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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
240/468

日常編 トールの御披露目①

『シオンくん。トールの体が完成したんだけど見に来る?』


「……行くよ」


『そう? じゃあ待ってるから早く来なよ』


 そう言って一方的に通話が切れた。見に来るって……トオルの頭の中では俺が行かないって選択肢があったのだろうか?



 ――――


 ゴーレム技師の研究室に行くと、そこにはトオル、デューテ、ティティ、リュートがいた。

 デューテはまぁ当然として、ティティとリュートは何でいるんだ?


「もう遅いよっ!? キミ待ちだったんだからね!」


「悪い悪い。でも何でリュートとティティがいるんだ?」


「僕は今日は依頼がなかったから、こっちに来たらデューテに捕まって……」


「ふんっ! リューの生意気な精霊に負けない、僕のトールを自慢してやるんだ!」

「ちょっ生意気ってのはアタイのこと!?」

「キミ以外にどこに精霊がいるんだよ!」

「キミとか精霊じゃなく、アタイはショコラって言うリューちゃんが付けてくれた名前があるんだから、ちゃんとそれで呼びなさいよ!」

「そういうところが生意気って言ってるんだよ! キミなんて精霊で十分なんだよ!」


「ちょっと……。二人とももう少し仲良くしようよ」


 ……どうやらデューテとショコラは相性が良くなさそうだな。間に入ってるリュートは苦労しそうだ。


「んでティティは?」


 デューテとショコラは無視することにして、ティティに聞くことにした。

 リュート以上にティティがいる理由はないよな。……もしかしてゴーレムのモデルを引き受けたとか!?


「私は今日はデューテ様当番なのさっ!」


 ほっどうやら違ったようだ。

 一応デューテをシクトリーナで自由にさせることは出来ないから、メイドが毎日交代で一人見張りとして付いてるんだが、今日はティティの日だったのか。


「俺はてっきりゴーレムのモデルになるのかと思ったよ」


「まっさかー。お願いはされたけど、断っちゃたもんね。まぁ確かに量産型ティティちゃんは可愛いかもしれないけど、私は私一人だから価値があるのさ」


 聞きようによっては名言のようにも聞こえるが……よく分からんな。あっ、そうだ。


「ティティ。俺お前に言いたいことがあったんだ」


「んん? 何かな何かな?」


「ティティ……お前っていい女だったんだな」


 ちょっと前にティティを観察して知ったが、優しく思いやりがあり偶に男前。仕事も完璧で女子力まである。これで外見が中学生じゃなくて、もっと大人の外見だったら完璧だった。


「はにゃっ!?」


 そんなティティは普段出さないような声を出す。顔も少し赤い。……もしかして照れてる?


「な、な、な、……シオン様もようやく私の魅力が理解出来ちゃったようだね」


 だがその戸惑いも少しだけ。この切り替えの早さも流石だよな。ルーナじゃ、こうはいかない。


「そっかー。ついにシオン様も私に惚れちゃったかぁ」

「それはない」


「否定早っ!? 何でぇ? さっきのは私に惚れちゃった発言じゃないの??」


「はははっティティに惚れるとか……まぁティティがエリーゼくらいまで成長したら惚れてたかもな」


「……ねぇシオン様は私を褒めてるの? ディスってるの? 言っておくけどね、私だって実は結構脱いだら凄いんだよ。わがままボディなんだよっ!」


「はっはっはっ。そんな訳ないじゃん。いい女なのは認めるけど、わがままボディて。流石にそれは無理があり過ぎるぞ」


「むー。次は絶対に外見でもいい女って言わせてやるんだからね」


 それは一体何十年後になるのか……まぁ期待せずに待ってやることにするか。


「……シオンくん。そろそろお披露目に入ってもいいかな?」


「えっ? ああすまん。始めてくれ」


 どうやら俺達待ちだったみたいだ。危ない危ない。あやうくここに来た目的を忘れるところだった。



 ――――


「じゃあドノバンくん。よろしく」


 トオルの声を出すと奥からゴーレム技師のドノバンが現れた。

 手には鳥形のゴーレムを持っている。あれがトールの体なのかな?


「それでは御披露目致しますぞ。こちらがトールの日常型の肉体。雷鳥トールですぞ!」


「結局鳥形にしたんだ」


 トール自身は人型に拘っていたと思ったけど。


「実はあの後、もう一つ追加の雷獸の案があって、最後までこの雷鳥と悩んだんだ」


「雷獸? 獣型ってあの時なかったか?」


「あれは馬型だったじゃないか。今回のはもっとカッコよかったんだよ」


 へぇ。デューテがそこまで言う雷獣型ってどんなのだったんだろ。


「こんな感じでござるよ」


「あっ見本絵があるのか。どれどれ……」


 金色で大柄な体躯。虎っぽい見た目。

 何となく口から火を吹き、雷を操る。どこかの倉で槍に突き刺さって、五百年くらい閉じ込められてそうな大妖怪のように見える。


「いやいやいや! 駄目だろこれはっ!!」


「だよね。シオンくんならきっとそう言うと思ったから僕が却下したよ」


 ナイストオル。ってか、もしこれが採用されていたら……デューテが羨ましすぎて呪ってしまうかも知れん。

 うん。スーラとトレードしてでも俺がトールの相棒になることも考えてしまいそうだ。そして武器を槍に代えて妖怪退治をするんだ。


《シオンちゃん。変なこと考えてない?》


「何を言ってるんだスーラ。俺がスーラとトールを交換しようなんて考えている訳ないだろ」


《……よーく分かったの。シオンちゃん。後でお説教なの》


 最近はルーナとラミリアの真似をしてスーラまで俺に説教をしたがる。そういうところは真似してほしくないんだけどな。


「まあ、とら……じゃなくて、雷獸がダメな理由は分かった。んで、トールは雷鳥で良かったのか?」


《うむ。我も鞄の中よりは、自由に動ける雷鳥の方がマシである。それに入ってみれば存外悪くはない》


 雷鳥から念話が飛んできた。既に中に入ってるみたいだ。


「鞄の中ってどういう意味だ?」


「……僕はリューみたいにフィギュアを持って、人前を歩くような真似はしたくないもん」


 どうやらデューテが人型なら外に出さないとでも言ったみたいだ。気持ちは分かる。


「ちょっと!? フィギュアってもしかしてアタイのことぉ!?」


「他に誰がいるんだよ」


「ああもう……はいはい。ケンカは後でな」


 またさっきみたいな言い争いが始まったら堪ったものではない。


「これ……普通の鳥に見えるけど、ゴーレムなんだよな? どうやって作ったの?」


 これ、羽根の一本一本がまるで本物のようだ。


「よくぞ聞いてくれましたぞ! これこそまさに吾輩の集大成……」

「あっ簡潔にお願いね」


 ドノバンの話は絶対に長くなると思ったので、要点だけ話してもらうことにした。


「……日本の博物館にある模型と似たようなものでござるよ」


 日本に居た頃、恐竜の博物館に行ったら、すごいリアルな模型があったりしたけど、それと似たようなものか。


「しかし実際に本当に本物そっくりだよな」


「そこは吾輩の実力でござるよ。本物と見比べながらイメージを合わせたのでござる」


「ん? 本物?」


「そうですぞ。少し前にトオル殿とリュート殿に本物のサンダーバードを狩ってきてもらったでござる。最初はそれを剥製にして作ろうかと思ってたでござるが……」


「だってさ。剥製って要は死体でしょ? いくら加工してると言っても、死体を持ち歩くのはなんか嫌じゃん」


 デューテの言いたいことは分からんでもないが、それよりもだ。


「サンターバードを狩ってきた? どこで?」


 一瞬、買ってきたの間違いかとも思ったが、売ってるはずないよな。


「黄の国にはサンターバードが群れで棲息している山があるんだ。まぁ普段は山から出てこないからあまり気にしないんだけど、年に一回くらい山から降りてくるサンターバードがいるんだ。多分群れから追い出された個体だろうけど、悪さをするってことで、丁度討伐依頼が出てたんだ。だから僕とトオルさんで退治したんだよ」


「ちょっ何でそんな面白そうなイベントに俺を誘ってくれないんだよ!」


 そこはトオルよりも冒険者仲間の俺を誘うべきだろ?


「本当は最初は僕もシオンを誘おうと思ったんだよ。だけど……」


「だけどなんだよ」


 俺がちょっと怒った感じで言うと、リュートが少しだけムッとしたように見えた。


「……ハンプールでシオンが私服のルーナさんと仲良く手を繋いで歩いていたから邪魔しちゃ悪いかと」


 …………すまん。俺が悪かった。


「えっ!? なになに、その話!! もっと詳しく聞かせてよ。あれだよね? ちょっと前にシオン様がデートに誘ったってやつだよね? メイド達が城下町を張ってたらしいけど、結局現れなくて……取り止めだと思われてたやつだよね?」


 案の定ティティが身を乗り出す。ってか、えっ!? 城下町を張ってたってマジか……。メイド達何やってるんだ? ……じゃない。そうじゃなくて……。


「ちょっリュート。その話は……」


「ねぇねぇリュート様。ルーナ様ってどんな服着てたの? 私、ルーナ様の服装って、メイド服や戦闘服しか知らないんだ! それから、シオン様とルーナ様は何をやって……」


「だあああ!! 俺のことはいいんだよ! それよりもトールの話だろ」


「むー。リュート様っ今度教えてね! そしたらまたクリスちゃんの秘蔵写真あげちゃう」


「……リュート。しゃべるなよ」


「…………勿論だよ」


 なんだよその間は!! くそっリュートが話したらクリスに写真のことバラしてやる。


「ゴホンっ。失礼。サンダーバードに関しては分かった。トールも納得してるなら問題ないな、うん」


「シオン。キミって誤魔化し方が下手くそだね」


 うるさいわい!



 ――――


「そういえばトールは念話で話すんだな。声は出ないのか?」


 気を取り直して、俺は他にも気になることを聞いてみた。


「それがキリターンもアカイもアオネ断られましてな」


《何故我が女の声で喋らねばならぬのだ!》


「僕ももっと動物っぽい声なら賛成したけど、あれはちょっと……」


 確かにキリターンの声で我とか言われたらちょっと引くな。


「ってかトオル。お前どんだけ持って来てんの? それ以前に何を考えて持ってきたの?」


 ユッカーリなど音声読み上げソフトは、日本から異世界に行くために必要なものリストには間違いなく載らない。というか持って来ていた事実を俺は知らない。


「一応こっちに来るまでに発売されていたのは全部あるかな。ちょっとタイプが違うけど、ギャラっちとかもいるよ。それに男性ボイスならコーくんとかもね。まぁコーくんも断られたけど。後、これは狙って持ってきた訳じゃなくて、単純に僕のPCに入ってただけなんだよ。ほらTRPGのリプレイ動画を作るのに丁度よかったんだよ」


「トオル……お前リプレイ動画とか作ってたの?」


「うん。過去に皆でプレイしたのを動画にしてね。結構再生数もよかったんだよ」


 知らなかった。つーか動画を作ってるなら一言くらい言えよ! しかし、そういうなら持って来ているのも納得……か?


「声がないのは分かった。まぁ他の人から見たら鳥が喋るのは奇異的にみられるだろうから念話でちょうどいいか。じゃあ次の質問……飛べるの?」


 鳥型で、トールが中に入って動くといっても所詮は作り物。どうなんだろうな?


「勿論飛べるでござるよ。まぁこれに関しては鳥だからというよりもトールそのものの魔法でござるが」


「そういえばデューテの体でも飛んでたな。……ん? いや、あの時はまだ体に乗っ取られてない状態で飛んでなかったか?」


 トールが乗っ取ったのは部屋の外に出る直前。俺に攻撃していた時はデューテの筈だ。


「最初は僕の魔法だよ。といっても僕はあの遺跡(ダンジョン)じゃないと浮かべないけどね。あの遺跡(ダンジョン)の磁場のフィールド効果で浮かび上がってたんだ」


「じゃあここでは飛べないのか?」


「うん。まぁあそこと同じように磁場で覆われている場所なら飛べるかもしれないけどね」


《我は場所なぞ関係なしに、元々魔力で飛ぶことが可能である。この体は魔力の伝導率が頗る良い。魔法だけなら問題なく使えよう》


 へぇ。魔法は普通に使えるのか。……それって少し危険じゃないか?


「シオンくん。彼はもう大丈夫だよ」


 俺の心を読み透かしたようにトオルが小声で俺に囁く。

 ……もしかしたら、また俺の知らないところで何か契約しているのかもしれないな。


「でもそんな手のひらサイズじゃデューテを乗せては飛べないな」


「ふっふっふ。それは甘い考えでござるよ」


「なぬっ!? ……もしかして……」


 確か巨大化などサイズの変更は出来ないって言ってなかったか?


「これも吾輩の……と言いたい所でござるが、残念ながらこちらもトール殿の魔法でござる」


《我の魔法でも巨大化は出来ぬが、それに近いことは出来る》


「じゃあ実際に見てみようか」


 そういう訳で俺達は一旦外へ出ることにした。

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