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ロストカラーズ  作者: あすか
第一章 魔王城散策
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第16話 魔法を教わろう

「ではまずお二人にお伺いいたしますが、魔法についてどこまでご存知なのでしょうか?」


 早速ルーナが俺達の進捗状況を聞く。


「まだ全然。とりあえずここまでは進んでいます」


 俺はクミンの手作りは入門書を開いて渡す。


 ルーナはそれを最初から読んでいく。飴を舐めているので、日本語も問題ない。


「これはいいですね。要点が分かりやすく、さらに絵もあり、楽しく学ぶことが出来ます。入門書として完璧ではないでしょうか。これがあればわたくしは必要ないように思えますが?」


 やっぱりクミンの教本は魔法が使える人から見ても分かりやすいんだ。


「いえ、私達二人ではやっていたので、その解釈が本当に正しいかどうかも分からないのです。それに可能なら見本として見せてくれると分かりやすいかと思いまして」


 それを聞いてルーナは納得したように頷く。


「この本はしっかりサポート出来ていますが、確かにお手本があるとより分かりやすいでしょう。納得しました。それで、今は魔素を目視出来るようになったところでしょうか?」


「そうですね。金色の粒子が魔素なんですよね? 現時点では自分の体付近にあるのを感じることが出来てます。ですが、服の上からは妨害されている感じがしてうまく魔素を取り込むことが出来てないです」


 教本の三ページ目を開く。デフォルメされたクミンが服の上から魔力を感じようとして、ハテナ顔しているイラストが印象的だ。


「そうですか、それでは少しサポートをしましょう」


 そう言ってルーナは俺の胸に手を当ててくる。

 突然のことに俺は少しドキドキする。


「えーと、何を?」


 俺が質問しようとすると、ルーナに遮られる。


「静かに。……と、ありました。ではいきますよ!」


「えっうわっ!」


 そうルーナが言った瞬間、自分の体から何かが吹き出る感じがする。全身が燃えるように熱い! 何だこれ!


「落ち着いて……ゆっくり深呼吸をして下さい。まずは自分の体がどうなってるか体で感じて下さい」


 そう言われて俺はゆっくりと深呼吸する。しばらくすると自分でも落ち着くのが分かる。


 今度は今の自分の状況を確認する。何だろう体の中に何かが入っている気がする。温かくてそれでいて力強い。でも少しずつ小さくなっているようなそんな感じだ。


「今の状況が分かりましたか? この辺りに何か入っているのを感じませんか? それが魔力です。わたくしは先程、シオン様の体内に魔力の源である魔素を注入しました。その魔素が今シオン様の中で魔力に変換されているのです。ですが、今はわたくしが無理矢理押し込んだ状態ですので、このままですと、すぐに体内から出てしまいます。シオン様は中にある魔力を優しく包み込むようにして、放出を止めてください」


 ルーナが俺の心臓の横のあたりをトントンと指さす。


 確かに何かが入っているように感じたのはこの辺りだ。これが魔力か……。確かに少しずつ小さくなってる気がする。これを放出しないように優しく包み込む。


 柔らかい布のような物をイメージしてやさしく包む。……何となく出来たかな?


 先程まで溢れ出ていたのが、今は体内に残っているのような気がする。


「上手く出来たみたいですね。上出来です。とても初めてとは思えませんよ」


 よく出来ましたとルーナが褒める。

 するとルーナはまた俺の胸に手を当ててくる。するとどうだろう。今度はせっかく留めた魔力が一気に力が吸いとられる。一気に力が抜け崩れ落ちそうになるが、そこをルーナに抱きかかえられる。

 顔が近いし、色々と当たってる気がして、気恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。


 そんな俺の心情は気づかないのか平気な顔してルーナは問いかける。


「大丈夫でしょうか? 申し訳ありません。少し魔力を抜きすぎたようです。今のは先ほどシオン様が留めた魔力を解放致しました。魔力が空になったのを感じて一気に力が抜けたでしょう? 魔法を使いすぎるとこのようになるので覚えていて下さい」


 要はMPがゼロの状態か。


「さて、シオン様は魔素を取り込んだ感覚、魔力に変換して留めた感覚、魔力が無くなった感覚を経験致しました。元気になりましたら、今度はご自身で取り込んで留めてみて下さい。体はもう理解しているので、次は楽に出来ると思いますよ」


 そう言って俺を支えながらゆっくりと床に座らせる。


「一つだけアドバイスを。シオン様は先ほど手に魔力を感じる事が出来たと仰っておりました。ですが、手に取り込むのではなく、取り込み先はここの部分です」


 ルーナはしゃがんで先程と同じように俺の胸を指す。


「わたくしは先程、服の上から魔力を注ぎましたよね? 服の上からでも関係ないのです。魔素はすり抜けることが可能です。入れ方、場所、保管。これが今のシオン様なら出来ると思います。試してみてください」


 話している内容は分かったが、如何せんルーナの顔が近い。美人にこうも接近させられるとどうしていいか分からなくなる。


「ではトオル様にも同じことをしてきます」


 そう言ってルーナはトオルの方へ向かった。向こうが何も感じてくれないのが少し残念かもしれない。

 まぁいい。俺はトオルとルーナの方を見ながら先ほどの感覚を思い出していた。


 さっき魔力を取り込んだ時は、今まで生きていて感じたことがない感覚。体の奥から力が沸いてくるような、そんな感じだった。

 今度は自分の力で、もう一度あの感覚を味わいたいと思った。



 ――――


「さてと、もう少し頑張ってみるか」


 ひとしきり休憩した後、俺は立ち上がって体を確認する。


 うん、もう大丈夫そうだ。

 俺は今度は自分の力で魔力を取り込むことに挑戦する。


 ふと横を見るとトオルは座り込んでいた。どうやら魔力が抜かれた後らしい。トオルには負けられない。先にマスターするんだ!



 ――――


 それから二時間くらい経っただろうか。俺はようやく魔力を維持することに成功していた。横を見てみるとトオルもちゃんと出来ている。


「シオン様もトオル様も良くできております。これが魔力を留める基本になります。今は意識して留めておられますが、すぐに無意識に留めることが出来るでしょう」


 慣れれば無意識に出来るようになるらしい。


「お疲れになったとは思いますが、もう少し頑張りましょう。今、溜めている魔力を自力で外に放出させます」


 そう言ってルーナは石を取り出す。


「魔力結晶?」


 俺は思わず呟く。


「よくご存知で。使ったことはありますか?」


「念じたら水が出てきたことはあるけど」


「出力はしたことがあるのですね。おそらくこれは以前シオン様が使用したものと同じものです。魔力を補充すれば炎と水が出力出来るようになります。シオン様とトオル様にはこれからは今溜まっている魔力を、この魔力結晶に入れて下さい」


 俺は魔力結晶を受け取る。念じても水は出ない。恐らく魔力が入ってないのだろう。


「質問があるんだけど。これに魔力を込めるのって自分の属性と同じ物に入れるんじゃないの? 俺達まだ自分の属性も知らないんだけど?」


 キューブの説明を読んだ時に、そんな感じに書いてあった気がするが。


「それは魔法結晶のことでしょう。これは魔力結晶で魔法結晶とは別物でございます。魔力結晶に込めるのは属性ではなく、無属性の魔力ですので問題ございません」


 そういえば魔法結晶と魔力結晶の違いもあった気がする。ごっちゃになっていたようだ。


「体内にある魔力をまずは手のひらに移動させてみてください。手に魔力を感じるのは最初の訓練で解っていると思います」


 えーと、まずは魔力を移動と……体内に留まっている魔力が心臓のそばから腕を通り手の方に少しずつ移動していく。ほどなく手の中に溜まっているように感じる。


「それではそのまま魔力エネルギーを結晶の中に入れてください」


 結晶に魔力を入れてみる。体内から魔力が減った為か虚脱感がある。


「上手く出来ましたね。ちゃんと結晶に魔力が補充されてます。まずはこの一連の流れを練習してください。練習すれば細かな量の調整など出来ると思います。また、応用で言葉に魔力を乗せるとこちらの言葉を話すことが出来るようになると思いますよ」


 声に魔力を込めれば話せるようになる。楽しみだな。


「ありがとう、ルーナさん」


「いえ、お二人とも優秀でしたので教えてて楽しかったですよ。ああ、それではついでに…」


 そう言ってルーナは俺達にカードを渡してくる。魔力検査カードだ。


「先程と同じ方法で魔力を通して下さい。ご自身の属性の色に変化しますよ」


 おお! ついに自分の属性が分かるのか。早速渡されたカードに魔力を流してみる。

 白いカードから段々と変化していく。


「えっ? 紫?」


 最終的に俺のカードは紫色に変化していた。基本色じゃない。でも何で紫?


「紫とは……大変珍しいですね。わたくしも文献でしか見たことがありません」


 どうやらかなりレアな色のようだ。しかし紫か……。


「ねぇ、トオ……ル?」


 トオルは何色だったか聞いてみようと思って横を見ると、トオルは紙を持ってなかった。


「あれっ? カードは?」


「それがねシオンくん、僕も試したんだけどね……というか、今も手に持ってるんだけどね」


 そう言ってトオルは手を降りカードをペラペラとさせている……ように見える。


 俺はトオルのカードがあった位置を触ってみた。……確かにそこにはカードの感触がある。


「透明になっちゃったみたい」


 透明色ってあるのか? ルーナに尋ねようとしたが、ルーナは唖然としている。……その表情でかなりレアなのは分かった。


「シオン様が紫で、トオル様が透明色……紫もほとんど聞いたことがない色ですが、透明色は初めて聞きました。もしかすると歴史上初かもしれません」


 我に返ったルーナが説明してくれた。どうやらレアどころではないらしい。


「ルーナさん。紫って過去にどんな魔法が使われていたのですか?」


 俺は気になって聞いてみた。


「それはお教えしない方がいいでしょう。お教えてしまえば、シオン様がそのイメージに引っ張られてしまいます。教えるのはご自身のイメージが固まってからにしましょう」


 確かに。俺の中でまだ紫のイメージがないから教えられたらイメージがそれに傾いちゃうか。


「確かにその通りですね。解りました。まずは自分で考えてみます」


「それがよろしいかと。もし何も思い浮かばないようでしたらアドバイスは致します。ですが、トオル様は……」


透明となるとルーナもアドバイスしにくいんだろう。


「僕は大丈夫。色々とイメージできそうだよ」


 すでに構想があるみたいだ。よく思いつくなと感心する。


「お二人とも属性が判明しましたが、先程も申し上げましたように、先に魔力のコントロールの勉強をお願いします。でないと上手に魔法が使えませんからね。練習しながらご自身の色がどのような魔法になるかイメージするとよいでしょう」


 何事も基礎が大事ってね。


「分かりました。本当にありがとうございました」


「それではわたくしは一旦戻りまして、住民の皆さんにお二人のことを知らせてきます。明日またこちらに伺いますので、本日はゆっくりお休み下さい」


 丁寧なお辞儀をしてルーナは去って行った。


「いやー、しかし驚いたね。シオンくん。魔法のこともそうだけど、まさか魔王城で拠点を作ることになるなんて思わなかったよ」


「まだ拠点になるとは限らないだろ? 他の人達が許可してくれないと」


「ルーナくんはかなりのやり手みたいだからね。大丈夫なんじゃない? それよりもこの後どうする? さすがに疲れたよ」


「そうだな。流石に俺も疲れたし、飯だけ食べて今日は休む……と言うか自由にしよう。俺も自分の属性の事も考えたいし」


「紫だもんね。珍しいらしいし、どんな使い方があるんだろうね?」


「珍しさじゃトオルには負けるよ。ルーナさんも紫は聞いたことあるけど、透明は初めてって言ってたじゃないか。そう言えばルーナさんは何色なんだろ?」


「魔族の人は黒が多いって聞いたけど……あの人に黒は似合わないね」


「どちらかといえば白だろあの人は。まぁ白は殆どが人間らしいし、白は聖って感じで、魔族とは対極そうだけど」


「明日聞いてみようよ。教えてくれるなら、ついでに魔法でどんなことが出来るのかも。それにしてもルーナくんがいい人そうで本当によかったよ」


 本当にそうだなと思った。まだ絶対ではないが、確かにルーナは信用してもいいと思う。



 その後、俺たちは簡単な夕食を食べ、残りは自由に過ごすことにした。


 トオルはもう寝るのか、「おやすみ」と言って毛布を持って自分の車に戻っていった。

 キャンピングカーで寝た方が寝やすいんじゃないか? と言ったんだが、「あっちの車を無人には出来ないし、プライベートも欲しいしね」と断られた。


 確かに俺もいるのでプライベートルームではないか。まぁ俺も一人でゆっくり考えたいので、ありがたいが……明日は寝る場所を交換しようかな? うん、断られそうだ。


 布団に寝そべって、魔法のことを考える。

 魔力は練習するとして、俺の属性が紫か。紫から連想されるもの。この世界で生きていくのに役立ちそうな魔法。


 しばらく考えたが、どうしても一つしか思いつかない。


「毒……だよな。やっぱり」


 どれだけ考えてもそれしか思いつかない。でも正直、毒使いって印象悪いよな。悪役のイメージだ。


 近くにあったスマホを操作して電子辞書から紫の単語を調べてみた。


 辞書には色の名前やムラサキ草、漢字で紫陽花や紫煙くらいしか載ってない。


 ネットがあれば、関連ワードや印象など調べられるかもだが、さすがにネットは通じない。


 ひとしきり悩んだ結果、気を取り直して毒の方を調べてみる。


 有毒生物、植物、毒薬、食中毒などが引っかかる。生命の危機を及ぼす物の総称。


 一概に毒といっても種類は多い。


 蜘蛛や蛙、蛇やフグの毒も同じ種類ではないし、食べ物とかでも笑い茸とかもあれば、ジャガイモの芽にもある。


 毒薬といえば、リンや青酸カリ、ヒ素などが思い浮かぶ。


 人体に影響を及ぼすと言えば、植物にかぶれたりするアレルギーなども毒の一種と言えるのではないだろうか?


 考えただけで色々な想像が膨らむ。もう毒のことしか考えられない。他のイメージも考えないと……と思ったが、もう手遅れのようだ。


 この後も毒について個人的な妄想、考えが浮かんでは消えていく。


 酒って毒にも薬にもなるっていうよな? 毒魔法を覚えたら酒を生み出せる?

 ゲームで毒消しって基本一種類しかないよな? でも毒の種類はたくさんあるし……全ての毒には対応してないよね?

 毒使いって一緒に解毒薬も持ってるよね。だから解毒薬も一緒に作れるよね?

 生命の危機を及ぼすものって極論で言えば人体に影響があるのが毒って解釈でいいかな?


 イメージさえ出来れば大丈夫なんだ。なんと言っても、ラーニングのようなこじつけだって発動できるんだ。だから今考えたのは全部出来るはず。


 俺は毒について考えながら次第に意識がなくなっていった。

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