第146話 シオン式ブートキャンプを始めよう
「いいか! 貴様らはうじ虫だ! クソ虫だ、この世のおける最低の生命体だ!」
俺の罵倒が辺りに響き渡る。
「シオン君。汚い言葉は使っちゃダメだよ。アイラちゃんとかが真似したらどうするの?」
「えええっ!? でもこれは俺の尊敬する偉大なる軍曹の言葉で……」
「誰の言葉でも駄目なものは駄目なの」
「じゃ、じゃあ言葉の頭と語尾にサーと付けさせるのは……」
「何の意味があるのそれ?」
「…………」
「それから、その服。軍服なのかな? 一体どうやって手に入れたか知らないけど、シオン君には似合わないから止めた方がいいよ」
シオン式ブートキャンプは最初から前途多難だった。
――――
リュートが言った強くなるために鍛えてくれ。
どうせしばらくは行動出来ないので、鍛えるのは吝かではない。それにルーナや領主も同意した。
ルーナの方はアイラやリンを鍛えたいみたいだ。特にアイラは今が伸び盛り。育てる方も面白いだろう。まぁルーナは姉さんへのメイド研修があるから鍛えるのは俺だがな。
領主の方は単純に戦力が増えるのは大歓迎だろう。過激派に勝てる可能性が高くなる。
それに、フェスや行商と違いシクトリーナで修行をする為、連絡さえくれればいつでもハンプールの町へ行ける。
そんな訳で修行をすることになったのだが……。
まず今回の参加メンバーは言い出したリュート。
それから【月虹戦舞】のアイラとラミリア、リンの三人。
ただ、この三人が参加すると、盗賊退治をする人がいなくなってしまう。
流石に盗賊を野放しにする訳にもいかないので、三人の代わりに今まで訪れた町にメイドと城下町の警備隊、ヴォイスやアルフレドを忍ばせた。
まず、彼らには今後町に自由に転移できるように拠点となる家を買ってもらった。
これでハンプール同様何かあったらすぐに移動できる。
彼らにはその拠点で情報収集に専念してもらう。決して戦うことはない。
そこで過激派や盗賊の情報があったら、すぐに報告するようにお願いした。もし盗賊が出たら俺、もしくはトオルにも協力してもらうことにした。
こうして【月虹戦舞】のメンバーも安心して修行に参加できる。
残りの修行メンバーは、姉さんの一言で【黄金の旋風】のセラ、イオンズ、リャンファンの参加も決まった。
彼らは普段から姉さんに稽古を付けてもらっているけど、ツヴァイスや城下町を守れる程度の力があればいいとのスタンスだったから、本格的な修行はしていない。姉さんも修行というよりは一緒に魔物退治をして遊んでいた感じだった。
彼らも最近はことある毎に便利に扱われている。今後の事も考えればこれを期に一気にレベルアップしてもらいたい。
で、セラ達も参加するならとエイミーも無理矢理参加させることにした。
今は俺達とは別行動だけど、エルフの村の時のようにいずれまた一緒に旅するかもしれないからな。
そんなこんなで結構な人数になった今回、とにかく敵がいつ動き出すか分からないから、短期間で強くする修行を考えた。
それには今の状態から根本から帰る必要があると思い、軍事訓練を参考にしたんだが……早速ヒカリにダメ出しをくらってしまった。
今回の訓練の教官は俺。怪我の治療やサポートにヒカリ。
ルーナは姉さんの二人も参加したそうだったが、女王の方もそのままにしておけない。姉さんにはしっかりと頑張ってもらわないと。ルーナは……どうせ姉さんの方が何とかなればこっちに来るだろう。
修行場所はアインス砂漠。
少しでも過酷な状況の方が強くなりそうだと思ったからだ。
どれだけ長くても一ヶ月。それまでに彼らを今の倍は強くさせようと思う。
――――
「え~、では修行を始めたいと思う」
俺は軍服から運動着に着替えた。
断じて似合ってないと言われたから着替えたわけではない。言葉を封じられた今、格好だけあっても虚しいだけだ。
《シオンちゃん。言い訳は見苦しいの》
言い訳じゃないっ! ったく。スーラも変なとこでツッコまないで欲しいものだ。
「えー、まずは【月虹戦舞】とリュートをAグループ、【黄金の旋風】とエイミーのグループをBグループに分けさせてもらう」
流石にこの二グループには力の差がありすぎる。同じ内容の修行だとBグループが流石に可哀想だ。
「じゃあまず、二グループ共通なのだが、この修行の間は食事の時間以外は常に修行の時間だと思っていてくれ」
流石に食事は必要な栄養の補給があるからしっかりと取らないとな。
「食事の時間以外っスか? 寝る時間は?」
「えっ? 寝たいの?」
「当たり前じゃないっスか!! 寝ないと死んじゃうっスよ!!」
「はっはっは。人はそう簡単には死なないよ。まぁ種を明かすと、ヒカリの魔法やエリクサー、俺の魔法を使って、寝なくても同じ効果が発揮できるので寝る必要はないんだよ」
「それで体力は回復するかも知れないっスけど、精神的な疲れまでは取れないっスよね?」
「まぁ数日に一度は温泉で疲れを癒す時間を設けるし、食後に休憩も用意するので心配しなくてもいいぞ」
「……それを聞いて心配するなと?」
「ははっ冗談だよ。夜はAとB交代で修行にするから二日に一回は寝れるさ。ただ寝る時もここなので、魔物には気を付けないといけないし、偶に攻撃をするから寝ていても油断は禁物だぞ」
全員がコイツ正気かって顔して驚いてる。まだ説明は始まったばかりなんだけど……。
「じゃあまずは今回の修行で皆の魔力を爆発的に伸ばす」
それに反応したのはリュートだ。魔力を伸ばすって言っても信じられないのだろう。
「魔力ってそんなに簡単に伸ばすことが出来るの? あっ、シオンのドーピングのこと?」
「いや、違う。確かに俺の【魔力増強ドリンク】は現時点の総魔力を1%底上げする。だけどそれ以外にも総魔力を上げる方法はあるんだ」
魔力の伸ばし方は世間では殆ど知られていない。何故知られていないのか。
それは魔力を鍛えて伸ばすには魔力を限界まで使う必要があるからだ。具体的には総魔力が残り一割以下になり、その魔力を最大まで回復することで、少しだけ総魔力を増やすことが出来る。
例えば子供の頃は最初は総魔力が少ないから、すぐに魔力が空になる。それが回復することにより総魔力が伸びる。
だが、ある一定以上まで総魔力が伸びると、魔力が空になることがなくなり、それ以上伸びることがなくなる。そこで人間は自分の限界がここだと感じて終わってしまう人が殆どだ。
大人になり、冒険者になると戦いで魔力を消費し、総魔力も少しは上がるが、経験による成長と混同しがち。理由までは気が付かない。
それにしばらくすると、冒険者も危険を冒すような真似はしなくなるので、魔力を常に温存しながら生活する。その為、総魔力が増えることがなくなる。こうして魔力を鍛えるという考えはなくなっていった。
「だからまずは皆の魔力を一割まで減らした上で回復させる。その繰り返しで総魔力を底上げし、ドーピングの効果も上げる」
まずは俺の魔法でデバフ……魔力が一定値になるまで減り続ける毒の状態異常を掛ける。
その後、最大値まで回復させると総魔力が伸びるという訳だ。
「そんな方法があるなら何でシオンはその方法を使って魔力を伸ばさないの?」
「理由は二つある。まず一つ目が自分に状態異常は掛けられない。その魔法がないと俺の総魔力が高すぎて一割以下に減らすことが出来ないんだ」
俺以外にもエキドナやゼロなど魔王クラスの者は同じ悩みを持っている。だからこそエキドナは【魔力増強ドリンク】を欲しがるのだ。
「そしてこっちの方が問題なのだが……魔力の回復が大変なんだ」
魔力の回復方法は二種類ある。
まず一つが自然回復だ。ただゲームみたいに一晩寝れば最大まで回復する訳ではない。大気中に存在する魔素を吸収して回復する。ただしこれは総魔力が高ければ高い程回復までに時間が掛かる。俺がゼロから最大値まで自然回復しようとしたら何日掛かるだろうか?
もちろん自身で魔力をコントロールして、魔素の吸収を早め、回復を促すことは出来る。
だが、そうすると今度は大気中の魔素が足らなくなって回復すら出来なくなる。
「ってことで俺にはこの方法は出来ないんだ」
「でも、それならこの人数で魔素を取り込んだら回復できないんじゃない?」
確かにこの人数で魔素を取り込んだらこの辺りの魔素は無くなってしまうだろう。
「そうだな。だからもう一つの方法で魔力を回復させる」
もう一つの回復方法。それは魔力回復ポーションで回復する方法だ。
ヒカリは自身の魔力を使って相手の魔力を回復させる魔力回復ポーションを作ることが出来る。
魔法で作ったポーションは一ヶ月しか保存が出来ないので、常備することは出来ない。
だがヒカリは普段から何があってもいいようにと、無駄になっても魔力が余った時は毎回作っている。
その為、今もかなりの在庫がここにある。
ヒカリは戦闘はしなくても、俺の【魔力増強ドリンク】は飲んでいるので、魔力自体は姉さんと同じくらいは保持している。
その為、今回の八人はポーション一つで最大値まで回復できるだろう。
「だからお前たちには夕食後に魔力回復ポーションを飲んで、魔力を回復してもらう。そして【魔力増強ドリンク】を飲めば効率がいい」
ちょっと種類は違うが、楽して無理矢理レベルを上げる。これも一種のパワーレベリングになるのかな?
もちろん、それだけで強くなれる訳ではないので併せて戦闘訓練・筋力トレーニングも行う。
魔力が少ない状態で上手く体を動かすことが出来るか。
魔物を相手に戦うことが出来るか。様々な条件でしっかりと判断することが出来るか。
今回の修行でたっぷりと学んでもらおう。




