第109話 町をぶらつこう④ 商業ギルド編
孤児院から帰った後、シクトリーナで今日の出来事を話した。
屋台でのこと。孤児院でのこと。両方とも問題がなければ、明日以降早速取り掛かりたいと思う。
「ラミやんとシオン様がまるで夫婦のようにしてたっスよ」
リンのこの一言がなければ、きっともっとスムーズに事が運んだだろう。
まぁこの言葉があっても、一時間お小言が増えただけで、結果は変わらなかったが。
ただし、何故か俺とラミリアが二人で孤児院に行くことだけは禁止になった。必ず他の誰かも一緒に行くように…と。全く……理不尽だよなぁ?
――――
さて、今日は城で休んで明日の朝ハンプールへ戻るとするか。
明日は……と、考えていたところにケータイが鳴る。ん? 誰だ?
『アンタ!! 何で今日はギルドに来なかったのよ!!』
「ク、クリス……か?」
『そうよ! アンタ言ってたわよね。三日間が終わったらギルドに顔出すって! なのに、何で帰ってるのよ!!』
「あー、行こうとはしたんだよ。でも、ちょっと色々あって……忘れてた」
『忘れてっ!? イイコト、明日は絶対に来なさいよね!!』
「分かった分かった。明日な明日」
そういってケータイを切った。
……あれ? 何でクリスがケータイを持ってるんだ? 確かに渡そうとは思ってたけど、俺はまだ渡してないぞ?
まぁいいや。明日行けば分かるだろう。
――――
朝、ハンプールに戻ると、店の前に二人の女性が待ち構えていた。
「ちょっと遅いじゃない! せっかく迎えに来たんだからさっさと行くわよ!」
「シオン様。よろしければ商業ギルドへお越しいただきたいのですが」
クリスとワイズの二人はお互いに火花を散らしている。……どうしてこうなった?
「シオン様、モテモテッスね」
リンの心底面白そうな顔。正直、こんなことでモテたくないよ。
「えーと、クリスの方は依頼の件だよな?」
「そうよ。昨日連絡したでしょ。つーか、昨日来なさいよね!!」
「いや、昨日も本当は行こうとしたんだよ。でも孤児院が……」
「シオン様は昨日、幼女と戯れてたっス」
「「えっ?」」
瞬間後ずさる二人。ちょっリン!? 突然現れて何を言うんだ! って、二人がドン引きしてるじゃないか。イラついたので無言でリンの頭を叩く。
「いたっ!? 何するんスか」
「うるさい。変なことを言うからだ。見てみろ。二人がドン引きしてるじゃないか。……二人とも。言っておくが、今のはリンの冗談だからな」
「……ヒモの上にロリコン。しかも女性に暴力まで……コイツ、クズの中のクズね」
「……やっぱりこの人、この町から追い出した方がよくありません?」
……俺、泣いてもいいかな?
「うう、申し訳なかったっス。ちょっと調子に乗ったっス」
「……で、今日俺はどうすればいいんだ?」
「「それは勿論ギルドへ来なさい(お越しください)」」
そういってクリスとワイズは睨みあう。はぁ、どうしてこうなった。
――――
「それで、こっちに来てくれた訳か。それはありがたいのう」
商業ギルドのギルマスが髭を触りながら笑う。
結局、今日は商業ギルドの方に行くことにした。クリスには悪かったが、代わりにリンを行かせたし、依頼を受けることになれば、下手したら数日かかる可能性がある。だって受けるのは急ぎじゃない強力な討伐依頼だ。なら、今日で終わりそうな商業ギルドの方を優先させたって訳だ。
「そういえば、お二人は打ち上げに来なかったですね。忙しかったんですか?」
結局二人は最後まで顔を出さなかった。てっきり会いに来るとばかり思ってたから、肩透かしを食らった感じだ。まぁラミリアと飲み比べしてグデグデだったけど。
つーか、ラミリアは昨日から元気だったな。俺はエリクサーを使ったし、魔法もあったけど、ラミリアは二日酔いしなかったのかな?
「本当は行きたかったんだがのぅ。急遽とんでもない仕事が入って、それで、行けなかったのだよ」
「へぇとんでもない仕事ですか。今はもう大丈夫なんですか?」
「まぁ、ある程度の分析は完了したし、それに関しても詳しく話も聞かんといけないしなぁ」
そう言ってギルマスの目が怪しく光る。ん? 何でだ?
「まずは、事の発端から話そうかの。あれは二日前、お前さんに打ち上げに誘われた後、ギルドに戻ってしばらく経った頃じゃった。ある商品が鑑定に出されてのう」
「はぁ。それがとんでもない仕事ですか? 何か珍しい商品だったんですかね?」
「ああ、ものすごい商品だった。ただ、それを持ってきた男は、最初その商品の価値を全く理解しておらんかった。どうやら嘘を吐かれておったらしい」
「はぁ、嘘ですか。偽物でも担がれたんですかね?」
これはあれか? 高度な贋作が見つかって大事みたいなパターンか?
「いや。それが逆での。偽物というか……本来の効果よりも、低い効果で伝えられたそうだ」
「へぇ、じゃあその人は得しただけじゃないですか。それなら特に問題はないのでは?」
「いやいや、それが普通の商品だったら確かにそうじゃが、その商品が、伝説級の商品なら話は変わってくる」
「伝説級……」
「そうだ。というか、そろそろ茶番は止めにせんか? いい加減分かっておるのだろう?」
いい加減ウンザリした表情でギルマスが言った。
「分かってるよ!! 鑑定に来たって時点でビンときたよ!! でもいいじゃん。俺悪くないもん」
ギルマスが言ってるのは、間違いなく俺が上級ポーションとしてくじ引きの景品にしたエリクサーのことだろう。あの男……あの後商業ギルドで鑑定してもらったのか。
まぁ無料で渡されたポーションを、調べもせずに使う訳ないか。
「コヤツ……開き直りおった」
「で、それが何か問題があったのか?」
「問題……そんな優しいもんではないわい! こんなに性能の良いポーションなぞ、初めて見たわ! 一体何なんだあれは?」
おや? エリクサーだとバレてない? いや、エリクサーってのは、俺達が勝手に命名しただけで浸透しているわけじゃないか。
「だから性能の良いポーションだろ? 渡すときにもそう言ったぞ」
「性能が良すぎるわ!! 何? あれもお主らが作っておるのか?」
「いやいや、流石にあんなポーションは作れないよ」
「ならあの一本だけなのか? 何故あんな勿体ない真似を……」
「いや、作れないけど沢山あるし……。昨日も朝二日酔いの頭痛を治すために飲んだばかりだし」
「「二日酔いを治すのに飲んだ!?」」
おお、ギルマスとワイズさんが見事にハモってツッコむ。
「お、お主、あれがどんなに貴重な品物か分かっておるのか? それを二日酔いを治すため……じゃと? 一体何を考え……いや待て。お主今たくさんあると言ったな?」
「えっ? ああ、まぁ俺の物じゃないから欲しい時は許可を貰うけど……その子の安全のために誰かは言わないが、その子は水代わりにいつも飲んでるぞ」
それを聞いて二人は頭を抱えてへたり込む。
「な、なんという愚かなことを……あれは…あれは、失われた部位すら治せるかもしれない、幻の秘薬なのだぞ」
「あっ、部位欠損の回復は気がついてたんだ。俺達はエリクサーって呼んでるぞ」
「エ、エリクサー。……何という事だ。価値を分かってて二日酔いなどという愚かなことに使うとは」
「別にいいだろ。どう使ったって。それに売り出す気とかないし」
俺だってこれが市場に出回ったらどうなるかくらいわかる。
「なら何故景品にした?」
「だって面白そうだから」
「「…………」」
二人は手をオデコに当て首を振る。なんか馬鹿にされたようで不愉快だな。
――――
「いい加減、腹を割って話したいと思う」
しばらく放心して……いや、呆れていたが、気を取り直したギルマスが真面目な顔で言う。
それは俺の正体について聞きたいってことだろう。まぁすでに正体はバレてると思ったから別に構わないが、向こうはどうする気なんだろう?
「別に俺は構わないけど、何を話せばいいんだ?」
「お主の目的と今後の行動」
てっきり最初はお主の正体は? とか聞いてくるかと思った。ははっ、まさかそれを飛び越えてくるとは思わなかった。
「最初に会ったときに言わなかったっけ? ウチの国には商会もギルドも無くてさ。商売が出来てないんだ。だからバルデス商会をウチに連れていきたいんだ。あっ、この町から出ていくって訳じゃないぞ。支店を作るって意味だ」
あれっ? 言ったっけ? 何かこの説明も色んな人に言ってて誰に言ったのか忘れてしまったよ。
「そ、それだけか?」
すごい拍子抜けした顔してギルマスが言った。
「うん、そうだけど……ああ、ついでにウチの特産を広げて儲けようかとも思ってるけど? まぁ今回は宣伝だったから、大盤振る舞いにしたけど。あっ、でも赤字にはなってないぞ。本来なら千Gで十分黒字なんだ。今回は流石に人件費やくじ引き、スリーブ等の経費でトントンって感じかな」
「あれだけやって……赤字じゃないだと?」
「だって赤字になったら意味ないだろ。ちゃんとそれくらい考えてるよ」
元々元手が掛かってない。まぁ今はシクトリーナ領民に給料を払うようにしたから、その人件費くらいか。それに今回のみは赤字を覚悟のつもりだったが……あの貴族の件がなかったら、完全にアウトだった。
「んで、今後の行動だっけ? まぁしばらくは今回の余波があるし、冒険者ギルドで依頼を受けないとクリスに怒られるから、しばらくはこの町で依頼を受けながら、のんびりするかな。その後は行くところがあるからそっちに向かうと思う」
のんびりとは言ったけど、他にも屋台のこととか孤児院のこととか……明後日には、本店も通常営業だし、そう考えたらやることは沢山ある。
「行くとこ……とは?」
「流石にそれは教えられないよ。まぁ商売とは関係ない、本業の方の用事だな」
キンバリーに行って、女王に会いますとは流石に言えない。そもそもこのギルドが過激派か穏健派かも分からないんだ。
「ってな訳で話せることは全部話したけど、もう帰っていいか?」
「ちょ、ちょっと待て。まだこっちの話が終わっておらん」
あー、まだ話があるんだ。面倒くさいな。やっぱりクリスの方に行っとけばよかったかな?
――――
「ゴホンッ。えー、まず一つ目だが、お主はシクトリーナの城主で間違いないか?」
一つ目って……複数あるのか。と、ここで聞いてくるのか。
「ああ、間違いない。あっ、城主だからって別に偉いわけじゃないから、敬語じゃなくていいぞ。……って端から敬語なんて使ってないか」
俺がそう言うと二人がハッとした顔をする。
「確かに一国の城主と言えば、立場的にはこの国の女王と同じ。……ああ!? な、何という無礼を……」
なんか藪蛇だったようだ。別にいいって言っただけなのに、何で気にしてなかったのに気にするのかねぇ?
「だからそういうのが面倒いから別にいいってのに……言っておくけど、他の人がいる前で俺に対して敬語とか使ったら、正体がバレて大変だから絶対に使うなよ。あ、でもウチのメンバーに格式にうるさいのもいるから公式の場では気をつけてな」
うるさいってのは勿論ルーナのことだ。まぁここにいる限り出会うことはないと思うが。
しかし、二人の動揺はしばらく収まることはなかった。……なんで正体を聞いたとき以上に動揺するんだよ。
――――
「うむ。すまんかった。正直ギルドマスターにまでなると、領主くらいしか上の者と話をする機会がなくてのう。まして、立場的には領主より上じゃろう。どうしていいか分からなくなってしまったわい」
そう言われると理解できるかもな。俺みたいな若いやつがいきなり地位が上って……理解は出来てたけど、改めて認識したから戸惑ったって感じか。
ギルマスは戸惑いから戻ると、普段通り接してくれると約束してくれた。俺も年上のじいさんに敬語とか使われたくないから正直助かる。代わりに俺もタメ口で話させてもらってる。
「それで、これが聞きたかったことの一つか?」
「いや、これはあくまで確認だ。ここからが本題なのだが……お主らは本当に侵略しに来たのではないんだな?」
「くどい! 何回言えば分かるんだ。俺達は攻められたら反撃するけど、別に攻める気は全くない」
もう何度説明したことか。……まぁ確かに不安になる気持ちは分かるけど、少しは信用してもらいたいものだ。ってこの人達には初めて話すのか? もう分かんないや。
「すまぬ。……だが、これには訳があるんだ。実は、今この国には過激派と……」
「あ、その話は知ってるからいい」
やっぱりどこでもその話だな。
「そ、そうか。まぁそういう訳で確認だけさせてもらった。すまぬの」
まぁそういった噂があるから聞きたい気持ちは分からなくもないが。
「では、本題だが、この町の領主に会ってもらえぬだろうか?」
「えっ? 嫌だけど」
何でわざわざ領主に会わなければいけないんだ。領主とか……貴族に碌な奴はいないだろ。
今回だって、どうせ商品に興味を持ったんだろ? 商品を寄越すのだー! とか言ってくるに決まってる。
「えっ? いや、しかしその……」
俺があっさり断ると思わなかったのか、ギルマスはかなり動揺している。
「そもそも何でいきなり領主に会うって話になるんだ?」
「それは今回のエリクサーの件がバレたのと、販売した商品に領主が興味を持ったからだが……」
「興味があったなら、三日間の間に買いに来ればよかったのに。言っておくが領主だからって、商品は渡さないし、販売もしないぞ。ってか話が聞きたかったら自分から来いって言っとけ」
「いや、いくら何でもそれは……だって領主だぞ?」
「領主って城主より偉いのか?」
「うっそれは……。というかお主さっき自分で偉くないと言っておったではないか」
「確かに俺自身は偉くないけど、だからと言って領主に命令される謂れはない」
「そうは言うが……領主はお主の事は知らんのだし」
ああ、この二人は俺の正体は話してないのか。
「じゃあ俺は忙しくて捕まらなかったことにしてくれ。あと商品とエリクサーは完売。再入荷したら本店で不定期に販売するから買いに来いって言っといてくれ」
そういって立ち上がる。
「ど、どこに行くんじゃ!?」
「もう帰るよ。これ以上話しても無意味そうだし。何か有益な話があったらミハエルさんにでも言ってくれ」
この二人は今回、エリクサーの詳細と俺の正体、それから領主への仲介が要件だったはず。
俺は部屋の扉を開け……ようとして一つだけ気になったことを聞くことにした。
「そういえば領主って過激派? 穏健派?」
「穏健派じゃな。過激派が以前この町で物資を仕入れようとしたのを阻止しよった」
へぇそれは良いこと聞いたな。孤児院に支援もしているみたいだし、興味は湧いてきた。
「俺は多分しばらく冒険者の仕事が忙しいから相手は出来ないと思うけど、さっき言ったように商品のこと以外に用事があれば、また本店に呼びに来てくれ」
そういって今度こそ商業ギルドを後にした。




