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ロストカラーズ  作者: あすか
第一章 魔王城散策
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第22話 村を見て回ろう

 俺達は侵入者エリアから居住区エリアにやってきた。


「まずは居住区の一階からご紹介いたします。一階は牢屋や尋問部屋など侵入者を拘束しておく部屋、警備の待機部屋、他には私達メイド達の更衣室、休憩所、食堂、浴室などがございます」


 牢屋には誰もいなかった。侵入者も普通は罠で死んでしまうから、使うことが殆どないらしい。


「二階は私達メイドの寝室、三階は客室でございます。おそらくお二人は三階へ住むことになると思います」


 その三階の部屋を覗いてみる。


「おお、スゲー!」


 思わず口に出てしまう。

 室内自体はビジネスホテルの一室と似たような部屋だ。椅子とテーブル、ベッドが置いてある。

 そのベッドには、いかにも高価そうな天蓋とカーテンが付いている。それだけで高級感あふれる部屋になっていた。ベッドも硬いのを想像していたのだが、予想と違って遥かに柔らかく寝やすそうなベッドだった。


「外からいらしたお客様に満足していただけるよう、寝具には特に気を使っております」


 これもルーナの方針のようだ。ただ、客が来ることがないので使われていないそうだが。


「四階は会議室や資料室、空き部屋が数室ございます。それから村への転移室がございます」


「それなんだけどさ。何で村が四階にあるの? もっと別の場所でよかったんじゃないの?」


「詳しいことは分かりませんが、魔王様の魔法では、外部への転移の扉を設定するのに各階層一つと制限があるようです。一階は砂漠、二階は平原、三階は海に使用してますから、必然的に四階が村になったようです。四階ですと万が一にも侵入者も来ることはないでしょうからね」


 元々居住区エリアに設置されてるから侵入者の心配はないだろうが、各階層一つしか設定できないのと、念には念をってことか。まぁ制限がなかったら、四つの島以外にもドンドン城の外への転移を増やせるもんな。


 村への扉以外には会議室と資料室。資料室は少しの本棚と多数の勉強机、どうやら図書室にイメージが近いようだ。本棚にはメイドや村の名簿や歴史、毎年の食料の備蓄高、他にはメイドの研修資料などが並んでいる。ただ、本棚といっても巻物みたいな資料で書籍タイプの資料は置いていない。本は流通してない貴重品らしいから仕方ない。


「ここの資料は私達メイドが見ても差し支えない資料がございます。これ以外の資料が望みなら、魔王様の執務室にあると聞いたことがございます。見たことはございませんので、どんな本があるかは分かりませんが」


 もしあれば少し読んでみたい。今度ルーナに聞いてみよう。


「空き部屋は何なの? 他の部屋に比べるとかなり広いけど?」


「主な用途は村から送られてくる税などを受け取る場所です。私達はどの転移扉からでも村へ行くことが可能ですが、村から帰る際は四階の転移扉からしか帰れません。他の外部の転移扉にはボタンが付いておりませんので、決められた場所にしか帰れません。砂漠の扉から帰るのは一階の転移部屋になります」


 村から持ってくる荷物を置く場所か。四階に設定している弊害みたいなもんか。


「居住区フロアの案内は以上でございます。これから四階の転移部屋を利用して村へと行きたいのですがよろしいでしょうか?」


 これ以上は見るところがないので俺達は村へと向かった。



 ――――


 村がある島は、砂漠の島よりも少し広い程度、村以外にも山や森、鉱山がある。島全体の人口が約五百名。村以外にも山や森に住んでいる者もいるそうだ。


「シオン様、トオル様、お待ちしておりました」


 転移で島に着くと、早速ルーナが出迎えてくれた。


「ルーナ様、シオン様とトオル様に城内を案内してきました」


「ご苦労様シャルティエ、ここからはわたくしが案内いたしますので、下がってよいです」


「畏まりました。それでは私は通常業務に戻ります」


 シャルティエは俺達に向かって「失礼します」と言った後、転移扉を使って城へと戻っていった。


「城内は如何でしたか? シャルティエは無事に案内出来ておりましたか?」


「ええ、丁寧に案内してもらいました。それにしても城の防犯対策は凄いな。説明を聞いて攻略は不可能と思ったよ」


「ふふ、あの罠はわたくしの自信作なのですよ。……あの勇者には破られてしまいましたが」


「ソータとは相性が最悪だっただけだよ。でも転移されると殆どの罠が無力化されてしまうのは欠点なのか?」


「今までは転移できるのは魔王様しかおりませんでしたから考慮することはありませんでした。今後誰が使うか分かりませんから、転移対策の罠も仕掛けた方が宜しいかもしれませんね」


 まぁソータは地球にいるからもう転移できるやつなんていないと思うけどな。


「それでは早速ではございますが村長に会って頂きます」


 そう言ってルーナは村の方へ向かっていく。俺達は周りの見渡しながらその後ろをついて行く。


 村では家の前で話をしている者や仕事をしている者、子供もいるようだ。

 村の者から見ると俺達はさぞかし珍しいのだろう。チラチラとこちらの様子を窺っている。

 俺は村の様子を見ていて気になることがあった。


「ルーナさん、ここの村人は皆魔族なんですよね? 獣人や普通の人間もいそうですが?」


 見た目普通の人間にしか見えないような人もいれば、遊んでいる子供には猫の獣人もいる。


「あの子はケットシーです。立派な魔族ですよ。猫の獣人とは違います」


 そこにいる子供は猫が二息歩行になった感じだ。さしずめ猫がベースで人の要素があるのか。獣人は人がベースで獣の要素がある種族のことらしい。


「それから彼女たちはリャナンシーですね。確かに見た目は人間と似ていますね」


 あれがリャナンシーなのか。シルキー同様殆ど人間と変わらない。あと、ケットシーの子供と遊んでいるのはいかにも妖精って感じだ。


「ケットシーの子供と遊んでいるのはナパイアーとスプライトの子供ですね。スプライトの子供はこの村に住んでいますが、ナパイアーは村ではなく付近の谷に住んでいます。ニンフ族はどの種もそれぞれに適した場所に住んでおられます。村には食料の交換などでよく来ているのですよ」


 谷に住んでいるナパイアー、湖に住んでいるナーイアス、森に住んでいるドリュアス、山に住んでいるオレイアスを総じてニンフ族と言うらしい。元は同じニンフだったのが住む場所によって少しずつ変化していったのだという。ロストカラーズ時代から伝わる名残のようだ。


「他にはどんな種族が住んでいるんです?」


「そうですね。まずは村長はケットシーです。そして、この村の人口の半分はリャナンシーです。スプライトは人数は多くありません。今姿が見えない種族はトロール族とローレライ族がおります。村の外には先ほども言いましたニンフ族、それからノッカー族でしょうか。他にもグレムリン族の方がお一人のように一人だけお住みになっている種族の方々がいらっしゃいます」


 俺達は歩きながら説明を受けている。思った以上に種族が多い。


「それにしても、見渡す限り女性ばっかだな。男は? 外で仕事してるのか?」


 あっ、ケットシーの子供はどっちか分からないな。でもそれ以外は全員女性だ。


「あれっ? 説明しませんでしたか? この村には女性しかおりません」


「……多分聞いてないと思うけど。えっ? 男いないの!? じゃあどうやって村の維持というか……って、じゃあ何で子供いるんだ?」


 種族繁栄というか……、一代限りの村ではないはずだ。


「その話には魔族の性質にも関わってきますので、時間があるときに話しましょう。話している間に村長の家に着きました」


 目の前の家が村長の家らしい。ルーナはドアをノックする。


「村長、ルーナです。お話していた新しい城主を連れてきました」


 少し待つと村長の家のドアが開かれる。中からはケットシーが顔を出す。外にいたケットシーよりも背が高い。それでも俺達の胸のあたりくらいしかないが。この人が村長なのだろうか? 顔が猫なので年齢は分からない。


「おお、お待ちしておりましたルーナ様。ささ、どうぞこちらへ」


 中へ入るとテーブルの上に料理が準備されていた。昼食だろうか? パンとスープ、それから焼いた肉が置かれている。


「ささやかですが、昼食を準備致しました。お口には合わないでしょうがこれが今の村の精一杯でございます」


「さ、シオン様、トオル様も頂きましょう」


 ルーナは座って食事を取り始める。俺達も「いただきます」と言って食べ始めた。


 まずはパンだが……堅い。どうやったらこんな堅いパンが作れるのか不思議でならない。

 スープは豆と…これはキャベツか?それから肉が入っている。隣を見てみるとパンをスープに浸して食べてる。なるほど、そうやって柔らかくしてから食べるのか。

 そして焼いた肉を一口食べてみる。おっかなり美味しい! のだが、少しの塩でただ焼いただけなのだろう。せっかくの肉が物足りない。そういえば地球でソータ達が魔物の肉は魔力があって美味しいけど調味料がないって言ってたよな。


「この肉は何の肉ですか?」


 正直肉の質は地球よりもいいだろう。俺は村長に聞いてみることにした。


「この肉はワーボアの肉でございます。先日、オレイアスの一人が森で狩ったと持って来られたのでお出ししたのですが……」


 村長は少し怯えたように話している。俺達にそのつもりはなかったが、城主としてこの村を治める立場になったんだから村長が怯えるのは仕方ないか。


「食べたことない肉だったから気になっただけです。ワーボアですか」


 ワーボアとはどうやら二足歩行のイノシシの魔物のようだ。オークのイノシシ版って感じか?

 イノシシか……日本ではボタン肉って言うんだよな? 食べたことはないけど、クセが強くて堅いイメージがあった。でもこれは柔らかいし臭いもない。多分血抜きとか処理がよかったのもあるのだろうけど、この肉ならおいしい料理は色々と作れそうだ。


「シオン様、食べてみてどうでした? 率直な感想をお願いいたします」


 多分お世辞じゃない正直な感想が欲しいんだろう。俺も正直に答える。


「肉は美味しかったよ。でも味付けが良かったらもっと美味しいと思う。勿体ないって思った。パンは堅くて正直微妙だったしスープも味気ないって印象だったな」


「シオン様、今日はスープには野菜が入っておりますし、肉がある分いつもよりもかなり豪華な食事なのです」


 どうやらこの食事は、この村ではかなり無理をして作ったごちそうのようだ。


「わたくしはこの食事事情を変えたいのです。土地は十分にございます。シオン様とトオル様のお力を貸していただけないでしょうか?」


 事前に話してたのだろう、村長が一緒になって頭を下げる。


「ルーナさんに聞きたいんだけど、城の食事はどうなの? ここと変わらないの? あと、パーティーをするときはどういった料理が出るの?」


「兵士やわたくし達メイドの料理は似たようなものです。野菜はこの村から税として徴収している物を使っております。肉は狩りが出来た日は焼いた肉、それ以外は塩漬けにした肉を提供しております。月に数回チーズや炒った卵料理が出ましたね。それから魔王様は食事を必要としませんでしたから、特に食べることはございませんでした。デュラハンは食事をしても意味がなく、外から魔力を取ることで十分だと伺ったことがあります。また、パーティーをする際は、肉料理が多いですね。それから魚料理や果物を包んだパイなどが好評でした」


「卵やチーズがあるんだ?」


「家畜がおりますから少しだけなら手に入ります。ただ人数を賄うことが出来ませんので、交代で休みの日に提供にしております」


 ソータにも聞いていたが、この世界にも鶏や牛、山羊はいるそうだ。この村や城でも飼育しているらしい。この世界、食材の保存が効かないから休みの日に提供されるそうだ。兵士がいなくなったのでメイドが食べる量が少し増えたとか。


 ちなみにそのまま卵を食べるのは危険だから、ゆで卵にするか煎るかする。乳もそのまま飲むことはなくチーズにすることしかしないらしい。

 魔族だって人間と同じく食中毒でお腹を壊すし、味覚も全く変わらないそうだ。


「まぁ俺達も美味しいものが食べたいし。ってか元々その気ったしいいんだけど、でも農業って結構大変な作業だと思うけど男性がいなくて大丈夫? 流石に俺とトオル二人じゃ厳しいよ」


「いえ、城主様方に農作業はさせれません! 畑のことは村のもんで行いますから、知恵だけお貸しいただければと」


「シオン様、この村にはノーム様がおられますし、トロール族は女性ですが、力も強いので問題はございません」


「ノーム様?」


 トロール族は聞いたけどノームは聞いてない。


「わたくしたちがこの島に来る前からいらっしゃいます精霊様です。この島で、唯一の魔族でないお方でもあります」


 この世界には四大精霊と呼ばれる精霊がいるそうだ。炎の精霊サラマンダー、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ、大地の精霊ノームだ。


 魔素を使った魔法でなく、精霊魔術という特殊な魔法を唱えることができる唯一の種族である。精霊魔術に関しては、精霊以外が使用できないため研究が進んでおらず詳細は一切不明である。精霊は自然が豊かな土地にいることが目撃されているが人前には殆ど姿を見せないため出会うことが奇跡という。


「何でそんな精霊がここにいるの?」


「私たちがここで生活するまではここには誰も住んでおりませんでした。自然を破壊するものもおりませんので精霊様が住むには都合のいい場所だったのでしょう。私達はこの島を過剰に荒らさないことを条件に住まわせていただいております」


 この話自体、何百年も前のことらしい。精霊は気に入らなかったら早々に出て行くらしいので、今も暮らしているということは、村人たちはこの島を荒らしてないんだろう。


「それで、俺達が新しい野菜を作ってもいいの?大量に畑を作ったり新種の野菜を植えたりするのって土地的に大丈夫なの?」


「ええ、精霊様にも許可を頂いております。精霊様も新しい食べ物が欲しいと…特にトマトと言いましたか?あれが食べたいと申しておりました」


 この間交渉の参考になればと渡した野菜はノームにも渡ったみたいだ。


「じゃあ大丈夫そうですね。ではこれを…」


 俺達は持ってきた野菜の種と野菜図鑑、育て方の本を取り出す。

 俺達は畑の耕し方、種を植えた時の育ち方、どう世話をすればいいのか、収穫までの流れを写真付きの本で説明した。

 もちろん、この世界には写真がないので最初は二人は驚いていたが、説明は面倒くさいのでこういうものがあると納得させた。

 ある程度説明が終わったので、次は実際に畑を見てみることにした。



 ――――


 村長の家を出て四人で畑の方へ向かっていると、村の入り口の方からシャルティエが来るのが見えた。

 なんか凄く急いでいるようだ。


「大変です!! 玉座の間に新たなお客様がいらっしゃっております。シオン様の姉で、サクラ様とご友人のヒカリ様と名乗ってますが?」


 えっ!? なんですと?

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