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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
229/468

日常編 トールのゴーレム化計画

「よかったのですかな? あのお嬢さんを放っておいて」


 お前がトールの暴露話をした所為だろ! と言いたかったが、蒸し返して話が進まないのも嫌だから突っ込まないことにした。


「いいんだよ。それより早くトールの体の話に戻ろう」


「そうでござるな。それで女体化は駄目と申されるのでありますか?」


 ありますか……って。本当に色々なのが混じってるな。


「ああ。一応トールは男のようだし、一時的に女体化や女装ならともかく、今後の体になるのなら、出来るだけ本人の希望の肉体にしてあげたい」


「なるほど……確かに一時的ならともかく、永続となると確かに使い慣れた肉体が宜しいかもしれませぬな」


 ドノバンはそう言いながら紙にスケッチを始めた。


「さて……吾輩のトールのイメージはこんな感じですな」


 待つこと数分。ドノバンは数枚のラフ画を見せる。


 一枚目は……ムキムキのマッチョ姿で頭に仮面を被ったレオタードみたいな服にマント。うん、どうみても変態だ。


 二枚目は……赤い髪と赤い眼、更に赤い髭を蓄えた巨人……神話のイメージ通りの姿でトールっぽいかもしれないが、こんな男を傍に置きたくはない。


 三枚目は……だから女体化は却下だっつってんだろ!! 懲りないやつだな。


 四枚目は……金髪のイケメン。ゴテゴテした鎧を纏っている。若干目つきが悪いが……実はツンデレで最初は敵で出てきたけど、後で仲間になりそうなキャラだ。


「うーん。どれもシックリこないな」


「そうでござるか? 一応日本でトールと呼ばれる人物っぽい感じに仕立て上げたのでござるが……」


 ……日本のトール像ってどうなんだ?


「えーっと、言い忘れてたんだが、デューテはトールをこんな風に傍に置いておきたいみたいなんだ」


 俺はスーラを指しながら説明する。


「なんとっ!? 手乗りサイズを希望でござったか。それならそうと早く言ってくだされば……」


「すまんすまん。忘れてた」


 ドノバンはまたサラサラとラフ画を、描いていく。よくそんなにスラスラと描けるよな。


「では描いている間に戦闘モードの方を選んでくだされ」


「はっ? 戦闘モード? 何それ?」


 また突然意味が分からないことを言い出したぞ。


「ですから今吾輩が平常モードの候補を描いております故……」


「じゃなくて、戦闘モードとか平常モードとかの意味を聞いているんだ!」


「……ドノバンくん。もしかして……体って一種類じゃなく、別パターンが用意できるの?」


 トオルは今ので意味が通じるのか? って別パターンの体?


「当然でござろう。よもやお二人は手乗りサイズのトールのみで敵と戦うおつもりでありますか?」


「いや、だって……ねぇ?」


 俺はトオルを見る。そのつもりだったとは言いづらい雰囲気だ。


「僕はデューテくんに魔力を送ってあの融合した状態にしてもらうだけの予定だったんだけど……もし体が自由に選べるなら便利だよね」


「確かに……トール本人が戦闘も出来るようになれば心強いが……危険じゃないか?」


 デューテに供給するだけならともかく、そもそもトールに力を与えてもいいものか?


「そこは戦闘モードは一日一時間しかなれないなど、制限を付ければ問題なかろうかと……」


「そんなことも出来るんだ……で、具体的にはどうやるんだ? ……まさか変身!?」


 おおっそれは胸アツだな。


「いいえ、吾輩でも流石に手乗りサイズから人型に変身できる技術は持ち合わせておりませぬ」


 その言い方だと、同じサイズなら変身できるのかな?


「じゃあ体を二つ持ち歩くのかい? それは面倒だよ」


 トオルの言う通り、それならそもそも手乗りサイズを作る意味が無くなってしまう。


「そうですな……簡単に説明しますと、トオル殿に協力をお願いしますぞ」


「僕に? 何をすればいいんだい?」


 ああ……トオルもすっかり研究モードになってしまった。


「まず先ほど魔法結晶を利用されると申されましたが、それを魔核に変更します」


「魔核に? ……ゴーレムにするってことか?」


 もしやコイツトールを実験道具に……。


「ゴーレムに……とは少し違いますぞ。そもそも魔核とは魔法結晶を加工して作るのですぞ」


「うん、それは聞いたことがある」


 確か知らずにドルクにお願いして怒られたっけ。


「魔法結晶を加工し、吾輩の魔法を込めて魔核となり、ゴーレムに命を吹き込む。ここまでは宜しいですかな?」


 俺は黙って頷く。良いけど……その、ころころ変わる口調は止めて欲しい。


「トールに使用するのは、吾輩が魔力を込める前の魔法結晶を加工した魔核を利用するのであります」


「それは……魔法結晶と何が違うんだ?」


「まず魔法結晶を加工する際、二つに割ります」


「えっそれじゃあ壊れるんじゃ?」


「魔法結晶ですと割ると壊れてしまいますが、魔核へ加工すると割っても平気なのですぞ」


「だから魔核にするのか……」


「そういうことですな。二つに割った魔核をそれぞれの体に埋め込むと、トールの意思で自由に体を移動することが可能ですぞ」


「でもそれじゃあ精神だけ移動して結局体は常に同じところになくちゃいけないんじゃないのか? トールが二人になる訳じゃないんだろ?」


 いくらトールの精神が自由に移動できても、現場に体がなければ意味がない。


「そこでトオル殿の魔法の力を借りるのですぞ。物体交換の魔法を使えばいつでも入れ替われますぞ」


「はっ? 物体交換の魔法? なんだそれ?」


 ある程度トオルの魔法は知っているが、その魔法は聞いたことがない。


「そういえばシオンくんに話した覚えはないや」


 おい! と恨みがましい目でトオルを見る。いや、魔法は切り札になりうるから、隠しておく魔法はあっていいけど、ドノバンが知っていて俺が知らないのは悔しいじゃないか。


「物体交換の魔法は最近開発した魔法なんだ。そうだね……今僕はここに銃を持ってる」


 そう言って鞄から銃を取り出す。


「でも今は銃よりも剣が欲しい」


「召喚すればいいじゃないか?」


 トオルならそれくらい簡単だろ?


「そんな野暮なことは言わないの。でね、剣は嵩張るから普段は持って来ていない。研究室に置いてあるんだ」


「ふむふむ。それで?」


「予め銃と剣に物体交換の魔法を登録していると……ほらっ」


 トオルの持っていた銃が一瞬にして剣に変わった。


「えっ!?」


「僕がさっきまで持っていた銃は僕の研究室に、代わりに研究室にある剣がここにってわけさ」


「凄いな……これ、何とでも交換できるのか?」


「予め登録している物同士ならね。登録は一対一しか出来ないんだよ。だからこの剣はさっきの銃としか入れ替え出来ないんだ」


「へぇ便利そうだ」


「この魔法は普段持ち歩くのに困難なもの大きな物や割れ物を嵩張らないもの。例えば分かりやすく、イラスト付きのカードとかと登録するんだよ」


 カードとポーションを交換するようにしていれば、鞄の中で割れる心配がないってことか。


「これを利用するとね。キャンピングカーを登録すれば置き場にも困らないよ。カードを城のガレージに入れておけば、いつでもキャンピングカーと交換が可能って訳さ。まぁそうすると、この間の戦いのように助っ人が転移できないようになっちゃうけど」


 確かにデメリットはあるが、普通に町を訪れたときに場所に困ることがないのはいいな。


「そっか……確かにこれならトールの体同士を登録していれば、いつでも入れ替われるね」


 普段は戦闘モードの体を部屋に置いて、必要になったら交換すればいいのか。


「でも、その魔法をトールの体に登録? することになるのか? それってトールの魔力を馴染ませる邪魔にならないか?」


 他人の魔力が入っていたら不純物扱いで駄目になりそう。


「これはケータイの魔法結晶と同じ要領で出来るから、取り外し可能なんだよ。だから馴染ませた後で装備すれば問題ないと思うよ」


「……その剣には魔法結晶はなさそうだけど?」


「まぁこれ僕の魔法だから……僕が使う分には、僕のメモリに登録してあるから必要ないんだよ」


「あっそういうことね」


「では吾輩は手乗りサイズの設計に戻ります故……では体はあちらのお嬢さんにも決めていただきましょう。シオン様恐れ入りますが、呼んできてくださらぬか?」


「えっ? 俺が?」


 結構時間が経ったからもう修羅場は終わってるかもしれないけど……終わってなかったらやだなぁ。


「生憎とイチカ、ニコ、ミユは向こうに待機させたままゆえ、命令することが出来ないのでござるよ……」


 そういえば慌てて逃げたからメイドゴーレムはあっちに待機しているんだった。仕方ない。行ってくるか。



 ――――


「あっ遅いじゃないか! お話はもう終わったの?」


 戻るとデューテの機嫌はすっかり元通りだった。トールの方は……。


《…………》


 霊体だから表情は分からないけど憔悴しきってる気がする。……こうなったら過去の英霊も形無しだな。


「ある程度終わった。今はトールのデザインを考えてるから二人にも選んでもらおうと思って……」


「本当っ!? 見る見る」


「よしじゃあ……と、イチカ達も一緒に……って、そう考えたらあっちは狭いよな。なぁ誰でもいいけどドノバンとトオルの二人をこっちに呼んできてくれないか?」


 だが、三人とも動かない。


「アナタノ、シジニ、シタガウヨウニハ、メイレイサレテオリマセン」


 ……俺がマスターじゃないから指示に従ってくれないのか。この辺の臨機応変さはまだないんだな。


「……仕方ない。二人を連れてくるからデューテはそこで待ってろ」


「はーい! 早くしてねっ」


 ……一体何往復すればいいんだろうな俺は。



 ――――


《な、なんだこの仮面は!! それにこの格好……これでは我はただの変態ではないか!!》


 やっぱり仮面レオタードマントはトールの姿じゃなかったんだな。


「この赤い巨人も何かイメージ違うね。黄色ならまだ合うんだけど……でもムサいからやっ!」


《ムサい……この姿が一番我に近いのだが……》


 もしデューテが体を乗っ取られたままだったら、この姿になったのかもしれない。そう考えると……本当に助かってよかったなデューテ。


「この女の子美人だよね。僕と美人コンビでいいかも!」


《だから我は女体は嫌だと言っておろうが!!》


 デューテはトールが女の姿でもいいのか。男として見てないんなら嫁がいるくらいであんなに怒らなくてもいいだろうに。


「じゃあ、やっぱり最後の選択肢しかないか。うーん。カッコいいけどちょっとイメージと違うかな」


《良いではないか。我はこれを気に入ったぞ》


「……イケメンだからモテるとか思ってない?」


《なっ!? そんなこと思うはずがなかろう!》


「まっ、いいけどね。ねぇこれ以外でもいいんでしょ?」


「もちろんでござる。参考資料さえあれば吾輩に任せるがよいぞ」


「ベースはこの四番目でいいけど……ここを……」


 デューテはドノバンにのみ聞こえるように耳打ちする。一体何を考えているんだ?


「ふむ。面白いでござるな。少し時間は掛かるかもしれぬが、それもよろしいか?」


「それは仕方ないよっ! その代わり先に手乗りサイズを作ってね」


「了解でござる。ではそちらの体も選んで下され」


 ドノバンが用意した手乗りサイズのラフ画を確認する。


 一枚目は上半身裸で虎柄のパンツ。雷様が持っている太鼓……雷鼓って言うんだっけ? それを背中に担いで……。


「どうみてもカミナリ小僧って感じだな」


「可愛いけど流石に裸はちょっと……」


《わ、我は嫌だからな絶対!!》


 どうやら却下みたいなので二枚目を見る。

 二枚目は人型ではなかった。カミナリを纏った鳥……サンダーバードのミニチュア版って感じだな。


「こ、これいいっ! すごくカッコいいよっ! ねぇこれにしようよ!!」


 デューテは一人大興奮だ。


《むむ……確かに格好いいが……我としてはやはり人型の方が……》


「ねぇねぇこれって空飛べるかな?」


「トール本人は飛べるでしょうが、手乗りサイズの為、乗せて飛ぶことは無理ですぞ」


「えー! 大きくしたりできないの?」


 それが出来るならわざわざ戦闘モードを作ったりはしないだろ。


「ふむ……巨大化……改めて言われると、やってみる価値は……」


「こらこら。ここで実験はしない!」


 このままでは変な実験が始まりそうなので釘をさしておく。

 しかしこのイラストは中々悪くない反応だ。トールはやはり人型の方が良いみたいだが……そこまで嫌がってはいない。


「ならこれは一応候補に入れておいて次を見てみようか」


 三枚目……こっちも人型ではなかった。馬……いや、虎?


「あっこれもいいね」


「麒麟と呼ばれる魔物を雷獣っぽくイメージしてみましたぞ」


 確かに……麒麟って言われればそんな気がする。


《むむ……我の体というより、タングリスニとタングニョーストの代わりに我の騎獣として欲しいぞ!!》


「何だそのタンなんとかって……」


「トールが昔、使役していたヤギだよ。戦車を引かせたり、食料にしたりしていたんだって」


「食料って……食ったのかよ!?」


《うむ。タングリスニとタングニョーストは骨と皮が無事であればミョルニルで復活させることが可能であったからな。誠に便利な奴らであった》


 懐かし気に語るトール。いや、いくら復活するって言っても食っちゃ駄目だろ。


「……何となく想像したら嫌なイメージが付いちゃったから次を見ようか」


 四枚目は……金髪ツインテールのロリメイド。


「てめー! 女体化は無しって言っただろうが!!」


 俺は思わずドノバンへ詰め寄る。


「確かにそう言われたでござるが……一応本人の感想も……」


「僕……これ持って歩きたくないよ」


《き、貴様っ我を何だと思っておるのだ!!》


「……ほらな」


「うう……分かったでござる」


 全員からフルボッコにされて、流石のドノバンも大人しく四枚目を引き下げる。


「えーと、次が最後だな」


 五枚目は……さっきの戦闘モードの四枚目をデフォルメにしたキャラ。

 金髪で鎧を装着して……ゲーム内で使ってしまいそうなキャラだ。


「うーん、これも持ち歩くのはちょっと……」


 まぁさっきのロリメイドといいこれといい、デューテが持ち歩いていたら……常にフィギュアを持ち歩いている少女。中学生どころか小学生に見えるかもしれない。


《これが最後なら、我としてはもうこれで妥協するしか選択肢がないのだが……》


 二人の反応は微妙だ。このままではサンダーバードが有力かな?


「吾輩が準備したのはこれだけでござるが、他のが良ければ出来る限り要望には応えますぞ」


「……そうだな。今すぐに必要って訳でもないし、少し考えて決めても良いかもな」


 俺としてはトールの器については方向性が決まったので、後は結果を聞くだけで十分だ。


「分かったよ。トールと話してまた今度決めるよ」


 デューテも軽々しく決めていいとは思ってないようなので、後日正式に決めることになった。


 数日後、デューテとトールは体を決めたようだが、俺には完成まで秘密って教えてくれなかった。微妙に嫌な予感がするんだが……まぁトオルやドノバンは納得しているようだったし、そこまで変なものにはなってないだろう。

 完成までしばらくかかるようだが……俺はその時を楽しみに待つことにした。

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