第116話 町をぶらつこう⑪ 城内案内ツアー編
「うう、妾が悪かったのじゃ。つい、調子に乗ってしまったのじゃ。……すまんかった」
食堂で正座になって謝るエキドナ。
「いいですかエキドナ様。お馬鹿なのは今に始まったことではございませんから、深くは申しませんが、それも時と場合を考えてくださいませ」
「うう……ラミリアよ。其方、最近妾に対して少し辛辣では……いや何でもない」
言い返そうとして、しかしラミリアの顔を見て取り下げる。全く……これではどっちが魔王か分かったものじゃない。
「これがあの【重奏姫】エキドナ様?」
「とてもそんな風には見えないわね」
「最古の魔王の一柱が……これか?」
流石にエキドナの名は響き渡っているのか、知らない者はいなかった。が、そのエキドナが目の前の女性とはとても信じられないようだ。
「のう……そろそろ許してくれぬと、妾の株がどんどん下がっとるような気がするのじゃが……」
気がする……じゃなく、間違いなく下がってるだろうな。まぁ俺としては、エキドナの株がいくら下がろうとも知ったことではないが、流石に可哀そうなのでそろそろ助けることにした。
――――
「うう、情けない所をみせてしもうたが、妾はエキドナじゃ。宜しく頼む」
半分涙目の魔王が自己紹介する姿に、一同どうしていいか戸惑いを見せる。
そんな中でハンナだけがエキドナに近づく。
「エキドナお姉ちゃん?」
「おお、そうじゃそうじゃ! ハンナと申したか? お主、賢いのう」
お姉ちゃんと呼ばれたのが嬉しかったのか、思いの外喜んでいる。
「エキドナお姉ちゃんはラミリアお姉ちゃんに怒られてたけど、何か悪いことしたの?」
「いや、妾は何も悪いことはしとらん。ハンナとラミリアとシオンが親子のようじゃと言っただけじゃ。それをラミリアは照れておるだけじゃ。全く、ラミリアからしてみれば、妾は親のようなものじゃと言うのに」
「えっ!? エキドナお姉ちゃんはラミリアお姉ちゃんのお母さんなの? じゃあハンナのおばあちゃんになるんだね!」
わーい! と言って、エキドナに抱きつく。それに驚くのは黄の国のメンバーだ。魔王におばあちゃんと言って抱きつく。それが、どんな恐ろしいことか想像だに出来ない。
「おお! そうじゃ! そういうことならハンナは妾の孫じゃな!」
おや? おばあちゃんと呼ばれて怒るどころか、寧ろ喜んでないか?
「じゃが、妾はまだまだ若い。じゃから妾を祖母と思うのは構わぬが、普段はラミリア同様お姉ちゃんと呼ぶのだ。良いな?」
実年齢は知らないが、少なくとも千年以上魔王をしていて、若いとかどの口が言えるのか。
「うん、分かった。エキドナお姉ちゃん! ハンナね、おばあちゃんがいなかったから、今とても嬉しいんだぁ!!」
「おお……ハンナはなんと可愛いのじゃ! うむうむ、困ったことがあれば何でも妾に言うが良い」
……エキドナはハンナの可愛さにメロメロで、完全に孫を可愛がる祖母になっている。やはり可愛いは正義ってことだな。
「あ、……エキドナ様、ハンナが大変無礼な真似を……」
「ん? そなたは?」
「ハンナがいる孤児院を経営しております、ジョージと申します」
「ほう、ではお主がハンナの育ての親かのぅ。なに、これくらい無礼でも何でもないわ。無礼というのはさっきのラミリアの……いや、何でもない。それよりもハンナはいい子じゃ。これからも正しく育てるのじゃぞ」
「は、はい。ありがとうございます」
エキドナにそう言われて、流石のジョージさんも戸惑いを隠せない。
そして、それを皮切りに皆が自己紹介をしようとするが、エキドナの『そんなに覚えられん!』の一言で、代表して女王だけが挨拶することになった。
「初めましてエキドナ様。お会いできて光栄でございます。私は黄の国の女王をしておりますシトロンと申します」
「ほう、そなたは人間の王であったか。であれば妾のシンフォニアとは一応、隣同士であるな」
一応と付いたのは間に元赤の国があるからだろう。
「まぁ、シオンの友人みたいじゃし、そちらから戦争を吹っ掛けてこぬ限り、妾からは何もせぬゆえ、安心せい」
「は、ありがたく存じます」
「あー、そんなに畏まらずともよいよい。妾もシオンと同じで堅苦しいのは苦手でのう。楽にするが良い」
そうは言われても……って心情だろうな。
「ま、エキドナのことは気にしないでいい。さて、昼食も終わったし、俺達は出掛けるか」
エキドナとはさっさと別れて、俺達はシクトリーナ案内ツアーに出掛けることにしよう。
「待つのじゃ! 妾も一緒に行くぞ!」
「はぁ!? 何でだよ!」
「何でって……どうせ妾抜きで、みなで楽しむ気じゃろうが!」
「違うっつーの! 俺達はこのシクトリーナを紹介するだけだ。断じて遊びじゃない」
「なら任せるのじゃ! この城のことならシオンより詳しく知っとるぞ!」
「何でだよ!! お前は部外者だろうが!」
「ふふん、伊達に毎日通っとらんわ!」
ドヤぁと、エキドナは胸を張って威張るが、断じて誉められることじゃないよな?
「シオンお兄ちゃん。えっとね、ハンナね……エキドナお姉ちゃんも一緒がいいなぁ」
「お、おおお……ほんにハンナはいい子じゃのう。ほれ、ハンナもこう言っておるし、な、良いじゃろう?」
くそっ、厄介なコンビが誕生しやがった。しかし、俺もハンナの言うことには逆らえない。
「はぁ仕方がないな。その代わり大人しくしているんだぞ」
「分かっておる。よし、ハンナよ! 妾が肩車をしてやるから、一緒に行こうぞ!」
「わーー!! たかーい! エキドナお姉ちゃんありがとー!」
……エキドナの面倒はハンナに任せれば安心かな?
「あれが本当に重奏姫……?」
それは誰の呟きだったのか……きっと、全員の気持ちだったんだろう。
――――
「はーい! じゃあ、あらためましてティティだよー! じゃあ今から城の中を案内するね!」
相変わらずのハイテンションで、皆を先導する。
今回の案内スケジュールは、城内の一階から三階、それから城下町の見学だ。
「まずは一階の謁見の間からだね! ここは舞踏会やパーティー会場も兼任するんだよ! もしかしたら、いずれは参加するかもね。奥にはシオン様が座る玉座があるんだけど、シオン様が座ってくれない可哀想な椅子だよ。あ、でもでも毎日掃除はしてるから埃は被ってない筈だよ……多分」
この件が片付いたら、関係者を集めて盛大にパーティーもアリかもな。
……しかし、いくら座らなくても、埃まみれの玉座は嫌だな。ってか、座る機会ってないよな。謁見とかないし、客が来るわけでも……って!? もしかして、今日が座るチャンスだったんじゃないのか? ……もう、今さらだから座らないけど。
「埃まみれの城主……ピッタリね」
クリスが小さい声で俺に囁く。
「うるさい。埃は被ってねーよ! ってか、大丈夫だと思うが、あまり馬鹿にする発言すると、ルーナから怒られるぞ」
俺が、そう言うとクリスが身震いする。
「ちょ、ちょっと洒落にならないわよそれ。分かったわ。この場では抑えることにするわ」
この場じゃなく、いつも抑えて欲しい。
「シオン様? 随分と仲がよろしいみたいですねぇ?」
前を歩いていたルーナが振り返り俺達に声をかける。
「ひぃっ! いえ、とんでもないですわ。ホホホホホ!」
クリスはテンパってキャラが変わってる。
「はぁ。左様ですか」
ルーナは何事もなく前を向き直す。別に糾弾するわけでなく、単純に気になっただけのようだ。
「何よ……本当にベタ惚れじゃない」
俺はクリスの呟きは聞こえない振りをした。
――――
「食堂はさっきまでいたから省略するね! だから次は二階へレッツらゴー!」
一階の残りの部屋は、控え室や更衣室ばかりだから残りは見る必要がない。ってことで、さっさと二階へ行く。
「じゃーん! 二階は客室になってるんだよ! ゼスト様やカナリア様はこの階に住んでるんだよね!」
「ええ、ここの一室を借りております。各部屋は王室に負けず劣らず素晴らしい部屋ですよ! ボタンひとつで灯りが付く仕組みに、冷蔵庫と呼ばれる、中のものを常に冷す箱。何時でも冷たい飲み物が飲めるのです!」
王子は冷蔵庫がお気に入りのようだな。
「私はトイレが素晴らしいと思います。自動で水が流れ、臭いすら残りません。そして、それよりも素晴らしいのが、何より捻るだけでお湯が流れるシャワー。部屋に何時でも使える浴室があるのは素敵です。備え付けの石鹸もいい匂いがするんですの。王宮のような大浴場ではないのですが、汗をかいたらすぐに使えるのが素敵ですわ」
王女はキレイ好きなのかな? まだ若いけど、やっぱり女の子なんだな。
「私は洗濯機に憧れてしまいます。魔法を使わずに簡単に選択が出来るのは、時間節約にもなります」
マチルダの部屋には洗濯機と脱水機がある。マチルダが王子達の身の回りの世話は自分がやると言ったので、急遽取り付けたのだ。
三人は初日こそ三人で一部屋を使用していたが、二日目からは割り当てられた部屋を使うことにしたようだ。離れていても問題ないと判断してくれたのか……少しは信用してくれたのかな。
「そういえば、王女は温泉には入ってないのかい?」
さっきの話に温泉はなかった。あそこは王宮の大浴場にも負けないと思うのだが?
「温泉……ですか?」
あれっ? 本当に知らないのか?
「シオン様、あそこは一応フィーアスになりますので、シオン様の許可がないと立ち入り出来ません」
ああ、フィーアスやツヴァイスは防犯上,俺の許可がないと入れないんだった。
「じゃあ温泉だけ許可して。正し、必ずメイドが同行させること。あ、中まではいい。移動だけ同行してくれ」
「畏まりました。では、本日よりそのように致します」
「よし! ハンナよ。今日は妾と温泉に入ろうぞ! とっても気持ち良いぞ」
「うーん? よく分からないけどエキドナお姉ちゃんと一緒なら入るー!」
えっ? 滞在中の王女達に許可を出したのに、何でエキドナとハンナが入ることになってるんだ?
しかし、既にはしゃぎ始めたハンナを止めることは出来ない。
「……ティティ。案内の最後は温泉にしてくれ」
「わっかりましたー! 最後は皆で裸の付き合いだね!」
女性陣は華やかでいいだろうが、男同士の裸の付き合いとか言われると、正直行きたくなくなるんだが……まぁ温泉は女性陣だけでいいか。
――――
「じじゃーん! ここが娯楽ルームだよ! 色々あるから試してみてね」
「…………ティティ、ここはマズい。後回しにしよう」
「えー、なんでー?」
「何でじゃない! あそこにいちゃ駄目な連中がいるじゃないか!」
娯楽ルームの奥……麻雀卓に、本来ならここにいてはいけない人物達がいた。
「ト、トオル……お主、何故こんなところにいるんじゃ!!」
麻雀をしていた四人はトオル、ゼロ、カミラ、エイミーだった。
な、なんてカオスなメンバーなんだ。
「あ、エキドナにシオンくんじゃないか。もう終わったの?」
暢気な声でトオルが聞いてくるが……俺、トオルに会議に参加しろって言わなかったっけ? 何でサボって麻雀打ってるの?
「のう、トオルよ。妾を見捨ててこんなところで何をしてるのじゃ?」
「そんな見捨ててなんて人聞きの悪い。僕はシオンくんから会議があるからって連絡があったから来たんだよ」
「……じゃあ何で会議に参加せずに麻雀打ってるんだ?」
「えっ? 参加するために僕を呼んだのかい? てっきり女王を連れてくるために呼ばれたと思ってたよ」
んん? 何か食い違いがあるぞ? 女王を連れてきたのはサクヤじゃなかったのか?
「トオル様には、女王の部屋とこの城のゲートを開いて頂きました。これで、サクヤと離れても緊急時にシクトリーナへ避難することが出来ます。勿論、今回の件が解決しましたら外させてもらいますが」
ああ、一応仕事はしたのか。で、ゲートを開いたから仕事が終わったと思って、ここで麻雀って……まぁいいか。
「それで……何でお前らまでここにいるんだ?」
そもそも何でゼロがここにいるんだ? 俺が旅に出る前までは偶に来ていたが、旅に出ることは教えていたので、来ることはないと思っていたんだが……。
「いやな、ぶっちゃけると暇だっただけなんだが」
ぶっちゃけすぎだろ!! ってか、夜魔城のトップ二人が暇なはずないだろ?
「本当はシオンが旅に出ていることを忘れてて、遊びにきたんだが……そこに偶々トオルがいたから声を掛けたんだ。で、もう一人メンツが足りなかったからアレーナを……と思って誘ったら、アイツ、忙しいとか言って断るし。だからエイミーを誘ったんだ」
アレーナを誘うのも大概だが、断られたからって、何故にエイミー?
「つーか、お前エイミーと接点あったのか?」
「おう、偶にここで一緒に遊ぶぞ。なぁ」
「本当に偶に……ですけどね。あっ、言っておきますけど、私は仕事してますからね! 仕事時間以外ですからね!」
いや、そこは疑ってないけど……。
「私はゼロ様に無理矢理連れてこられて……うう、やることは沢山あるのに……」
カミラはカミラで大変そうだ。
「……まぁ程ほどにな。俺達は忙しいから邪魔だけはするんじゃないぞ」
こう言っておかないと後々面倒だ。ややこしいのはエキドナだけで十分だ。
まぁ四人も麻雀に夢中みたいだし、早い所ここの見学を終えて他に行くことにしよう。
エキドナはもう少しトオルと話したそうだったが、こっちに来ることにしたようだ。……今日の所はトオルよりハンナを取ったか。ハンナの魅力は止まることを知らないな。
「シオンさん、あの……彼らは?」
「ただ遊んでるだけだから気にしないでいい」
「はぁ」
今一つ納得のいかない領主。だが、「そこにいるのは魔王と元魔王」などと本当のことを言うと、さらに驚くだけだ。世の中には、知らないことが良いこともあると思ってもらうしかない。
「それよりも、ここにある物はその内販売に出そうと思うんだ。だから売れるかどうか判断してくれ」
個人的には午前中の会議よりも重要な問題だ。
商業ギルドの二人と領主、それからミハエルさんにはよく見て判断してもらいたい。




