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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第147話 訓練を始めよう

「ほらほら、素手でテラーニードルの装甲を貫けなくてどうするんだ!」

「いや無理だよ! せめて魔力で強化しないと……」

「じゃあそれをやればいいだろ。まだ魔力は少し残ってるからリュートならいけるって! それよりほらっ、油断していると尾の毒にやられるぞ」

「いやいやいや、無理だから!!」


 リュートはスピードはあるが攻撃力不足だ。堅い魔物と戦って自分に足らない部分をどう補うか考えてもらおう。


「シオンさん! これ何時まで逃げればいいんですか!!」

「……いい加減避けるの飽きた」

「もう……疲れたっスよ」

「もちろん相手が諦めて帰るまでずっとだ。ちなみに少しでも掠ったら後でペナルティーだからな」

「ちょっ! 諦めて帰るって……結界で閉じ込めてるから帰れないじゃないですか!! それに流石に掠っただけってのは酷くありません? 第一このサンドワーム、レア個体ですよね? 避けるだけで精一杯なんですけど!?」

「……鬼」


 【月虹戦舞】三人娘は可もなく不可もなく平均的な能力をしているのでまずは持久力を上げる。

 通常個体よりも巨大で素早いレア個体のサンドワームと一緒に結界内に閉じ込めて攻撃と魔力を禁止してひたすら避け続ける。俺も修行時代ルーナによくやらされてたっけ。


「ヒ、ヒカリさん……もう、もう無理ですって!!」

「えー? 何言ってるのー? まだまだやれるって」

「いくら弱いジャイアントバットやホーネットだといっても、こう何体も出てきたら……」

「あっ、言っておくの忘れてたけど、五十体毎にバジリスクを出すからね」

「はぁっ!? ちょっと待ってくださいよ。魔法が使えないのにバジリスクとか……うわっ!?」

「はいはい、よそ見は危ないから止めようね」


 Bグループはヒカリに監督させている。

 魔法が使えない状態で少し弱めの……普通のセラ達なら簡単に倒せそうな魔物を次々と倒していく。

 途中で出すバジリスク等はボスキャラ扱い。通常状態でもセラ達は苦戦する相手だ。


「も、もう無理……限界。これ以上動いたら死んじゃうよ」

「大丈夫だよ。本当に限界の時は声すら出ないから。だからまだまだ余裕がありそうだね。魔物の数を倍に増やそうか?」

「ちょっ!? マジで勘弁してーー!!」


 ……ヒカリって意外と鬼畜だよな。



 ――――


「よーし。じゃあ一旦飯にするぞ! 結界内から出てよし!」


 その言葉にA・B両方が一斉に結界から抜け出して、その場に倒れ込む。


「シ、シオン……ちょっと飛ばし過ぎじゃないかな?」


 言い出しっぺのリュートが息も絶え絶え言う。


「おいおい、今日は初日だからかなり控えめだぞ。明日から……いや、飯後からはもう少し難易度を上げていくからな」


 俺の言葉に八人全員が絶句しその場で突っ伏した。



 ――――


「体力を付けるためにも飯はちゃんと食べてた方がいいぞ」


 全員あまり食欲がないのか箸が進んでいない。


「いや、このあともっと厳しくなるかと思うと……」


 うーん。正直俺とトオルがルーナに鍛えられていた時はもっと酷かったんだけど……。


「ヒカリに相談した時に止めておいた方がいいと言われたから止めたけど、今の修行が嫌だったらもっと簡単に強くなる方法があるぞ? 俺が知っている中で最も強いと思う人物が修行した方法で、五日で何十倍も強くなれる画期的な方法だ」


「聞くのが凄く怖いんだけど……一体どんな修行何だい?」


「その人は、宇宙船の中で百倍の重力下で自分を極限まで傷つけて死にかけの状況から復活したら強くなったんだよ。それを何度も何度も繰り返す。どうやら死にかけた状態から復活すると現在の戦闘力が跳ね上がるみたいなんだ」


「…………」


「シオン君。だからあの人は人間じゃなくて、そういう特性を持った戦闘民族だったでしょ。多分皆じゃ死にかけて復活しても強くはならないよ」


「いやいや、分からないぞ。やはり死の境地に辿り着いた先には思いもよらないことがあるかもしれない。ってことでリュート、試しに死にかけてみない?」


「嫌だよ! 何でそんな不確定な情報で死にかけなくちゃいけないんだよ!」


「そっか嫌なのか……。じゃあ今の特訓で頑張るしかないな。強くなりたいんだろ?」


「そ、それはそうだけど……」


「じゃあ文句は言わない。それからさっきの話だけど、死にかけ云々はともかく、重力下での修行ってのは効果はあると思うんだ。だけど、流石に重力を操ることは出来ないから、代わりにこの後皆には重しを付けて修行をしてもらう」


 準備したのは重たい靴にブレスレット。多分かなり動きに制限が掛かるんじゃないかな?


「……この後も修行があるの?」


「当たり前だろ。さっきまで相手をしていた魔物は流石に休ませてあげないと可哀そうだから、食後は俺との模擬戦を行う。朝練の時のように優しくはないから怪我しないように気を付けろよな」


「僕……今度から物事を決める時はもっと考えてから発言するようにするよ」


 強くなりたいって言ったことを後悔してるのかな? でも、もう遅い。皆も巻き込んだし徹底的に鍛えてあげよう。



 ――――


「ちょっと!! これ本当に動けないからっ!!」

「ああっ、腕が引っ張られる……」

「うわっラミやん危ないっス。動きにくいんスから、いきなり腕を振り回さないでほしいっス!」

「仕方ないじゃないですか。普段と違って簡単に止まらないんですよ!」

「……重い。チッ」


 食事後、早速靴とブレスレットを付けてもらった。

 全員普段と違う感覚で戸惑ってる。慣れるまでしばらくの間ほっておこう。


「セラ達は流石にまだ早いと思うから重りはなしな。ある程度魔力が増えてから着けることにするから」


 俺はAグループから離れ、Bのセラへ話しかけた。


「今でもキツいから、それはありがたいんですが、重りを付けることと魔力が関係あるんで?」


 魔力じゃなくて筋力じゃないのか? セラの目がそう訴えている。


「ん? ああ、魔法じゃなくて魔力を身体中に流して身体強化に使うんだ」


 さっきリュートがテラーニードルの装甲をぶち破るのに拳に魔力を込めて殴ってた。結局上手くいかなかったが、方向性は間違っていない。しばらく練習すればいけるだろう。


「いいか、魔力は属性魔法を使うだけじゃなく、身体強化に使うことも出来るんだ。姉さんが魔力を足に込めて高くジャンプしてるのを見たことないか?」


「あっ、あります。あれって、単純に身体能力に優れていた訳じゃ……」


「いやいや。確かにそれもあるけど、姉さんだって人間なんだから身体能力だけで何十メートルも飛べないぞ」


「……そうでしたね」


 コイツ……今姉さんが人間だったって事実を思い出したな。

 ったく、人の姉を何だと思ってるのか……本当にコイツは姉さんに惚れてるのか?


「要するに、魔力をうまくコントロールすれば、姉さんみたいな動きが出来るし、魔力が体を覆っているので、攻撃、防御も強くなる。ただ、それをしてしまうと、魔法に使う魔力が無くなってしまうから、お前達はまず魔力をリュート達位まで伸ばすことが最優先だ」


 AもBも両方とも今回の修行では魔力が普段の一割まで減ってはいる。

 が、実際のところAグループの一割ってBグループの総魔力とそう変わらない。リュートだけが少し少ないくらいか。


 ただ、リュート以外の三人は日頃からその大きい魔力を無駄に使用している。例えば本来百しか必要ない所で平気で千の魔力を消費する感じだ。


 今まではそれでもやってこれた。多分これからもそれでいいと思っていただろう。


 別に三人は強くなりたいと思っているわけではない。


 アイラも一人実力がないから努力をしてはいるが、別に最強を目指しているわけではない。

 だから、俺もルーナも身を守れる強さがあればいいと思って、細かいコントロールまでは教えていなかった。


 リンやラミリアも自分の仕事が遂行できる強さがあればそれでよかった。


 だが、これからのことを考えたら、細かい魔力のコントロールを身に付けていて損はない。

 今の魔力があまり使えない状態の時にしっかりと身に付けてもらおう。


「シオンさんって以外とちゃんと考えていたんですね」


「なんだそれは。もしかして俺が何も考えずに修行を始めたと思っていたのか?」


「えっ、いや……ははは」


 コイツ……俺だってちゃんと考えてるんだからな。

 と、言いたいが、殆どがルーナとの修行で学んだことなんだよな。


 最初に魔法が使えたらチートで最強と思ってたんだけど、それだけじゃなかった。

 強くなるには魔法だけじゃなくて、身体能力やそれを使う方法。

 ナイフを避ける訓練では、俺が小手先だけの防御魔法を使ったら怒られたっけ。


 ようやくあの時ルーナが教えたかったことが色々と分かってきた。

 教える立場になるまで気が付かないとは……俺もまだまだだな。


 ルーナが俺にした卒業試験。

 結局勝てなかったし、経験を積めと言われて、今まで経験を積めれたか分からない。


 だけど、リュートたちを教えることが俺の経験に繋がるのは間違いないと思う。


 俺は重い装備に翻弄されている四人を見る。

 彼らが強くなって、最後に卒業試験の様なことが出来たら……俺はその時の光景を思い浮かべて、早く来ないかと待ち遠しく感じた。

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