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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第130話 次の町へ出発しよう

「シオンお兄ちゃん。ラミリアお姉ちゃん。本当に行っちゃうの?」


 今にも泣き出しそうなハンナを見ると、出発したら駄目な気がしてきた。


「心配しなくても暇なときは遊びに来ますよ。だからハンナは私達がいない間はしっかりと勉強して、次に私達が来たときに驚かせてください」


 ラミリア……本当にすっかりハンナの保護者ポジションに落ち着いたな。


「うん! 今は皆で字を覚えてるんだぁ。ハンナね、優秀だって誉められてるんだよ!」


 この一ヶ月で既に孤児院と学校間で交流は始まってる。五日に一回、学校の生徒……希望者が孤児院に来て勉強や遊びを教える。


 生徒も元々は似たような境遇の子供達だ。すぐに孤児院の子とも仲良くなれた。

 そして、学校で学んだことをここで教える。自身の復習にもなるし、教えることが教育にも繋がる。

 その中で、ハンナは城の生徒も驚くくらい抜群の成績を修めていた。


 まぁハンナは他の子と違い翻訳飴を舐めてるから、深く考えなくても書いてある内容が理解が出来る。

 ただ、それを知っているのは俺とスーラのみ。ハンナですらあの飴はスーラと話が出来る飴としか理解していない。

 だから周りからは天才かも? って言われている。うーん、完璧に報告するタイミングを逃してしまったな。

 ってか、貴重な飴を簡単に渡したとバレたら怒られるに違いない。

 ここはハンナには本当に天才になってもらうしかない。頑張れハンナ!


「ラミやん! シオン様! いつまで別れを惜しんでるんスか! いい加減早く車に乗るっス」


 リンにせっつかれたので、仕方なく車へと乗り込む。

 今回は大人数のため、キャンピングカーとワンボックス両方使う。

 俺、リュート、ノーマンさんの男三人がワンボックス。女性陣がキャンピングカーだ。


 女性がいなくて華がないが、俺は何気に楽しみにしていた。

 俺が密かに掲げていた目標――男友達を作る。その目標に近づいた気がしたからだ。女性がいない場所で男だけの話って友達っぽくない?

 まぁリュートもノーマンさんもまだ友達とは言えないが、旅をして仲良くなる可能性もある。トオル以外に男同士の会話が出来ると思うと楽しみで仕方がなかった。


《シオンちゃん。私のこと忘れてない?》


 一応女性のスーラが物申すって感じで俺に話しかける。


「あっ……」


 修学旅行みたいなノリは止めておこうかな、うん。



 ――――


「シオンさん……旅ってこんなに快適でしたっけ?」


「何を言ってる? こんなもんだろ?」


「いや、違いますよね? 一体何なんですかこの乗り物! 馬車より速いし馬車より揺れない。移動で疲れないなんて信じられないですよ!!」


「あー確かに馬車はなぁ。俺もこの間初めて乗ったけど、半日で尻が痛くなったよ。それに全然先に進まないのな。スーラがいなかったら途中で帰ってたかもしれん」


「はっ? スーラってそのスライムですよね? 何でスライムが馬車と関係あるんです?」


「スーラが分裂してクッションになってくれたんだ。頗る座り心地が良かった。……そうだ! 今日の夜もお願いしていいか?」


《お安いご用なの!》


 二人にはスーラの声は届かないが、ピョンピョン跳びはねているのでどんな答えかは分かっただろう。


「そのスライム……本当にスライムなんすか? 普通のスライムは分裂はするかもしれないですけど、クッションにはならないですよね?」


「リュート……いいか。この子はスライムじゃない。スーラだ。そう覚えておけ」


「はっ? ……ああ。スライムじゃなくスーラって呼べってことですね。分かりましたよ」


「いや、そうなんだが、そうじゃない。実は俺も最近気がついたんだが、実はこの子はスライムじゃないんじゃないかって……スーラって種族じゃないかって思い始めたんだ」


 最近スーラをスライムって言うのはスライムに対して失礼なんじゃないかと思い始めた。それだけ規格外の生き物だと思う。


「はっ? 何言ってるんですか?」


 スーラの本性を知らないリュートは、もちろん意味が分からない感じで聞き返す。


「いや、俺も詳しく説明できないが……だってさ。スライムが俺の背中で翼に変形して空を飛ばせたり、人を四人も乗せて三十m以上も高く伸びる。分裂してその分裂体に自由に指示を出せる。とか普通あり得ないだろ? それにこの間なんかSランクの魔族相手に力技で武器を分捕ったんだぞ? きっとスーラはスライムの皮を被った別の生き物だと思うんだ」


「空を飛ぶとか……何言ってるんですか? あり得ないでしょそんなこと」


 リュートは何言ってんだコイツって顔で俺を見る。まぁ知らなかったらそうなるだろうな……。


「だろ? まぁ後で見せてやるよ」


《二人とも失礼なの!! 私はちゃんとスライムなの!! ……多分》


 多分と付けるところがスーラの可愛いところだよな。


「それよりこの前から気になってたんだが……なんなんだその話し方は? 気持ち悪いから止めた方がいいぞ」


 城から帰って俺達に付きまとうようになってから、リュートは話し方が慣れない敬語……というか、後輩が先輩に向かってするような敬語を使い始めた。


「なっ!? 気持ち悪いって何だよ!」


 驚いて言葉が戻る。うん、こっちの方がしっくり来るな。


「だってリュートって初対面ではちょっとスカした感じの話し方だったじゃないか。何で無理に敬語なんか話そうとしてるんだ?」


「スカっ!? 僕ってばそんな風に思われてたの!!」


「あれっ? 自覚なかったの?」


 俺のリュートに関する初対面の印象は、チャラくて女遊びが激しい印象だったんだが……俺がそれをリュートに説明すると彼は即座に否定した。


「そんな!? 女遊びなんかしてないよ!! 何でそんなこと思ったのさ!」


「いや、だってSランクだから女の方が勝手に寄ってきそうだし……初対面の時、クリスをクリスちゃんっていかにも軽薄そうな感じだったし……」


「ちがっあれは……!? いや、何でもない」


 ん? 何か歯切れが悪いな。……ん? 待てよ……。


「お前……まさかクリスのことが好きなのか?」


「なっ!? そ、そ、そ、そ、そ、そんなことは……」


 考えてみたら最初に絡んできた俺達の冒険者登録。あれはクリスにいい格好を見せたかったんじゃないのか?

 それから負けても結構素直だったし……クリスには絶対に逆らわなさそうだった。

 城への案内ツアーに付いてきたのも、クリスを迎えに行った帰りに偶々会って付いてきたんだが……クリスと一緒にいられると思ったからか?

 リュートは顔を真っ赤にしながら違うと連呼している。全くもって説得力がない。


「もしかして最近俺に付きまとってたのもクリス狙いだったからか?」


「それは本当に違う!」


 今度はハッキリと否定した。これは本当のようだ。ってか本当を強調するとそれ以外は嘘だと言ったも同然だぞ。


「僕は……強くなりたいんだ」


 リュートがポツリと呟く。


「はっ? Sランク冒険者が何言ってるんだ? 十分に強いだろ?」


「それかなり皮肉ってるけど自覚……なさそうだね」


「いや、確かに俺達に比べたらとは思うけど、それでも十分じゃないのか?」


 少なくともあの町で生活する分には十分だと思うが?


「十分な筈ないじゃないか! 結局滞っていた依頼は全部シオンさんが引き受けて達成したし……もしシオンさんがいなかったら依頼は今も残ったまま。ナーガ達は今も生きていたんだよ!僕の今の力じゃ守り切れないんだよ!」


「リュート……」


 俺はリュートはSランク冒険者で、その地位に甘えてチヤホヤされながら暮らしているのかと思っていたが……違ったようだ。


「それでリュートはどうしたいんだ?」


「シオンさんと一緒にいれば強さが分かると思ったからしばらく一緒に行動したんだけど……」


「あまり意味なかっただろ?」


 ナーガの件以降、俺達が受けた依頼は細かなBランクを中心とした討伐依頼ばっかりだった。まぁAランクの討伐依頼が頻繁にあったら町は崩壊していてもおかしくはない。

 リュートが俺達と一緒に行動したのは討伐依頼の時も、ナーガの時の反省を生かして油断せずに落ち着いて行動していた。そんな状態なら参考にならなかっただろう。


「うん。正直敵がすぐに倒されて……力の差があり過ぎて分からなかった。だから……シオンさん! 俺を弟子にしてくれ!」


「で、…弟子? いやいやちょっと待ってくれよ!」


 正直弟子とか言われるとは思わなかった。ってかこの間失敗したばっかで未熟だと感じているのに弟子とか勘弁してほしい。

 しかしリュートはかなり真剣な様子。無下にするのも可哀そうだ。うーん、どうするか。


《シオンちゃん。別に弟子じゃなくても、お友達なら一緒に修行すればいいの》


「そっかぁ。スーラは良いこと言うなぁ」


「えっ? 何? どういうこと?」


 スーラの声が聞こえないリュートは困り顔だ。


「いやな。俺は弟子なんか取る器じゃない」


「えっじゃあ」


「だから、一緒に強くなろう。弟子じゃなくて仲間なら受け入れるさ」


「それって……僕に【月虹戦舞】に入れってこと?」


「別に【月虹戦舞】じゃなくても、一緒に行動してるなら仲間だろう。大体いつも朝練してるから一緒にやるか? 多分戦闘技術ならリュートの方が上だから俺も教えてもらえるし、魔法のコツや魔力の高め方なら俺が教えてやれるしな」


 朝練やってるのは俺だけでなくアイラやミサキ達もいる。リュートの経験は彼女らにも役に立つだろう。


「いいのかい?」


「ああ、もちろ……あっ、その代わり一つだけ条件がある」


「条件? 僕に出来ることなら言ってくれれば…」


「俺をさん付けで呼ばないこと。それから下手な敬語も止めること。大体SランクのリュートがBランクの俺に対してさん付けしてるなんて、周りから見たらどんだけ怪しいんだよ!」


 結局俺はAランクにはなれなかった。いくつか依頼をこなしたけどナーガ以降大物がいなかったから、昇級ポイントが足らなかった。ただクリスが言ってたけど、今後予想される盗賊グループをいくつか倒せばAランクになれるだろうとのことなので、期待して待つことにした。


「ノーマンさんもそう思いますよね?」


 後部座席でずっと話を聞いていたノーマンにも同意を求める。


「ええ……確かに他の冒険者からみたら不審に思われるかもしれませんね」


「うう、分かったよシオン。これでいいんだろ」


「ノーマンさんも俺のこと呼び捨てでいいんですよ?」


「いえ、私は執事で冒険者ではありませんから。その前にシオンさんが私の事を呼び捨てにしてください」


 あ、コイツはルーナと同じタイプの人間だ。様付けされなかっただけマシと思わないといけないな。多分領主に様付けはするなとでも言われてたのかな? ともあれ、二人と少しは打ち解けれたような気がする。うん、今回の旅は退屈せずにすみそうだ。

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