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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第152話 果たし状を受け取ろう

「えっナニコレ。メッチャ美味しいじゃん」


 お通しのがめ煮を一口食べた感想がこれだった。そのまま一瞬で小鉢を平らげる。

 オッチャン……敵にここまで美味しいと思わせることが出来るんだから自信もっていいと思うぞ。


「これはお通しと言ってこの店で出す、まぁ前菜のようなものだ」


「へぇこの料理、お通しって言うんだ」


「えっ? ああ、すまん。お通しは前菜って意味で。この料理自体はがめ煮だな。気に入ったのならもう少し持ってくるぞ」


「本当っ!? じゃあお願いするよ!」


 デューテは嬉しそうに空になった器を差し出す。こうしてみると本当にただの中学生にしか……いや、コイツは俺より年上だったな。危うく騙されるところだった。


 俺が追加のがめ煮を盛る。……もっと大きな器の方がいいかな?


「うわっ何このキャベツ。ただのキャベツのくせにうまっ!?」


 どうやら一緒に持ってったキャベツを食べたようだな。

 あれには俺とオッチャンが苦労して作った特別のキャベツのタレが掛かっている。

 キャベツのタレは地方の調味料で、料理本のレシピにも載ってなかった。だから俺の舌の記憶を思い出しながら必死で作ったのだ。そのタレが不味い訳がない。


「ほら、お代わりだ」


「ちょっと! どういうことだよ。何でただのキャベツがこんなに美味しいのさ」


「そりゃあ俺とオッチャンが頑張って作った特製のタレだからな。これ……ビールと一緒に食べると最高に美味いぞ」


「ビ、ビールって?」


 ゴクンと生唾を飲みながらデューテが聞く。そうかビールも知らないのか。


「最近この町で爆発的に流行っている酒だ。本当は飲ませたい所だけど、流石にこの後に真面目な話をするなら飲めないよなぁ」


 と言うか敵地で飲んだら只の馬鹿だ。


「うぅぅ……」


 デューテは心底悔しそうに唸る。流石に自分でも酒は飲んだら駄目だと理解しているようだ。だが……俺は違う。


「さてと、俺は飲んじゃおっかなぁ」


「なっ!? ズ、ズルいよっ!」


 デューテはまるで信じられないという顔をする。いや、隣のリュートもだ。


「ふふん。お前は大事な話があるかもしれないが、俺はそれを聞くだけだから気にしない。それにここは言わばホーム。この間のアウェーと違うのさ。お前はここアウェーで美味しい料理を食べながら酒は飲めないという苦痛を味わうがよい」


「なっ……なんて酷いことを思い付くんだよ。こんなのまるで悪魔の所業じゃないか!」


「ふはは! 何とでも言うがいい。モニカ。俺にだけビールをくれ」


「悪魔だ……ここに悪魔がいるよぉ」


「ねぇ何なのこれ。何でシオンはこんなに暢気に出来るの? 僕、これでもかなり緊張していたんだけど……」


 一人冷静なリュートは状況に付いていけてなくて戸惑いを隠せない様子。


「何言ってるんだよ。リュートも怒ってたじゃないか。ここで前回の仕返ししなくてどうするんだ?」


「なっ……あの時のことをまだ根に持っていたのかい!? なんて心の狭い奴なんだよ」


「ふははっ何とでも言うがいい。どんなに囀ったって、今のお前の言葉は負け犬の遠吠えにしかならないんだよ」


 さっきクリスに戦闘はご法度と言われたから、前回馬鹿にされた分をちょっと仕返し……って思ったんだけど、ちょっと冗談が過ぎたか? でもちょっと冗談めかした方がデューテなら乗ってくれると思ったんだ。まぁ予想以上に乗ってくれたけど。とにかく、向こうも良い具合に毒気を抜かれたようだから作戦という名の意趣返しは成功……だな。



 ――――


「君、本当に酷い奴だね。こっちが飲めないのに平気でガブガブと……」


 焼き鳥を肴にビール。最高の組み合わせで俺は自慢げに飲んでやった。うん、物凄く悔しそうだ。

 ちなみに万が一にも酔わないようにと今日のアルコールは魔法で完全に防いでいる。だから完全に見せびらかしたいだけだった。


「さぁじゃあここに来た目的を聞かせてもらおうか。……何しにここに来た?」


 ある程度食べ終わったし、悔しがる姿を見て満足したし本題に入ってもらおうと思う。


「君ねぇ……よくこの流れで真面目になれるね。ある意味尊敬しちゃうよ。でも……そういう所に前回は騙されちゃったんだけどね」


「ん? 別に騙してないけど?」


「嘘ばっかり! 君たちは既に王子達を見つけてたんでしょっ!」


「へぇどうしてそう思うんだ?」


 あの時にバレた様子はなかった。それ以降も特にバレる要素はなかったと思うけど……。


「君は赤の国から来たんだよね? そこで王子達の付き人を助けたって聞いたよ」


「聞いた? 誰に?」


「君たちにやられたって盗賊からだよ。アジトの財宝も全部取り上げたんだってね」


 マチルダを捕まえた盗賊か……アイツらがこっちに帰ってきているのか?


「……確かにその盗賊は倒したしアジトも入ったけど、何もなかったし付き人もいなかったぞ」


「確かに町ではそう言ってたみたいだね。でも僕の情報網を甘く見てもらっては困るよ。君たちがあの町で奴隷を買ったのは把握してるんだよ」


 あの奴隷商人が喋ったのか? ……いや、状況から考えたらアルゴが居なくなったあの集団じゃ無理矢理聞き出した可能性も否定できない。今あの盗賊が無事ここにいるのなら……あの町の領主と結託した可能性がある。


「ふーん。でもそこに王子達はいないんじゃないのか?」


「君達……女王の下に仲間を送ったでしょ? ケインが言ってたよ。物凄く強い女が女王の側仕えになったって。ケインでも勝てるか分からないって……どんだけ強い仲間がいるのさ」


 姉さんの事か。確か接触した話はルーナから聞いたな。魔力と属性を調べることには成功したって聞いたけど、気になることがあるからってまだ教えてもらってはないんだよね。


「君たちのその行動や、この国に入ってからの行動を調べた推測だけどね。だけど間違ってはないと思うんだ。それに、この際王子達はどうでもいいんだよ。要は君たちは今この国の国璽を持っている。そして女王と接触できる立場にいる。それだけで十分なんだ」


 王子はこの際関係ない。要は国璽さえあれば女王が死んだあと王になることが出来る。そう考えているんだろう。


「全く……。前回会ったときは王子達の事なんて知らないようなこと言っておいて、実際は既に見つけてたなんてね……すっかり騙されちゃったよ」


「……別に騙してないぞ。俺は別に王子達を見つけてたなんて一言も言ってない。そっちが勝手に勘違いしただけだ」


 俺が言ったのはデューテたちが王子達の行方を見つけてないか質問しただけだ。俺達が見つけてないだなんて言ってない……よな?


「ふーん。やっぱり王子達も生きていて君たちの手に渡ってるんだね」


 あっ、今のは俺の失言か。今の言い方じゃ王子達は見つけたと言ったも同然じゃないか。


「それで? 今日は王子達を回収しに攻めて来たのか?」


「いや、僕もそこまで愚かじゃないよ。ケインから聞いたけど、君【魔王のヒモ】なんでしょ?」

「違う!!」


「えっ嘘、違うの!?」


 しまった、思わずヒモに反応して違うと言ってしまった。デューテも今までの俺とは全く違う反応に本当に違うのかと思ってるみたいだし……このまま誤魔化すか?


「あっ、その顔はまた僕を騙す気だったんだね。今度はもう騙されないからね。全く……前回僕の威圧にやられた振りをしたのも、Bランク冒険者ってのも全部嘘だったんだね」


「いやいや、冒険者は嘘じゃないぞ。それと……ふっふっふ。この間ついにAランクになったんだ。どうだ。凄いだろう」


「……何で君はAランクでそんなに自慢げなのさ?」


「くそっ自分はSランクだからAランクは眼中にないとでもいうのか」


「いや、そうじゃなくて、噂が本当なら君の実力はランクなんか関係ないでしょ」


 分かってないな。こういうのはある種の憧れみたいなもんなんだよ。まぁこの感性は日本人じゃないと理解できないかもな。


「まぁ俺のことはどうでもいい。王子達の事じゃなかったら一体何しに来たんだ?」


「今日はね……君たちに最終決戦の果たし状を渡しに来たんだ」


「はぁ? 果たし状?」


 何言ってるんだコイツは?


「そう。何せこっちには後がないことが分かっちゃったからね。だから、面倒くさい駆け引きは止めて、真っ向から勝負しようよ」


「……どうするんだ?」


「君達は国璽を持ってウェイバリーへ行く。そこでその国璽をかけて僕達と勝負しようよ」


 長期戦なら不利と感じて短期決戦を仕掛けて来たか。


「その話、俺達にメリットは? 現状俺達の方が有利っぽいから受ける理由はないと思うけど」


「受けてくれないなら、過激派は正式にこの国に対して反乱を起こす。そして今の穏健派の町を制圧し始めるよ」


「なっ!?」


 なんて無茶を! そんなことしたら例え俺達に勝てても国民に見捨てられるんじゃないのか?


「言っておくけど、こっちには英雄ケインがいるからね。民衆を味方に付けるのは簡単だよ」


 ケインのカリスマでこっちを悪者扱いにするのか。今まで行った町でリュートの人気を見ていればリーダーだったケインの人気は相当なものだろう。

 それに相手は女王が既にシクトリーナと結託していることを知っている。

 そのことを国民に暴露すればそれだけで女王が失墜する可能性はある。


 でも……じゃあ何故相手はすぐにそれをしないんだ? 短期決戦を仕掛けるより簡単じゃないのか?


「なぁお前らの……いや、ケインの目的は一体何なんだ?」


「ケインはね……正直過激派なんてどうでもいいんだ。強い人と戦えればそれでいいんだよ。【時の咆哮】以来ずっとケインは退屈していてね。そこら辺のSランクの魔物を倒しても満足しない日々を送っていたんだ。それが、今回は久しぶりに楽しめそうだってね。ワクワクしてるんだよ」


 コイツ等は……いや、ケインは楽しんでいるだけだ。ただ単純に強い奴と戦いたいだけだ。果たし状なのも自分たちが気持ちよく戦いたいだけだ。

 きっと戦いの後にある事後処理や過激派の動向も何の関心もないのだろう。


 しかしこれなら……。


「一つ条件がある」


「……条件なんか聞く必要はないと思うけど、一応言ってみて」


「負けたら過激派から素直に撤退すること。過激派とは一切の接触を禁止する」


 正直ケイン達が過激派から手を引けば後は首謀者を捕まえて終了の筈だ。単純な勝負にしか関心がないなら勝負に負けたら素直に手を引いてくれると思うが……。


「……負けたら僕達を殺さないの?」


「別に殺す必要はないだろ。お前らの目的はただ強い奴と戦うこと何だろ? ならその目的が果たせたら十分だろ? まぁ自棄になって無茶するなら容赦はしないけど……」


「……甘いんだね。でも、いいよ。ケインがどういうか知らないけど伝えるだけは伝えてあげる」


 今はこれでいいだろう。さぁいよいよ大詰めって感じがしてきたな。

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