第120話 町をぶらつこう⑮ 期待の新人編
シクトリーナ会議から数日が経過した。
今はギルマスや領主が水面下で色々と準備をしているらしい。
どうやら俺達が今後商売するであろう町の調査や、過激派の情報、盗賊の情報など調べてくれている。
で、その間俺はゴーレムの相談をしたり、オッチャンの焼き鳥屋の店探しをしたりと、わりと好き勝手やってる。
まぁゴーレムに関してはトオルに任せたし……今の研究が一段落するまでは出発しないようだけど。他の皆も孤児院に行ったり、本店の手伝いをしたりと結構自由に行動しているみたいだ。
ただ今日はクリスから【月虹戦舞】のメンバー全員で来いと招集を受けたので、全員で冒険者ギルドへ行くことにした。
――――
俺達がギルド内に入ると喧騒がピタリと止んだ。
えっ? 何? 何なの!?
「おい、あれがそうなのか?」
「ああ、間違いない。あれが【月虹戦舞】だ」
「バカな。どう見ても強そうに見えないぞ?」
「一番小さなショート髪の子がA、それ以外がCランクって話だ。だが、Cは冒険者になったばかり。実力はそれ以上のようだな」
「噂じゃリュートが試験をしたって話だ。リュートも認める実力らしいぞ。もしかしたら同レベルの実力かもしれないな」
「【神速のリュー】と同レベルだって!? ありえないだろ。それじゃあ、あいつらはSランクど同格ってことになるぞ?」
「確かに言いすぎかもしれんが、あの遺跡を攻略したのは確かなんだ」
冒険者たちの会話が聞こえてくる。声を潜めても聞こえちゃうんだよなぁ。
どうやら俺達がジンの遺跡を攻略したのが広まっているみたいだ。
「【月虹戦舞】の皆様、お待ちしておりました。前回の依頼の報酬をお渡ししますので、どうぞ奥の部屋へいらして下さい」
そこにクリスが営業スマイルを浮かべてやって来る。こいつの本性は他の冒険者や受付は知らないのかな?
とにかく、このままここにいても居心地が悪いだけなので、サッサと奥に行くことにした。
――――
「ちょっとどういうことなのよ一体!!」
いつものように扉を閉めた途端クリスが爆発する。
「どういうことか俺が知りたいんだが? なんでジンの依頼の件が広まってるんだ?」
「アンタが馬鹿だからに決まってるでしょうが!!!」
馬鹿とか……随分と失礼な奴だな。
「はぁ? なんだよそれ。俺は何もしてないぞ」
「いいこと、馬鹿なアンタにも分かりやすく言ってあげる。【ジンの遺跡】の攻略は、元々依頼ボードにあった依頼なんだから、依頼が達成したらボードから消えるわよ。ここまではいい?」
勿論それは理解できるから俺は頷く。だが、依頼を受けたのは誰か……達成したのは誰かは分からないはずじゃないのか?
「アンタ……あの時この部屋に来る前に、依頼ボードの前でリリーと暢気に話してたらしいわね。その時にジンの依頼を用意してるって聞いたんでしょ?」
「ああ、だから部屋に入ったときにやっぱりか。と思ったけど……」
「だから馬鹿なのよ!! あんな公の場所で依頼を受ける話をしたら誰かに聞かれてもおかしくないでしょうが! しかも次の日にボードから消えたら、依頼の達成者がアンタたちって一発でバレちゃうじゃない!! 全く……何のためにわざわざ個室で話してると思ってるのよ」
……どうやら俺が好奇心でボードを確認したせいのようだ。だけどさ、たとえボードを見なくても、この個室に呼ばれるだけで十分怪しくないか?
俺達は毎回利用しているが、普通の冒険者はこの個室を利用することは殆どない。個室に呼び出されて依頼を受けた後に、ボードから消えたらやっぱり同じことだと思う。まぁ反論しても睨まれるだけだから、言わないけど。
「でも、だから【黄金の旋風】と一緒に受けたことにしようって話にしたんじゃなかったっけ?」
バレた時の予防線としてセラ達に全部押し付けるはずだったんだ。なんでそうなってないんだ?
「だーかーらー! 依頼を受けた時にも、報告に来た時にもいなくて、町から出るときも、帰ってくる時も四人しかいない。一体どこに【黄金の旋風】が居るのよ!! せめて町から出る時くらい一緒に居ないと介入できる余地が全くないじゃない! 本当に手柄を渡す気があったの!?」
うう……クリスの話が正論過ぎて何も言い返せない。
「じゃあもしかして……依頼達成は俺達だけでやったことに?」
「当然じゃない! もう私がどうにか出来るレベルを超えちゃってるわよ! いいこと、今アンタ達は初依頼で誰も受けようとしなかった高難易度の依頼をクリアした新人って認識なのよ」
「実はあの依頼は全然大したことがなかったってことには……」
「出来るわけないでしょうが!! あんだけ完璧にマッピングしてボスの詳細までハッキリ分かって人工遺物まで持って帰ってきてるのよ! 確かに依頼の詳細は他の冒険者には話さない。でも、遺跡の情報は冒険者の生死に関わるから、正確に公表しないと駄目なのよ」
有料にはなるらしいが、遺跡のマップ情報や敵の出現情報、素材の採集場所などの情報は公表される。作成者は公表しないらしいが、攻略者が俺達なのは知れ渡ってるなら関係ない。
しかもリンがマッピングした情報は完璧だ。それを冒険者が見ただけで、その優秀さが伝わってしまうだろう。
「言っておくけど、私に非はないからね。今回ばかりは自業自得だから」
……確かにクリスに非はないかも知れない。まぁケータイにかまけずに、依頼を受けた時にもう少し気を使うようにアドバイスしてくれたらこんなことにならなかった気もするが……。
「じゃあ俺達は今、周りからは難しい依頼をクリアした驚異の……期待の新人って思われてるのか?」
それはそれで少し気分が良い。でも生意気とか言われて厄介ごとも増えそうか?
「フッ……自分で期待の新人とか言う?」
くそっ鼻で笑われた。
「言っておくけどね、【月虹戦舞】の評価は期待の新人ってより、恐怖の新人ってとこよ……ただでさえアンタ達は例のリニューアル騒ぎで有名になってて、しかもAランク依頼の達成。スゴいってより何者か分からない恐怖の方が強いわよ。だから……誰もちょっかい掛けなかったでしょう? 普通Cランクの冒険者がAランク依頼達成とかしたら生意気だって色々と面倒になるものよ」
恐怖の新人は嫌だなぁ。でも、難癖を付けられる心配はないのか? そういえばさっきも遠巻きで見られるだけで、誰も話しかけてこようとすらしなかったな。
「まぁそれでも、やっかみがない訳じゃないし、馬鹿も多いから、しばらくギルドに顔出さないほうが良いかもね」
「そうだな。じゃあしばらく大人しく……」
「じゃあ、早速次の依頼なんだけど!」
「……おい、言ってることが全くの真逆なんだが?」
顔出さない方が良いって言ったばかりで、何で依頼の話なんだよ。
「分かってないわね……いい? 冒険者が顔出さなかったら怪しまれるでしょ? でも依頼を受けていれば、顔出さなくても依頼中って言い訳が出来るでしょ?」
「ん? ……そうなの……か?」
なんか違う気がするけど……。
「でも確かに理由なくギルドに来なくなるのは変に思われるのか?」
「そうよ。だから依頼を常に受け続ければいいのよ!」
なるほどな。確かにその通りか。
「シオン様騙されちゃ駄目っスよ。この人は結局依頼を受けさせたいだけっスよ」
「そうだよな!? ふぅ危うく騙されるとこだった」
「いいじゃない別に! それにこの依頼は現状かなり困ってるのよ」
「……一応聞くだけ聞いてみるか」
「えっとね。魔族の討伐依頼なんだけど……」
「お前……俺達が何者か分かって言ってるんだよな?」
まさか魔族の討伐依頼があるとは思わなかったぞ。コイツは俺達が何者なのか本当に理解してるのか?
「何よ。魔族の全部が全部お仲間って感じじゃないんでしょ? 今回の魔族は悪い魔族だから倒しちゃってちょうだい」
確かに俺達みたいな魔族は少数で、殆どの魔族は悪い魔族だけど……。
「ちなみにその魔族ってのは?」
「ナーガ一族。グランディス山って言う山に集落を作ったらしくて、そこを通る商人や冒険者にかなりの被害が出てるの。そして注意すべき点として、ナーガの中には上位種のナーガラジャもいるみたいなの」
「……ナーガ」
俺は思わずラミリアの方を見る。ラミリアの種族がラミアだよな……よくは分からないが、ナーガって似たような種族のはず。
被害が出ているみたいなので、受けてあげたい気もするが、流石にこれはラミリアには酷な話だ。断るしかないな。
「クリス、すまないがこの依頼を受けるわけに『もちろん受けさせて貰います! ナーガ族は滅ぶべし!』……はい?」
俺が断ろうとするとラミリア横から口を挟んで依頼を引き受ける。しかもいつになくハイテンション。キャラ自体が変わっている。
「ああ……憎きナーガを倒せる日が来るとは……頑張りましょうね! シオンさん」
えっ何? ラミリアはナーガ族のことが嫌いなの? 同族じゃないの?
「ラミやん、シオン様のこの顔は全く理解できてない顔っスよ」
えっ? リンは理解できてるの?
「……そのようですね。それどころか、私達とナーガ族を同類だと思っている様子。全く失礼極まりない話ですね」
ラミリアは俺の心を的確に読む。しかも呆れ果てているようだ。
「流石ラミやん、私はそこまで読めなかったっス」
「なぁ、理由があるなら教えてくれないか? 何でラミリアはナーガ族を嫌ってるんだ?」
「シオンさん。私が――いえ、ラミア族がナーガ族を嫌っている理由。分かりやすく人間に例えますと、人間がゴブリンやオークを嫌っている理由と同じ理由です」
……何と分かりやすい例えなんだ。その説明だけでナーガとラミアの関係がハッキリと理解できた。
ナーガもラミアも上半身が人型、下半身が蛇の魔族だ。違いがあるとすればナーガが男でラミアが女。
本来ならお互い協力するべき種族なのだろうが、ナーガ族はラミア族のことをただの性欲処理、子孫繁栄の道具にしか思ってないらしい。
うん、そういう状況ならラミリアが怒るのも無理はないか。
「その集落に上位種のラジャがいるのなら、恐らく少なくない数のラミアがナーガに飼われているはずです」
飼われている。そう話すラミリアは怒りで満ち溢れていた。
「ナーガはゴブリンやオーク同様、ラミア族だけじゃなく人間の女性でも生殖は可能なの。さっきも言ったように、人間にもかなりの被害が出ているわ」
さっき冒険者や商人に被害がって言ってたもんな。ってことはその中に女性がいたら……。
「ナーガはプライドだけは高いから、人間相手に繁殖は余程のことがない限りしません。ですが、行為そのものは致します。恐らくラミア族相手には繁殖目的、人間相手には単純に快楽目的……玩具感覚で捕えているかと」
「クズね」
「クズだな」
「クズっスね」
「……クズ」
ナーガって種族は本当にどうしようもない種族のようだな。
「なぁなんでその依頼が放っておかれてるんだ?」
それこそ前回の【ジンの遺跡】なんかよりも重要度が高いと思うんだが?
「元は他の町で発行された依頼なの。グランディス山に一番近い町のギルドね。で、そこで無理そうだからって応援が来たのが少し前なの。だからこっちに情報が少なくてね……まだ未確認情報なんだけど、村も一つ壊滅させられたって話よ」
「それって滅茶苦茶大変じゃないか! こういう時こそ例の強制依頼ってやつを発行するべきじゃないのか?」
冒険者全員で一気に殲滅させる案件じゃないのか?
「アナタ達が受けないなら恐らくそうなるでしょうね。でもナーガはゴブリンやオークと違い、知性もあり魔力も強い。厄介極まりない相手なの。だからきっと少なくない数の犠牲が出ると思うのよね。だから……」
だから俺達にやって欲しいってことだろう。そんなこと言われたら断れないじゃないか。まぁラミリアや他の皆も乗り気になってるし、受けない選択肢はない。
「ってことで、この依頼を受けるってことでいいわよね?」
「ああ、こんな話を聞かされちゃあ黙ってるわけにはいかないだろ」
「じゃあ詳しい話をもう少しするわね」
――――
依頼難易度:Aランク
依頼内容:ナーガ集落の壊滅。及び捕虜の解放。通行ルートの確保。
討伐報酬
ナーガ一体三千G
ナーガラジャは一万G
魔石、素材は別途買い取り
棲息場所
グランディス山中に集落を確認
グランディス山は元々通行ルートとしても重宝していたが、ナーガのせいで迂回ルートを通らなければならない。その為、ナーガを全滅させ、安全なルート確認が確保できれば別途報酬有。
また、集落付近の村が、ナーガに襲われたとの報告もあり。他にも商人や冒険者にも被害あり。
生死は不明だが、もし救出できるようなら救出数に応じて報酬有。
その他、内容に応じて追加報酬有
――――
金額の方はやはり低いと思うが、状況に応じて追加報酬があるようだ。まぁ金額に関してはあまり気にしなくていいだろう。
「行方不明者に関しては、もし生きてたら保護してあげて欲しい」
「もちろんそのつもりだ」
それに人間だけじゃなくラミア族も助けないといけない。
「さて、じゃあ次の話ね」
「えっ? まだあるの!?」
流石にこれ以上は受けないぞ?
「バカね。こっからは前回の依頼の話よ。報酬と壺の話ね」
ああなんだ。ビックリしたじゃないか。
「あの壺が何か分かったのか?」
あの壺が本当に人工遺物なら一体どんな効果があるのか……もっと時間がかかると思ってたが、思いのほか早く分かったんだな。
「まずは依頼の報酬ね。依頼は未踏地のマッピングとボスの討伐。マッピングはちゃんとしてるし、ボスはAランクを五体の討伐してるわね。今回の成功報酬は累計で十万Gよ」
「十万G……思ったよりも多いな」
他の依頼よりも、かなり高額じゃないか?
「具体的にはボスが一体一万ね。ナーガラジャもそうだけど、Aランクは一万が相場ね。で、マッピングが五万。今回は遺跡を制覇してるし、採集出来る素材や現れる魔物の詳細まで描いてあるからかなり色がついてるわね。それと……【魔素溜まり】の情報料も上乗せさせて貰ったわ。ギルドで実際に調査して確認がとれたら【魔素溜まり】の件は正式に発表させてもらうわね」
成る程、情報提供量も込みなのか。ならむしろ安いくらいじゃないか? まぁ【魔素溜まり】は元々タダであげる予定だったから文句はないけど。
「じゃあ報酬はリンとアイラで折半な。俺とラミリアは別にいいよ」
「まぁ実際に働いてないですからね」
その通り。写真撮ってただけだもんな。
「俺達は次のナーガ戦で稼がせてもらうよ」
「じゃあこれが報酬ね。分けるのは二人でやってね。で、壺の方だけど……」
俺にとってはこっちが本命だ。見た目はただの古びた壺。
「まだ推測の段階らしいけど、恐らくあれはジンの寝床だったそうよ」
「はっ? 寝床……?」
予想外の言葉に呆けてしまう。あれ? 魔道具じゃないの?
「ええ、ジンの逸話って変な伝承が多いんだけど、その中でも多いのが、ジンは壺や箱の中に好んで入る話が多いのよね。ほら、ジンは気体でしょ。普通に過ごしたら風に飛ばされるんじゃない?」
風に飛ばされる……流石に冗談のようだが、もし本当にそうだとしたら、神話生物の中でもかなり間抜けな奴だぞ。
でも……地球の逸話でもランプに入ってたりしたんだよな。それに、だからこそ風が吹かない洞窟の奥にいた可能性もある。うーん、イメージが崩れるなぁ。
「まぁ、風で飛ばされる云々は冗談だけど、実際に密閉空間は好きだったみたい。で、そんな逸話から推測すると……」
「この壺がジンのベッドというわけか」
くそっ、ただのベッドじゃ価値なんかないか。いや、骨董価値は高いか? マニアが好きそうな話だし……ハーマインも好きそうな気がする。
「それで、これの効果は……」
「はっ? ただのベッドじゃないの?」
「馬鹿ね。そんなわけないじゃない。いえ、仮にただのベッドだったとしても、長い間ジンが毎日寝ていた壺よ? ジンの魔力を吸収して立派な魔道具に進化してるわよ!」
おお! ただのベッドかと思ったけど、一応はちゃんとした魔道具みたいだ。
「それで、効果だけど……中に入れたものを複製して取り出すようね」
「ん? それってリンのポーチみたいなやつか?」
リンのポーチは中に針を入れるとリンの魔力を使って針が増殖する。うん、似ている気がする。
「えっ? それどういうのなの?」
クリスはリンの魔道具を知らなかったので、簡単に説明してた。
「まぁ原理は似ているかもしれないわね。でもこれは使用者の魔力は必要としないの」
リンの持ってる魔道具はリンの魔力を使って増やすが、この壺は何もしなくても勝手に増えるのか。
「それってデメリットはあるのか?」
デメリットが何も増殖するならこれほど価値のあるものはない。例えばトランプを入れておけば、工場で生産しなくても勝手に増殖していくんだろ? 最高じゃん。
「それは今から検証する必要があるの。だって魔法で召喚した物体は一ヶ月は持つでしょ? だから最低一ヶ月は様子を見て、消滅しないか確認しないと駄目らしいわ」
そうか……こればっかりは時間が必要なのか。ってか、消滅するなら使えないな。
「あと、分かってるデメリットは、複製品は半分になるの」
「は? 半分?」
「そう、見た目は変わらないんだけどね。重さや強度が元の半分。味付けも薄味になってたわ」
「つ……使えねぇ」
武器に使用するにしても強度が足りない。重さも半分じゃ威力が出ない。味付けも薄味になるなら、例えば一ヶ月以内に使用する食材にも使えない。一体何の役に立つんだ?
「使えない……そう思うでしょ? ただ……これの凄い所は、物体に限らず増殖できるところよ」
「物体に限らず?」
「そう、例えば気体、それに液体、それから魔法も。後は生物、魔石、魔法結晶。あらゆるものが能力が半分になって増殖されるわ」
「魔法……も? いや生物だって!?」
「ええ、壺の中に実験用のネズミを入れたら二匹になって出て来たらしいわ。見た目は全く一緒。怪我や模様の位置まで全くの同じ。それに性格や行動まで同じだったらしいわ。ただし、体重は半分、力なども半分のようね。あとまだ分からないけど、予想では寿命も半分じゃないかと考えてるそうよ」
それって……おいおい、かなり危険な魔道具じゃないのか? 流石は人工遺物ってところか。
悪人が手に入れたら、なんか悪いこと出来そうな気がする。せめてもの救いは人間が入れる大きさじゃなかったってことくらいか。
「現状はこのくらいだけど……どうするまだ預かってていい?」
このまま研究を続けていいか、回収するか選べるらしい。
「シオンさん、一旦回収しましょう。こちらでも色々と調べる必要がありそうです」
「そう……だな。こっちの研究チームにも見せたいから返却を希望する」
「分かったわ。と言っても今日は持ってきてないから、ナーガの依頼の報告の時に持ってくるわね」
「ああ、それでいい。じゃあ他にはないか?」
「ええ、流石にね。……あっ、一つ言い忘れてた。今回の件でギルマスが【月虹戦舞】に興味を持ちそうなの。で、もしかしたら呼び出しがあるかも?」
「……面倒くさいな。ギルマスがいない時を見計らってくるから、これからは事前に連絡するわ」
「私も面倒だしそれでいいわ。あとは……さっきも言ったように、馬鹿な冒険者に絡まれるかもしれないけど、あまり問題を起こさないでよ」
「……善処するよ」
……一瞬フラグかな? そう思ったけど、幸いなことにギルドを出る時には絡まれるようなことはなかった。




