第133話 祭りの準備をしよう
バルデス商会によるお祭り《バルフェス》開催決定!!
この辺りでは手に入らない珍しい商品を多数準備!
バルデス商会の定番商品から限定販売の商品も販売予定。中には今回の初出しの商品も有るかも!?
一部でブーム!? 購入特典に新規柄のスリーブプレゼント!
入場時に渡す引換券と購入した商品を持って景品交換ブースに行くともれなくプレゼント! 今回は先着じゃないので急ぐ必要はないぞ!
ステージショー開演!
歌やダンス、大奇術ショーを始めとした様々な催し物をお届けします!
屋台が多数出店!
バルデス商会が誇る料理人が腕を奮った自信作を今回特別価格にて販売。ここでしか飲めない飲み物もあるからお楽しみに!!
その他、ビンゴ大会やリバーシ体験会などお客様が参加できるイベントも用意してます。
二日間の期間限定イベント。是非お越しください!
※入場は無料です。入場時に引換券をお渡しします。再発行は致しませんので紛失しないようにお気をつけください。
※一度会場を出ますと、同日の再入場は出来ませんのご注意下さい。
※それぞれの商品には個数制限が設けられております。制限以上の販売は禁止させていただいておりますのでご了承ください。
※屋台の料理に関しては別途チケットを購入していただく必要がございます。お得なセットも準備しております。
※チケットの払い戻しは受け付けておりません。購入に関しては自己責任でお願い致します。
※ステージショーは無料でご覧いただけますが、一部の有料で特典付きの特別席をご用意させていただいております。
※上記のお約束が守れない方は退出していただく可能性がございます。
※問題が発生した場合は中止させていただくことがございます。
※会場内にはスタッフが定期的に巡回しております。問題がございましたらお気軽にスタッフまでお問い合わせください。
――――
「ってな感じにしたんだけど……楽しそうじゃない?」
「ああ、楽しそう……本当に楽しそうだ」
俺はノーマンと一緒にハンプールに戻って、領主と商業ギルドのギルマスに報告をしていた。
倉庫でシャルティエとミハエルさんと打ち合わせた結果フェスという形に落ち着いた。
開催期間も一日じゃなく二日に増やし、現在向こうでは急ピッチで準備が行われているだろう。
俺達は例のごとくチラシを作成し、町に配っていた。
それを見せながら説明したのに、今一つ領主達の反応が薄い。
「あれっ? 楽しそうと言ってるわりに元気ないけど……どしたの?」
「盛り上げすぎだ!! この町よりも大事にしてどうする!!」
どうやらここでしたリニューアルイベントよりも豪華なのが不満のようだ。
「だってさ、一回目より二回目の方が慣れてるし、今回は場所も広いんだもん」
決してバルデス商会が狭いと言ってるわけではないが、流石に個人の店と町の保管倉庫じゃ規模が違いすぎた。
「むむ。ではこちらも広い場所を提供するのであっちが終わったらこっちも……」
「いや、何で戻らなくちゃいけないんだよ。本来の主旨と変わってきてるぞ」
「本来の主旨と言うのなら、販売のみに専念してもらいたいものなのだが……私は行商をしてくれと言ったのであって、興行をしろとは言わなかったと思うが?」
「似たようなものじゃないか」
「「違う!!」」
領主だけじゃなく、ギルマスまで一緒に否定しやがった。
「いいか、行商は物を売る、興行は娯楽を提供するものだ。本来なら全く違うものなんだぞ」
まぁ、サーカス団や劇団と行商人が別ってことくらいは理解できるけど……。
「まぁ新しいスタイルの行商ってことで良いじゃないか。もしかしたら流行るかもしれないぞ」
「流行ってもらったら困るんだ!! ……まぁよい。しかし、この町でも必ずやってもらうぞ!」
これはハンプールでもフェスをしなければ納得しそうにない。仕方がないので後二つくらい町を経由したら一旦戻ってくる約束をした。
尚、フェス当日は内容確認のため、領主もお忍びで遊びに来るらしい。わざわざ迎えに来なければならない俺の気持ちも考えて欲しい。
仕方がないので、こうなったらとハンナも誘うことにした。
この一ヶ月、何回か孤児院に通っていたので、他の子ともそれなりに仲良くなった。
その為、俺がハンナばっかり誘うので他の子が不満そうにしていたが、流石にこの人数をまとめて転移……というか、そもそも仲良くはなっても、優しいお兄さんポジションにいるだけで、正体がバレてないので転移するわけにもいかない。……バレてないよな?
まぁ皆にはお土産を買ってくることで納得してもらって、この町でフェスをするときには代わりに色々と優遇してやろう。
あと誘うのは……クリスは別にいいや。あっ、でもリュートが喜ぶかな?
ワイズさんは誘おう。仕事はギルマスが留守番してれば大丈夫だろう。
最後に、今回絶対に忘れちゃいけないのが、オッチャンを連れていくこと。オッチャンは俺の中では今回の主役と言っても過言ではない。焼き鳥屋台のデビューをしてもらうんだ。
これはアレーナに聞いたのだが、オッチャンはこの一ヶ月間店を休んで必死に研究していた。お金に関しては研修費用として提供しているので問題はない。
メイド料理隊が材料を定期的に届けながら指導しているので、かなりの完成度をみせているようだ。
俺は何回かお邪魔させて貰ったけど、毎回レベルアップしていた。種類も増えていたし、オッチャンの焼き鳥が食べられるのを楽しみにしている。
《でもシオンちゃんは働かなくちゃダメだから食べられないの!》
確かに!? 屋台で出すなら仕事している俺は食べれないじゃないか。
スーラの的確なツッコミに一瞬にしてどん底まで落ち込む。
「いいの! 俺は前夜祭で楽しむもん!」
前夜祭というか、事前チェックだな。というわけでオッチャンは当日からじゃなくて今から連れて帰ることにした。仕込みもあるしいいよね?
――――
フェス会場に戻ってくると、メイドとドワーフ達が必死で突貫工事を行っていた。
俺は現場監督のドルク所へと向かう。
「ドルク、どうだ弟子たちの様子は?」
「うーん。まだ慣れてないのか要領は悪いな。やはり俺がやった方が速いし確実だぞ?」
「最初だから仕方ないさ。少しずつ慣れてもらうしかない。だが、今回は時間もないのでメイン所は頼む」
「分かってる。なぁに今日中には完成する」
いつもはドルクとダナンの二人に任せているのだが、流石にいつまでも二人に頑張ってもらうわけにもいかない。今回のように大掛かりなことはないかもしれないが、今後も行く先々で似たようなことがあるかもしれない。
これが続けば、ドルクとダナンは倒れてしまうかもしれない。
実際に城のリニューアルやハンプールの時も終わった後はいつも燃え尽きていた。
その為、ドルクの弟子を教育し始めた。弟子だけあって錬金術の筋は良さそうなのだが、経験が足りないのでまだまだこれからのようだ。
「彼らも頑張ってるみたいだし、後で酒を渡すので労ってやってくれ」
「甘いですぜシオンさん。こんな出来で褒美なんか上げたらアイツらが伸びない」
普段弟子を育てている姿を目撃してないが、ドルクはかなり厳し目の親方みたいだ。
「まぁその辺は任せるさ。俺は他のとこを見てくるな」
俺はドルクにそう言い、シャルティエの所に向かうことにした。
《シオンちゃん! ちょっと待つの!》
そこで珍しくスーラが引き留める。どうしたんだ?
《シオンちゃん。私も今回は出し物に参加したいの!》
突然何を言い出すんだ一体?
「スーラはリンとステージに上がるんじゃないのか?」
ハンプールの時のようにリンと芸をするのかと思ってたが違うのか?
《勿論それはするんだけど、そうじゃなくて別の出し物もしたいの!》
「別の出し物?」
というかやっぱりステージに上がるのは決定事項なのか。
《そうなの! ねぇねぇドルクちゃん! この辺りの場所を貰ってもいい?》
ドルクちゃん……髭モジャの中年ドワーフ。これほどちゃん付けが似合わない奴もいないだろうな。
「あ、ああ。別にこの辺りは元々テーブルや椅子を用意するだけだったから別に構わんが……」
ドルクも突然の質問に戸惑っている。
《ありがとうなの!》
スーラはそう言って俺の肩から飛び降りる。一体何をする気なんだ?
スーラはいつものように分裂する。いつもの……と軽く思っているが、考えてみればこれもおかしな行動だよな? 本当にスーラといると感覚が麻痺してくるよ。
分裂した欠片は大きく……えっ? お、大きくなりすぎぃ!! 五、六メートル位の大きさになったぞ。
「ス、スーラさん? 一体何してらっしゃるので?」
俺は若干引きながらスーラに問いかける。
《あのね! 中に入ってみるといいの!》
えっ? 中ってこの中に? ……入れるのこれ?
俺が考えていると、巨大なスーラの欠片の一部分が自動ドアのように開く。……ここから入れと?
俺は勇気を出して中に入る。中は空洞なのか広々としている。うん、暑くも寒くもない。温度調整もバッチリだ。
《もう一歩踏み込んでみるの!》
もう一歩って……これ以上入るとスーラの体を踏むことになるけど?
まぁ本人がいいって言うならもっと入ってみるか……って、うわっ!
一歩踏み入れると地面――スーラの体がいきなりバウンドした。
そのままボヨンボヨンとバウンドしながら奥へと導かれる。
《どう? 名付けてスーラハウスなの!》
……ネームセンスはともかく、これはあれだ。トランポリンみたいな感じだ。床全体……だけじゃなく、触ってみると壁も天井までが全てバウンドする。もちろんどこに当たっても痛くはない。
これは……楽しいな!
《まだまだこれからなの!》
スーラが叫ぶと何処からともなくボールが大量に降ってくる。ボールは固くなくてグニグニしたゴムボールのような……ってこれ、スライムじゃないの!? ……答えを聞くのが怖い。うん、これはボールってことにしておこう。
子供の頃、似たような遊具で遊んだことがある。遊園地で十分数百円とかで、知らない子供とはしゃいだ覚えがある。
《どうだった?》
「ああ、楽しかった。子供が喜びそうだな」
《でしょでしょ! 他にも外側を少し変形して滑り台にするの!》
滑り台か。それも楽しそうだな。
「でも、子供が怪我をしないように気を付けないと駄目だな」
怪我だけじゃなく、ぶつかってケンカしたり、ボールをぶつけたりする危険がある。
《心配しなくても、防衛機能も付いてるから安心なの!》
当たる直前に自動的にスーラの欠片が間に挟まって緩衝材の役目をするので危険はないそうだ。……もう何でもアリだな。
「シオン様! 何やってるんですか!」
丁度そこにシャルティエが大慌てでやって来た。多分この巨大なスーラハウスを見て駆けつけたんだろう。
「ああ、シャルティエ実は……」
「全くもぅ……この忙しいのに何してるんですか! 邪魔だから早く片付けてください!!」
俺が説明する前にシャルティエがスーラハウスを見て全否定する。
《……ごめんなさいなの》
さっきまで大はしゃぎだったスーラが邪魔と言われて、一気に落ち込む。
「えっ? スーラさん?」
いつものように俺が悪いと決めつけていたシャルティエはスーラが謝ったので、どういうことかと俺を見る。……ん? 何か理不尽なものを感じないか?
「シャルティエ、これはな……」
仕方がないので俺はシャルティエにスーラハウスについて説明した。
「スーラさん! 素敵な考えです!」
説明し終えると、シャルティエは手のひらをクルっと返してスーラを賞賛した。シャルティエは……いや、基本的に全員スーラには甘いもんな。
《でも邪魔なんでしょ?》
未だに拗ねてるスーラは流石に誤魔化されなかった。
「邪魔だなんてとんでもない! そんなこと言う人は私が成敗してあげます!」
邪魔だと言ったのはお前だぞシャルティエ。
《じゃあやってもいいの?》
基本根が正直なスーラはそれだけでシャルティエを信じる。
「勿論ですとも! でもここよりも子供が集まりそうな場所を作るのでそこに持っていきませんか?」
《分かったの! シオンちゃん。私ちょっと行ってくるの》
「あ、ああ。行ってらっしゃい」
機嫌が治ったスーラはシャルティエと一緒に会場の外れの方に行った。
シャルティエ……すっかり小狡くなって。スーラに嫌われることなくスーラハウスを退かすことに成功しやがった。
結局スーラハウスは広場の入口付近に設置された。
スーラハウスは目立つので待ち合わせや迷子の目印など、このフェスのマスコットとして鎮座することになる。




