日常編 トールの御披露目②
《ではいくぞ!》
トールがデューテを乗せて空を飛ぶところを確認するために外に出た俺達。トールはドノバンの手から飛び降りると、目の前の広場で魔力を練りだす。
うん。トールが言っていたように、魔力の伝達は問題ないみたいだ。
トールの魔力はだんだん大きくなり……やがて体に異変が起きた。
「これは……巨大化というより、魔力の具現化か?」
元の体は変わらない。だがその体を包むように魔力が纏われ、体と同じ形で体が具現化されていた。
《【雷装】の応用だ。体を魔法で包み上げる。これなら巨大化と変わらないであろう》
確かに大きくはなった。だが……体がバチバチ鳴ってるぞ。
「なぁ。これ触ったら感電するんじゃないのか?」
《普通の者が触ったらそうなるであろう。だが、我と同じ波長の魔力を持つデューテなら何ともないはずだ》
以前は小娘とか言ってたけど、今はちゃんとデューテって名前で呼ぶんだな。……ちゃんと仲良くやってるみたいでなによりだ。
「じゃあ早速乗ってみるよ」
デューテが雷鳥トールに乗る。すごい痺れそうだけど、どうやら本当に雷の影響はないようだ。
そして翼が大きく羽ばたいたかと思うと、一気に空高く飛び上がった。
「うおー!! スゲー!! カッコいいな!」
実際は魔法で浮いているのだから羽ばたく必要なんかないだろうが、本物の鳥のように羽ばたいていた。
デューテ達は数分空の旅を楽しんだ後、こちらへと戻って来た。
「凄い。凄いよトール。最高だよ!!」
戻って来たデューテは興奮しっぱなしだ。そんなに良かったのか?
「なぁ……何がそんなに凄かったのか、もう少し分かりやすく教えてくれよ」
「えっとね。まずスピードだね。雷と同じ速度まで速くなるらしいよ」
カミナリのスピードって、光速ってことか? それならホリンよりも速いぞ。……まぁ流石にそこまでは速くないだろうけど、それに近い速度は出せるってことか。
「それって乗ってるデューテは耐えられるのか?」
言いながらもまぁこれは大丈夫だろうと思う。ホリンだって俺を乗せて全力で飛んでも、ちゃんと防御結界が守ってくれる。
「うん。風の抵抗なんかも一切感じなかったよ。それどころか、元々具現化した体だからかな。見た目と違って足下は平面だし、ソファも具現化出来るみたいだから、長時間乗ってても疲れないよ」
それは……いいな。感覚的には鳥に乗ってるというよりも飛行機に乗ってるイメージに近そうだな。
「ちなみに連続飛行時間はどれくらいなんだ?」
《この肉体は作り物。疲れるということを知らぬため、我の魔力が続く限り何時までも飛び続けることが可能であろう》
トールの魔力が続く限り? ……結構魔力は使いそうだが、トールの魔力は不完全状態で俺と同レベル。総魔力になると確実に俺よりも多いはずだ。
満タン状態なら一日は飛び続けていられそうだな。どこかの五分しか飛べない、なんちゃってスライムとは大違いだ。
《シオンちゃん。また何か変なこと考えてない?》
「気のせいだ気のせい」
本当、勘だけは鋭くなっていくんだから困るよな。
「じゃあ、せっかく外に出たんだ。雷鳥トールの方はこれくらいにして、次は人型のお披露目に入ろうか」
――――
「まずは雷鳥にこの首輪を付ける。特に違和感とかないよね?」
《うむ。作り物の体故、煩わしいとも感じん》
「良かったよ。これが人型と体を入れ替わるのに必要なんだよ。人型の方には既にペンダントとして装着してるから、そっちも無くさないでね」
《分かっておる》
「じゃあ、まずは意識を人型の方に移すんだ。そっちは体内にあるゴーレム核に魔力を注ぐと大丈夫だよ。それで人型になったら、今度はペンダントに魔力を注ぐんだよ。そしたら人型と入れ替われるからね」
説明が終わるとトールは早速、体内のゴーレム核に魔力を注ぐ。すると雷鳥の体がコテッと倒れる。どうやら意識がなくなったようだ。
デューテが落ちた雷鳥を慌てて取り上げようとする。
「デューテくん待って。そのままにして」
「えっ!? どうし……」
デューテが言い終わる前に雷鳥が消え、雷鳥があった場所には見知らぬ男が立っていた。
「もしさっきの雷鳥を持ち上げていたら今頃こっちのトールの下敷きになってたよ。それで……そっちの体はどうだい?」
「ふむ。こちらの体も問題はないな。ちゃんと思い通りに体も動くし、魔法も使えるようだ」
「ん? こっちは声があるんだな?」
「うん。人型だからね。ちなみにこの声はトール自身の声だよ」
「確かに……デューテの体に入っているときに聞いた声と同じだ。どうなってるの?」
「簡単に言えば声帯の変わりにスピーカーを準備しただけなんだけどね」
「何でそれでトールの声になるんだ? 機械音じゃないのか?」
「そうなんだよね。でもそれを言うなら、そもそもデューテくんの体からトールの声が出ていたのがおかしいと思わないかい?」
確かに……言われればそうかも。口調ならともかく、乗っ取っただけで声は変わっていた。トオルにも理由は分からないみたいだし、魔力でも関係してるのかな?
考えたら念話もそうだ。頭に直接声が聞こえてくるが、スーラとホリンの声は違う。そういえばトールの念話は今の声と同じだな。やはり魔力が関係してるのかな?
「しかし……随分と普通にしたな。もっとトールっぽい見た目にするかと思ってたぞ」
トールの外見は以前の選択肢のどれとも違った。
金髪が少し特徴的であるが、それ以外はどこにでもいそうな普通の人間に見える。
「トールっぽい見た目ってあの変態レオタードやムサい巨人でしょ。嫌だよそんなの」
「我っぽいと言ったが、あんなのはこれっぽっちも似ておらん! 似ておらんのなら変態でなければ、人型ならどれも変わらぬ」
それならトールが自分の外見を描いて……って、英霊状態じゃ描けなかったか。外見を口頭で伝えるのも無理があるし、仕方がないのかな。
「それに、これなら外でも普通に歩けるから安心でしょ」
「まぁな」
もしかしたら町中で人型になる可能性もある。その時のことを考えたら変な姿にするよりマシか。
「あっ一応言っておくけど、その姿は一日に一時間しかなれないからね。あと僕とシオンくんとデューテくんの三人は、強制的にその姿から雷鳥の方に意識を移すことが出来るからね」
この仕様はトールが反乱を起こした場合の防衛措置だ。
「まだ我を完全に信用しとらんようだな」
まぁトオルと取引して大人しくしていたみたいだし、もう、デューテの体を乗っとることは考えてなさそうだけど、この新しい体で悪さをしないとも限らない。ある程度信用はしてるが、信用と予防は違うってことだ。
――――
「それで、デューテは今後どうするんだ?」
トールのお披露目がある程度終わったので、俺は今後のことを聞いてみた。
「はっ? 何が?」
俺の言葉にデューテはキョトンとしている。……何も考えてなかったなコイツ。
「あれからプラナ達は全く現れないし、トールって護衛もいるからな。もう城から出ていいぞ」
黄の国の混乱も治まったし、敵も本当に出ていったみたいだ。
何よりトールが護衛にいたら余程のことがない限り負けることはないだろう。ならもうシクトリーナで匿う必要はない。
「えっ? 嫌だよ」
「嫌って……」
「だってあの城快適じゃん。何もしなくてもメイドが全部やってくれるし、ご飯も美味しいし。あの生活を味わったら、もう元の生活に戻るなんて考えられないよ」
「はぁっ!? んなの駄目に決まってるだろ! 今は一応危険があるからって仕方なく置いてるだけで、実際はただ飯ぐらいじゃないか。安全が確保できたんならさっさと出ていけよ!」
コイツ……何、しれっとクズ発言してるんだ。確かに城の快適さは認めるけど、働かないやつを置くわけないだろ。
「あっじゃあ僕がキミ達のパーティーに入ってあげる。【月虹戦舞】だったよね。それならいいでしょ?」
「「いいわけないだろ(よ)!!」」
んん? 声が被ったぞ?
どうやら俺以外の声はリュートのようだ。
「僕だって正式な【月虹戦舞】のメンバーじゃないのに、デューテが入るのなんて駄目に決まってるよ」
いや、リュートは殆どメンバーとして扱ってるんだけど……単純にパーティー申請が面倒くさいだけなんだよな。
あと内乱のことで更に知名度を上げたから、同じパーティーだと周りからのやっかみも多そうだからってのもある。本当にSランクって面倒くさいよな。
それは同じくSランクのデューテにも当てはまる。だから二人は臨時で組んでも正式パーティーにはならないだろうな。
《ねぇねぇシオンちゃん。デューテちゃんって虹のメンバーにならないかな?》
スーラの言う虹のメンバーって……もしかしてデューテを七人の内の一人にってことか?
ロストカラーズ復興の為の虹の七人。
現時点で決まってるのは赤のアイラ、橙のヒカリ、緑は一応スーラ、そして紫の俺だ。残っている色は黄色、青、水色の三色。
確かにデューテなら能力的には問題なさそうだ。それからトール。ロストカラーズのことを知っている存在は頼もしい。
そう考えると確かにアリだ。あっついでにリュートも誘っとくか? ショコラと合体したら黄緑で対象外だけど、普段は緑。
緑はスーラがいるけど、一応保険として居てもらうのも悪くはない。
二人がOKなら残るは青と水色。なんか一気に現実味を帯びてきた気がするな。
青と水色……現時点で俺が知っているのはミサキとシャルティエくらいか。二人とも戦闘系ではないから厳しいだろう。
そしてデューテとリュート。虹候補の二人はまだ言い争っている。どれだけ言い合っても【月虹戦舞】には入れないんだけどな!
ロストカラーズの件はまだ候補者にしか言ってない。トオルやルーナにも話してない。
そう考えると秘密があるのはトオルだけじゃないんだな。
別に話してもいいんだけど、話しちゃうとそれが目標になってしまいそうで嫌なんだよな。
あくまで復興は可能ならで、その為に人集めはしたくない。
今回のように偶々人選が合えばって感じにしたいんだよな。
だからここでは伝えられないが、近い内に二人にメンバーになってくれるようにお願いすることにしよう。
――――
その後、俺達の説得により、デューテはシクトリーナに住むのは諦めた。
今はハンプールに住んでいる。
ハンプールではリュートとコンビを組んで積極的に依頼をこなしているとか。
Sランクであの容姿。随分とファンが出来ているみたいだ。
ちなみにリュートと同じように、シクトリーナの出入りは自由にしてある。それに二人にはエキドナと同じように専用の部屋も用意している。
勿論、家賃として多少は支払ってもらっているが。
デューテには、ここまでするなら住んでも良いじゃんって言われたけど、そこは大人の事情ってやつだ。
簡単に言うと、女王からウチの冒険者を取らないでって言われたんだ。
確かにカリスマ冒険者が自国からいなくなったら困るのはよく理解できる。
住む場所が黄の国で、冒険者として働いてくれるなら、国境間を無視して移動するのも、パーティーとして組むのも、こっちに入り浸るのも黙認するらしい。
と言うか、内乱後も女王はお忍びでウチの温泉に入りに来るのだ。むしろ最近は頻度が高い気がする。
だからリュートもここには遊びに来るだけで住むことはない。まぁリュートの場合はクリスのいるハンプールを離れたくないだけだろうが。
ついでに二人にはロストカラーズの件を伝えはした。一応手伝ってくれるようではあるが、あまりに突拍子がなさすぎてついていけてないようだった。
トールだけは何か思うところがあるようだが、何も言ってこなかった。勿論誰にも言うなと口止めだけはしている。
果たして本当に七人揃うことがあるのだろうか? 俺はその時を少し楽しみに待つことにした。




