第123話 町をぶらつこう⑱ ナーガラジャ編
「おいおいおい! どうなってやがるんだ!!」
目の前に男はナーガが全滅している光景に激怒してる。
……男? 二本足で歩いている。ナーガじゃないのか?
「貴様……よくも俺様の同胞を……絶対に許さんぞ!!!」
男は槍を構えると槍の先から大きな火の玉を出す。
そして槍を振り回し、火の玉を放つと同時に自身は高く飛び上がり俺へと槍を振り下ろす。
「くっ【絶対防御】」
俺は火の玉と槍の攻撃を同時に防ぐため防御壁と召喚する。
火の玉と槍の一撃は俺の思惑通り壁に防がれる……が、かなり強力な一撃だ。それに槍は壁に接触したにもかかわらず、毒――酸の効果を受けた形跡がない。
う、嘘だろ!? 偽ヘンリーの鎌ですら溶かす酸だぞ。……あの槍は偽ヘンリーの鎌よりも強いのか? あの槍の攻撃は絶対に食らってはダメだな。
「……お前はナーガラジャなのか?」
見た目は完全に人間だが、同胞だと言っていたことから間違いなく魔族に違いない。エキドナやラミリアのように人化出来るレベルの魔族なのか?
「んあ? ……ああそうか。この足か。人間の女を相手にするときはこっちの方が具合がいいんでな」
くそっなんて最低な理由だ。しかし、人化できるならSランクの魔族と見て間違いない。予想よりかなり強いじゃないか!
「……やっぱりここに女が捕まってるんだな?」
しかし、これで女性達が囚われていたことは確定した。そして、この集落にナーガが多かった理由も……。
「ん? お前の目的は女どもの開放か? ハッ、こりゃあいい。あんな家畜どもの為に、一人でこんな所までやってきたのか。んで、同胞を全滅させたと……ふざけるなぁああ!!!」
男は今度は槍に炎を纏わせる。槍の威力を上げて壁を壊す気だろう。
「ふざけるなはこっちのセリフだ!! さっさとお前を殺して解放させてもらうぞ」
俺は壁を解除して男と正面からぶつかることにした。両手にナイフを召喚し男へと向かう。
だがその瞬間、全くの別方向から氷柱が俺めがけて襲い掛かってくる。
しまった!! 新手か!? だが、気づいても男へ向かっている途中だったので、咄嗟に避けることは出来ない。
(スーラ!! 氷柱の方を頼む!)
《任せるの!!》
スーラが肩からジャンプして、氷柱の方へ攻撃を引き受ける。
頼りになる相棒を信じ、氷柱を完全に無視して男の方に集中する。逆に男は俺が氷柱に見向きもしないから少し意表を突かれたようだ。その隙をついて俺は男に魔力を込めた威圧を仕掛ける。
その威圧に当てられ、振りかぶろうとした男の手が一瞬止まる。その一瞬で十分だ。俺のナイフが一閃。男の胴体を真っ二つ……には出来なかったが、傷をつけることに成功した。
「ぐがぁああああ!!!」
男が倒れこんでのた打ち回る。見苦しい光景ではあるが、俺の毒を食らって即死しないだけでもコイツの実力がかなりのものだと分かる。だが流石に時間の問題だろう。
「ぎ、ぎざまぁああ!! よぐも、よぐもやっでぐれだなぁあああ!」
倒れたまま無理やり絞り出したような声で俺に叫ぶ。
「凄いな。まだ喋れるか」
《シオンちゃん!!》
スーラもこちらへと戻ってくる。どうやら無事のようだ。
「スーラ! さっきは助かった。ありがとな」
《どういたしましてなの! それよりあの氷柱……》
「ああ。まだ敵が残っていたのか」
てっきりコイツが残ったボスとばかり思っていたんだが……。
「まさかスライム如きに私の攻撃が返されるとは思いませんでしたよ」
一番近くの建物の屋根の上からその声は聞こえてきた。背の高い長身の男だ。……また男の格好している。もしかしてこいつもナーガラジャなのか?
長身の男は屋根から飛び降りると、さっきまで俺と戦っていた男の前に立つ。
「せっかく手助けしたというのに情けないですね」
「う、うるざい……ば、ばやぐだずけろ」
「そんな切り傷程度で助けろだなんて……貴方恥ずかしくないのですか?」
「ど、どぐだ……どぐが、がらだじゅうを……がぁあああ!!」
男は最後に断末魔を放って動かなくなる。ようやく死んだようだ。
「ふむ。死んでしまいましたか。あの程度の傷で殺すことが出来る毒とは……随分と強力な毒のようですね。私も食らったら危ないかもしれません」
まるで他人事の言ってる。自分が食らうはずがないとでも思っているのだろう。
「お前もナーガラジャなのか? あいつがボスじゃなかったのか……」
「ふははは、あんなのが我々のボスなわけがないでしょう! そのように思われたらあの方に失礼です。あれは本来、私と同列にいるのでさえおかしかった男ですよ」
「あの方? じゃあお前もボスじゃないのか……ボスは何処にいる?」
「さあどこでしょう? 少なくとも敵である貴方に教える必要はないですね」
こいつは他のナーガに比べてかなり知恵がありそうだ。そしてコイツもボスではない。さっきの話しぶりから、コイツとさっきまで俺が戦っていた奴が幹部的なポジションだな。
で、アイツが力、コイツは頭が回る感じだろうな。
しかしここにボスがいないことを考えると……本気でヤバいかもしれない。
「悪いがお前に構っている暇はなさそうだ。さっきの男同様一気に片を付けさせてもらう」
「おお怖い怖い。ですが、そう巧くいきますかねぇ?」
「いくけど?」
俺は男に一気に詰め寄り切り裂く。……ん? 手ごたえがない?
「幻影……か?」
男がいた場所には氷の粒が舞っている。今まで目の前にあったのは氷の幻影だったのか。
「はははっ確かに早い、素晴らしい反応です。ですが、それがどうしましたか?」
男の姿は見えない。どうやら隠れて様子でも見ているのだろう。
なら、またナーガ達を倒した要領で……と、言いたいところだが、【死虫の群れ】は目に見える位置の敵しか対象に認識できない。
なら今度は魔力を記憶させて自動追尾する【毒の自動追尾】を使う。以前、赤の国でヘンリーの部下に使用した魔法だ。あれなら俺の目の届かない場所でも勝手に追尾して相手を倒す。記憶させるための相手の魔力はここにある氷の粒で十分だ。これを元に本体を追尾させればいい。
さっきの敵と違い、力技で来ないのなら俺にとってはカモでしかない。だって魔力量で俺に敵うはずがないのだから……。
発動させた【毒の自動追尾】は本体を見つけたようで俺の前から飛んでいく。後はあれに任せておけば勝手に処理してくれるだろう。
それにしても、ナーガラジャが二体いるのは聞いてないし、さらにボスがいるとか…一体どうなってるんだ?
その時遠くで爆発音が聞こえた。
随分と大きな音だ。あれは……!? ラミリアが侵入した建物の方角だ!
「ホリン!!」
俺の叫びに上空で待機していたホリンがやってくる。
《マスター! 建物がいきなり爆発して……》
ホリンの報告を聞きながら素早くホリンに飛び乗る。
「他に状況は? ラミリアは!!」
《申し訳ありませんマスター。煙で殆ど何も……爆発が建物の中からだったくらいしか……》
「くっ、ホリン急いでくれ!」
くそっ嫌な予感がする。ラミリア……無事でいてくれ!
――――
ホリンの言ったように、その建物は中から爆発したようで、屋根がきれいになくなっていた。
少し時間が……とは言っても爆発があってまだほんの一、二分。
だがその短時間でも煙は少なくなって中の様子が覗えた。
その様子を見て……俺は顔をしかめた。酷い……あまりにも酷過ぎる光景が目の前に広がっていた。
まるで家畜のように裸で鎖に繋がれている女性達。魔法なのか薬なのか分からないが、女性達の自我はとうになくなっているようで、この爆発の中でも動く気配がない。
生きているか死んでいるか……ここからではそれすら判断が付かない。
今ここにナーガはいないようだが、俺達が攻めてくる直前までその行為が行われていたことは用意に想像がつく。
《シオン様!! 助けてください!》
突然頭に響く声。これはラミリアのヒポグリフか! 姿は見えないが、どうやら念話が届く位置まで来たようだ。
「どうした!! 何があった!」
《!? シオン様、ご主人が……ご主人が……》
恐らくこのヒポグリフは俺を見つけて話し掛けたわけではなく、ずっと俺に助けを求めてたに違いない。
そしてようやく俺が返事をしたのでテンパってやがる。
「落ち着け! ラミリアに何があったか落ち着いて説明しろ!」
俺の言葉にようやくヒポグリフは説明を始めた。
――――
ラミリアは作戦通りナーガが建物から出ていったのを見計らって、中へと潜入した。
そこで目撃した光景にラミリアは絶句。予想以上の光景に激しい怒りを覚えたそうだ。その怒りをなんとか抑えて、女性達を救出することにした。
だが、女性達は鎖を外しても足の腱を切られているのか立ち上がることすらできない。
それどころか俺の感じたように、薬か魔法で意識が朦朧としていて、抵抗する気力さえ失っていたようだ。
仕方がないので数人ずつ、エリクサーで回復させた後、ヒポグリフに乗せ、アイラとリンの下へと送り出す。
その行動を何回か繰返していた時、建物にソイツが現れた。
ソイツを見たラミリアは倒そうとしたが、近くにいた一体のラミアを人質にとられ身動きがとれなくなる。
そしてソイツが戯れに人質にとったラミアの頭を破壊した瞬間、ラミリアがぶちギレた。
建物の爆発はラミリアがキレた際、魔法を暴走させ壊したようだ。
そして、ソイツはその瞬間を見逃さなかった。ぶちギレて精神が不安定なラミリアを洗脳することに成功。
ラミリアは敵の手に落ちることになった。
ヒポグリフの話を聞き終わった時、建物の中からラミリアが自我を失って敵として俺の目の前に姿を見せたのだった。




