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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第113話 町をぶらつこう⑧ 領主編

「というわけで、あの遺跡(ダンジョン)にいたボスと【魔素溜まり】は無くなったからしばらくは問題ないと思うぞ」


 何とか遅くならない内に戻ってきた俺達は報告するためにギルドへと戻ってきた。依頼完了の証拠として、リンのマッピング、ボスの魔石、倒した証明として、アイラとリンの冒険者カード。ボス部屋にあった人工遺物(アーティファクト)を提出した。


 人工遺物(アーティファクト)は変な壺。魔道具なのは確かなのだが、用途は不明。ギルドでついでに効果を調べてもらおうと思っている。

 遺跡(ダンジョン)の戦利品は、パーティーの所有物になる。報告の為に提出することになるが、ちゃんと返却はしてもらえる。もちろん買い取ってもらえることも可能だ。まぁ魔道具は貴重だから買い取ってもらう人は少ないようだが。


「アンタ達に依頼した私が言うのもなんだけど……ホント規格外よね。一日で帰ってくることもそうだけど、まさかここまで完璧にこなして帰ってくるとは思わなかったわよ」


 ボスを倒したことと、マッピングがちゃんと出来ていたこと。その二つが大きく評価された。


「シオンさんは何もしてないですけどね。アイラさんが一人で全部倒しましたよ。正直アイラ一人しか活躍しませんでしたよ」


「ラミやん、ちょっと待つっス。私だって一人倒したっス。それにマッピングしたのは全部私っス」


「確かにリンさんはマッピングは頑張ってましたけど、ボスに対しては最後のトドメを横取りしただけでしょう。美味しいとこだけ持っていっただけですよ」


「なっ!? ラミやんはカメラを持って、シオン様とイチャイチャしてただけじゃないっスか!!」


「ちょっと!? 人聞きの悪いこと言わないでください。少し話をしていただけじゃないですか」


「……アンタ、女の子に戦わせて、自分は高みの見物だったの?」


 リンとラミリアが言い争いを開始し、クリスが呆れた顔して俺を見る。それは明らかにクズを見る目だった。


「今回はアイラが戦いたいって言ったから任せただけだ。もし次があるなら今度は俺が頑張るよ」


 ラミリアとも約束したし、俺の沽券に関わるし、少しは格好いい所を見せないとな。


「あっそうなの! じゃあ次の依頼は……」


「あっ、流石に連続では受けないぞ。他にもやることはいっぱいあるんだからな」


 クリスが新しい依頼を出しそうだったので、俺は慌てて立ち上がる。


「はぁ? ちょっと!?」


 クリスが慌てて止めようとするがもう遅い。ここはさっさと逃げるに限る。


「じゃあ依頼達成は適当に誤魔化しておいてくれ。アイラとリンはもう少し報告に付き合ってくれ。俺は帰る」


「ちょっと待ちなさいよ!!」

「ちょっと待つっス!!」


 俺はクリスとリンの叫びを無視して部屋を出る。扉を閉めると防音効果で全く聞こえなくなったが、きっとクリスも叫んでいるだろう。


「良かったんですか? 後でまた怒られますよ?」


 ちゃっかり一緒に逃げてきたラミリアには言われたくない。


「良いんだよ。リンなら上手くやってくれるさ」


 あのまま居たら、絶対に次の依頼が出てきていた。確かに次は頑張ると言ったが、屋台や孤児院、商会の件もあるし、今は勘弁してほしい。まぁこの町を出る前に、後一回か二回は受けてもいいけどな。



 ――――


「……なぁ、やっぱりギルドに戻ろうか? いや、別の場所に行ってもいいし……そうだ! 今からデートでもしようか!!」


「……シオンさん。私も目の前の光景を見たら、帰りたくない気持ちは分かりますし、少しくらいなら遊んでもいい気はしますが……恐らく問題を先送りするだけで、後回しにすればするほど面倒になるだけだと思いますよ。自業自得だと思って諦めてください」


 今、俺達は本店が見える位置まで帰って来たんだが……本店の前には豪華な馬車が止まっていた。

 本店は今日から営業を再開している。そろそろ本日の営業時間が終了とはいえ、大変迷惑極まりない馬車だ。

 これは間違いなく貴族の馬車……そして貴族がわざわざ本店に来る理由はそんなに多くはない。


 ・この間の馬鹿な貴族がリベンジにやってきた→馬車が段違いなくらい豪華だから多分違う。

 ・この間の馬鹿な貴族の親がリベンジにやって来た→可能性はある。

 ・別の貴族がイベントが終わったにも関わらず商品を買いに来た→結構ありそう。

 ・領主が来た→先日のやり取りから一番可能性を感じる。


 考えられるのはこのくらいか? 正直どれも面倒くさいことこの上ない。


「でも、メイドも帰ってますから、今本店にいるのは従業員とミサキさんとレンさんしかいないのではないですか? 大丈夫でしょうか?」


「そうか……そう考えると危険かもしれないな。……仕方ない。気が進まないけど中へ入るとしようか」


「では、私は関わり合いになりたくないので、孤児院で晩御飯でも食べてきます」


「えっ? ちょっ!? ラミリア?」


 俺の方を振り返りもせずに足早に孤児院の方向へと駆けていった。くそっ、ラミリアめ。俺だって逃げたいのに……というか、行くのは孤児院なんだな。ハンナに懐かれて迷惑そうにしていたのに……文句を言いながらも気に入ったのかな?

 まぁここにいても仕方がない。覚悟を決めて店に入ることにした。



 ――――


「いらっしゃいま……あっ、シオン様お帰りなさいませ」


 出迎えてくれたのは店の従業員。俺の事は覚えてくれたようだ。

 今日から本格的な営業再開だったため、どうだったか聞いてみたが、朝は先日までの商品が売られてないか確認するため、大勢の客が来ていたみたいだ。だが、商品がないと分かるとさっさと去っていった。それでも、新規の客の獲得には成功したのか、いつもよりは賑わっていたらしい。割引券を利用する客もいたようで、効果もあったようだ。


 その店内をジックリと見渡してみても、外の馬車を使うような客は見当たらない。


「外に豪華な馬車があったんだけど……知らない?」


「あっ……ええと、二階でお待ちです」


 うーん。お待ちってことは領主一択かな。ってか、昨日の今日で、随分とフットワークが軽い領主だな。俺は従業員に礼を言って二階へと上がった。



 ――――


「おや? お帰りでしょうか。本日は戻らないと思ったのですが……残っていて、正解でした」


 二階へ行くと居間に知らない男がいて俺に話しかける。服装からしてこの男が領主か?

 そして後ろに護衛が立っているのだが……その男には、物凄く見覚えがあった。

 この町に来る前に寄った町……マチルダを購入した町に案内してくれた男だ。

 何故ここにいる? ……まさかここまで俺を追いかけてきたのか? あの町からここまでだと、馬じゃ十日前後かかる。あの後急いで追いかければ、確かにこの町に辿り着いていてもおかしくはない。ということは、この男はこの町の領主じゃなくて、あの時俺を探していた貴族か? それともこの町の領主はグルだったのか? 俺は目の前の男に関して警戒を強めた。


「ああ、そんなに警戒しなくてもよろしいですよ。彼はね……元の雇い主から逃げ出して、新しく私に雇ったのです」


「……どういうことだ?」


「その前に自己紹介をさせていただきたい。私はこの町の領主でラスティンと申します。お見知りおきを……シクトリーナの王、シオン様」


 領主……ラスティンは膝まずいて仰々しくお辞儀をした。


「どうして俺の正体を……それから、俺は貴族の礼儀が分からないから、普通に対応してほしい」


 俺がそう言うとラスティンは苦笑する。


「本当に聞いた通りの性格なんだね君は、分かった、それではシオン殿と呼ばせていただこう。私のことはラスティンと呼んでくれ」


「聞いた通り? ……誰から聞いたんだ?」


「あ、それはウチや。この人ら店に来るなり膝まずいて『シオン殿はいらっしゃいますか!』やもん。せやからシオンさんはそんな大袈裟なのは嫌いやから、よした方がええって言ったんや」


 丁度そこにお茶を持ってきたミサキがやって来た、それで理解が早いのか。普通だったら眉をひそめるからな。でも、それは俺の正体を知っていた理由にはならない。


「シオン殿については彼に聞いた。最初は驚いたものさ。何せこの町にシクトリーナの城主が来ているなんて想像だにしなかったのでな。それに今話題の商品がシクトリーナ産だとは考えもしなかった。……驚くのも無理はないだろう?」


「彼は俺のこと知らないはずだ。それにここで商売することも知らなかったはずだぞ?」


 というか、この町に着いてから計画を立てたんだ知っている筈がない。


 この男はあの時――あの町で出会った時には、俺の正体は気付いていなかった。それに逃げてきたというのも気になる。俺を捕まえ損ねて首になったのか?


「では、俺から説明させてもらう。その前にまずは詫びを入れさせてくれ。あの時は迷惑かけてすまなかった」


「あ、いや……そこまで迷惑は掛かってないから別に気にしてない」


 むしろこの男は、他の者が無理やり暴力に訴えようとしたところを諌めたり、可能な限り俺達の希望に添ってくれた。


「それで、貴方は礼儀正しいのが苦手だと言うからこんな話し方をしているが、問題ないか? 貴族でも何でもない俺がこんなしゃべり方をして、もし不快に思うなら正させてもらうが」


「いや、問題ない」


 どちらかと言えば肩が凝らない分、好感が持てる。


「それじゃあ遠慮なくこの話し方で通させてもらう」



 ――――


 男の名前はアルゴ。元々は赤の国の兵士だった。辺境警備だったため、あの事件で死ぬことはなかったが、国が無くなったため失業。過去に輸送隊に参加もしていなかったため、俺達からも声は掛からなかった。


 行く宛もなく、途方にくれていた時に、あの町の領主から私兵として雇われることになった。


 あの領主は色んな場所で恨みを買ってるから、優秀な駒を集めていたらしい。

 そういう者の下で働くことは嫌だったが、背に腹は代えられなかったらしい。


 というか、領主もそんな敵だらけなところ、早く逃げだせばいいのに……と思わなくもない。それとも町に愛着や責任感でもあったのかな? そう思ったが、違ったらしい。


 赤の国の住人は、他の国へ亡命する際、どれだけ身分が高くても、身分は剥奪され、平民へと下ろされる。あの領主はそれが我慢できなかったから、敵だらけの町で領主を続けていた。


 アルゴは当初、亡命までは雇われるつもりだったようだ。亡命成功後、黄の国で別れて冒険者にでもなる予定だった。


 そんな時に、盗賊達が黄の国の国璽を持って、領主の下へ訪れた。

 領主はこれがあれば黄の国に恩が売れると思い、盗賊から買い取ることにした。

 その時ついでに黄の国が派閥に分かれていることも聞いた。

 領主はこれを持っていけば、確固たる地位を持って黄の国へ亡命出来ると踏んだようだ。


 だが、そこに邪魔が入った。取引予定の場所で盗賊が襲われた。言わずと知れた俺達だ。

 領主は怒り狂って犯人を探しだそうとした。


 アルゴはまず俺達の情報を集めた。そして集めた情報から推測すると、俺達がシクトリーナの城主だと判断した。

 あの領主に従って、俺達を追いかけたら殺される。そう思って、アルゴはあの町から逃げ出した。


 俺達の手が届かない場所……赤の国の領地から離れて他国へ行く為、国境に一番近いこの町を目指して……そこに俺達がいるとも知らずに……。



 ――――


「この町に辿り着いたのが二日前。門番からちょっとした祭りが終わった後だと聞いた」


 祭りと言うのはリニューアルのことだろう。まぁ確かに祭りっぽかったな。


「鉄の乗物に乗ってやって来た商人が、祭りを開いたと聞いて俺は絶望したよ。まさか逃げた先に本人がいるなんて思いもしなかったからな。逃げられないと、死すら覚悟したよ。まぁそこで困っていたときに領主に拾われたって訳だ。ラスティン様には感謝してもしきれない」


「私はただ、情報が知りたかっただけなんだけどね。それがまさかこんなに大ごとになるとは思わなかったよ」


 アルゴから聞いた情報と、リニューアルの情報が合わされば特定は簡単か。


「……状況は理解した。それで、ラスティンさん。貴方は何が目的ですか?」


 どうも話し方から考えて敵対するとは思えないが……。


「私は黄の国の穏健派なんだが……単刀直入に言うと、穏健派に協力して欲しい」


「それは……過激派と戦えってことか?」


「いや、むしろ戦ってもらっては困る。協力してもらいたいのは物資の支援だ。とは言っても、物資を分けていただきたい訳ではない」


「すまん、意味が分からない。物資の協力はして欲しいのに、貰いたくないってことは……買い取るってことか?」


「広い意味で言えばそうだ。だが買うのは一般人、今回のように住人に売っていただきたい。それをこの町だけじゃなく、穏健派が支配する町に売って欲しい。そして、過激派の町には流さないで欲しい」


「……何を考えてる?」


「過激派への経済封鎖。それから一般人へのシクトリーナへの不安を払拭」


「ちょっと待ってくれ! 理解が追い付いてない。貴方が穏健派なのは、昨日商業ギルドで聞いたから知ってる。だが、それとシクトリーナの不安を払拭させることと結び付かない」


 この男は何を考えてる? 話だけ聞いてると、俺達にはメリットしか発生しない気がする。

 多分この話は重要な話になる気がする。だから俺は仕切り直しをお願いした。俺以外の人にも聞いてもらいたかったからだ。


 そのため、明日改めて話し合うことにした。場所はシクトリーナ。

 初めは領主の屋敷へ伺うと言ったのだが、領主がシクトリーナへ行きたいと言ったからだ。

 余程俺たちを信用しているのか……はたまた信用されたいのかは分からない。


 シクトリーナへ行く条件として、情報を一切口外しないように【毒の契約】を受けることも了承した。まぁそこまでされたら招待せざるを得ない。


 そして、ならついでに……と言うことで、この町で知り合った人をシクトリーナに招待することにした。


 最初は勿論ミハエル夫妻。ミハエルさんは来たことあるけど、倉庫から荷物を持ってきたりだとかでちゃんと案内したことはなかった。

 次に屋台のオッチャンことデント。オッチャンには本格的な焼鳥屋への道を歩んでもらう。

 それから孤児院の院長であるジョージさんとハンナ。俺達の学校を見てもらおう。

 商業ギルドのギルマスとワイズさん。今回販売しなかった商品を見てもらおう。

 冒険者ギルドのクリスは……まぁ誘ってみて、来たければ来ればいい。

 最後に領主のラスティンと護衛のアルゴ。アルゴに関してはヴォイスやアルフレドが知ってないか聞いてみよう。


 そういう訳で明日、突発的シクトリーナ案内ツアーが観光されることになった。

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