第122話 町をぶらつこう⑰ ナーガ編
「グルルルルゥ!!!」
ホリンの雄叫びが集落の上空で響き渡る。その雄叫びにナーガ達は何事かと辺りを見渡す。一体のナーガが上空のホリンに気づくと一斉に上空を見上げる。
俺はナーガに見えないように上手くホリンの背に隠れる。これでナーガ達からはホリン上に乗っている俺の姿は見えないだろう。ナーガ達はホリン……白いグリフォンを見て敵だと思うか? それとも獲物だと思うか? ……少なくとも逃げ出す様子ではない。
雄叫びを聞きつけて建物からも続々とナーガ達が出てきた。そのナーガもホリンを確認すると、一旦引っ込み弓や槍を準備して出てくる。最初は三十体程度だったが、今や倍以上に増えている。一体何体いるんだ?
ともあれホリンのお陰で十分目立つことが出来た。囮としては最高の出だしじゃないか。これでラミリアは戦闘が始まったら気づかれないように例の建物に入って行けるだろう。
《【毒の暴風雨】するの?》
「いや、あれ使うと全部吹き飛んじゃうから……。スーラの出番は地上に降りてからだな。まずは俺の魔法とホリンで先制攻撃を撃って地上に降りよう」
スーラの提案は周りへの被害が大きすぎる。他にも【毒の雨】や【毒の霧】など広範囲魔法はラミリアの潜入、囚われた女性の安全、それに敵が建物に隠れる可能性があるので使用できない。
《分かったの!》
《畏まりました》
二人にも俺の考えが伝わったので早速行動を開始する。
「ホリンはそのまま降りながら正面の敵を、俺は背後の敵に魔法を放つ!」
「グルルルゥ」
ホリンの雄叫びと同時に正面に無数の羽根が召喚される。ホリンはそのまま急降下しながら【破邪の羽根】を放つ。俺はホリンの上で体制を変え、【毒散弾】を放つ。
「て、敵襲ーーー!!!」
「に、人間だあああ!! グリフォンの上に人間が乗ってるぞ!!」
上空の白いグリフォンが攻撃を仕掛けてきて、おまけに人間が乗っていた。明確な敵だと分かったが、すでに先制攻撃を食らいナーガ達は大混乱である。
流石に急降下中に狙いを定めて攻撃は出来なかったので、少しでも減れば……と思ったら、十体は倒したようで上々の結果となった。
(ホリンはそのまま上空へ戻れ! 上空からラミリアのサポートや逃げ出す奴の処理を任せる!)
ホリンから降りた俺は、敵に聞こえないように念話で通達する。
《畏まりました。マスターもお気をつけて!》
ホリンは【破邪の羽根】で攻撃し続けながら旋回し、上空へと舞い戻る。うーん、カッコいい。まるで戦闘機のような動きだ。
《シオンちゃん、油断しちゃダメなの!》
ホリンに見とれていた俺の背後から襲ってきた敵を、スーラが魔法【風の刃】で攻撃。スパッと首と胴体が離ればなれになる。
「ありがとうスーラ。助かったよ」
【自動盾】もあったし、別に油断をしていたわけではないのだが、ここは素直に礼を言った。
「敵は人間が一人! たった一人だが、かなりの魔力を宿している! 念のため応援を要請しろ!! 後、白いグリフォンが空から狙ってる。上空にも気をつけるんだ!」
流石にオークやゴブリンと違い、知性があり魔族と認定されているナーガは、会話をして連携をとる。
その為ナーガは今まで俺が戦ってきた魔物と違い、個々の能力にも大きな差があった。
最低でもCランク程度、中にはBランク以上だと思われる魔力を有した奴もいた。
これは……確かに冒険者総出じゃないと厳しかっただろうし、かなりの被害も出たかもしれない。
Sランクのリュートでも、この数を相手なら一人だったら殺られたかもしれないな。
流石に俺は負けることはないが、ラミリアの方は大丈夫だろうか?
ここと同程度ならラミリアでも問題ないだろう。だが、この集落にはナーガラジャがいる。このナーガの進化タイプならさらに強いはずだ。Aランクならともかく下手にSランクレベルまで強かったらラミリアも危ないかもしれない。
これは早いところ全滅させてサポートに回った方がよさそうだ。……が、目の前にはナーガがさらに集まってきて五十体はいる状態。全滅にはまだ時間が掛かりそうだ。
――――
「貫け! 【アイスランス】!」
ナーガの放った一撃を【毒の盾】で受け止める。
うわっ! 槍が接触した部分から盾が凍りだした!?
俺は慌てて盾を解除して、【毒弾】で反撃をする。
魔法の盾だから良かったが、実物で受けたら盾が壊れるところだったぞ。
あれから随分と倒してかなり敵の数は減ってきたが、敵も上手く連携を使いながら、魔法を駆使するので、かなり手ごわくなっている。
正直普段、如何に広域魔法に頼っていたか、自身の魔力の大きさに頼ってたかが、痛感させられた。【毒の霧】や【毒の雨】を封じられるだけで、ここまで苦戦するとは……ルーナの言う通り、こういう経験を積まないと分からないことがたくさんある。
《シオンちゃん! 流石に雑魚に時間をかけ過ぎなの!》
いや、言うてもそこまで雑魚じゃないんだが……でも確かに少し時間をかけ過ぎた。ここまで来てまだナーガラジャが出てきてないことを考えると、本当にラミリアの所にいるかもしれない。
「仕方ない、一気に片を付けるぞ」
俺は残りを一掃するためにある魔法を唱える。正直魔法を作ったのは良いけど、印象が悪くて使いたくなかった魔法だ。【毒の霧】のように広範囲ではないが、目に見える範囲の複数の敵に攻撃できる魔法。
「よし行くぞ! 目標はナーガのみ……【死虫の群れ】」
俺が魔法を唱えると、幾重にも重なった羽音が聞こえてきた。
俺が召喚した羽虫の飛ぶ音だ。実際の虫ではない。あくまでも虫の形をした魔法だ。
昔、偽ヘンリーが使ってたコウモリ型の魔法を参考にしている。
霧や雨と違い、蚊くらいの大きさの虫が敵目がけ、自動追尾して対象に襲い掛かる。勿論毒持ちの為、対象に触れると毒を食らい死に至る。
【毒射】や【毒弾】と違い、直線攻撃でなく本当の虫のように不規則に動き回りながら対象へと近づく。
触れると死ぬ。回避しても自動追尾。撃ち落とすにも動きが不規則な上に対象が小さすぎるため当てることすら出来ない。
全方位の防御魔法で身を守るか、範囲魔法で自分の周り全てを吹き飛ばすかくらいしか対処法はない筈だ。
強い魔法なのは間違いないのだが……邪法というか、見た目といい、羽音といい、あまりにもイメージ的に悪いので、あまり好きになれなかったのだ。
これは【毒の雨】のように全体に降り注ぐわけではない。範囲も俺の目の見える範囲だけだから仲間にも迷惑はかけない。
今回はかなり多くの羽虫を召喚したが、単体での召喚も可能だ。単体なら羽音も殆どしないので、暗殺などにも向いている。また毒の種類を今回は即死にしているが、洗脳や睡眠、マヒにも出来るため、応用も効く。便利なんだけど使いたくない。問題のある魔法になってしまったのだ。
――――
……うん。やっぱり強力な魔法だったか。
残っていたナーガ達はなすすべもなく死んでいく。その場から逃げ出そうとした者まで残らず全滅だ。
ナーガって下半身が蛇だから。走るスピードはそんなに速くないんだよね。飛んでる虫から逃げられるはずがなかった。
俺はこの辺りのナーガの全滅を確認して魔法を解除した。
……よし、一旦ラミリアに合流しよう。あっちが問題なさそうなら生き残りを探しに行けばいい。
そう思ってラミリアがいるはずの建物へ向かおうとしたが……どうやらその前に強い気配が俺の前に現れる。どうやらボスの登場のようだ。




