日常編 メイドの女子力
『はぁ……モニカ綺麗だったね』
『やっぱり結婚って憧れるよねー』
『あー。私もモニカみたいに愛してるとか言われたいな』
『本当にね。でもさ、ここにはさ、男が少ないから……』
『少ないと言うより、シオン様とトオル様しかいないじゃん』
『そうなのよねー。シオン様が新しく住まわせるのは女性ばっかだしね』
『前回がミサキ様とレン様。今回がデューテ様。別に嫌じゃないけど、男がいた方が働き甲斐があるよね』
『シオン様とトオル様もお相手は既にいるしね』
『えっ? トオル様はエキドナ様一筋みたいだけどシオン様は?』
『いるじゃない。まlいい加減、ルーナ様かラミリア様かスミレ様か……早くハッキリして欲しいよね』
『意外と今回来たデューテ様じゃない? なんかいつもギャーギャー言い合ってるじゃない。ケンカするほどって何とかって言うし』
『いや、あれは本当に言い合ってるだけだと思うよ。だってシオン様の趣味と正反対って感じゃない?』
うーん。非常に入りづらい。
先日のパーティーの写真が出来たから料理隊に渡そうと準備室の前まで来たのだが……まさかこんな話してるとは。
中にいるのはどうやら三人か? アレーナはいなそうだ。
『そういえば、以前聞いたけどシオン様の好みはエリーゼなんだって』
『そうなの? ルーナ様じゃなくて?』
『私はアレーナ様かと思ってた』
どこから聞いた情報だそれは!? いや、確かに間違ってはいないけど。
『シオン様ってさ、やっぱりハーレムでも狙ってるのかな?』
『でもハーレム狙ってるなら私たちも既にどうにかされてるんじゃない?』
『いや、シオン様って案外ヘタレだからハーレムを作りたいけど踏ん切りがつかないとか?』
『『そうかもっ!!』』
そうかもじゃねー!! 誰がヘタレだ誰が。
このまま文句を言ってやりたいところだけど、多分そしたら盗み聞きとか言われかねないからな。もう少し我慢しよう。
『まぁシオン様はどうでもいいとして、私も恋人が欲しいなぁ』
『ここにいる限り無理でしょうけどね』
『デント様の所に行く必要がなくなったから、町にも行けなくなっちゃったしね』
こいつら……町に何しに行くつもりだったのか。
『まぁ殆どモニカが行って、私らは行かなかったけどね』
『モニカに変わってってお願いされてたからね』
『やっぱりあれくらい積極的じゃないと、彼氏なんて出来ないかもね。あっ、そういえばこの間第二の子達が合コンしたの知ってる?』
えっ何それ。知らないぞ?
『あっ聞いた聞いた。城下町の男性と合コンしたらしいね』
『第二は役所の管理もしてるから、そういう機会もあるみたいだね』
『でもさ、ヤッパリ駄目だったんだって』
えっ? 合コンが失敗だったの? 第二だって随分とレベルが高いと思うけど……。
『いい男が居なかったの?』
『そりゃあ城下町に大していい男は少ないでしょ。わりかしいいと思うヴォイス様やアルフレド様は既に妻子持ちだしね』
『それがさ、ヤッパリ城のメイドって肩書きがハードル高いみたい。一緒に参加したフィーアスのリャナンシーさんはモテモテだったみたいよ』
まぁ人間の国の立場で考えると、町の人が城や領主、貴族に仕えるメイドを口説けるか? って言ったら無理だよな。
『合コンも望み薄か。じゃあヤッパリ近しい人じゃないと無理かな?』
『でも城に来るような人って言ったら……セラ様達か、ドルク様か……最近だとリュート様?』
『セラ様はサクラ様一筋だから無理としてイオンズ様?』
うん、セラの幼馴染みのイオンズはわりかし悪くないと思うが……。
『イオンズ様か……彼、どことなく頼りなさそうなんだよね』
『分かるー。ちょっとナヨっとしてるよね。顔も女顔に近いし』
『私、最初はセラ×イオンズを考えてた』
『『私も』』
コイツら……イオンズが聞いたら泣くぞ。それにアイツも修行して大分逞しくなってるぞ。
『でも他がいないのよね。ドルク様とか……モニカと違って私は中年は嫌だし』
『そうだよね。それにドワーフもあまり……ヤッパリ背はスラッと高い方がいいよね』
『じゃあ残ったのはリュート様。でもリュート様も確か町に片想いの方がいらっしゃるんですよね?』
ドルク憐れ……それよりもリュートの片思いって皆知ってるの?
『ええっ!? そうなの?』
『あっ、私知ってるよ。片思いかどうかは知らないけど、いつも時間があると写真眺めてるの』
『その写真。以前この城に見学に来たクリス様らしいですよ』
リュートのやつ……こんなとこでもクリスの写真見てるのか。そりゃあバレるっての。
『あ~あ、どこかにいい男いないかな?』
『『『はぁぁぁ』』』
三人揃って大きなため息をつく。
タイミング的には今がチャンスか?
俺はドアをノックする。
「シオンだけど誰かいるか?」
もちろん今来た風に素知らぬ感じに言う。
『えっシオン様!?』
向こうからドタバタと音がする。さっきの様子だと多分お茶しながらだと思うから、慌てて片付けてるんだろうな。
時間的には一分も経たずにドアは開いた。
「シオン様。一体どうされたのですか?」
さっきまで俺をヘタレ扱いしていた人達とは思えないほどの対応だ。やはり人の裏は見ない方が良いな、うん。
「先日のモニカの写真を持ってきただけなんだが……」
「本当ですかっ!? あのー見せていただいても……」
「そのつもりで持って来たんだ。ほらっ」
俺がテーブルに写真を広げると三人はワッと群がる。
「やっぱりドレスっていいわねー」
「ねっ憧れちゃうよねー」
「あー私も相手がいればなー」
「なぁ……今まで皆にはこういう話はあまり聞いてなかったけど、やっぱり結婚とかしたいものなのか?」
俺がいきなりこんなことを言うもんだから、三人はどう答えていいか判断できないようだ。
「元々この城や村の住人って、元々男が苦手……っていうか逃げてきた人が多いじゃない。だからあまり男と関わり合いにならないようにしていたつもりなんだけど……」
さっきのヘタレ発言や、ハーレムは違うんだぞと暗にアピール。でも実際最初の頃はそうだったもんな。
「モニカを見てるとさ、本当に幸せそうだったんだよ。だから色々考えちゃってさ」
「シオン様……」
「まぁそう言って皆が辞めたら困るから勘弁してほしいけどな。実際モニカがいなくなって料理隊は大丈夫そうか?」
「正直大変だと思います。モニカって料理隊の良心みたいなところがあったから……」
「確かにそんなとこありそうだな。アレーナの暴走も上手く抑えてた気がするし」
「それなんですよー。モニカがいなくなったら誰がアレーナ様を止められるのか……」
「今も誰が代わりの副隊長になるのかな? って話をしていたんです」
あれっ? そんな話だったっけ? ……まぁ誤魔化しはお互い様か。
「まぁモニカも最初はオロオロしている印象だったし何とかなるんじゃない?」
「モニカ……料理隊が発足してから、しばらくの間、毎日胃が痛そうでした」
「アレーナ様がいつ不敬で処罰されないかって心配してたもんね」
「基本表に出る人じゃなかったから……ハグルの時なんか最後まで出場代わってって言われましたよ」
モニカにそんな裏があったとは……そんなにアレーナのお守りが大変だったか。
「まぁそんなモニカでもちゃんと出来たんだ。三人もちゃんと出来るさ。ただ、人数が足らない時は言ってくれよ」
それでも不安なのだろう。三人は曖昧に頷く。
「そうだ。ついでに聞いてみたいんだけどいいかな?」
「? 何でしょう?」
「いや、前から気になってたんだが……メイドの中で誰が一番女子力が高いのかなぁって。スペック的にはルーナなんだろうけど、俺の中ではモニカはかなり女子力が高そうだったから気になってな」
俺がそう言うと三人は少し考えこむ。
「……ティティでしょうか?」
「ティティだと思います」
「ティティかなぁ?」
考えた結果、三人が出した答えはまさかのティティだった。
「ティティ? えっ? 俺が聞いたのは女子力だぞ? 別に司会力とかお笑い力は聞いてないぞ」
「シオン様……シオン様はティティを分かっていません。彼女は実はかなり女子力高いですよ」
「食堂に花瓶を置き始めたのは確かティティだったよね」
「それに一番オシャレに敏感だよね」
「オシャレっていうと第一のシェルファニールが思い浮かぶけど……」
第一メイド隊の隊長シェルファニールは業務に差し支えのない範囲で香水やアクセ、髪型を毎日変えている。ハグルの景品も手鏡を希望していたし、女子力云々じゃなくてオシャレだけなら一番な気がするが……。
「シェルファニール様はいつもティティにファッションの相談をしていますよ」
「他の人にもしていたよね。多分この城の流行はティティが作ってるんじゃないかな?」
「そういえばこの間手作りビーズ講座を開いてましたよ。ほら、これはその時に作ったんですよ」
「えええっ! それ私も参加したかったぁ」
……俺は一体誰の話を聞いてるんだ? ……ティティだよな?
「それに料理も得意なんだよね」
「特にお菓子作りが得意みたいですよ」
「もし料理隊に追加人員貰えるならティティがいいです」
「いやいや。通信隊が絶対に出さないでしょ。通信隊でもエリーゼ様並みに仕事ができるらしいし」
「通信隊って毎日残業や当直とかあって忙しそうだけど、ミスとかしないもんね」
「それどころか他の隊の手伝いまでしてるみたいだよ」
聞けば聞くほど俺の知ってるティティとのギャップが大きくなるんだが。
「この間のパーティーの司会も完璧だったね」
「ちゃんと料理を運ぶ時間とか調整して、司会進行してくれるのは有難いよね」
「それにグラスが空いてる人をコソっと教えてくれるのも助かりました」
あいつ……あの司会中、そんなこと考えてやってたのか? 俺にはただノリノリでやってるだけにしか見えなかったぞ。
「そして何より優しいんだよね。困ってたらすぐに助けてくれるの」
「私この間倉庫から食材を段ボールに詰めて運んでたの。で、扉を開けるのに苦戦してたらスッと扉が開いたのね。後ろを見たら何も言わずにティティが去って行こうとしてたの。お礼言ったらこっちを見ずに、気にするなって感じで手だけ上げたの。カッコよかったな」
「女子力だけじゃなくて男気も兼ね揃えてるのが凄いよね」
「正直女としてもメイドとしてもティティには勝てる気がしませんよ」
「私も……」
「というか勝てる人いるんでしょうか?」
「「「はぁ~」」」
三人は一斉にため息を吐く。そういえばヒカリもティティにいい女の条件を教わってるって言ってたな。俄かには信じられないが、ティティって実はかなり凄い奴だったんだ。
今度じっくり観察してみるか。
「ま、まぁお前達も十分いい女なんだし……もし希望するなら今度人間の町で合コンでも……」
「「「本当ですかっ!?」」」
あっ、ヤバい。コイツらガチだ。コイツらを町へ連れて行ったら、きっとえらいことになる。
「ア、アレーナとルーナが許可したらな。じゃあ俺は他のメイドにも写真渡さないとだからこれで」
「「「あっ、ちょっとシオン様!!!」」」
俺はこれ以上関わらないようさっさと逃げ出すことにした。




