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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第125話 町をぶらつこう⑳ ヴァスキ編

「ぎ、ぎざまぁ!」


 俺に殴られて外まで吹き飛ばされたヴァスキは蹲ったまま怒りを露にする。


「だからお前は喋るなと言っただろうが!」


 俺は起き上がろうとしたヴァスキに蹴りを入れる。もう外にいるので今度は吹き飛ばさないように壁のある方へと蹴る方向を調整した。ヴァスキは思いっきり壁に衝突する。

 うん、今度はあまり歩かなくてすんだ。ヴァスキは先程同様呻き声を上げる。くそっ、この呻き声すら不快だ。俺は【毒投与】で声が出ないよう声帯だけ破壊する。


「あぁぁぁ……」


 声帯が破壊されても呻き声位は出せるのか。まぁさっきのように不快な声ではないから良いだろう。


「さて、自称魔王様がどれくらい頑丈なのか試させてもらおうか?」


 今の俺には目の前のヴァスキ(ゴミ)をどうやっていたぶるか。それだけしか考えてなかった。



 ――――


 俺がヴァスキを殴り始めてどれくらいたっただろうか?


 まだ十分位しか経ってない気がするし、一時間以上経ってる気もする。

 既に建物に女性達が居なくなってることから、それなりの時間が経過しているようだ。だが、そんなことはもうどうでもいい。


 ヴァスキはまだ死んでいない。そのことの方が重要だ。

 そうだな……流石に殴るのも飽きてきたので、次は切り刻むことにするか?


「ナーガの尻尾って切ったらまた生えてくるかな?」


「ぁ……ぁぁ!?」


 俺の言葉にヴァスキは再び涙を流しながら何かを訴える。勿論声が出ないので何も聞こえない。もしかして止めてくれと懇願でもしてるのか?


「ははっ! 何を言ってるか分かんねぇっての」


 最初こそ反抗的な目をしていたが、何発か殴っただけで、それもすぐになくなり、次は涙を流し懇願の目になって、最後に諦めの目になっていた。

 そして今から切り刻まれると理解し、再びその目には恐怖が浮かぶ。


「さて、まず尻尾に痛覚はあるのかな?」


 まずは先端の部分を切ってみる。


「あ”あ”あ”!!!!」


「ははっ、痛がってやんの! たった少しだけ切ったのにその痛がりようじゃ、この先もたないんじゃないのか?」


 ヴァスキは地べたを這いながら必死で逃げようとする。

 その行動は諦めていないというよりも、最早ただの本能のような動きだ。


「そういえばトカゲって逃げるときに自分から尻尾を切って逃げるよな? お前も自分で切ってみれば? 逃げれるかも知れないぞ?」


 ヴァスキは俺の言葉などお構いなく体を引きずり必死で逃げる。


「何だよ、尻尾は切らないのか? 仕方がない。俺が代わりに切ってやるよ」


 俺は蛇の部分を切断する。ヴァスキの体は一瞬ビクンと大きく跳ね上がる。

 尻尾の蛇であった部分は、しばらくビタンビタンとその場で跳び跳ね回っていたが、それもやがて動かなくなる。


「おっと、流石にこのままだと死んでしまうな。まずは切断面の止血をして……あっ、痛覚だけはもっと敏感にしたらどうかな?」


「!?!!!!!」


 俺の魔法なら痛覚だけ敏感にすることも可能だ。恐らくコイツは今まで感じたことのないような痛みを感じているだろう。一応ショック死だけはしないように気をつけないとな。


「おい、勝手に死ぬなよ? まだまだ楽しみはこれから何だから」


 そう、こいつにはもっと絶望を思い知らせてやらないとな。



 ――――


「…………様!」


 遠くで声が聞こえる気がする。まぁ、いいか。今はコイツをいたぶるので忙しい。


「……シオン様、シオン様……」


 うるさいなぁ、だから忙しいって言ってるだろ。


「シオン様!!」


 バッチーン!!


 物凄い音が響き渡る。えっ? 何だ? 何が起こった?

 頬がじんわりと熱くなる。今の音は……俺が殴られたのか?


「シオン様、目は覚めましたか?」


 目の前には俺を叩いたであろう女性がいる。目には涙を浮かべ、叩いた手は赤くなっている。


「……ルーナ?」


 目の前の女性はどう見てもルーナだ。あれっ? 俺はいつ城に戻って来たんだ?


「もう、ようやく目が覚めましたか? 全く……あまりみっともない姿を見せないで下さいまし」


 ルーナの目から溜まっていた涙が頬を伝わって地面に落ちる。


「えっ? ルーナ……泣いて?」


「もぅ……涙なんてシエラ様が亡くなられた時にすら流さなかったのに……本当に何年ぶりでしょう?」


 ルーナは笑いながら答えるが、俺には何がなんだか……。俺は辺りを見渡す。うん、どうみてもここは城じゃないよな?


「えええええっ!! ルーナぁ!? 何でここにいるの?」


 ようやく思考が追いついてきた。本来ここにいる筈のないルーナ。城から出たがらない引きこもりのルーナ。

 そのルーナがこんなとこにいるんだよ!


「シオン様が馬鹿なことをやってるって連絡がありましたから、急いでやって来ました。全く……シクトリーナの城主というものが何という体たらくですか!」


 ルーナは泣きながら怒っている。全て……俺の所為だ。


「シオン様、今はどんな状況か理解できてますか?」


「えーと、ナーガの討伐依頼を受けて、ナーガを倒して……ラミリアが洗脳!? そうだっ! ラミリアは?」


 俺は確か洗脳は解いたよな? ちゃんと無事なのか!?


「ラミリア様は無事でございます。それよりも続きを……」


 ルーナに促されたので……本当は詳しく聞きたかったが、それを許してくれそうな状況じゃない。仕方なく続きを話すことにした。


「確かラミリアを洗脳した奴を倒そうとして……ソイツの言動がムカついたんで……」


「キレてしまったんですね?」


「……ああ」


 思い出した。俺はあらためて周囲を見渡す。辺り一面にはヴァスキの血が……俺の体にもベッタリと付着している。

 ヴァスキは上半身と下半身が分離しており、上半身の方は体の原型が分からないくらい、殴られて腫れ上がっている。辛うじて息はあるようだが、正直生きているのが不思議なくらいだ。


「これを……俺が?」


「ええ、記憶にございませんか?」


「……いや、ある。殴った感触も、切った感触もハッキリと覚えている」


 多少曖昧だが、これを俺がした自覚はある。ただ、本当に俺がやったのか? 自分で自分が信じられなかった。


「シオン様はこのヴァスキを相手に、一方的に殴る蹴る切り刻むと残虐な行為をしてきました」


「……ああ」


 この光景を見れば残虐な行為と言われても仕方がない。


「はっきりと申し上げましょうか? 先程までシオン様が行われていた行為は、この者や盗賊達がマチルダ様にされていた行為と何ら代わりはありません」


「なっ!? しかし、コイツは……」


 俺とコイツとは全く違う! コイツは多くの女性を虐げ、ラミリアまで洗脳した。そんな奴と一緒……だと?


「悪人だから痛めつけてもいい? ……シオン様はサクラ様の言葉を忘れてしまいましたか?」


 姉さんの言葉……俺の脳裏にあの時の言葉がよみがえる。


『殺人を楽しむような快楽殺人者にはならないで』


 この世界、殺しをするなとは言わない。だけど、殺すのに意味もなく相手を嬲ること、それはただの自己満足。快楽殺人者と何ら代わりない。


 だから俺はこの世界に来て、生きるため、守るために、悪人を殺すことは躊躇わないが、殺す相手を決して必要以上に痛め付けない。そう誓った筈だった。


「思い出しましたか? ではこれはどうでしょうか? 体を切り刻み、死なないように魔法で延命させ、殴り続ける。これは完全にシオン様の自己満足ですよね?」


「ああ……」


 俺がさっきまでしていたことは間違いなく自分の怒りを発散させた行為だった。


「シオン様はお優しい方です。あの様な女性の姿を見せつけられ、ラミリア様が洗脳され、さらに侮辱までされたら、こうなるお気持ちは分かります。ですが、どうかご自分を見失わないで下さいまし」


 ルーナは俺を優しく抱き締める。


「シクトリーナ……いえ、わたくしのご主人様として誇らしいお姿、生き方をされてください」


 その言葉は、俺の心の中に深く刻まれた。

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