第156話 予期せぬ仲間を加えよう
ヤバい。早く起きすぎた。
出発の朝、俺は姉さんたちと約束していた時間よりも二時間も早く目が覚めた。
昨日の話では決戦の舞台が【トールの遺跡)だと言うではないか。それを聞いてからテンションがただ上がりだ。
同室のリュートはまだ寝てる。きっと隣の姉さん達も寝てるだろう。
……食堂ってもう開いてるかな? 流石に早すぎるとは思うが、とりあえず行ってみることにした。
――――
「やあ。おはようシオンくん。今日は絶好の探索日和だね」
食堂へと降りると、そこには既に先客がいた。
「……何でここにいるんだ?」
「やだなぁ。朝ごはんを食べてるからに決まってるじゃないか」
「チゲーよ! 食堂にいる理由じゃなくて、この国にいる理由を聞いてるんだ!!」
本来なら絶対にここにいてはいけない人物。トオルに向かって全力で突っ込みを入れた。
「だって……こんなメール見せられたら我慢出来るわけないじゃないか」
トオルはそう言って俺が昨日送ったメールを見せる。
『トオル! 俺、トールの遺跡に行ってくるよ! トオルじゃないぞ。トールだからな。あの北欧神話のトール。難易度も高くてあまり攻略もされてないらしい。いやぁマジで楽しみ。ミョルニルとか見つけたらどうしよう!?』
うん。昨日のハイテンションで書いたってのがはっきりと分かるメールだな。やはりトオルも俺と同じように【トールの遺跡】と言う言葉は琴線に触れるものがあったに違いない。
恐らくコイツはメールを見てすぐに準備してきたんだろう。
トオルは過去に女王を迎えに来たことがあるから、転移ですぐに来れる。この宿は……一応シクトリーナ城には報告してるし、ルーナにでも聞いたのかな?
「……その隣の人物もか?」
隣にはエキドナが黙ってこちらを見ている。口にはクイズ番組で回答権がない人が付けるようなバッテンマークの付いたマスクをしている。
目には涙を浮かべている。……そんなキノコの断面図のようなに目で見られても困るんだが。
「昨日僕が話したら『絶対に妾も連れていくのじゃ!』って聞かなくてね。まぁラミリアくんもいるし別にいいかなぁって」
「……その口のマスクは?」
「大人しくしてたら連れて行くよって言ったからかな」
「……そうか」
俺は黙ってケータイを取り出すとラミリアへ連絡した。
『シオンさん!? こんな朝からどうされましたか?』
「緊急事態が発生した。今すぐ宿まで来てくれるか?」
ラミリアは念のため俺達とは別の宿に泊まっている。ミサキとレンもまだ王都にいるのかな?
『緊急事態……分かりました。すぐに行きます!』
どうやらすぐに来てくれるようだ。うん。エキドナはラミリアに任せよう。
――――
「ねぇふざけてるんですか? ふざけてるんですよね? ふざけてる場合ですか?」
ヤバい。ラミリアがめっちゃ怒ってる。まぁ緊急事態と言われて呼び出されてこれじゃあ怒るのも仕方ない……か?
「そうだ。ふざけてる場合じゃないんだ。だから……よろしく頼む」
ラミリアの事だから俺の表情から状況は理解できているはず。
「貴方は……はぁ。分かりました。エキドナ様は私が引き取ります」
ラミリアがそういうと、エキドナがふるふると首を振る。何も言わなくても正直ウザい。
「エキドナ……喋っていいから何が言いたいか言ってくれ」
するとエキドナはようやくマスクを外す。
「嫌じゃ嫌じゃ。妾も行くんじゃ! のうトオル。大人しくしていたら連れて行ってくれると言ってくれたではないか」
「だからここまでは連れて来たじゃないか。でもね、ここから先はシオンくんの許可がないと……」
それを聞いてエキドナはもう一度俺を見る。目にたっぷりと涙を浮かびあがらせて……だからそんな目で見られても困るんだって。
「のうシオンいいじゃろ? 妾も行きたいんじゃ!」
「……エキドナ。そもそもどこに何しに行くのか知っているのか?」
「遺跡探検と聞いたのじゃ。妾もたまには一緒に冒険したいのじゃ」
「ちげーよ! 俺達は決戦に行くんだよ!!」
「……違ったのかい?」
トオル……お前もか。いや、俺がメールに書いてなかったのが悪かったな。
仕方がないので俺は二人に簡単に現状を説明した。ここは食堂だが、トオルの魔法で声をシャットダウンすることが可能なので問題ないだろう。
――――
「なるほどね。過激派と穏健派の決闘か。確かに関係ないエキドナが介入すると問題だね」
いくら人数は問わないと言っても魔王の介入はやり過ぎ。というか、ケインが勝ったら魔王と戦う権利を……とか言ってるのに、決闘の場に魔王がいては本末転倒だ。まぁ魔王と戦う権利がエキドナだったかは分からないけど……。
「確かにそれならエキドナは行けないね。ラミリアくん、エキドナを頼んでもいいかい?」
「えっ? トオルは!?」
「えっ? 勿論行くよ。だって僕は魔王じゃないし、シオンくんの仲間だから関係ないじゃん。何人でも参加していいんでしょ」
確かにそうだが……。
「トオル!? 妾を裏切って一人で行くつもりなのか?」
まぁエキドナならそう言うよな。
「だって遺跡に行きたいし……ほら、ラミリアくんがいるんだから二人でこの町を見て回りなよ。ねっ? ラミリアくんも頼むよ」
トオル……そんなに行きたいのか。ってかラミリアだって一応忙しいはずだぞ。
「……仕方がないですね。私としてもトオル様がシオンさんに付いて行ってくれた方が安心ですし……」
エキドナの恋人ってことで、ラミリアはトオルのことは様付けなんだよな。しかも妙に信頼も高い。
エキドナに振り回されている者同士色々とあるんだろうな。
「さっ、ほらエキドナ様。ミサキさんとレンさんもいますから、四人でこの町を見回りましょう。昨日少し見たんですが、珍しい料理もあって楽しかったですよ」
……それはそれで楽しそうだ。それに珍しい料理ってのも気になる。昨日食べた感じそこまで珍しいモノはなかったと思うんだけど、町中だと違うのかな?
おお、ラミリアの言葉にエキドナは少し興味を惹かれたようだ。よし、もう一息だ。俺はエキドナにだけ聞こえるように耳打ちする。
「ん? 何じゃ?」
「エキドナ……お前この間フェスでハンナと仲良くしてたろ?」
「それがどうかしたかの?」
「ラミリアは恥ずかしがって否定するかもしれないが、あれな……ラミリアが羨ましそうに見てたぞ。多分ラミリアも何のかんの言って、親代わりのエキドナに甘えたいんじゃないのか?」
俺がそう言うと凄い勢いでエキドナがラミリアを見る。そしてニンマリと笑う。もちろんラミリアは何のことか理解できていない。
「そうかそうか。分かったラミリアよ。そういうことなら今日はラミリアと一緒に凄そうではないか」
(シオンさん。絶対に何か余計なことを言いましたね?)
(ははっいいじゃないか別に。エキドナもその気になったし楽しんで来いよ)
(……貸し一ですからね)
「ほれ、何をしておる。シオンと見つめおうてないで、さっさと行くぞ」
「えっはい。ではトオル様失礼します」
ラミリアはトオルにだけ挨拶してエキドナと共に出て行った。……俺には一瞥もしねぇ。
「ねぇシオンくん。エキドナになんて言ったの?」
「ん? ……ああ、ラミリアが実はエキドナに甘えたがってるって……」
それでトオルも合点がいったようだ。
「でもそれ、バレたら後で怒られるんじゃないの?」
「別にそれくらい構わないさ。それよりトオルも行くんなら今までの話も踏まえて説明するよ」
まだ皆が起きてくるまで時間があるだろう。その間に説明くらいはしておくことにした。
――――
「なぁに? 私達が寝ている間にそんな面白イベントがあった訳?」
「いや、面白イベントって言うけど結構大変だったんだって」
確かに後から聞けばただの笑い話だろう。だけど、結構大変だったんだぞ。
ようやく起きてきた姉さん達に、さっき会った出来事を説明した。
最初は何故トオルが居るのか驚いていた姉さんは説明を聞いて現場に立ち会えなかったことを悔やむ。
「やあ、初めまして。君がリュートくんだね。君の事はシオンくんから色々と聞いているよ」
「あれっ? 初めましてなの?」
確かにリュートの事は何度か話したことはあるけど……会ったことなかったっけ?
「えーっと、一回城の遊戯室で拝見したことはあるけど、話すのは初めてかな」
遊戯室って……ああ、最初に城を案内した時か。確かあの時のトオルは会議に参加せずに麻雀打ってたっけ。
「ならちゃんと紹介しようか。コイツはトオル。俺と一緒に日本からやって来た仲間だ。そして俺達の中で一番のチートでもある。ケータイや転移など、シクトリーナで便利な道具は全てトオルの魔法のお陰だ。今はエキドナの恋人としてリア充生活を送っている」
こうやって説明するとトオルの規格外が良く分かるな。本当トオルが一緒に来てくれて助かった。
「……シオンの仲間って皆異常だよね」
その言い方だと俺がその筆頭みたいだから止めて欲しい。
とにかくトオルまで加わったことで、もう万が一にも負けることはなくなっただろう。
相手には悪いが、さっさと勝って【トールの遺跡】を探索させてもらおう。




