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ロストカラーズ  作者: あすか
第一章 魔王城散策
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第23話 再会を喜ぼう

 俺達は畑に行く途中だったが、村長に断りを入れ、急いで玉座の間へと戻った。


 そこにはシャルティエの言った通り、本来はいないはずの人物……緋花梨と桜姉さんがいた。


「姉さん! 緋花梨! どうしてここに!?」


「あっ、紫遠。久しぶり。ここ魔王の城なんですってね。凄いね! 私お城の中に入るのなんて初めて!」


 想像以上に軽いノリに思わず呆けてしまった。姉はまるでただの観光地に来たようなはしゃぎようだ。


「凄いね! じゃないよ! 何でこんなとこに居るのさ!?」


「来ちゃった」


 てへっ。とかわいこぶりながら言う姉。それ……姉さんがそれをするのは結構厳しいぞ?


「九重君、私達もソータ君に頼んで……来ちゃった」


 同い年の緋花梨の来ちゃったは年相応って感じだ。姉さんは社会人になって老け……じゃなくて大人びたのだろう。


 俺たちが来たにも拘らず玉座の間を見回る姉さん。説明する気がない姉を見かねた緋花梨が俺達が出発した後の事を説明してくれた。



 ――――


 説明を聞いた後、俺は盛大にため息を吐いた。


「は~。もうこっちに来てしまったし、今さら戻れとは言えないけど……よくもまぁこんな無茶を……会えたから良かったものの、違うところに出てたらどうする気だったんだ」


 無計画にもほどがあるだろう。ってか、シャルティエが見つける前にこの広間から出ていたら下手したら罠が発動していたぞ。

 因みに言葉が通じないのにシャルティエとどうやって意思疎通が出来たかというと、俺達がルーナにしたように姉さんがシャルティエに飴を舐めさせたらしい。

 まぁシャルティエも俺達の関係者じゃないかと思ってたから敵対行動は取らなかったようだし、シャルティエの言葉は飴を舐めていた二人は理解できる。シャルティエが飴をくれと言うだけで意思疎通は簡単だった。

 図らずも飴を舐めることに成功したシャルティエはこれでスーラと話せると大喜びだった。


「一応別のところに出ても生活が出来るくらいの準備はしていたよ! それにソータ君に色々と貰ってきたし」


 そう言うと緋花梨は持ってたバックから何やら色々と取り出す。


「これが敵を倒す石でー、こっちが身を守る石ー。あと、このコンパスみたいなのが九重君達の位置を探す道具ー」


 他にも……と、緋花梨は俺達も持っていない道具をいくつも取り出す。


「えっ? どう言うことだ? 俺達はそんなの貰ってないぞ?」


「なんか数が少ないから九重君達には渡してないって」


 要するに緋花梨達用に取っておいたと。そういうわけだ。つまりは俺達が行く前にこうなることは決まっていたようだ。

 と、なるとこの流れを作った元凶は……俺はクルっとトオルの方を振り向く。


 そこでは姉さんがルーナとオルと楽しく談笑していた。その後ろにはシャルティエが控えている。


「ではサクラ様がシオン様のお姉様なのですね。先日シオン様が言っておられましたよ、自慢のお姉様ですって」


「あら、紫遠ったらそんなこと言ってたの! もぅ照れるじゃない。……ねぇねぇ他には何か言ってなかったの?」


「そうですね……『俺は地球に未練はない! だか姉さんを地球に残してきたこと。それだけが唯一の心残りだ!』と」


 キリッと顔を作りながらルーナが言う。確かに俺が昨日言った話だが、俺はそんな顔はしていないし、セリフも随分と脚色されている気がする。


「きゃー! もぅ紫遠ったらお姉ちゃんのことが大好きなんだから! ねぇねぇ聞いてよ、紫遠ったらね小さい頃は……」


 突発的な俺の暴露話が始まりそうだったので、俺は慌てて姉さんを止めた。


「ちょっ!? 姉さん何言おうとしてんの!! それにルーナさんも! 俺そんなキメ顔で言ってないですよね!? それに台詞も違うし!」


「あら紫遠、緋花梨ちゃんとのお話は終わったの? ったく聞いたわよ緋花梨ちゃんを泣かせたのよね。駄目よ! 女の子泣かせちゃ!」


「そうですよシオン様、殿方は女性を泣かせるのではなく、しっかりとエスコート出来るようにならないと」


「えっ何でここで俺が責められてるの? いや、違うでしょ? 今はそんなことじゃなくて……」


「だーかーらー。男は黙ってよく来たなって、迎えてくれればいいのよ。紫遠だってお姉ちゃんに会えて嬉しいんでしょう?」


 そう言って姉さんは肘で俺の二の腕をぐりぐりする。「ほ~れ正直に言ってみ」って、セクハラオヤジみたいな感じだ。


「そりゃあ、会えて嬉しいけど……」


 まぁそこは嘘言っても仕方ないから正直に答えた。ルーナとシャルティエがニヤニヤしてこっちを見ている。ヤバい少し恥ずかしいぞこれ。


「じゃあそれで良いじゃない! 私達は私達の責任でここに来ました。ここで何があろうとも、それは紫遠の責任じゃない。なら後は再会を喜べばいいのよ!」


「ええー」


 随分と横暴な話だ。


「なによ。不満があるの? ならいいわよ。確かここに……え~と、桜姉さんへ、こんな風に畏まった……」


 そう言って、スマホを取り出し俺が送ったメールを音読し始める。


「ちょっ!!! 何してくれてんの!?」


 それは絶対にやったらダメな行為だろう!? あんな恥ずかしいメールを周りに聞かれるなんてとんでもない。


「いや、紫遠からの素敵なメールを皆に紹介してあげようと」


「しなくていいから! ってか、あれは二度と会えないから書いたのに! 会ってるから! もう要らないから消していいよね!」


「嫌よ、何で消さないといけないのよ。それよりも、私達がここにいるのを納得したよね? じゃないと……」


 仕方ない。あんなもの読まれたら堪ったものではない。


「はいはい、納得しましたよ。つーか、帰れない時点で諦めてるっての。そもそも……トオル。これお前の計画だろ?」


「えっ僕の? 誤解だよ。僕は別に来ても良いなんて言ってないよ」


「あ、氷山君、頼まれてたの持ってきたけどどうしようか?」


 後ろから緋花梨の声が聞こえる。


「あっ、ちゃんと手に入った? 苦労したでしょ? 後でルーナくんに相談して決めるから、とりあえず下ろして餌でもあげておいて。シャルティエくん。よかったらヒカリくんを手伝ってあげて。あと、こっちの世界は名字は貴族しか名乗ってないので僕達のことは名前でお願いするよ」


「畏まりました」とシャルティエはヒカリの元へ行く。


「じゃあ、トオル君とシオン君だね! えへへ、なんか恥ずかしいね!」


 そう言ってヒカリは照れながらシャルティエと一緒に車の中へ行った。


 ってか二人の衝撃で薄れてたけど、よく見たら大型トラックじゃねーか! どこから持ってきたんだよ!? そもそも二人は大型免許なんて持ってないだろ!


「……おい、何だよ頼んでたものって。やっぱり知ってたんじゃないか」


 頼んでた物って……全く誤魔化す気がないじゃないか! 俺はトオルを睨むがトオルはまるで気にしてないようだ。おそらくトラックもトオルの差し金なんだろう。


「僕は来てとは言ってないよ。まぁもし来るなら、その時は持ってきてって頼んだけど」


 それってほぼ同じ意味だよね?


「はぁ。もういいや、で、何を頼んだんだ? 餌って言ってる時点でいい予感はしないんだが」


「ほら、この子達だよ! 連れてくるのすごく大変だったんだからね!」


 ヒカリがトラックから出してくる。


「……そりゃあ大変だったろうよ。つーか、こんなの連れてきてどうするんだよ!! 俺は育てれる自信はねーぞ!」


 ヒカリがトラックから降ろしたのは牛が三頭と鶏が四羽。


「だって氷山君がこっちの世界には卵も牛乳もないかもしれないって。だから……食べたいよね?」


 結果としては、ここにも家畜はいたからどうにでもなっただろうが、確かにここに来る前にはどうか分からない。


「そりゃ食べたいけどさ。でも……ちゃんと育てれるのか?」


 家畜の世話なんてしたことないだろ?


「よろしければ、わたくし共で世話をさせていただきますが?」


「ルーナさんいいの?」


「構いませんよ。先ほども言いましたが、この城にも家畜がおります。家畜小屋に連れて行って一緒に育てますので。注意点等がございましたら後程伺います」


 先程は案内してくれなかったけど、城の裏の方に家畜小屋があるらしい。どうやら連れてきた乳牛や鶏とは少し種類が違うみたいだが、似たような牛や鶏、羊と山羊、それから馬車や竜車用の馬と竜がいるそうだ。


「竜って肉食だよね! この子たち食べられない!?」


 しばらく一緒にいて愛着が沸いたのだろう。ヒカリが不安そうに尋ねる。


「ちゃんと別にしておきますのでご安心を。それよりも、わたくしにもちゃんとしたご説明を頂きたいのですが……」


「あっ、ごめんルーナさん。姉さんとは打ち解けてたみたいなのでてっきり……」


「そういえば、まだちゃんと挨拶してなかったわね。ルーナ? さんで良いのかな。私はサクラ、シオンの姉よ。で、向こうで牛の世話をしているのがヒカリちゃん。お友達よ」


 牛の世話をしながらヒカリだよーっ手を振ってる。


「わたくしはルーナと申します。この城のメイド長をしており、今はシオン様とトオル様のお世話をさせて頂いております。あちらでヒカリ様のお手伝いをしているのがシャルティエ、わたくしが居ないときのお世話をお願いしております」


 どうやらお互い挨拶すらしてなかったらしい。……それであんなに親しげに話せるのかよ! それに驚きだわ。


「ねぇちょっとー! シオン、あなたこんな美人なメイドさんに何かいかがわしい事とかしてないわよね?」


「してねーよ! つか、そんなことしたらすでにこの世にはいねーよ!」


 ルーナにセクハラしたらその時点で命がない。なにせあんな罠を考えるような人だ。どんなお仕置にあうか考えたくもない。


 俺はちらりとルーナを見る。すると……あれ? 何か考え事をしているようだ。……あっ閃いたみたいだ。なんか非常に嫌な予感がする。


「お姉様聞いていただけますか? シオン様がわたくしのお願いを聞いてくださらないのです。わたくしは会ったその日からずっとお願いしているのに……シャルティエの願いは聞き入れていただけたのにわたくしだけ……」


 ルーナさんが突然芝居がかった口調で姉さんに話しかける。ってか一体何のことだ!? 身に覚えがないぞ。しかし……これはマズい気がする。案の定姉さんの眉がピクピクしている。


「シオン、どういうことか説明してもらおうじゃないの? この人に一体何をしたの!? ……ん? してないのよね? 一体何をしなかったのよ!」


 もはや言ってる意味すら分からない。


「俺にもわからないよ! ねぇルーナさん一体何のことだよ?」


「それですよシオン様。シオン様はわたくしが年上だからという理由で、ずっとわたくしのお願いを断り続けていることです。シャルティエにはあんなに親しくしているのに……」


 そう言ってルーナはよよよって泣き真似をする。だから一体……って、もしかして呼び方か? 俺がずっとさん付けしていることを言ってるのか?


「はぁ、解ったよルーナ。これでいいかい?」


 そう言うとルーナの表情が一気に華やいだ。


「ええ。ありがとうございますシオン様」


「えっ? 何、なんなのよ一体」


 姉さんは一人だけ解っていないのでハテナ顔だ。

 ってかルーナも姉さんを使うとは…さすがあの罠の制作者。悪知恵がはたらく。

 俺は姉さんに呼び方のことを説明した。


「全く、シオンは少しは女心ってものを理解しなさい。いい、いくら年上だからって一人だけ呼び方を変えたら仲間はずれの気分になるわよ」


 横でルーナがその通りですと頷いている。


「わたくし、シャルティエにだけ言葉を崩されて話しているのをみて、とても悔しい思いをしたんですからね。ちゃんとこれからはわたくしにもそう、もっとフレンドリーに!」


 何がフレンドリーに! だ。そんな言葉こっちには無いだろうに。どうやって覚えた。……いや飴のせいで勝手に似たような言葉に翻訳されてるだけか。しかし、まだほんの数日だが、ルーナも最初に会った頃から考えると結構印象変わったな。最初はもっと固いメイドかと思ってたけど、実は意外とおちゃめなメイドさんなのかもしれない。


「しかしルーナって年上の人だからタメ口っよりかは敬語の方が使いやすいと言うか……」


「それでしたらシャルティエだってシオン様よりよっぽど年上ですわよ?」


「いや、シャルティエは見た目は若い……ひぃっ!いえ、ルーナも若いけど」


 一瞬、ルーナの目が鋭くなった気がする。うん、気のせいにしておこう。


「呼び捨てが嫌でしたら昨日のように、ルーナちゃんと気軽に読んでもいいですよ。『ルーナちゃん大好き!』と言われてわたくし心がキュンとしました」


「へぇーシオンってば手が早いのね。会って二日でちゃん付けで大好きですか」


 サクラ姉さんから何やらプレッシャーのようなものが。さらに奥からも無言の圧力が……ヒカリだ。車の影から顔だけ見せてジーっとこちらを見ている。


「いや、それはスーラさんの言葉を代弁しただけじゃないですか! ねぇスーラさん。……スーラさん?」


 そういえば、さっきからずっとスーラはしゃべってない気がする。……どうやら何かスーラの気に触ったようだ。無言の圧力を感じる。


《シオンちゃん、私のこと忘れてたの。私だけ紹介もしてくれないの。ずっと待ってたのに……もう、知らない!》


 どうやら挨拶の時に紹介しなかったことを怒ってるようだ。確かに色々あって、すっかり忘れてた。


「ああ、ごめんよ、スーラさん。決してスーラさんを蔑ろにしてた訳じゃないんだ。ほら、今からちゃんと紹介するから、許して!」


《スーラ》


「えっ?」


《私のこともスーラって呼び捨てにして。そしたら許してあげる。》


「えっ? でも、スーラさんって方が可愛いと思うけど……でも、うん、スーラがそう言うならこれからは呼び捨てにするよ!」


《分かったの。じゃあ許してあげるからちゃんと私のことも紹介してくれる?》


「もちろんさ。ありがとうスーラ!」


 そう言って俺は姉さんの前にスーラを差し出し、


「姉さん。この子が、俺の大事な相棒のスーラさん。もといスーラ!」


 ……長い沈黙がおとずれた。


 横からルーナが、「流石ですスーラさん。あの一瞬でシオン様から呼び捨ての栄誉を得られるとは」と呟きが聞こえたり、いや、栄誉って…。

 奥からはヒカリがスゴい形相になってる気がしてそちらに顔を向けれない。


「なに? 私今、弟に新しい彼女を紹介されてるの? シオンがあんなにデレデレしてるなんて……別に人の恋愛に口を出すつもりはないけど……流石に相手は人型の方がお姉ちゃんも安心するわよ」


「何でそうなるんだよ! スーラは魔法の練習でお世話になってるんだよ! ってか姉さんも異世界に来てテンション上がってるのは分かるけど、そろそろ真面目になってよ! 話が進んでないだろ」


 まったく……姉さんは普段は真面目なんだけど、一回ネタに走ると中々戻ってこない。


「ったく、しょうがないわね。久しぶりに会えたんだから少しぐらいは会話を楽しみなさいよ。で、シオン、あなた達が来てから今までのことを話なさい」


 急に真面目になる姉さん。確かに真面目にって言ったけど切り替えが早すぎるだろう。


 ――――


「成る程ね、それで畑を確認するところに私達が来たって連絡があったんだ」


 二人にはこっちに来てからのことを一通り説明した。


「ああ、それで後また村に行こうかと思ってるんだけど……」


 ただあれから時間も大分過ぎた。


「ねぇルーナ。確認したいけど、私達もシオン達と同じようにここに住んでいいの?」


「当然です。シオン様のお姉様を追い出したりは致しません。それにまだ先ほどのシオン様の昔話も伺っておりませんし……それで城主はシオン様のままでよろしいですか? それともサクラ様がされますか?」


 いや、俺の昔話はもういいから。


「まぁシオンの昔話は今度で。で、城主はもちろんシオンで。シオン、頑張りなさいね」


「いや、俺より姉さんの方がいいんじゃない? しっかりしてるよ? ってか昔話も必要ないからね!?」


「こういうのは男の方がいいのよ。それに私もトオルのように表に出るタイプじゃないのよ。裏でサポートする方が性に合ってるわ」


 そうだよと、トオルも頷いてる。


「……まぁいいけどな。、今のところ何が変わるって訳でもないし……だよね?」


 俺はルーナに確認した。


「そうですね。城主になったから特に何かするということはございません。あくまでも名目上でございます」


「なら別に構わないよ」


 そういうわけで一応俺が城主となった。


「それで、シオン、トオル。あなた達はこれからどうしようと思ってた? あ、今日のことじゃなくてこれからのこと。まさか無計画じゃないでしょうね」


「一応、まずは農業がうまくいくかの確認して、大丈夫のようなら軌道に乗るまで地盤固め。合間をぬって魔法の練習。ちゃんとしたものになるまで、おそらく二年くらいかかるとは思ってる」


 多分姉さんは俺がすぐにスミレを探しに行くって思ってたんじゃないかな? 流石に俺もここは慎重になるよ。


「それじゃあダメね。シオンとトオルは農作業はしなくてもいから、まずは魔法の技術を磨いて早く一人前になりなさい。農作業や他のことは私とヒカリがします」


 まさかの駄目だし。それよりも一人前?


「いい、私が思うにまず今はお世辞にもいい環境とは言えない。いえ、むしろ最悪に近いことは解ってるわよね? 魔王が死に、いつ敵が攻めてくるか分からないのに、戦力はゼロ。城の防衛システムは生きているけど、戦えるのが誰もいないのは非常に不味いわ。もし、城の外で問題があった時に誰も対処ができないのよ。だから、地盤固めよりもまずは戦力の補強。シオンとトオルはまず戦える力をつけなさい。あなた達がこの城の戦力になるの。それ以外のことは私達に任せなさい。それとも逆がいい? 私達が戦ってシオン達がサポートする方が?」


 ルーナはすぐには攻めてこないって話してたけど、確かにいつ攻めてくるかは分からない。それにこの城にいる男は俺とトオルだけ。


「いや、姉さん達を危ない目に遇わせるより俺達が強くなって姉さん達を守るよ」


「いい? ここは日本じゃないのよ。しかも、ここは人間の敵って思われている魔王城。この城にいる限りは人殺しも沢山しないといけないと思う。その覚悟がないなら城からは出ていった方がいいわよ。あなた達にその覚悟はある?」


 人を殺す覚悟。……スミレの境遇やソータの話を聞いて、一応自分の中ではちゃんと答えは出している。


「大丈夫。地球を出る時にその覚悟はちゃんとつけてきた。まぁ実際その時が来たときにどうなるかは分からないけど……」


 言葉と実践は違う。これだけは気持ちだけではどうにもならない。


「……いいわ。簡単に出来ると言われるよりは信じられる。まずは狩りでもして死に耐性をつけなさい」


「分かった」


「じゃあ…この城何て言う城なの? まさか魔王城は名前じゃないわよね?」


 確かにこの城の名前は聞いてなかったな。


「元々この城は魔王様の名前からシエラ城と名乗っておりました。ただ、人間の国や周りからは魔王様の魔法から虚空城、もしくは魔王様の特徴から首なし城と不名誉な名で呼ばれております」


 デュラハンだから首なしか。ルーナはその呼称が余程嫌いなようだ。俺たちに説明するときも悔しそうに話してくれた。


「そっか……ってシエラ城? ねぇルーナ、魔王ってもしかして女性だったの?」


「言っておりませんでしたっけ? この城に男性はいないと。もちろん魔王様も女性でございます」


 確かに聞いたけど……メイドもたくさんいるし、てっきり魔王は男でハーレム的何かを想像しちゃってたよ。


 俺達は魔王のことについて詳しく話を聞いてみた。【虚空】のシエラ。この城唯一のデュラハンで女性だ。魔王は重度の男性嫌いで城の中に男性を入れるのを頑なに拒んでいた。


 元は女性が男性に迫害されるのを防ぐため、虐げられた女性を助けるために村を作った。だから村には男性がいないらしい。

 魔王は女性が戦うことも嫌ったため、城を罠だらけにして出来るだけ戦わせないようにした。


 ただし、兵士だけはどうしようもなかったから男の傭兵を雇った。ただし、魔王は一切関与していない。メイド達が間に入っていた。そして兵士達の城へは立ち入り禁止にしていた。


 兵士をまとめていた隊長はヴィーヴルという半分女性で半分は竜の魔族だった。自身の能力により、男性型、女性型、竜型になれるため、城に入るときは女性型になって入っていた。彼女? がいたから何とか兵士達も働けた。


「魔王は男性嫌いってのは分かったけど、他の人は男性大丈夫なの? 俺とトオルって避けられたりする?」


「いえ、大丈夫です。昔とは違い、今いるメイドはこの城で生まれたものばかりですので、男に嫌悪している者はおりません」


「ああ、それそれ。さっきもあったけど、男性がいないのにどうして子供が生まれるんだ?」


 女性に質問するのは少し申し訳ない気になるが、気になるものは仕方ない。


「魔族が生まれる方法は二つございます。一つは他の種族同様男女の交配によって生まれてくる方法。そしてもう一つ魔族と魔物、魔石を持つもののみが誕生できる特殊な方法がございます。この世界には魔素が濃い場所には【魔素溜まり】と呼ばれる現象が起こることがございます。元々魔素は世界中どこにでもございますが、生物が居ない場所や少ない場所では、魔素が吸収されずに魔素濃度が高まってしまうのです。魔素濃度が一定値を超えましたら【魔素溜まり】が発生します」


 生物が多いところは魔素を取り込むため魔素濃度が薄くなり、生物がいないところは魔素濃度が濃くなる。濃くなったら【魔素溜まり】ってのが出来る。うん、ここまでは解った。


「【魔素溜まり】に一定量の魔素が溜まると魔石が生成され、そこから魔族及び魔物が生まれます。生まれる魔族や魔物は一つの【魔素溜まり】から一種族のみが生まれます。【魔素溜まり】から生まれる魔族や魔物は【魔素溜まり】が生成された時点で決まります。その土地柄に則った魔族や魔物が生まれやすいです。また、濃度が高いほど強い魔族や魔物が生まれます」


「…ってことは、魔族や魔物は何もないところからいきなり生まれてくるの?」


「ええ、それから【魔素溜まり】から生まれてくる魔物や魔族は始めからある程度成長して生まれてくることが多いです」


 頭が追いつかなくなってきた。


「シオンくん。要はリポップ地点ってことだよ」


 悩んでいるとトオルが分かりやすくゲーム用語で教えてくれた。

 ゲームでよくある魔物が召喚される地点だ。


「なるほど、リポップか! 了解、理解した」


「この城にはシルキーが生まれてくる【魔素溜まり】がございます。村にも【魔素溜まり】がございます。今の村人はほとんどが【魔素溜まり】から生まれたものです。先ほど食べたワーボアも森の【魔素溜まり】から生まれたのでしょう」


「はーなるほどね。って、それは男が生まれてくることはないの?」


「元々シルキーやリャナンシーには男がおりません。トロールやケットシーにはいますが、先ほども申し上げたように環境に則ってるのでしょう。今まで女性しか生まれておりません」


「まぁ解った。要は男がいなくても村が滅ぶ心配はないんだな」


「元々長寿ですので戦でもない限り滅ぶことはございません」


「で、何の話だったっけ? ああ、皆でこの城、シエラ城に居てもいいって話だったな」


 話が飛びすぎて何の話してたか忘れるところだった。


「それですが、魔王様ももういらっしゃらないので、宜しければ新しく城主になるシオン様がこの城の名前を付けて下さいませんか?」


 確かにシエラがいないのにシエラ城もないか。だけど名前を付けるとか苦手なんだよな。


「シクトリーナ城ってどうだ? ちょっと呼びにくいかな?」


 少し悩んだ結果、俺はシクトリーナという名前を思いついた。


「シオン、どういう意味なの? なんか変な名前ねぇ」


 案の定、姉さんが文句を言う。


「思い浮かばなかったんだ。仕方ないだろ。シオンのシ、サクラのク、トオルのト、ヒカリのリ、それからルーナのナでシクトリーナ城だ」


 肩から《私はー?》って聞こえる。じゃあスーラの伸ばし棒部分がシクトリーナの伸ばし棒だ。そう言うと《わーい!》って喜んでくれた。全く可愛いやつめ。


「ったく、そんなこと言われたら、変な名前なんて言えなくなるじゃない」


 ちょっと罰が悪そうに姉さんが言う。


「どうかなルーナ?」


 いいかどうか聞こうと思ったけどルーナから返事がない。


「ルーナ? やっぱり駄目か?」


 仕方ないから別の名前を考えようと思ったら、ルーナがボソリと呟いた。


「…ですか? 私の名前も入って本当に良いのですか?」


「だってこの城はルーナさんの家なんでしょ? 他の誰よりも一番大事にしてるんだから当然じゃないか。本当はルーナ城にしたいくらいだったんだから」


「……ありがとうございます。皆様の名前と一緒に加えて頂いて私は本当に嬉しく存じます」


 ルーナは本当に嬉しそうだ。


「喜んでくれたら考えた甲斐があったよ。じゃあこの城はシクトリーナ城で決定」


「シオンくん、ついでに村の名前も考えてよ。ルーナくん、どうせ村の名前もないんでしょ?」


「そうですね。シオン様よろしければ村の名前もお願い致します」


 どうやら村の名前も考えないといけないようだ。


「村だろ? 四階にある村だから……フォース。いや微妙だな。キャトル……フィーア……クアトゥロ…そうだなフィーアス村ってどうだ? 一番響きが気に入ったけど。それに、これなら他の島はアインス砂漠、ツヴァイス平原、ドライ海峡って感じにしたらどうだ?」


「全く安直ねぇ。でもいいんじゃない。こっちにはドイツ語なんて解らないんだから」


「では、シクトリーナ城、アインス砂漠、ツヴァイス平原、ドライ海峡、フィーアス村で他の者にも伝えておきます」


 どうやらルーナも落ち着きを取り戻したようだ。


「じゃあシオンとトオルは修行。私とヒカリはフィーアス村で農業、ルーナはシオンとトオルを鍛えてあげてね。シャルティエも補佐よろしく」


 姉さんがまとめてくれた。やっぱり姉さんが城主の方が似合う気がする。……言わないけど。


 こうして俺達四人での異世界生活がスタートした。

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