第119話 町をぶらつこう⑭ ゴーレム相談編
「えええ!! ゴーレム造れないの!?」
俺はショックでその場にへたりこむ。
「当たり前だ! シオンさんはゴーレムがどうやって造られてるのか知ってるのか?」
「いや?」
俺の言葉にドルクは大袈裟に溜め息をつく。
「いいですかい? ゴーレムってのは魔族や魔物……いや、そもそも生き物じゃないので、魔石じゃ動かないんですよ。そして、魔道具とも違うんで、魔法結晶でも動かないんですよ」
「じゃあ、そもそもゴーレムってなんなのさ?」
確かに生物でも道具でもないってのは分かる。だけど、俺のゴーレム知識っていったら、怪しい錬金術師が造った石の戦闘兵器で、体のどこかにある文字を削れば死ぬってイメージしかない。
「儂も日本の資料はある程度読んだんで、シオンさんが考えてることは大体分かる。まず否定したい所は、そもそもこっちの世界のゴーレムには文字なんて存在せん」
「えっ!? そうなの!?」
真っ先に俺の持ってる唯一の知識が否定された。
「考えてもみてくれ。地球とこの世界じゃ文字が違うだろう? 頭文字を削っても、死という意味にはならん」
あー納得。これ以上ないくらい分かりやすい説明だったわ。
「端的に言うと、ゴーレムは魔導生命体だ」
魔道生命体って響きはカッコいいな。だけど意味は良く分からない。
「まず、ゴーレムの原動力には魔核と呼ばれる専用の魔道具が必要なんじゃ。これがゴーレムの心臓となる。言い換えると、これさえあればゴーレムは簡単に造ることが出来る。体なら何でもいいからな。それこそ石でもいいし、マネキンでもいい。埋め込むことによって生命を吹き込むのじゃから。まぁ強いゴーレムを造るなら、体もそれなりの物を用意せねばならぬが」
「じゃあその魔核ってのは……」
「それを造るのがゴーレム技師じゃ。どうやって作っておるのか……儂には想像もつかん」
ドルクがそこまで言うってことは……お手上げかな。
「はぁ、いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」
人員確保としてはかなりいいアイデアだと思ったんだけどな。
「発想は間違ってはおらぬがな。実際に土木作業ではゴーレムは大活躍しとるからのう」
やっぱり力仕事や単純作業には活躍してるのか……。
「なぁ、ドルクはゴーレム技師の知り合いはいないのか?」
「有名なゴーレム技師は名前くらいなら知っておるが、知り合いにはおらんな。むしろそっちの方が知っておるんじゃないのか?」
「はぁ? 何のことだ? 俺は知らないぞ」
少なくとも知り合いにゴーレム技師って職業はいない。
「俺をここに連れてきたときに、超有名なゴーレム技師の名前が、スカウトリストに載っておったじゃないか」
スカウトリスト……ドルクの言葉に俺はトオルの元へと走り出した。
――――
「トオルはいるか!?」
シンフォニア領のトオルの執務室の扉を勢いよく開けた。……トオルはいないな。
「おわっ!? ……なんじゃシオンか。珍しいのう。其方がここに来るとは……しかもそんなに慌てて。トオルなら恐らく研究室にいるじゃなかろうか」
「そうか、研究室か。分かった邪魔したな」
「ああ、これこれ待つのじゃ。其方、研究室の場所は知っておるのか?」
「……そういえば知らないな」
「どれ。なら妾が案内してやろう。こっちじゃ」
俺はエキドナに連れられて研究室へと向かう。
「それにしても物凄い慌てておったのぅ。何があったのじゃ?」
「へっ? いや、ちょっとトオルに聞きたいことがあって……ケータイにも出なかったから、直接来たんだ」
「なんじゃ? その聞きたいこととは……」
「いや、トオルが旅をしてた時の状況を少し聞きたくて……」
ドルクをスカウトしに行ったのはトオルだ。トオルなら何か知ってるはずだ。
「ふーん、まぁよいか。それにしても、妾の城を我が物顔で歩けるのは其方くらいじゃぞ」
「……それはお互い様だと思うが。ってか、この城防犯意識はちゃんとしてるのか? 誰にも止められなかったぞ」
「そりゃあシオンだからじゃ。他の者なら止めとるはずじゃ!」
いや、そこは俺でも止めろと言いたいんだが……一応、シクトリーナではエキドナが来たらメイドが付くぞ。
――――
「あれっ? シオンくんじゃないか。珍しいね君がここに来るなんて」
「お前に用事があったんだよ。ったく、ケータイくらいちゃんと出ろ!」
「はは、ゴメンゴメン。この研究室の中にいるときは、邪魔になるから電源を切ってるんだ。で、何のようだい?」
とりあえず、俺はトオルとエキドナにゴーレム制作計画を説明した。
「確かに、ゴーレムがいたら便利だね。工場の生産効率が段違いだよ。それに、野菜作りは厳しいかもしれないけど、畑を耕すのに便利そうだね」
「シンフォニアの復興と開墾にも役立ちそうじゃのう」
「だから、トオルにゴーレム技師をスカウトしてもらいたいんだ!」
「……何で僕なんだい?」
「いや、ドルクがトオルが持ってたスカウトリストにゴーレム技師の名前があったって言ってたからだけど……」
トオルが知らないならお手上げなんだけど……。
「スカウトリスト? ………ああ、あれだよ! ソータくんから貰った、力になってくれそうな人リストだよ」
「……そういえばそんなのもあったな」
日本からこの世界に来るときにソータから貰った、困ったら助けてくれそうな人リストだ。
信用できそうなので優先的に誘おうと思ってたけど、リストに載ってた人物は皆、辺鄙な所に住んでいる――所謂、世捨て人みたいな人達だったから、探すのは後回しにしてたんだった。
「スミレに会えたら探しに行こうって思ってて、すっかり忘れてたな」
というか、困ることがなくなったので、必要がなくなったってのもある。
「そうだね。僕も頭からすっかり抜け落ちてたよ」
「で、そのリストはトオルが持ってるのか?」
少なくとも俺は持ってない。
「多分、僕の部屋に置いてると思うから……この研究が終わったら後で持っていくよ」
「今は何の研究をしてるんだ?」
「え~と、簡単に言うと、瞬間移動かな?」
「……転移と何が違うんだ?」
転移も瞬間移動だと思うんだが……。
「いつもの転移は、行ったことのある場所を登録して転移するじゃない。今やってるのは、目で見える範囲を、自由に転移する魔法だね。いきなり敵の背後や部屋の奥、平原なら見える場所ならどんなに遠くても行けるようになるんだよ!」
「へぇ、細かく移動できるなら、役に立ちそうだな」
特に戦闘で一旦離脱したいときや、距離を詰めたいときに役に立ちそうだ。
「それが成功したら、今度は目に見えない場所への転移、ランダム転移が出来るようになると思うんだ。それで、ようやくシエラさんに追い付ける気がするんだよね」
転移魔王であったシエラはランダム転移が出来た。それで、ロストカラーズを見つけたんだから大したもんだ。
多分、トオルにとって同じ転移使いとして、追い付くことが一つの目標だったんだろう。
「分かった。じゃあ邪魔しちゃ悪いから帰るな。今日は城にいるから後で持ってきてくれ」
トオルは了解と言って研究へ戻った。さ、邪魔しちゃ悪いから俺も城へ戻るとするか。
――――
「それで……何で俺が城へ帰るのに、エキドナが付いてくるんですかねぇ?」
「いいじゃろう! トオルはあんなじゃから構ってくれんし、ラミリアはお主に取られとるんじゃから、妾も暇なんじゃ! お願いじゃ! 妾も構ってたもう」
こいつはガキか。……まぁいい。俺も今日はハンプールへ戻るつもりもないし、たまにはエキドナの相手をしてやってもいいか。
「じゃあさ、模擬戦でもしようか? ルーナと模擬戦しなくなって、正直物足りなかったんだ」
自主練はしてるけど、実戦は全くやってないんで、正直鈍っていそうだ。
「おっ、よかろう。軽く稽古をつけてやるかのぅ」
何気にエキドナとの模擬戦は初めてだ。姉さんとの模擬戦でしかエキドナを知らないから、少し楽しみだ。
――――
「……で、結局どうなったんだい?」
「それがの……いざ始めようとしたら、ルーナに怒られてしもうて……我らが模擬戦すると、被害が出るかもしれんので、前もって準備しないと駄目なのじゃそうだ」
俺とエキドナが本気でやろうと、魔力を上げただけで訓練場が壊れそうになった。
で、何事かと慌ててやって来たルーナに止められ、結果先程まで二人でお説教を受けていた。
ルーナは、俺や他の者と訓練をするときは、壊れないように事前に結界の強度を上げたり、自動修復機能をつけたりと必ず準備を怠らなかったようだ。
ルーナがそんなことをしていたとは知らなかったよ……細かいところで色々やってるんだなぁと改めて感心した。
そんな感じで、二人揃って正座で痺れた足を引きずりながら食堂に行って、ビールで乾杯したところにトオルがやってきたのだった。
「エキドナ……今度はシクトリーナの領地外で模擬戦しよう。どっか……アインス砂漠辺りが良いかもな」
「そうじゃのう。このままじゃと消化不良じゃからのう。邪魔が入らんところで、思いっきりやるとするかのう」
「その時は僕も誘ってよ。僕も最近研究ばかりで鈍ってるから」
「そういえば妾はトオルの戦う姿を見たことはない気がするのじゃ」
「シオンくんよりは弱いけど、僕だってそれなりには戦えるよ」
「ほう、それは楽しみじゃのう。言っておくが手加減はせぬからな」
「そっちこそ、僕の戦う姿を見て惚れ直してもしらないよ」
「なっ!? 惚れ直すとは……なんてことを言うんじゃ!」
顔を真っ赤にするエキドナ。このバカップルが……イチャつくのは後にして欲しい。
「で、トオル。リストは見つかったのか?」
俺はビールを一気に飲み、強引に話を戻すことにした。
「うん、あったよ。ドワーフの町から行けば、そんなに遠い場所じゃないから、比較的簡単に行けると思うけど……山奥に住んでるみたいだから、探すのに数日は掛かるかもね」
あー日帰りは難しいか。だったら黄の国の件が終わってからかな。
「だから僕が行ってくるよ」
「えっいいのか?」
「うん、さっきも言ったように、最近は研究ばっかでちょっと鈍ってるからね。いい気晴らしにもなるし、丁度いいよ」
正直ドワーフの町では盛大にやらかしてるから入りにくいし、ゆっくり旅する時間もない。トオルが代わりに行ってくれるなら願ったりだ。
「助かる。じゃあ頼むわ」
「あっ、セラくん達は借りてもいいよね? 久しぶりにあのメンバーで旅を楽しみたいんだ」
初めて旅に出たメンバーだな。トオルにとっては感慨深いだろう。
「えっ? 妾は?」
「ああ、もちろんだ。キャンピングカーも使うか?」
「いいの? シオンくん達も使うんでしょ?」
「俺はまだしばらくハンプールでやることがあるから大丈夫だ。もし出かけることがあったら、ワンボックスを借りるさ」
町中では使用しないし、俺たちの人数でちょっと町の外へ出歩く程度ならワンボックスで十分だ。
「のう……妾は?」
「それで……ゴーレムなんだけど……」
「うがあああ!!! 何で妾を無視するのじゃ!!」
あっキレた。
「いや、流石にエキドナは連れて行けないよ」
「何でじゃ!? 妾だって一緒に出かけたいのじゃ!」
「いや、まず大人しくできないよね? それにエキドナが来たら、セラくん達が緊張しちゃうよ。第一魔王が出歩いたら大騒ぎになっちゃうよ」
「ちゃんと大人しくするから! それに妾が魔王じゃとバレなければよいのじゃろう?」
「「いやぁ。バレないわけないだろ(よね)」」
「うわーん、二人が苛めるのじゃあああ!!」
エキドナは叫びながら食堂を出て行く。本当に子供みたいだな。
「……いいのかあれ?」
「流石に連れて行けないからね……お土産でも買って帰れば大丈夫だと思うよ」
「ま、トオルがそう言うなら大丈夫か」
エキドナの事はトオルに任せておけば問題はないか。
「うん、それよりさ、最近お互いに忙しかったから……久しぶりに今日は一緒に飲もうよ」
「おっいいね。色々と話したいこともあるし、今日はとことん飲もうや」
「じゃあ僕の部屋に行こうよ。じっくり気兼ねしなくてすむからね」
結局、俺達は互いの近況や愚痴など夜通し話し込んだ。




