第110話 町をぶらつこう⑤ 冒険者ギルド編
商業ギルドで話が終わった後、まだ時間があったから冒険者ギルドへとやって来た。
さて、クリスとリンはいるかな?
「あっ、シオンさんこんにちは」
ギルドへ入るとリリーから声を掛けられた。
彼女は先日の打ち上げで俺達の正体を聞いている。驚いてはいたようだが、あまり気にはしてないらしい。一応口止めはしているようだから問題はないと思うが、クリスと違って表に出やすいだろうから気を付けたほうがいいかな。
「ああ、こんにちは。多分リンがいると思うけど……?」
「ええ、クリスさんが連れてきました。今は奥の部屋にいますよ。行かれます?」
「後で行くよ。その前に依頼ボードを見てみたい」
多分俺達用は別に準備されてるんだろうが、まだ一回も見てないから興味があった。
「シオンさんは一応Cランクなので、受けるならこの辺りですね」
リリーの教えてくれた場所はCランク用の依頼が並んでいた、確認してみると、主なCランクの依頼は、他の町や村への護衛やオークやオーガの討伐依頼だ。うーん、正直あまり興味はないな。オークやオーガは、俺達にとっては強い魔物ではないし、護衛も面倒くさい。
ちなみに他の……例えばDランクは他の町への配達や、Cランクよりも弱いコボルトやホーンラビットの討伐。護衛じゃない分簡単な、町の外がメインの依頼のようだ。
で、Eは近隣での採集依頼、Fが町中の配達やお手伝いなど町の便利屋さんって感じか。もし飛び級で冒険者になれなかったら、お手伝いをしなくちゃいけなかったのか……Cランクスタートで本当に良かった。
B以上になると討伐依頼が増えてるな。それから、護衛は貴族や大商会の商人の護衛……と。お偉いさんの護衛は嫌だけど、討伐依頼は少し気になるな。
肝心の報酬は……安っ!? Cランクは依頼一つで平均二千G!? 安宿一泊で消える金額だ。
まぁ確かに護衛は期間中の経費は向こう持ち、討伐は魔石や素材の買取は別。それを考えると合わせると五千Gくらいの価値にはなりそうだが……それでも安くないか?
DやEは本当に悲惨だな。絶対に生活できないだろこれ。というか……これでよく千Gのトランプや調味料を買うことが出来たな。
俺はエイミーやセラが昔言ってたことを思い出した。村人は身分を求めて冒険者になるが、結局稼げないので村人に戻る。黄の国でこの金額なら赤の国ではもっと酷かっただろう。
そういえばシクトリーナの調査は百万Gだったな。目の前の依頼を考えると、破格に見える。そりゃあセラ達も一発当てようと受けるはずだ。
でも、あれは結局参加冒険者が百人近くいたから、割れば一人頭一万G。人数が減ったと仮定しても、あまり稼げなかった。それから討伐一人につき五千Gだったっけ? って、今考えると五千Gって安くね!? オークが二千Gなんだから……どれだけ俺達を下に見ていたんだって話だ。そもそも女魔族は、奴隷市場で五十万くらいだろ!? どれだけぼったくる気だったんだよ!
って、まぁあれは残党処理のつもりだったし、下手に金額を高く設定すると、用心して引き受けてもらえなくなるってのも関係していたのかもしれない。
「ねぇ、依頼の金額って安くない?」
「ですよねー。ですから、殆どの冒険者が魔物の素材や資源を買い取ってもらって生活しています。素材の収集は主に遺跡みたいですね」
「この辺りに遺跡があるの?」
「この近辺――この町から一日で行ける距離に三つほどあります。【ジンの遺跡】【ウロボロスの遺跡】【フェンリルの遺跡】です」
――――
ダンジョン。
この世界では迷宮ではなく、遺跡のことをダンジョンと呼ぶ。俺が日本のゲームや小説で知っているような宝箱やダンジョンマスターなどは存在しない。勿論、魔物もアイテムのドロップはしない。ドロップするのは魔石と肉体だけだ。
遺跡の由来はロストカラーズ時代まで遡る。
ロストカラーズから箱舟を使ってこの大陸にやって来た今の生き物達の祖先。彼らが住んでいた……そして、私物を保管していた場所。洞窟や建物、その場所が廃墟になった場所を総じて遺跡と呼んだ。
遺跡の名前の由来は、そこを拠点にしていたと思わしき者の名前が付いている。
その為、この近くにある遺跡はジン、ウロボロス、フェンリルがこの大陸に辿り着いた際に住んでいた場所なのだろう。勿論、真偽は定かではない。誰も当時を知らないのだから……。殆どが発見された人工遺物や、遺跡内に棲みついた魔物から推測されている。中には過去の文献や古文書が発見され、当時の歴史が判明することもある。
遺跡内は、始祖が住んでいた為、魔素濃度が高く、いくつもの魔素溜まりが発生し、結果外以上に魔物が蔓延っている。
また、魔物だけでなく、魔力を帯びた植物や鉱石の採取も出来る。討伐や採取しても【魔素溜まり】がある限り、リポップするため、冒険者の金稼ぎに丁度いいらしい。
勿論、【魔素溜まり】やリポップに関しては、人間世界には伝わってないので、遺跡内ではいつの間にか復活する不思議な場所とされている。
始祖と同系列の魔物が棲息している理由は、始祖の残り香や始祖の眷属だったのでは? などと推論が立っている。
本当は、【魔素溜まり】はその場所にあった種類の魔物をリポップさせるからなのだが……まぁ残り香はあながち間違いではないのか?
だから本来は遺跡の【魔素溜まり】を消せばリポップはなくなって、魔物や資源の回収は出来なくなる。まぁ魔素は自然と溜まり、すぐに魔素溜まりが出来て、新たにリポップするのだろうが。その場合は別の魔物や資源になる可能性はある。
そういえば昔アルフレドに【魔素溜まり】の事をギルドを通じて流すって約束したけど、すっかり忘れてたな。後でクリスに教えるか。
それにしても……箱舟に乗ってこの大陸にやって来たのは、地球の神話でも聞いたことのある名前ばかりでとても心躍らせる。
また、俺が知っている遺跡はエキドナの領地……アンサンブルに【ガイアの遺跡】。ゼロの親でもあるヴァンパイアロードが使っていた遺跡が今の夜魔城。どちらも行ったことはないが、いずれ行ってみたい。
――――
「おそらくクリスさんがシオンさんに準備している依頼は、遺跡の攻略だと思いますよ」
「えっ? そうなの?」
だとしたら少し興味があるな。遺跡攻略とかRPGみたいでワクワクする。
「ええ、少し前からなんですが、【ジンの遺跡】の敵が強くなっていると、報告がありまして……ですから、ボスが出現したんじゃないかと言われています」
ボス……おそらく【魔素溜まり】から偶に発生するレア魔物だろう。
例えばゴブリンの【魔素溜まり】からは基本的にゴブリンしか生まれないが、偶にゴブリンキングやホブゴブリンが生まれる。
身近な例ならホリンがまさしくその典型的な例だろう。グリフォンの【魔素溜まり】から生まれたホーリーグリフ。野生なら間違いなくボス扱いだ。
ボスが生まれて他の魔物が強くなるのは、ダンジョン内の魔素濃度が強くなったり、ボスの命令に従うため統率された動きになるからだ。
今回は【ジンの遺跡】だけで、他の【ウロボロスの遺跡】と【フェンリルの遺跡】には変化はないらしい。尚、【ウロボロスの遺跡】は、数年前【時の咆哮】と呼ばれたドラゴンがボスとして遺跡外に現れたのでは……との話だ。その為、【ウロボロスの遺跡】はしばらくの間は大人しいとの見解だ。
【ジンの遺跡】もボスが外に出る前に倒さないと危険だが、そのボスを倒せる冒険者がいなくて放置されている。他のギルドや首都にも応援を頼みたいのだが、今の国の情勢から難しいとされていた。だからクリスにとっては俺達の存在が丁度良かったのだろう。
――――
リリーに案内され、クリス達がいる部屋へと通された。リリーは一緒に話を聞きたかったようだが、受付が二人も外れるわけにはいかないから仕事に戻った。
「あら、私よりワイズを選んだ裏切り者さんじゃない」
部屋に入るなりこれだ。さっきのことをまだ根に持っている。
「全くご挨拶だな。折角早めに切り上げて来たのに。ってか、俺もちょっと商業ギルドに行ったことを後悔したよ」
「何かあったんスか?」
俺は二人に商業ギルドでの話を簡単に説明した。
「なんだ、大体予想通りじゃない」
「そうなんだよ。でもさ、もっと面白い話も聞けると思ったんだよ」
予想としては商品に関してや俺の正体の話はあると思った。まぁ商品の話はエリクサーしかなかったし、領主の話は考えてなかったが、それでも大きく予想と外れたことではなかった。
だけど……もっとこう細かい商売の取引とかさ……そういうのも期待してたんだよ。
「私も会ったことがないから詳しくは知らないけど、この町の領主は評判は悪くないわよ」
「でもなぁ……貴族にはいい思い出はないからなぁ」
今まで何人かの貴族に会ったが、誰一人としてまともな人間がいなかった。だからいくら評判が良くても変に勘ぐってしまう。
「まぁその領主が店に来て、その時に俺がいたら会ってもいいかな」
穏健派という話だし、孤児院のことについても聞きたいし。会うくらいは構わないかな。まぁ我儘を言うならすぐに切り捨てるが。
「……アンタ、殆ど店にいないじゃない。昨日連絡しなかったら、今日も来なかったでしょ?」
いや、流石に今日は……あ、でもワイズさんが来てたから、間違いなく商業ギルドに行っただろう。で、クリスからの連絡がなかったら、冒険者ギルドは明日に回したかもしれない。ってそうだ!
「なぁ、何でクリスがケータイを持ってるんだ?」
「打ち上げの時に、シャルティエさんから貰ったわよ。あれ、便利ねぇ。連絡以外にも色々と出来るんでしょ? 詳しい説明はシオンから聞けって言われたけど教えてくれるの?」
シャルティエ……本当に優秀になったな。って俺が酔いつぶれてただけか。
で、ケータイの機能か。俺との連絡だけじゃなく、受付の仕事にカメラや録画・録音機能は役に立つだろう。メールは……流石に日本語なので無理かな。
「時間があるときな。あと、周りにはあまり見せるなよ」
「分かってるわよ。というか、時間ならあるじゃない。今教えなさいよ!」
今って時間があったのか。依頼の話は? それにクリスは仕事中だろ? 長時間受付を離れて大丈夫なのか?
「……いいけど依頼は?」
「すでにリンへお願いしてるから問題ないわよ。【ジンの遺跡】の調査及びボス討伐。Aランクの依頼だけどいいわよね?」
「さっき、リリーから少し聞いたけど……俺達の初依頼にしては難易度が高くないのか?」
一応俺とアイラ、多分一緒に行くであろうラミリアはCランク、Aはリンだけだ。俺達全員がS以上の実力だとしても、他の冒険者との兼ね合いというか…体裁が悪くないか?
「実力は気にしてないけど、確かにこの依頼を受けるには実績が足りないのよね。だから、【黄金の旋風】との合同で受けた依頼に出来ない?」
あーセラ達か……確かに彼らはAランクの冒険者で、今までにもかなり実績はあるはずだ。だけど、この町での認知度は低くないか? 大丈夫か?
「まぁ無理ならまたリューにお願いしましょ。彼ならSだから、一緒に行動してもそこまで足手まといにならないし」
「……セラ達の名前だけ借りることにするよ。リニューアルが終わって城に帰ったから他の冒険者にも会わないし問題ないだろう」
リュートと一緒は……あっちが嫌がりそうだ。それに、依頼が達成したときに周りからはSランクの力を借りた寄生パーティーって思われそう。流石にそれは嫌だ。
「ってか、俺達じゃなくリュートはこの依頼受けないのか? 一応Sランクならこの依頼も達成できるだろう?」
「……残念ながらリューとあの遺跡は相性が悪いのよ。詳しくはリンから聞いて」
早くケータイのことを聞きたいのか、無駄な話は極力避けるようだ。
「分かったよ。リュートについてはまぁどうでもいいしな」
「じゃあそれで依頼の件は良いわよね? じゃあ次はケータイについて教えてよ!」
「いや、他にも詳しい場所とか討伐ボスの詳細とか……」
「それもすでにリンに伝えてるから問題ないわよ」
俺は確認するためにリンの方を向いた。
「……確かにちゃんと聞いたっス。本当はシオン様にも説明してほしいんスけど……多分ケータイの説明をしないと多分話が進まないと思うっスから、先に説明してあげて欲しいっス」
確かに…このままだと話が進まないか。仕方ないからケータイについて説明することにした。
――――
「はー、記録することが出来るのは便利ね。言った言ってないの証拠にピッタリだわ」
「さっきも言ったけど、あまり多用はするなよ。欲しがりそうな奴は結構いるからな」
「分かってるわよ。その時はギルドの魔道具ってことで誤魔化すことにするから」
使用を減らす選択肢はないらしい。まぁ最初は仕方ないか。
「よし、じゃあ次だな」
「次? 何かあるの? もう帰ってもいいわよ」
早く操作がしたいのか、ケータイの説明が終わったら用無しとばかりに邪魔物扱いだ。
「いやいや、俺から一つ情報を与えようと思ってな。【魔素溜まり】って知ってるか?」
「【魔素溜まり】? 何それ?」
やっぱり知らないようだ。魔族の世界では常識なんだけどな。
別に秘密って訳じゃないだろうが、教える必要もないから浸透してないんだろうなぁ。
このあと俺の説明を聞いて、クリスが絶叫するまでそう時間は掛からなかった。
俺から聞いたこの情報をどうやって世間に発表するのか? クリスには存分に悩んでもらおう。




