあるけどね。それから一部の魔物は防御力が無くて剣が効かなかったり、魔法が効かなかったりするんだ。偏ったパーティーにすると全滅するかもしれないから気をつけてね」
「今回は全職業いますからバランスは良いですね」
「だけど、その分一人でも死んだら一気にパーティーが崩壊するかもしれないから油断は出来ないぞ」
うんうん、皆分かってきたな。
「後はスキルだね。スキルは各職業毎に違うんだ。だからとりあえず今は剣士のスキルを見てみるね。剣士の初期スキルは【連続斬り】【魔力斬り】【スラッシュ】【挑発】【気合い溜め】の五つから三つが選べるよ」
「それぞれの説明を聞いてもいい?」
「【連続斬り】は一ターンで二回攻撃したことになるんだ。【魔力斬り】は物理攻撃が効かない魔物にもダメージを与えることが出来るようになるよ。【スラッシュ】は近くにいる敵をまとめて一気に斬ることが出来るんだ。【挑発】は敵の標的を自分にすることが出来る。【気合い溜め】は次の攻撃が二倍以上の威力になるんだ」
「最初の三つは何となく分かるけど、【挑発】と【気合い溜め】って役に立つの?」
「魔物の攻撃は基本前衛に向かってくることが多いけど、中には弱いところん狙う敵もいるんだ。剣士は他の職よりもHPが多いし、防御力も高くなるから仲間の魔法使いが狙われて死ぬのを防ぐのに使ったりするよ」
「【挑発】に関しては分かったわ。じゃあ【気合い溜め】の方は? 一ターン使って、次のターンに攻撃なら普通に二回攻撃することと変わらないわよね? 【連続斬り】の方なら一ターンで二回攻撃。二回で四回攻撃。四倍になるわよ? いくら二倍以上の威力って言っても四倍にはならないわよね?」
「確かにそうだね。攻撃力の合計だけ考えるとそれは間違ってないよ。でもこのゲームは相手の防御力もあるからね。例えばクリスくんの攻撃力が10としようか。敵の防御力は5だ。普通に攻撃するといくらダメージを与えることになる?」
「それは10引く5だから5でしょ」
「そうだね。【連続斬り】なら二回攻撃だから10、二ターン目も使うと20のダメージになる。じゃあ仮に防御力が8の敵ならどうかな?」
「変わらないわよ。10引く8で2。【連続斬り】で4。二ターンで8ね」
「じゃあ【気合い溜め】を考えてみようか。攻撃力が10の二倍以上、今回は二倍の20にするけど、防御力が8の相手にいくらダメージが入るかな?」
「……12ね。そういうことね。防御力が高い敵には効果があるんだ」
「その通り。【連続斬り】は毎回敵の防御判定があるけど、【気合い溜め】なら防御判定は一回だけ。防御力が高い敵にほど効果を発揮するんだ。ただし、一ターンを消費するからデメリットもあるけどね。あと【挑発】と【気合い溜め】がSPを1消費。残りの三つが2消費だよ」
「剣士のSPは6だから【連続斬り】は3回しか使えないわけね。この中から三つか。悩むわね」
「レベルが上がると更に強いスキルも出るから、まずは自分が使いやすいと感じたものからでいいんじゃないかな?」
「分かったわ。それで……たった今新しい疑問ができたんだけど、レベルって何?」
「うん。この後説明するけど、その前にキャラメイクの最後の説明をするね。今回のキャラメイクで皆には5ボイントが与えられるんだ。このポイントを力、体力、賢さ、敏捷、運のどれに入れてもいい。長所を伸ばしたり短所を補ったり自由に振り分けてね」
「例えば力に5ポイント全て振るのもアリなのよね?」
「もちろんアリだよ。ただそれで勝てるかは分からないけどね」
「……よく考えてから振ることにするわ」
「それが懸命だと思うよ。じゃあレベルアップの説明だけど、一定数魔物を退治するとレベルが上がるんだ。レベルが上がると2ポイント貰えるから、それをまた自由に振り分けることが出来るよ。また5の倍数の時は追加でスキルを一つ手に入れることが出来るんだ」
「じゃあ最初に手に入れなかったスキルも、レベルが上がったら手に入れることが出来るのね」
「そうだよ。ただステータスによって新しいスキルが出るから、そこはまた選んでもらうけど」
「ステータスによってスキルが違うの?」
「そうだね。後で用紙は配るけど、例えば敏捷が7になると【疾風剣】が、運を10まであげると【会心剣】を覚えることが出来るよ」
「……中々奥が深いじゃない。いいわ。私が完璧な剣士を見せてあげる!」
おお。なんか知らんがクリスが燃え始めたぞ。
「じゃあクリスくんにはレベルアップで覚えるスキル一覧を渡すね」
「いいの? ネタバレになるんじゃない?」
「どのみちゲームの説明書として配付するから……でも見たくないなら見なくてもいいよ。そっちの方が楽しめると思うしね」
本当ならGMのみが知り得る情報にしたいんだけど、二回目以降遊ぶ時は知ってる情報になるんだし、こればっかりはどうしようもない。
「じゃあ見ないわ」
「そうかい? まぁ気になることがあったら聞いてよ。あとスキル以外の詳しい説明書はちゃんと読んでおいてね。特に敏捷と運のステータスは面倒な部分が多いから」
クリスはトオルに返事をせずに説明書を読み込む。ちゃんと聞いていたのかな?
「じゃあクリスくんは一先ず終了として、次のキャラにいってみようか」
同じ要領で俺を含む残りのメンバーもキャラメイクを行った。ちなみに全員分のキャラメイクをしただけでかなり時間が経ったので、実際のゲームは明日にすることにし、今日は解散することにした。




