第143話 二つ名について考えよう
「よ、ようやく町に着いたな。今度こそ穏健派の町で間違いないよな?」
もう過激派の町はこりごりだ。いや、前回は偶々デューテが居たからだっただけだけど……。
「ええ。ここは過激派の町ではありませんよ」
ノーマンが言うなら間違いない。これでようやくこの盗賊達と別れられる。
盗賊退治に出てデューテの居た町までに一泊。ここに着くまでに一泊。最初に捕えた盗賊はもう二日も一緒にいる。
これ……馬車を準備しなかったらもっと時間……それこそ十日くらい掛かってただろう。うん、そうだったら絶対に耐えきらなかったな。
町に入るとやはりと言うか驚かれた。何せ馬車五台分の盗賊がいるんだ。確認するだけでも一苦労だろう。
「シオン様、こちらは任せてください。ですからシオン様は冒険者ギルドの方へ……」
そもそも俺達の前回の失敗は先に冒険者ギルドを通さずに盗賊を引き取ってもらおうとしたのが間違いだった。
冒険者ギルドへは事後報告でいいと思ったんだが……先にギルドへ報告しておけば、前回みたいにぼったくられる可能性も無かった訳だ。
ただ、その際はこちらの交渉で上乗せするのは難しいが……ここで拗れるよりはマシだ。
「じゃあ、僕はどうしようか?」
そういえば今回リュートは留守番するって言ってたよな……。
「じゃあリュートは商業ギルドの方に顔を出してくれ。車が町に入ったことはすぐに知れ渡るだろうから、フォローしておいた方がいいだろう」
穏健派の町だけど、ここでは商売する予定はないから一言言っておいた方がいいだろう。それで、もしどうしても……と言うなら少しは卸すことも考えてもいい。
ということで、警備などの面倒な交渉はノーマンに、商業ギルドはリュートに任せることにして、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
――――
「えー、パーティー名が【月虹戦舞】と……わぁAランクパーティーじゃないですか」
ギルドでパーティー名を言うと受付はサッと調べて確認する。
うんうん、こういう反応は嬉しいな。いつもは先にリュートが驚かれて俺達への反応は薄かったからな。
それにしても……本当、ギルドのシステムってどうなってるんだろうな。
何処のギルドでもPCを使ってネットでデータ通信しているみたいに最新情報が見られるんだからな。
「冒険者カードも必要かな?」
「ええ、一応本人確認のためご提示をお願いします」
スリーブのお陰で提示するのに大分抵抗がなくなった。受付もスリーブを外すことはなく簡単に確認だけする。
「はい、Bランク冒険者のシオンさんですね。BなのにパーティーランクがAなんて凄いですね!」
「今は荷物番で留守番してるけど、一人だけAランクがいるんだよ」
「えーっと、ああ、リンさんですね。あっ二つ名持ちじゃないですか!」
「えっ? 二つ名?」
二つ名ってあれだよな? 【神速】のリューや【雷神】デューテみたいなやつだよな。えっ? リンが?
「ええ、【剣舞姫】って書いてありますけど」
「……あれ自称じゃなかったんだ」
その二つ名は聞いたことがあった。確か【月虹戦舞】のパーティー名を決めた時だったか?
舞ってとこにツッコミを入れた時に既に言われてるって言ってたけど……あれ事実だったんだ。
「な、なぁ、ちょっと聞きたいんだけど、二つ名ってどうやったら付くの?」
リンにまで付いてるんじゃ俺も欲しくなる。まさか自分で登録する訳じゃないだろう?
「そうですね……基本は今までの実績や戦闘スタイルを鑑みて決めますね。例えば、リンさんの【剣舞姫】は……ああ、あの赤の国の騒動の活躍で付いたみたいです。孤軍奮闘でアンデットを倒している姿はまさに【剣舞姫】の名前に相応しいですよ」
赤の国の騒動。ボスであるヘンリーを倒したのはルーナだが、国の住人を避難させ、助け出したのはリンだ。
その時に他にも冒険者はいたが、その中で最もアンデットを倒し、活躍したのはリンだったらしい。
その時の功績と助かった人達の情報から【剣舞姫】の二つ名を付けられたのか。
「二つ名はある一定以上の功績をあげた人に付けられる大変名誉な称号ですね」
「へぇ。じゃあ別にAランクが付けられるって訳でもないんだ」
もしかしたら俺もAランクに上がったら……と思ったが、ちょっと難しいかもしれない。
「ええ。ですのでAランクでも二つ名を持っていない方は沢山いらっしゃいますよ。逆に活躍すればBランクでも二つ名をお持ちの方もいらっしゃいます。まぁ中には自分で広めようと勝手に名乗ってる人もいますけどね」
ああ、やっぱり自称もいるのか。
「自称の二つ名は登録されないの?」
「あくまで勝手に名乗ってるだけですからね。ですが、その方が功績をあげて有名になると、それがそのまま登録されることが多いですね」
「ふーん。なら俺にはまだまだ先の話かな」
「そうでもないかもしれませんよ。盗賊団をまとめて五つも潰してきた冒険者はシオンさん達が初めてではないでしょうか?」
「えっ? じゃあ俺にも二つ名付くかな? もし付くならなんて二つ名になるのかな?」
ちょっと楽しみなんですけど? どうせならカッコいい二つ名がいいな。
「シオンさんには私やエイミーさんが昔付けてあげたじゃないですか。と言いますか、既に二つ名を持ってるじゃないですか」
「バカっ!? あんなのは却下に決まってるじゃないか!」
ラミリアとエイミーが昔付けた二つ名ってあれだろ? 根暗王とかスライムマスターとかだろ?
んで、今ある二つ名ってのは魔王のヒモのことだろう。全くふざけすぎてるっつーの。
「え、えーっと、その時にどんな二つ名を考えられたかは分かりませんが、仮に今シオンさんが二つ名を襲名されるのなら……【盗賊狩り】ですかね? もしくは職業が【魔物使い】でスライムを連れているから【スライムマスター】でしょうか?」
…………どちらも嫌だ。というか、俺はスライムマスターの称号から逃れられないのか?
《スライムマスターじゃ私以外のスライムもいるみたいに聞こえるからスーラマスターがいいの!》
スーラはスーラで暢気だな。スーラの事は相棒だと思ってはいるが、流石にその称号は嫌だ。
「ちなみに本人が望んでない二つ名になることはあるのか? 俺的には今の候補は二つとも嫌なんだが……」
「勿論本人が嫌なら取り消しは出来ますよ……ですが、取り消しても周りの評判までは変えられませんよ?」
要はヒモみたいに非公式でも皆から呼ばれるってことか。
そもそもが二つ名自体が周りが呼び始めたからそれを採用したと言うパターンが殆どらしい。
ということは、俺の印象が盗賊狩りやスライムで固まる前に何か格好いいイメージを考えなくては……ってそれって自称と変わらなくね?
「あっ、皆さん昇級ポイントが貯まってますのでAランクの昇級試験が受けれますよ」
「本当か!」
ってことは、ついにAランクになれるってことか。
「その試験って今からでも受けれるのか?」
「いや、流石に準備はしないといけませんので今すぐには……」
どうやら流石に今すぐは受けれないらしい。
「それに、昇級試験は急ぎでないなら拠点のギルドでした方が良いですよ」
「そうなの?」
何処でもいい訳じゃないのか?
「基本はどこでも受けることが出来ます。ですが、本当はギルド職員が言うことではないんですが、慣れ親しんだギルドの方が情と言いますか、査定が甘くなりがちなんですよ」
試験官だって人間だ。知らない人よりもそのギルドに貢献してきた人を昇級してあげたいという気持ちは確かにあるかもしれない。
「まぁここからハンプールまで半月は掛かるでしょうから、もし希望されるなら数日お時間を頂けましたら準備いたしますが?」
「あっ、じゃあいいや。今度ハンプールに戻ったときにでも受けることにするよ」
考えたら査定云々はともかく、俺達には秘密が多いからクリスの居ない他所のギルドでは試験を行わない方がいい。
それに、きっとクリスなら面倒だと言って試験すらなくAランクにしてくれそうな気がする。
うん、帰ったら真っ先にギルドに行こう。俺は受付に礼を言ってギルドから出て行った。




