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ロストカラーズ  作者: あすか
第一章 魔王城散策
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第21話 魔王城を見て回ろう

 朝起きると、布団の中にスーラがいた。寝る前はいなかったけど、いつ入ったんだ? 触るとひんやりとして気持ちがいい。


 スーラは起きていたらしく《おはようなの!》と元気に言ってきたので、俺も「おはよう」と答えた。


 昨日から日課になった朝のトレーニングだが、今日からはスーラも一緒だ。まぁ、朝は魔力向上のトレーニングだけだからスーラを必要とはしない。だけど、すっかり定位置になった肩から《頑張れ!》って声を掛けてくれるのはちょっと嬉しい。

 それにスーラさんは俺より魔力のコントロールは上手なので、駄目な所はアドバイスしてくれるのもありがたい。


 ちなみに今日はトオルも同じ時間に起きたため、一緒に訓練をした。

 トオルの方が魔力のコントロールが上手な気がする。負けてられないな!



 ――――


 朝のトレーニングが終わり、朝食も済んだ頃、シャルティエがやって来た。


「早速だけど今日の予定を教えてくれないか?」


 今日は城の見学。その途中で村に挨拶と、大まかには把握しているんでけど詳細は知らない。


「はい、お二人の準備が出来ましたら私が城内の案内を致します。城内見学のルートは、ここ玉座の間からスタートしまして、五階の案内。その後、一旦外に出まして周辺の案内。そして城内に戻りまして侵入者エリアの説明をした後、居住エリアを一階から上がります。最後に四階から村へと向かい、そこでお昼を取る予定となっております」


「城内の案内してから四階の昼食って間に合うの?」


 かなり広い城みたいだから、城内の案内だけで、そうとう時間がかかる気がする。


「今回は案内だけですから。移動も転移を使いながら要所を押さえていくだけです。侵入者フロアなどは説明しかしませんし、各階層の詳しい説明は後日行います」


 今日はあくまで様子見だけってとこか。


「あ、何か持って行った方がいいのはあるか? さすがに手ぶらじゃマズいよね?」


「出来れば野菜の種をお持ちいただけますと、すぐに始められるかと存じます」


「了解、じゃあちょっと準備してくる。多分十分くらいで準備できるから、それが終わったら出発しよう」


「畏まりました。では私は外で待ってますので、何かありましたらお呼び下さい」


「なんか、今日のシャルティエは昨日よりもおとなしいね」


 昨日に比べて真面目な感じだ。


「昨日はあれからルーナ様にこってり絞られたんですよー。もう折檻はヤなんです。だから今日は真面目にいくのです!」


 大分絞られてらしい。まぁサボりを暴露されたりしたからなー仕方ないか。


「でも、俺達的にはかたいのは好きじゃないから、もっと気楽にしてよ。別にルーナさんは今いないんだしいいんじゃない?」


「普段から気をつけないと地が出るじゃないですか~。駄目です、今日は真面目に行きます」


 そうは言いつつも早くも語尾が伸びてる。それを指摘したら元に戻りそうだから言わないけど。



 さて、持って行く物は俺は野菜の種と肥料かな。歩き回るので出来るだけ身軽な方がいいだろう。トオルは調味料と農作業の入門書、それから自分用のメモ帳やデジカメ、ポラロイドカメラなどを用意していた。

 俺も写真を撮ることを考え、スマホは忘れずに持つ。あとは、念のため護身用にスタンガンと結界石をお互い持っている。


 準備が終わったのでシャルティエと共に魔王城見学へと出発した。



 ――――


 まずこの城は五階層で、各階にそれぞれ西と東で侵入者フロアと居住区フロアに分けられている。侵入者フロアと居住区フロアは繋がっていないため、侵入者が居住区に入ることはない。


 シャルティエ達シルキーは侵入者フロアと居住区フロアを移動できる転移扉があるので、それを利用している。

 城に登録しないとその扉は使えないらしく、侵入者にはただの壁に見える。

 すでに俺とトオルは登録済みらしい。


 まずは五階。俺たちが今いる所は侵入者フロアの玉座の間だ。ちなみに居住区にも全く同じ玉座の間があるらしい。外交などで使うお客様用に作ったらしいが、殆ど使ったことがないとのこと。


 玉座の間の扉を開ける。そこは真っ直ぐな一本道のみ。正面には降りる階段が見える。


「最上階は一直線の方が臨場感があっていいと、ルーナ様が仰ってました」


 ゲームでもラスボス前は基本一直線だもんな。冒険者もついにここまで来たんだ! とか思ったりするんだろうか?


 ふと通路に目を凝らすと階段のすぐ横に扉が見えた。これが登録者しか見えない転移扉か。


「ちゃんと扉が見えるようですね。登録されてない方は、この扉が見えないんですよ。この扉を触ると五階の居住区へ行けます。見えない方が触っても何も起きません」


 そう言ってシャルティエは扉に触る。するとシャルティエの姿が突然消える。


「すごいね。これが転移……ねぇ僕たちも早く試そうよ」


 そう言ってトオルが俺を追い越して扉に触れる。するとトオルの姿も消えた。


 俺も扉に触れようとして、ふと止まる。そう言えば肩に乗っているスーラはどうなるんだ?


《大丈夫だよ!! シオンちゃんに触ってると一緒に移動できるの!》


 どうやら転移する際、触っているものは一緒に転移するらしい。まぁ、例え転移できなくてもスーラは登録されてるので問題はない。


 俺は安心して扉に触る。一瞬体から重力がなくなる感じがした。次の瞬間目の前にはトオルとシャルティエがいた。


「無事シオン様も移動できたようですね。少し遅かったから心配しました」


「ああ、ごめん。転移前にスーラさんがどうなるか気になって。どうやら一緒に行けるみたいだったから来たんだ」


「左様でしたか。そういえば説明をしておりませんでした。転移する際に体に触れているものは一緒に転移されます。もし登録がない者を連れて行かれる際は手を繋げば一緒に連れて行くことも可能です」


 普段は登録のない生き残った侵入者を捕虜にする時くらいしか活用しない機能だから忘れていたそうだ。


「ここは五階の居住区フロアです。他の階と違い、五階は侵入者フロアが狭いので、その分居住区フロアが広いですよ」


 五階の居住区フロアを見て回る。まずは玉座の間、侵入者の所と全く同じだ。あ、向こうはソータとの戦闘で一部壊れてたから全く同じではないな。使ってなくても、掃除は毎日しているようだ。


 また、奥には六階へと繋がる階段もあった。この城は五階層と聞いていたが? と思ったら、六階は魔王の寝室やプライベートルームしかなく、シャルティエも入ったことがないらしい。入る権限を持っているのはルーナしか持っていないため、今は入れなかった。


 他の部屋も見てみる。大きなホールだ。


「ここはパーティー会場です。舞踏会や社交パーティーをする際に利用します。過去に魔王会議を行った際に晩餐会会場として利用しました」


 確かに城といったら社交界で舞踏会とかありそうだ。……魔王城でそれをやるイメージはないけど。それにしても、魔王会議とかあるんだ。そっちの方も気になるぞ。


 魔王会議について聞こうかと思ったが、シャルティエが先に進もうとしていたので後回しにした。


 他の部屋は、試着室や控え室、護衛の待機室など来客用の部屋ばかりだった。玉座の間もそうだが、五階は外に向けたフロアのようだ。


「それでは一旦城の外へ出ましょう」


 シャルティエの案内で外へ向かう。外へは一々歩いて行かなくても転移して行けるらしい。


 各階層の居住区フロアには転移部屋がある。五階にも従業員控え室の隣にあった。部屋を開けると中は掃除道具などが置いてある。どうやらメイド達の物置も兼用しているようだ。その部屋に奥に扉がみえる。さっきの転移扉と違ってこちらの扉にはいくつかのボタンがあった。


「この扉が転移の扉にです。先ほどの扉は同じ階層のフロア間しか移動できませんでしたが、こちらは他の転移の扉を選んで使用します」


 う~ん、同じ転移の扉って名称だと分かりにくいな。さっきの転移の扉は要は渡り廊下的な役目だったので、あっちの転移の扉は渡り扉って考えよう。


「この扉に付いているボタンを押すとそのボタンに対応した扉と繋がります。転移の扉は各階層にありますここと同じ転移部屋、それからこの城の外にある転移小屋と兵士宿舎と訓練場。それと各階層の罠の先にある島に繋がってます」


 ボタンを押して転移する。まぁエレベーターみたいな感じだな。この転移の扉も渡り扉同様登録者にしか見えないし、利用もできないらしい。


「では城の外の転移小屋へ移動します。転移小屋のボタンはこちらのボタンです」


 シャルティエはボタンを押すとそのボタンが光り出す。その後、渡り扉の時と同様に扉に手を当てる。すぐにシャルティエはいなくなって、ボタンは元に戻る。


 今度は俺は自分では扉を使わず、トオルに操作してもらう。トオルの腕を掴んでいたが、無事に転移できたみたいだ。


 辿り着いた転移小屋は二部屋に分かれていた。転移の扉がある部屋は転移部屋と同じように半分物置と化している。隣の部屋はテーブルと椅子がある。ちょっとした休憩室的な感じだ。聞くところによるとどうやら外から来た人用の待合室的も兼ねているらしい。


 待合室と転移部屋を一緒にして問題ないのか? と思ったが、どうやら隣の部屋への扉は渡り扉同様、外部の者には見えないのでただの物置と思うだけだそうだ。


 俺達は小屋を出る。外は晴れていてとても気持ちがいい。心なしか空気もうまい気がする。


「そういえば、こっちに来て初めて外に出たのか。う~ん! 気持ちがいいな」


 俺は大きく背伸びをした。


「ここは排気ガスやらで空気が汚染されているとかないからね。うん、山頂のおいしい空気を吸っているみたいだよ」


 トオルも同じく大きく背伸びをしている。


「俺は魔王城とか言うから、てっきり外は黒雲がと雷が空中にあって、太陽が一切ない場所と勝手に思ってたよ」


「魔王城って言ったら最後の戦いって雰囲気だよね。でも実際には自然に囲まれた良い場所だね。うーん、なんとか車を持ってきてソーラーパネルで充電したいね」


 そっか、それもあったな。確かにこの太陽なら十分に充電できるだろう。


「ねぇシャルティエ、玉座の間にある俺達の建物、あれって馬車みたいに移動に使うものなんだけど、あそこから出られないんだ。どうにかして外に出す方法って何かないか?」


「あの建物のことですか? えっ、あれって馬車だったんですか!? あんな重そうな荷台を運べる馬はすごいですね。あ、移動だけなら物体転移で出来なくもないと思います。でもルーナ様に許可を貰わないといけませんので……後で聞いてみますね」


 キャンピングカーの仕様について説明するのは面倒だから、勘違いさせたままにしておく。と、どうやら扉をくぐる転移ではなく、物体を転移させることも出来るようだ。つくづく転移って便利な能力だと思う。


「魔王様がいなくても魔法が使えるの?」


 転移魔法は魔王にしか使えないはず。物体転移は転移の扉のように設置型以外は使えないはずじゃ?


「そうですね。ですが、ルーナ様は魔王様から魔法の一部が使える魔道具を預かっております。魔王様がいなくても物体転移くらいなら使えるはずです」


 どうやら魔法結晶みたいなものを持っているみたいだ。それなら納得だが、だとしたら回数制限があるはずだ。おいそれとは使ってくれないかもしれない。


「まぁ無理にとは言わないから、もし可能なら程度でお願いするよ」


「畏まりました。では先に進みましょう」



 移動しながら辺りを見渡す。城を守るのだから全体に大きめの城壁でもあれば壮観だったろうが、残念ながら高さ三メートルくらいのちょっと高い壁だ。これで的から守れるのか? と思ったが、城壁の上から城をドーム状に囲むように侵入者を防ぐ結界があるらしい。


 魔王が結界があるなら見晴らしがいい方がいいと城壁は小さくしたそうだ。

 そのまま歩いていると城門まで辿り着く。さすがに城門は立派だが、何か物足りない。


「ここが城門です。入口はここしかありません。先日までは見張りとしてガーゴイルさんそこにいたのですが、先日の戦いでいなくなってしまわれたので今は誰もいません。少し寂しいですね」


 どうやら両端の門柱の上には門番としてガーゴイルが居たらしい。ソータに倒されたようだ。地球でも狛犬とかあったけどやっぱり入口には何かあった方がいいな。


「ここより外は結界の範囲外になってしまうので、今日はここまでですね。この辺りを簡単に説明しますと、ここはカラーズ大森林の一番外れになります。正面の道をまっすぐに進みますと大森林から抜け出して赤の国の領土に入ります」


 入口から正面を見ると、馬車が通れそうなくらいの道がある。だが、聞くところによるとほとんど使われない道らしい。まぁ城から出るわけでもないから、使うのはこの城に用事のある者、つまりは冒険者などの侵略者だけだ。その侵略者もこっちにはバレないようにと道を使わずに森を抜けてくることが多いそうだ。


 だから本当は道も必要はないのだろうが、魔王が城の体裁として必要と感じたため作ったらしい。


 なお、この道の部分、森の出口までの距離を半径にして城を中心に円にした範囲が魔王の領地になるそうだ。その範囲にもドーム状の結界が張られてある。こちらは関知するだけの結界で進入を妨害することはできない。


「右の方をまっすぐ行ったところに広場があります。それ以外の領土は全て森です」


 ここからでは見えないが、森を少し歩いた所に大きさの広場があるらしい。広場か…そのうちピクニックとかできないかな?


 次に向かったのが兵士宿舎、および訓練場。兵士宿舎は三階建ての建物だ。部屋が各階三十部屋、各部屋四人部屋のため最大三百六十人の寝泊まりが可能だ。


 宿舎の中には食堂と浴場がある。どうやらこの世界でも風呂の文化はあるみたいだ。


 訓練場は大きめの体育館って感じだ。中には保健室的な部屋と武器庫がある。武器は剣や槍、弓などあったが、どれも安物のようだ。高価な武器や防具は城の宝物庫に少し眠っているらしい。


 宿舎も訓練場も兵士がいなくなったため、今は無人で誰も使っていない。

 結構立派な施設なので、使わないのはもったいないと思う。今後魔法の練習はここでした方がいいか?


「城の外の案内は以上です。では城の中へ戻りましょう」


 俺達は頷いてシャルティエの後をついて行く。城門前まで戻り城の玄関前で立ち止まる。


「この扉の先が侵入者フロアの一階になります。扉を開けてすぐ横に居住区フロアの転移扉がございます」


 玄関を開けるとまっすぐの道、正面には扉が見える。すぐ横には渡り扉があった。どうやら居住区には専用の入口はなくて渡り扉か転移小屋や兵舎や訓練場を使うしか入る方法はないらしい。


「侵入者フロアは罠があって危険ですので、地図を見ながらの説明だけにします。地図は各階層一枚です」


 そう言って四枚が手渡される。五階は玉座しかないから地図はないのか。

 俺は地図を捲って確認する。


「…………なあこれ本当に一階から四階の地図なんだよな?」


「ええ、覚えやすいですよね」


「いや、覚えやすいってレベルじゃないぞ! 全部同じじゃねーか!? これで本当に大丈夫なのか?」


 貰った地図は全てが同じ形だった。いや、一階だけ城の入り口からの直線が付け足されている。それ以外は全く同じだった。

 地図は全て正方形の形でマス目が引いてある。どれも七×七のマス目で大きな正方形の中に計四十九個の小さな正方形があるだけだった。


「確かに地図を見ただけではそう感じるでしょうが、ルーナ様が造られた罠ですよ。極悪に出来ております」


 シャルティエは恐ろしいと体を震えさせる。


《シオンちゃん。あのね知らない人が入ったら絶対に出られないの!》


 シャルティエだけじゃなくスーラまで……。


「簡単に説明しますね。侵入者のフロアは簡単に言えば各階四十九個の部屋があるだけです。その内の一つに次の解へ進む階段がございます。今目の前に見えます扉を開けると、地図でいうところの縦7―横4マスに入ります。私たちは縦―横で部屋を把握しています」


 シャルティエは自分の地図をこちらに向けながら7―4を指さす。……マス目なので、場所の説明は分かりやすい。


「部屋の構造は四十九部屋、一階から四階まで全て変わりません。四方に扉があるだけです。ですが、扉は部屋ごとに開く扉や開かない扉がございます。また、一番外側の部屋の扉に入ると、反対側の部屋へ行きます。地図でいうとの左には部屋はありませんが左の扉を入ると1―7へ移動します。部屋には目印はございませんので、侵入者たちは行き止まりがなくて混乱するでしょう」


 俺はシャルティエの言ったことをまとめてみた。


 一階から四階すべて同じ構造。

 どの部屋も学校の教室程度の大きさで四方に扉、無限ループ。


 今は説明とマップに数字が書いてあるから分かるけど、実際の部屋には数字なんか書いてないので、自分がどの部屋にいるのか分からなくなるとのこと。他にも凶悪な仕掛けの説明もあった。


 部屋には罠は落とし穴や天井が落ちる、毒ガスが噴き出る罠がある。

 次の階への階段部屋や罠の内容は自由に変えることが出来る。

 次の階へ行く部屋の扉には転移の罠が仕掛けられている。


 これにより、マッピングしても、二回目は構造が変わっていることになる。その為、一回で攻略をしなくてはならない。そして、階段部屋の扉に仕掛けてある転移扉が侵入者を更なる死地へと追いやる。


「えーと、本日一階は、2―5の部屋に二階への階段がございます。ですので、今ですと2―5へ入る扉に触ると砂漠の島へ転移します。無事に砂漠の島から帰ってきたら階段の部屋へ入ることができます」


 砂漠の島。具体的な大きさは計測していないらしいが、島の外周を一周歩くだけで数日は掛かる大きさの島らしい。

 その島は約九割が砂漠地帯だという。砂漠以外は海岸沿いで砂浜や崖だったりするそうだ。罠にかかったら最後、オアシスも何もない砂漠の真ん中へ転移させられる。見渡す限りの地平線。目印もない状態で、強力な砂漠の魔物と戦いながら、どこに存在しているか分からない出口の扉を探すか、海から脱出して逃げるかの二択になる。


 海からの脱出は船もない状態で、カラーズ大陸がどちらの方向にあるかも分からないまま脱出することになるので、生還はほぼ不可能に近い。


 仮に運がよく出口の扉を見つけて戻ってこれたとしても、これはまだ一階。この後も二階三階四階とまだ三フロアも残っている。そして階層が上がるごとに罠は凶悪さを増していく。


 シャルティエとスーラが極悪と言った意味が分かった。無理ゲーだこれ。


「ねぇ。これソータ達以外に二階に上がれた冒険者っているのか?」


「ええ、いらっしゃいますよ。過去には、ゴールが分かる魔法を使ったり、隠密に特化した魔法を使ったり、罠の察知ができる魔法が使える人など様々な方がいらっしゃいました」


 へぇ。この罠を抜けることが出来た冒険者もいるんだ。これは全体的な冒険者の実力が気になるな。


「ではこのまま二階の説明もします。とは言いましても内容は一階とほぼ変わりません。変更点としては二階からは罠の種類が増えます。まず各部屋の罠ですが、既存の罠に加え、人数制限の罠が増えました。扉の中には入る人数が決まっており、グループが必然的に分断されます。チームワークで乗り越えてきた冒険者はここで脱落します」


 一人だけ有用な魔法を持っていてもここで分断され罠にかかってしまうと。えげつないな。


「二階も一階と同様、次の階段前に転移の罠がございます。二階の転移先は平原のエリアでございます」


 平原エリアの島は砂漠の島よりも、面積は倍以上あるらしい。平原って言っても山もあれば森もある。平地、草原の面積が広いため平原エリアと呼んでいるようだ。

 冒険者は島の最南端へ飛ばされる。城へ戻る扉は最北端だ。もちろん冒険者達はどこに扉があるか分からない。砂漠以上の広大な土地で、たった一枚の扉を探すのにどれだけ苦労するのだろう。

 もちろん野生の強力な魔物もいる。ここの平原にはヘルハウンドやサーベルタイガーのような肉食の魔物、森の中には昆虫型や植物型の魔物が多数存在する。


 砂漠よりは過酷な環境でなくても、広大な土地から扉を探すのは間違いなく不可能であり、このエリアを抜け出した冒険者はいないらしい。


「じゃあ三階以降はソータ達以外に入ったことないの?」


「いえ、三階以降の罠の確認などもあり、二階の罠を発動しないようにして、わざと三階や四階に通した冒険者がいらっしゃいます」


 あ、あえて罠を発動させないとか……いや、もう何も言うまい。


「じゃあ簡単に三階と四階を教えてくれるか?」


「はい、三階は謎解きエリアです。随所に散らばっている謎や鍵を手に入れながら先へ進みます。知識・閃き・勘・そして運がものをいいます」


 謎を十分以内で解かないと部屋が水で一杯になったり、酸素がなくなる部屋。別の部屋に鍵が隠されている部屋や、別の部屋の内容を反映した謎もあるらしい。

 まるでリアル脱出ゲームだ。但しこちらは本当に命がかかってるが。ここで脳筋パーティーを脱落させるつもりだったらしいが、そもそもがここまで来れない冒険者ばかりだ。


「ここの転移は海のエリアへ飛ばされます」


 ここの転移先は小さな島。見回すだけで島の大きさがわかる、辺りには小屋が一軒あるだけで他には何もない島とも呼べない場所に転移する。小屋の中には何もない。ただ壁に『外に見える島、そこに出口はあるだろう』そう書かれている。


 小屋を出て辺りを見回すと周りには四つの島が見える。その内の一つに出口への扉がある。どの島へも距離は10キロ程度。船がないので泳ぐか飛ぶかしないと辿り着けない。侵入者は四択に賭けて進みだすしかないが、海にはシーサーペントなど強力な魔物が棲息している。


 荷物を持ったままや、防具を装備して泳ぐのは無謀だろう。ここを抜け出すのには手ぶらになるしかない。


 一階で体力を削られ、二階でパーティーを分断され、三階で頭脳戦を仕組んだ後にアイテムを処分させる。

 実際は三階までに全滅するのだが、確実に敵を葬るという意志を感じる。


「最後に四階ですが、実は四階には罠は一種類しかございません。階段の部屋から次の部屋に全員が入ると床に魔法陣があり強制的に転移させられます」


「ん? 四階にも転移があるのか? 四階の転移先は村だと思ってたんだけど?」


 侵入者が村に来たらまずいだろう。


「ええ、ですから四階の転移は別の場所へ転移します。その転移場所は……一階の7―4です」


 一階の7―4と言えば………入口じゃねーか!? ってことは四階に行ったら、振り出しに戻るってこと?


「四階の罠って抜けることが可能なの? 永遠に先に進めないんじゃないの?」


「実は罠の発動条件が入ってきた部屋の扉を閉める。なんです。だから部屋の扉さえ閉めなければ発動しません。開けっ放しにして次の部屋へ進めばいいのです。ですが、一階から三階の部屋は、全て入ってきた扉を閉めないと次の部屋の扉が開きません。その為、ここでは必ず一回は引っかかると思われているのですが……」


 ここまでやってくる侵入者がいない訳か。ようやく来たソータは転移魔法をラーニングしてしまったから発動しても一瞬でここまで戻ってこれるわけか。


「じゃあここをクリア出来たら玉座までもう何もないの?」


「そうですね。後は五階の玉座の間の扉に転移の罠がありますが、ロストカラーズへの転移ですので出来るだけ発動は控えたいと言ってました」


 ……もし俺達がルーナに会う前に扉に触ってたら、ロストカラーズに転移したのだろうか? そう考えると恐ろしいな。


 それにしても、この罠を考えた奴の底意地の悪さを垣間見た気がする。ってこの罠を作ったのはルーナか。


「シャルティエ、ルーナさんって何者なん?」


「ルーナ様はメイド長ですよ? 罠の設計をしたり、魔王様がいたころは魔王様の仕事の補佐、魔王様の部屋の掃除、軍事会議の司会、軍師もしていました。今は魔王様がいないため少しは落ち着かれたようです。すべて完璧に仕事をこなしております、まさにメイドの鏡です」


 そう語るシャルティエの目はルーナへの羨望の眼差し……。って、今言った内容ってメイドの仕事じゃないからね? メイドが軍師って何なのよ!?


「ルーナ様には魔王様も頭が上がりませんでした」


 はい、影の支配者に決定です。きっと俺が城主って立場になっても、この城を支配するのはルーナに違いないな。


「それでは侵入者フロアの説明はこれまでにして、次は居住区フロアへ行きましょう」


 シャルティエは一階の渡り扉を使い転移する。


 俺達も後を追って居住区フロアへ向かった。

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