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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第121話 町をぶらつこう⑯ 出発編

 ナーガ討伐の依頼を受けた俺達【月虹戦舞】はグランディス山へ向かうべく準備を開始した。


 グランディス山へは馬車で二日。まずはその馬車を手に入れる必要があった。


 今回は、囚われた女性を救出する可能性がある。どれだけの人数になるか分からないので、キャンピングカーでは入りきれない。いや、馬車でも難しいだろう。

 だが、キャンピングカーよりは人数は入るし、何より得体の知れない乗物よりは安心するんじゃないだろうか? との考えもあった。


 本来なら救出後はすぐに転移するのが一番なのだが、魔族に捕まっていた状態で、表向きは魔王しか使えない転移を利用するのは得策ではないと思った。

 まぁ同じ囚われているラミア族に関しては、転移でさっさと助けることにする。人間と一緒だとお互いに落ち着かないだろうからな。


 馬車に関してはミハエルさんから借りることが出来た。

 最初はシクトリーナにある竜車を用意しようと思ったのだが、リン曰く、竜車は馬車よりも早く移動するため、人数を乗せての移動は向いてないとの話だった。


 馬車の確保は出来たので、次は食料や着替え、毛布など考え得る限りの準備はしておく。あと、帰りの移動に日数が必要になるためテントも準備しておく。

 これらは城の倉庫へ置いておく。いつでも取りに行ける場所に準備していれば荷物は嵩張らない。

 少し不審がられるかもしれないが、それくらいは許容範囲だろう。



 ――――


「うう……馬車の旅がこんなに辛いものだとは思わなかった」


 出発して半日。俺は既に音を上げていた。

 こっちの世界に来て初めて乗った馬車。初めはテンションが高かったのだが……想像以上に過酷だった。

 移動スピードは遅いわ、尻が痛いわ、安定性は悪いわで……よくこの世界の住人は馬車で移動出来るなと感心すら覚えた。


「なぁもっと快適にならないのか?」


「今ここでどうにかなるようなことはないっスね。城に帰れば椅子にクッションを設置したり、サスペンションを入れて衝撃を抑えるとか出来るんスけどねぇ」


 くそっ! やはりどうしようもないか。

 仕方ない。これ以上馬車に乗るくらいなら歩いた方が……いや、俺にはホリンがいるじゃないか! 俺だけホリンに乗って移動すれば……リン達には恨まれるかも知れないが、背に腹は代えられない。うん、いい考えだ。


《シオンちゃん、ちょっと待つの!! 私に任せるの!》


 おおっ! スーラの任せるの! が発動したぞ。

 今までの経験からスーラが任せるの! と言った時は、役に立つことが多い。これ……期待してもいいよな?


 スーラは俺の肩から降りると、早速二つに分裂した。

 そして本体じゃない方が、いつもの手のひらサイズから巨大化する。

 これ……いつも思うけど、どんな仕組みなんだろうな。巨大化した分身は中央が少し凹む。これってもしかして……。


《名付けてスーラクッションなの! さ、シオンちゃん。座っていいの》


「お、おう……」


 まさかスーラに座ることになるとは……。


「これ、本当にいいの? 重くない?」


《そっちには意識がないので大丈夫なの》


 本当にスーラの生態が気になるが……まぁいいや折角だから座ってみよう。


「ひやっ!? ……何だこれ! フヨフヨして滅茶苦茶気持ちがいいぞ」


 あまりの座り心地の良さに思わず変な声が漏れてしまった。

 これ……座布団やクッションというよりウォーターソファに近いな。いや、本物のウォーターソファに座ったことがないので、実際のところは分からんけど。

 座っているというより浮かんでいる感覚に近いのかな? ともあれこれで堅い椅子に座る必要はなくなった。


「流石スーラだな。お陰で快適に旅が進められそうだよ」


《えへへ…それほどでもないの》


「これってどれくらいの間保ってられるんだ?」


《魔力の消費は最初に分裂して命令するだけだから。別に何時間でも何日でも大丈夫なの》


 これが何日でも大丈夫とか……スーラがいれば、もう出来ないことはないんじゃないかとすら感じる。


「シオン様……それ、そんなに快適なんスか?」


「快適なんてレベルじゃないぞ。これを経験したら、部屋のベッドすらもう満足できないかもしれない」


 シクトリーナは寝具に関してはかなり力を入れているので、寝心地が悪いと感じたことはない。むしろ日本にいた頃よりも快適だ。

 だがこれは……この浮遊感は堪らなく気持ちがいい。


「ス、スーラさん。お願いがあるんスけど……それもう一個作ることは出来ないっスか?」


《簡単なの! あと一個でいいの?》


「ちょっとリンさん。一人で抜け駆けは酷いですよ!」


「分かってるっスよ! スーラさん。申し訳ないっスけど、人数分用意できるっスか?」


《分かったの! リンちゃんとラミちゃんとアイラちゃんの分だね……ええと、んしょ!》


 スーラから立て続けに三つの欠片が分裂した。

 それぞれ赤色、黄色、青色と色分けまでしている。因みに俺の分はスーラ本来の色でもある緑だ。


「うわっ!? 本当にフワフワっスね!」

「これ……油断するとすぐに寝てしまいそうですね」

「………」

「ちょっ!? アイラ様!? 寝るの早すぎっスよ!」


 赤はもちろんアイラで、黄色がリンか。属性通りだな。すると残った青がラミリア……ん? ちょっと待てよ?


「なぁラミリア……お前って青の属性なの?」


 よくよく考えたらラミリアの属性って聞いたことなかった。


「シオンさん……私の属性は知らなかったでしたっけ?」


「多分聞いたことないと思うけど……」


 エキドナは以前調べたので三色の属性全て知っているが、他の人は調べてないので知らない筈だ。

 本人から直接聞いた記憶もないし……魔族の姿なら一瞬だけ見たけど。

 そういえばあらためて姿を見せるって約束したきり結局見せてもらってない。こういうのって男から催促するのもあれだからなぁ。でももう一度しっかりと見てみたいな


「……シオンさん。顔が変態ですよ」


「んな!? 何だよ顔が変態って!!」


 せめて顔がにやけてるとか……それも変態チックで嫌だな。


「大体何を考えてたか分かりますが……そうですね。今回の依頼が終わって、落ち着いたら少し時間をもらえますか?」


「あ、ああ。……いいのか?」


「元々約束してましたしね。それに、前回があんな風でしたので……ちゃんとした姿も見てもらいたいですし」


「ラミリア……」


「……二人が何を話してるかよく分からないっスけど、如何わしいことだけは分かったっス」


「いや、如何わしくないから。昔した約束を思い出しただけだって」


「ふーん。まぁいいっスけどね。何でも」


 うわ~、一見興味なさそうな返事だけど、明らかに疑ってますって目をしてる。


「それで、属性の方は? これは今回の作戦で必要になるかもしれないから、今聞いておきたいんだけど……」


「……それ、本来なら初めて旅に出た時……エルフの村へ行くときに聞いておくべきことですよ。ちょっと仲間に対して無頓着過ぎません?」


 うう……確かにそうかもしれない。仲間の能力把握はしっかりとしないと、もしもの時に困るよな。反省しよう。


「私の属性は赤と黄色です。しっかりと覚えておいてくださいね」


 赤と黄か。流石にエキドナ親衛隊隊長。複数の属性持ちだったのか。


 俺達はあらためて全員の魔法や戦闘スタイルを話し合いながら、スーラのお陰で快適になった馬車の旅を満喫した。



 ――――


 次の日、目的地の山の麓までやって来た。馬車は一旦ここに置いていく。

 ナーガの集落は山の中腹。ここから少し歩かなくてはならない。


 因みに集落の場所はホリンとラミリアの従魔のヒポグリフがすでに見つけている。

 その集落には表に出ているだけで、三十名程度のナーガが目撃されていた。

 また、何軒か簡素な建物があり、その中にもおそらくナーガがいるのではないかと推測される。


 なお、外に女性の影は見当たらない。存在しないのか、建物の中にいるのか判断はつかない。

 だが、一軒だけ明らかにナーガの出入りが激しい大きめの建物が存在した。

 ホリンが下手に近づくと混乱が予想されるので、気がつかれない位置でしか詳細は分からなかったが、女性がいるとしたらそこだとみて間違いないだろう。


「さて、どうやって攻めようか?」


 正面から堂々と攻めるか、バレないように隠れて進むか。


「まずシオンさんが空から奇襲をかけましょう。シオンさんはそのまま暴れてください。私は敵がシオンさんに集中している隙に女性を助けに行きます。アイラさんは木の上で待機。居場所がバレないように私をサポートしてください」


「ラミやん、私はどうするっスか?」


「リンさんは集落前で待機。私が女性を連れてきますので、人間の方を引き受けてください。私はラミアの方を引き受けます」


「分かったっス。そのまま馬車まで逃げればいいっスね」


「ええ、それでいいかと。……いいですよねシオンさん?」


「あ、ああ。いいんじゃないか?」


 ねぇ? このパーティーのリーダーってラミリアだっけ? なんかドンドン作戦が決まっちゃったんだけど?

 いや、別にいいんだけどね。ただね、どうせ俺が考えても似たようになりそうだし、むしろ俺が考えたのよりもいい作戦っぽいから悔しいというか……リンもアイラも素直に従って悔しいというか……まぁ複雑なわけですよ。


 しかし、今回はちゃんと俺にも見せ場もある。

 ここで活躍すれば最近の情けない評価を……それこそヒモって評価も覆せるかもしれない。


「じゃあ、作戦前に皆にこれを渡しておく」


 俺はそういって三人にエリクサーと魔法結晶を渡す。


「魔法結晶はミサキの【キレイキレイ】が入ってる。女性が囚われているなら間違いなく必要になるだろう。それからエリクサーはもしケガ人がいたら飲ませてくれ。ケガや病気ならこれで治せる。だが、心の傷は治らないので、そこだけは注意してくれ。ラミリアはあまり邪魔にならない程度に女性が羽織れる物……とりあえずはシーツ的な物を用意してやってくれ。女性は皆裸にされているだろうから、逃げる時に必要になるはずだ。……多分男の俺はその辺りは関わらない方がいいと思うから、申し訳ないが三人にお願いするぞ」


 個人的には女性が囚われている姿なんて、三人には見せたくない。だけど、捕まってる女性の方は男性に見られたくない筈だ。だから……三人に任せることにした。

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