第142話 情報を整理しよう
「さて、結局盗賊を引き取ってもらうことは出来なかったけど、かなり有意義な話は聞けたな」
俺達は結局、盗賊を連れて町を出ていた。今は穏健派の町まで車で移動中だ。少し気にしていたんだが、どうやら追手のような者はいないようだ。
俺達の事は取るに足らないとでも思っているんだろうな。だとしたら演技をした甲斐もあったというものだ。
車の運転はリンに任せて、俺はリビングでお茶しながら情報の整理をしていた。
まず新たに分かったことは、Sランク冒険者が過激派の陣営にいること。過激派は王子達の行方をまだ把握してないこと。
すでに王子達がこちら側にいることを考えれば、これは大きなアドバンテージだろう。
だが、俺達が明確に過激派の敵というのがバレてしまった。
今までは誤魔化しながらフェスや行商を行っていたが、今後同様の事をすれば、過激派から明確な妨害工作が行われるだろう。もしかしたらフェス中に盗賊の襲撃などがあるかもしれないし、クレーマーが殺到してぶち壊す可能性もある。……しばらくはお休みかな?
「ねぇ。何であんな舐められるような真似をしたの?」
俺が考え込んでいると同じテーブルに座っていたリュートが話しかけてきた。何か少し怒ってるみたいに見える。
「いや、侮ってくれた方が動きやすいだろ?」
「でもっ! あんなに馬鹿にされて………」
どうやら悔しいという感情が今になって爆発したみたいだな。
「そんなの後でいくらでも馬鹿にし返してやれよ。それよりもだ、あのデューテって人の威圧に負けてたけど……どういう事だ?」
流石に総魔力は少し負けているように感じたからデューテの全力ならもしかしたら耐えられなかったかもしれない。
だが、全力じゃないあの程度の威圧なら今のリュートなら耐えられない訳ないんだ。
「どういう事も何もあれが事実だよ。僕じゃ勝てないんだよ」
どうやら苦手意識がしっかり染みついているみたいだ。気持ちで負けていたら耐えられるものも耐えられるものか。
「ふざけるな! 何ですぐ諦めてるんだ。いいか、俺はこの一ヶ月リュートを見てきた。魔力こそ少しだけ負けていたけど、見た感じ実際に戦ったら、圧倒的にお前の方が上だぞ」
これは事実だ。魔力の大きさが戦闘力ではない。もちろん魔力が多いに越したことはないが、それが絶対という訳でもないんだ。
「そ、そんなわけ……」
「お前が負けている原因はその勝てないと思い込んでいることだ。過去どれだけ負けてきたかは知らないが、今の実力は間違いなくリュートの方が上だ。恐らく今のまま一緒に訓練していればすぐに魔力も追い抜く。だから自信を持て」
リュートは俺の言葉に俯いたままだ。
考えてみたら、模擬戦の時にアイラにやられてすぐに納得したことや、俺との戦いを回避した時にも感じたことだけど、リュートは元々負け癖というか、Sランクなのに自分は負けて仕方がないと考えている節がある。
恐らく自分に自信さえ持てば、一気に伸びると思うんだが……。
「お前、さっきデューテ相手に前とは違う。強くなったって啖呵を切ったじゃないか。あの気持ちをもっと自分の中でしっかりと持っておけ」
多分これ以上は何を言っても今は無理だろう。後は自分で殻を破るしかない。
「それで、これからどうしましょうか?」
俺達の話が終わったと思ったのか、今度はノーマンが話しかけてきた。彼も威圧を受けてしばらくは意識がなかったが、少し前に回復して今は普通の状態まで回復した。
ノーマンも意識が戻った時は役に立たなくて申し訳ないと何度も謝罪してきた。ノーマンは戦闘要員ではないから、咄嗟の威圧に耐えられなくても仕方がない。寧ろ俺の方こそ危険に晒せてしまって申し訳ないと思っていた。
それでもノーマンはリュートと違い、すぐに平常運転に戻った。気持ちの切り替えが上手いんだろうな。
今ノーマンが聞いてきたこれからと言うのは盗賊の事ではなく、過激派の情報を知ってどうするか?ということだろう。
「うーん。俺達だけで判断していい話じゃないよな。出来れば領主や女王も交えて話したいな」
ここで簡単に方向性を決めていい話じゃない。ここ暫くは噂が広がるのを待っていて休憩していたが、元々の予定だとこのまま行商を続ける気だった。それが出来なくなるなら根本的に作戦を変えねばならない。
「では、盗賊を引き渡した後で会議をするよう伝えます」
「女王には城から連絡してもらおう。上手く時間がとれるといいけど……」
とにかくこの大荷物をどうにかするのが最優先だ。はぁ……大変だな。
――――
「なぁ。これ絶対に間違ってるだろ! なに考えてるんだよコイツらは!!」
穏健派の町に移動しているだけで、盗賊を乗せた馬車が五台に増えていた。
あの後、二件程別の盗賊団の襲撃があった。
いくらなんでも多すぎだろ! この一区間にどれだけの盗賊がいるんだよ!! こんなに盗賊がいたらバッティングして稼ぎにならないだろ!
「恐らく縄張り争いも兼ねているのでは? この辺りは今後いい稼ぎになると思われてるでしょうからね」
ラミリアの話で正解だろう。今は色んなところから盗賊が集中して多いが、この後勝ち残った盗賊がここを縄張りにするって感じか?
「今回の盗賊も目当ては私達だったみたいですけど、王子探しもやってたみたいですね」
前回までの三件と違い、今回捕えた盗賊は王子達も探していた。
ただし、理由は誰かに依頼されているわけでなく、闇ギルドで高額な懸賞金が掛けられているからだった。
懸賞金を掛けたのは勿論過激派だろう。もしかしたらデューテかもしれないな。あの時、絶対に見つけ出すって豪語していた。この辺りを総締めだとしてもおかしくはない。
しかし……五つの盗賊団か。アジトを全部回ったら、いくらくらい稼げるかなぁ?
「シオンさん。分かってますよね?」
「分かってるよ。ギルドにでも伝えて謝礼だけもらうことにするよ」
相変わらずラミリアは鋭いなぁ。
「? 二人とも何を意味の分からないことを言ってるんだい?」
俺達の会話を聞いていたリュートが口を挟む。盗賊の襲撃などもあり、少しは立ち直ったみたいだ。
「ん? ああ、盗賊のアジトを探索したらどれくらい稼げるか考えてたら、ラミリアに今は探索する時間がないって怒られたんだ」
「……今の何処にそんな会話があったの?」
「なかったっけ?」
「なかったよ! 王子探しの話から一気に飛んでたよ!」
ラミリアとはアイコンタクトっていうか、殆ど考えが筒抜けだから偶に会話と混同するんだよな。
「まぁいつもの事だしいいじゃん。それよりも盗賊だ。この調子ならまだいるかなぁ?」
リュートにアイコンタクトを説明しても無駄だから会話を変える。
「……間違いなくいると思うよ。どうする?」
やっぱりまだいるか。どうするかなぁ。
「何か……こう一網打尽できる案があればいいんだけど……」
「多分今みたいにこの車でウロウロするのが一番確実じゃない?」
確かに移動してるだけで勝手にやって来るから、これが最も効率がいいのかもしれない。
だけど、今はその時間すら惜しい。早く帰って会議がしたい。でも、盗賊は無関係の人間に迷惑かける。うーん。考えがループするなぁ。
「仕方ないですね。シオンさんが城に戻っている間、私達が適当にドライブして過ごしてますよ」
「えっ? でも、それは少し危険じゃないか?」
私達って俺以外の【月虹戦舞】三人でってことだろう。でも女性だけで盗賊相手は……。
「流石にあの程度相手に遅れはとりませんって。それに危険でしたらちゃんと逃げますから」
この間油断して洗脳されたばかりだと言うのに……と、ラミリアに睨まれたからこれ以上は止めておこう。
まぁその経験があるからもう油断はしないか。
それにエキドナにも過保護だと怒られたし、ここは三人に任せるか。
「分かった。じゃあ任せるよ」
そういうことでラミリア達とは次の町で盗賊を引き取ってもらった後、一旦別れることにした。
問題は……いつその次の町に到着するかなのだが……今日中に辿り着くのかなぁ?




