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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第138話 後片付けをしよう

 フェス二日目。

 予想通り昨日以上の盛況をみせた。やはり口コミでかなり話題になっていたようだな。

 それから昨日と比べると家族連れが多い。ただの買い物じゃなく、楽しめると分かったからだろう。仕事を休んで来ている人もいるみたいだ。


『みんなー!! 今日も楽しんでるぅ?』


 今日もティティは元気一杯だ。


 客も昨日よりノリが良いみたいで所々ティティに答える声が聞こえる。

 なんか、このままティティをソロアイドルで活動させても盛り上がりそうな気がする。

 さて、今日は昨日よりも客が多いみたいだし、このままステージを見続けるわけにはいかないな。働こうっと。



 ――――


 ……甘く見ていた。正直かなり甘かったと痛感せざるを得ない。


 いやぁ本当に人が多く来た。一体どこの大型遊園地だというくらい多かった。まぁありがたいことではあるが。

 でも人が多くなると必然的に問題が起こりやすくなる。


 酔っぱらいのケンカに悪質なクレーマー。

 まぁこの辺りは問答無用で追い返せばいい。


 他にも盗難や紛失が多かった。

 何せ買ったものを盗まれた、無くしたという理由で、もう一度買おうとする客がいたからだ。


 まぁそういうヤツは魔法で嘘が分かると言うと逃げるんだが。


 また、そんな魔法があるわけないと疑っている人に関しては俺が【毒投与・自白】で今回だけじゃなく他に悪いことした過去まで全て白状させて町の警備につきだした。


 また、他にも隠れてカツアゲするヤツもいた。それらを全て締め上げて警備につきだす。


 警備兵に聞くと、捕まったのは殆どの他所から来た人で町の人間ではないそうだ。


 もしかしたら過激派の工作? とも思わなくもない。って、それは流石にないか。もしあるとしたら、こんなショボい行動じゃなく、もっと危険な気がする。


 今回のは恐らく転売屋の方だろう。ここで手に入れれば金になるとでも思ってたんだろうな。

 まぁこれに懲りて転売も無くなってくれればいいのだが……。


 まぁとにかく言えることはハンプールの時と違って本当に疲れた。今はそれだけしか考えられなかった。



 ――――


 二日間が無事終了し、全スタッフが力尽きる。流石のメイド達もその場で座り込む。


「皆お疲れだね」


 一人元気そうなティティ。見てる限り一番働いてたと思うんだが、何故コイツはこんなにも元気なんだよ。


「もぅ、だらしないぞ。……仕方ないなぁ。ええい!? 【ヒカリ様カモンっ!!】」


 ティティがそう言うと、ティティの正面にヒカリが現れる。

 えっ? 今どうやって登場した? ってか、ヒカリってこっちに来てたっけ?


「へっ……えええええっ!? ここどこぉ!?」


 ヒカリは辺りをキョロキョロと見渡し慌てふためる。

 えっ? 冗談じゃなく、本当に今ここに現れたのか?


「さっ、ヒカリ様。ここでバタンキューしてる皆を元気にしてやって下さい!」


「えっ? ねぇティティ。それよりもこれは……」

「いいからさっさとするー!!」

「は、はい。えーと、皆元気になーれ!!」


 ヒカリが魔法で疑似太陽を出す。

 その光を浴びると、まるで温泉に浸かってるように、体の芯から疲れが取れていく。


 やがて復活したのか、一人二人と立ち上がっていくメイド達。だが、その足取りは重い。なんかゾンビのようにゆっくりと無理矢理立ち上がっている。


 ヒカリの魔法で疲れは取れても、精神的な疲れまでは取れない。本当は横になりたいのに無理矢理動かさせられている感じだろう。

 ……ウチってこんなにブラックだったっけ?


「ほらほらー。元気にしたんだから皆も早く立ち上がる! 早く打ち上げしよーよ!!」


 打ち上げ……そっか。それはしないと駄目だな。仕方ない。俺も立ち上がるか。


「ねぇシオン君。私さっきまで城にいたんだけど……」


 立ち上がった俺にヒカリが近づいてくる。


「ああ、ティティのヤツ。どうやってヒカリを呼び出したんだ?」


 もしかしてティティの知られざる魔法か!?


「フッフッフッ気になるでしょ!」


 そこに意味深な笑みを浮かべて現れるティティ。


「ヒカリ様、お疲れさまでした。ついでだから一緒に打ち上げに参加しますよね?」


「えっいいの? ……それよりも私は状況が知りたいんだけど……いや、状況は分かるんだよ! 今日はフェスやってて、皆疲れてたんだよね。で、ここはフェス会場なんでしょ?」


「はいっ。皆がだらしないから、ヒカリ様に渇を入れてもらいました!」


「別にそれは構わないんだけど……私をどうやってここまで連れてきたのかなぁって」


「それは秘密です!」


「「えええーーー!!! 何で!?」」


 まさか教えてくれないとは思わなくて、ヒカリと一緒に驚いてしまった。


「フッいい女は秘密を作るものなのさ」


 ありもしないタバコを吹かすような仕草をしてティティは言う。……なに言ってるんだコイツは?


「いい女……ティティ、カッコいい。分かったよ。これ以上は私も聞かない」


 えっ? ヒカリまで何言ってるの?


「ヒカリ様。深く追求はしない。それもまたいい女の条件ですよ」


「そうなの? 私もいい女になれるかなぁ?」


 ……駄目だ。ここには馬鹿しかいない。まぁ被害にあったヒカリが良いって言うのならいいんだろう。


 馬鹿やってる間に、どうやら殆どが起き上がってきたようなので打ち上げを開始することにした。



 ――――


「いやぁ大盛況でしたなぁ」


 次の日、倉庫を貸してくれたギルマスにお礼を言うために商業ギルドを訪れた。倉庫と広場は朝の内に元通り済みだ。


「もしかして来てました?」


「ええ、初日に少し様子見に。屋台の料理を堪能しましたぞ」


「声を掛けてくださったら良かったのに」


 ギルマスが来ていたのは全く知らなかった。


「忙しそうにしておったようですから。それにこちらも家族と一緒だったもので……」


 ああ、家族と来ていたのか。じゃあ邪魔しなくて良かったな。


「それで、息子があの……何でしたかな? あの入口にあった跳ねる建物」


「……もしかしてスーラハウス?」


「そう、それ! いやぁどうやらあれをいたく気に入ったようで、また行きたいとごねて大変でした」


「あははっ、そうですか」


 まさか真っ先にスーラハウスの感想が聞けるとは思っても見なかった。


《シオンちゃん。スーラハウス残しておく?》


 一回スーラから出したものだから、もうずっと出しっぱなしに出来る。

 もう片付けてしまったが、あそこにあり続けることは可能だった。


(いや、俺達が居ないところで変に問題が起きても困るから止めておこう)


 別にスーラハウスが壊れるのを心配する訳じゃなく、良からぬことを考える輩が出る可能性を考えたら止めた方が良いだろう。


《うう、仕方がないの》


 スーラもそれは承知の上か、素直に引き下がった。


「それで……商品のことなのですが、定期的に仕入れることは……」


「一応考えてはいます」


「おおっ! 本当ですか」


「ですが、しばらくは無理でしょう。こちらは本拠地がハンプールですから、こうやって行商に来るしかありません。ですが最近は……ほら。治安が少し悪いでしょう?」


「……それは国の派閥のことを言っておるので?」


「ええ、正直なところ、こちらは色々な町に我々の商品の良さを宣伝したいんですよ。ですからラスティン様に頼んで、こうして治安の良い町を移動しています。私達は次の町へ行ってしまうので、しばらくはここに戻ってこれないのですよ。もしこの国が落ち着けば、私たち以外の従業員も流通の手伝いが出来るので、この町に支店を出せば定期的に商品を卸すことも出来るんですけどね」


 こうやって、過激派のせいで流通が滞るんだぞ。とアピールしていけば、向こうの評判は落ちるだろう。


 ここだけじゃなく、他の町で商売する度に伝えて、過激派の評判を底まで落としていく。

 地道な話だが、こうしていけば気がつくと回りに敵しかいない。そんな状況を作り出すことが出来るかもしれない。


 あと、ギルマスには転売するような者がいないように呼び掛けてもらう。

 念のため、もし転売が行われたのがバレたらもう来ないかもと脅しておいた。これでこの町は安心だろう。


「そういえば、捕まった人はどうしました?」


 警備に引き渡しただけで詳細は知らない。

 強盗等の犯罪者はそのまま捕まってるだろうが、暴れた人やクレーマーレベルで捕まった人はどうしたんだろう。


「彼らは殆どが町の外から来た流れの行商人のようでしたので、まとめて町から追い出しました。また犯罪を犯したものは、領主から追って沙汰があるようですな」


 そっか。この人はあくまでもギルマスで、この町の領主じゃなかった。そっちはノーマンに任せてるので後で聞いてみよう。


「まっ、今回はかなりお世話になったし、何か困ったことがあったらハンプールに来たら力になるよ」


 それだけ言ってギルドをあとにした。



 ――――


 倉庫の片付けは完全に終了。メイド達も引き上げた。

 その為、俺達は最初に手配した宿まで戻ってきた。

 今日はここに一泊して明日この町を出る。


 次の町もこんな感じだといいな。

 まぁここまで大袈裟にすると体が持たないから程ほどにするか。

 もしくはフェスは一日にするとか考えないとな。

 ってか、元々はここでも一日の予定だったな。あまりにも色々出来そうなので俺が二日に変えたんだった。反省しなくちゃな。


「ただいま戻りました」

「ただいまー戻ったよ」


 ノーマンさんとリュートも戻ってきた。ノーマンさんは領主の所、リュートは冒険者ギルドに旅立つ旨の報告に行ってもらった。


「二人ともお疲れさま。何か問題はあった?」


 俺がそう言うと二人共複雑な表情をした。えっ?何かあったのかな?


「えー、では私の方から……」


 まずはノーマンの方から報告するようだ。


「その……直接的ではないのですが、賄賂を要求されましてね」


「はぁ? 賄賂? それでどうしたんだ?」


「勿論、何もお渡ししてないです。そうしましたら途端に機嫌が悪くなりましてね。居心地が悪かったと申しますか……」


「でも何で終わってからそんなこと言い出すんだ? 普通最初に言うだろ?」


 普通は賄賂を渡さないと商売はさせないとか言うんじゃないのか?


「向こうはこれ程盛り上がるとは思ってなかったようで、最初は好きにすればと言うスタンスのようでした。ですが……」


「結果はここの領主の想像以上だったというわけか」


 それで、儲かったんだから金を寄越せか。現金なやつだな。


「ええ、売上の一部を献上するのが常識だとか、商品を持ってくるのが常識だとかネチネチと……」


「あー、面倒くさいなそれ。でもそれってラスティンさんに迷惑かからないかな?」


 バルデス商会への愚痴だけならともかく、貴族間での争いに発展したら申し訳がない。


「それは問題はないでしょう。ここの領主にラスティン様に面と向かって文句を言う度胸はないです。それにそれをしてしまうと、今後ここでは商売しないと言っているようなものですから」


 それもそうか。文句を言うならここに来ないだけだもんな。


「むしろ問題があるのは領主が商品を住人から徴収したり転売屋から買ったりしないか不安です。何せ何一つ手に入れてないのですから」


「はっ? 何で手に入れてないんだ? 買いに来なかったのか?」


 いや、領主本人が買わなくても普通は使いを出すくらいするだろう?


「領主が買わなくても貰えると踏んでいたそうで、誰一人買いに行かせなかったそうですよ」


「ん? 最初にあげないって言わなかったのか?」


「もちろん伝えました。貴族や平民、たとえどのような地位にある者でも、全て公平に並んで販売すると。そこでしか手に入れる機会はないですと……領主も納得はしておりましたが、その中にご自分は含まれてなかったようです」


 それはそれは……これまた典型的だな。


「いいよ。じゃあ見張りを付けるよ。無理矢理徴収するようならその前に食い止めるし、転売に関しては情報が欲しいからむしろありがたい」


 個人の転売は今回購入制限があったから殆どいないと思う。だからあるとすれば、転売組織みたいな大規模の組織しかないはずだ。だとすれば尻尾を掴むチャンスだ。


「私からは以上です」


 ノーマンからの話が終わったので次はリュートの話を聞く。こっちも面倒な話じゃないよな?


「聞いてくれよ! ギルドの受付や女性の冒険者が僕のスリーブを付けてたんだよ! もう恥ずかしいったら……」


 心底どうでもいい話だった。


「あぁん? それはなんですか? 自分はモテてるって自慢ですか? くそっ死ねよイケメンがっ!!」


 リュートの立場になったら面倒なのでなりたくはないし、同情もするが、それでもモテるのは羨ましい。


「ちょっ、何で罵倒なんだよ! と言うか、本当にあんなのは勘弁してほしいんだけど!」


「でも、お前ティティと何か取引してたじゃないか」


「うっあれは……ってそうだよ! 酷いよシオン。あの子に喋ったんでしょ!」


「はぁ? 何をだ?」


 あの子ってティティだよな。俺は何も喋ってないぞ?


「だからぁ!? 僕がクリスのこと……どう思ってるとか」


「いやいやいや、待て待て。俺は誰にも話してないぞ! と言うか、車の中以外で話題にすらしてないからな!」


 そんな人の大事な話を言いふらすような真似はしない。


「じゃあ何であの子が知ってたんだよ……」


 確かに……何で知ってんだ?


「リュートってティティと面識あったっけ?」


「城で一回……あの案内してくれた人でしょ?」


 そういえばあのツアーでガイドの格好をしてたな。そういえば今回も司会者の格好してたし……あれっ? 最近ティティのメイド姿を目撃してないぞ?


「そつが、会ったことあったんだよな。じゃあその時に感づかれたんだ。ティティはああ見えてかなり観察眼が鋭いんだ。どうせ城でクリスにばっか話し掛けたりしてたんだろ?」


 俺はあの時リュートとは話してないから分からないけど、リュートは思い当たる節があるような顔をしている。ってか、じゃああの時のやり取りは……。


「リュート……お前、ティティと取引したの何だったんだ?」


 まず間違いなくクリスが関係あるに違いない。


「……誰にも言わない?」


「当たり前だろ!」


「……これ。」


 見せてくれたのはクリスのプロマイド。着せかえスリーブ用と普通の写真サイズの二種類だった。


 別に隠し撮りではない。一つは自撮りともう一つは全身ポーズ付きだ。


「クリスとあの子……メル友? みたいで、お互いに写メ? を送りあってるらしいんだ」


 ティティ……いつの間に……ってか、クリスってメール使えるの? 文字は……ああ、写メなら添付だけでいいから文字が読めなくてもやり方さえ覚えれば大丈夫なのか。


 しかし、相手に無許可でその写メを他人に渡しても良いのか?

 いや、流石に許可はとってるだろう。……とってるよな?


「ま、まぁ、ちゃんと対価を貰ってるなら良いじゃないか」


「そうだけど……でも自分の写真を知らない人が持ってるのって嫌じゃないか! しかも大事にしてるんだよ。怖いよ!」


 言わんとしていることは分かる。が、そこはアイドルの宿命だと思って諦めてもらおう。


「そんなことより、ギルドは問題なかったか?」


「そんなことっ!? ……依頼は大したことないし、明日離れる旨は連絡したから大丈夫だよ」


 それだけ言うとリュートは拗ねてそのまま横になってしまった。

 仕方がないな……まぁ明日になれば機嫌も直るだろう。


 俺はノーマンと肩を竦めた。仕方がない今日は休むとしよう。

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