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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第102話 初日を迎えよう

 いよいよ今日から三日間、リニューアルイベントが始まる。


「シオン様! 既に百名は並んでおります!」


「はぁ!? ちょっと待て! まだ開店には二時間もあるぞ」


 並ぶとしても、口コミで広がる昼からか、二日目からだと思ってたのに、何で初日の朝でそんなに並んでるんだよ!


「それが……殆ど冒険者か他の商会の者でして……」


「他の商会は敵情視察だとして、何で冒険者がこんな朝から並んでるんだよ」


「どうやら冒険者はトランプが狙いのようでして」


「はぁ? 何で……って、あの時のブラックジャックか」


 あの時のリンの暇潰しに、これ程反響があるとは……完全に予想外だ。


「ミハエルさん、急いで準備しましょう。出来るだけ早く開店しないと、このあと更に並びますよ!」


 人の心理として、並んでいるのを見たら、知らない人でも興味を持つ。そしてさらに並ぶ。


「そうですね。では皆さんの準備が出来次第開店しましょう。皆さん! 今日から三日間よろしくお願いします!」


 ミハエルさんの一言で、メイド達も準備を開始する。


 第二メイド隊はシルキー、リャナンシー合わせて八人いるが、今日は全員来ている。シルキーが二人入口でお品書きとペンの配布。それから最後尾と途中の列の整理。リャナンシーの三人は支店のお手伝いをする。また、セラ達【黄金の旋風】とエイミーが、交代で警備と列の整理を手伝ってくれている。


 店内は補給隊が各ブースでの商品説明。調味料の試食コーナーでは料理隊が来てくれた。


 レジと外のくじ引きはバルデス商会の従業員。

 ミサキとレンは奥で売れた商品を袋に入れて手渡す、所謂サッカーというやつだ。

 アイラは城と店の連絡係兼減ってきた在庫の補充。力仕事になるが、人慣れしてないアイラには、流石に表の仕事はさせられない。


 俺とラミリア、リンの三人は外のくじ引き兼、見回り。何かあればすぐに駆け付ける役目だ。


「よーし! 準備で来たな。開店するぞ!!」



 ――――


「本日から三日間限定! 全商品半額以下の大セール!! どの商品も千Gで購入できます!!」

「本店での買物希望のお客様は、二列に並んでお待ちくださーい!」

「最後尾はこちらです! 只今二時間待ちとなっております」

「先着特典のスリーブはここまでとなっております! これ以降のお客様には申し訳ございませんが、スリーブはお渡しできません」

「本日はお一人様一種類に付き最大二点までとなっております! それ以上の購入は出来ませんのでご了承ください」


 開店と同時に第二メイドの声が響き渡る。

 混乱が予想されたが、客も今のところ文句も言わずに素直に並んでいる。


 店内の方は……予想通り、冒険者は娯楽品コーナーに集中してるな。商人の方は食器が気になるようだ。

 しかし、試食コーナーの匂いが店内に立ち込めると、全員が試食コーナーへと集中した。


「うまっ! 何だこりゃ!」

「俺はこの辛口のタレがいいな」

「いやいやこの甘口のタレも中々美味いぞ」

「それもいいけど、このあっさりレモンソースってのも中々」


 焼肉のタレは好評のようだ。

 この調子なら、他の調味料も問題なく売れるだろう。


「このマヨネーズですが、ありふれた材料で簡単に作ることが出来ます。ですが、その材料を生で使うと寄生虫がいて、お腹を壊してしまいます。ここの商品は全て特別な処理を施して寄生虫を省いております。なので、決して手作りで作らないようにお願いします」


 マヨネーズに関しては反応が鈍い。まぁこんなこと言われたら、安全と言われても二の足を踏むだろう。しかし、これだけは必ず言わないとダメだ。他の商品と違いマヨネーズが一番真似されやすい。

 特に料理人は真似する可能性がある。商人だって、解析して自己流のマヨネーズを作るだろう。

 商品自体に但し書きをしているが、説明書って読まない人って多いよね?

 だから必ず徹底しての言葉で説明することにしている。

 まぁ試食で食べてみればその魅力にイチコロだろう。


 そして、レジでは……。


「はい、全商品二個ですね。お買い上げありがとうございます」

「調味料が二個、それ以外が一個ですね。ありがとうございます」

「こちらが先着特典のスリーブです。柄はランダムになっております」

「食器は割れ物ですから気を付けてお持ち帰りください」

「チラシはお持ちですか? でしたら、店を出てすぐ隣のテントでくじ引きが出来ますよ。空くじなしなので是非とも参加していってください」


 今のところ、レジもクレームもなく順調に捌けているようだ。

 しかし、まだ始まったばかり、何があるか分からないから注意が必要だろう。


「はい、くじ一回ですね。……はい、白玉は商品二割引の券ですね。次回購入する際、本店の商品一個どれでも割引で販売します」


 買い物を終えてくじ引き並ぶ人も出てきた。


「おい、何が当たった? 俺は割引券だった」

「俺はビールって言う酒が当たった。冷やして飲んだら美味しいらしい。しかし、どうやって冷やせばいいんだ?」


 ああ、そうか。冷蔵庫がないから冷やせないのか。これは盲点だったな。


「それ、今が一番冷えてるんじゃね? 試しに飲んでみろよ」

「朝から酒か? 今から狩りに行くんだぞ?」

「それくらい飲んでもどうってことないだろ。それよりも俺にも少し飲ませろよ」

「まぁ待て、えっと回して開けるって言ってたな。よっと開いたぞ」


 ビールは瓶に容れているが、栓抜きがない世界。回して開けるキャップ式になっている。さぁ飲んで驚くがいい。


「…………ぷはぁ。なんじゃこらーー!!」

「どうした? 不味いのか? そりゃあオマケ何だから、多少不味くても……」

「逆だ。こんな美味い酒飲んだことない」

「お、おい。俺にも少し……」


 もう一人の男が瓶ビールを受けとり、ゴクゴクと飲む。


「おい! 飲みすぎだぞ! 返せ……コイツ、一瞬で半分飲みやがった」

「おい! これスゲー美味いな! この喉を伝わっていく感覚が何とも言えん」

「ああ、それに冷えてるのもいいな。確かにこれは冷えてるからこそ、美味しいんだろう」

「なぁこれ買えないのかな?」

「景品ってことは売り物じゃないんだろ」

「今の感覚をもう二度と味わえないとか……我慢できん。俺はもう一度並んで、次こそビールを当てる!!」

「お前、まだチラシを持ってるのか? チラシがないと、くじは出来んぞ」

「持ってない。うおーー!! 俺はもうビールを飲むことは出来ないのか!?」

「ほら、あまり騒ぐと迷惑になるぞ。諦めて狩りに行くぞ。さっき買ったタレも使ってみたいしな」

「ああ。……その肉とタレでビールが飲めたら、きっと最高なんだろうな」

「無い物ねだりをしても仕方ないだろ。ほらさっさと行くぞ!」


 ……なんか悪いことをした気になった。

 機会があれば、ビールも販売したいな。



 ――――


「なんか、本当に大変なことになってるじゃない」


 声がした方を振り向くと、クリスが立っていた。


「ああ、クリスか。お陰さまで大繁盛だ。クリスは? 買いに来たのか?」


「冗談。並ぶだけでも疲れそうじゃない。それに仕事の休憩中にちょっと寄っただけよ。朝からギルド内でもここの話題でもちきりだったからね。冒険者が早速買ったトランプで遊んでたわ」


 ……働けよ冒険者。


「朝の並びは半分が冒険者だったからな。買った調味料のために狩りに出るって言ってる奴等もいたぞ」


「聞いたわ。余程美味しいみたいね。今度分けてね」


「えっ? 買えよ」


 何、さも当然の様に分けてもらおうとしてるんだコイツは?


「何よ。少し位いいじゃない。いい? 私はね。アンタのお陰で結構大変なんだからね。それに何よ。昨日だって、アンタの姉って人がいきなり来たわよ。来るなら来るって、前もって言ってくれないと!」


 姉さんの事だから、多分また無茶したんだろうな。……確かにクリスには世話になったし、これからも世話になるから……投資と考えればいいか。


「あー分かった分かった。三日間が終わったら打ち上げやるから、クリスも来い。そこで欲しいものをやるから」


「手伝ってもいない私が行ったら、完全にアウェーじゃない?」


「そんなの気にする人なんかいないさ。何ならリリーも連れてくればいい。他の人は困るが、ミサキの友達なら問題ないさ」


「それなんだけど、リリーに正体は?」


「まぁ話したいなら話してもいいぞ。但し外部に絶対に洩らさないと誓えるならだが」


 俺がそういうとクリスは頭を抱えた。


「……ちょっと考えとく。でも正直、私一人だと、対応が厳しいのよね」


 いくら担当だと言っても、俺達がクリスとしか対応しないのは問題があるようだ。


「まぁ本当に無理なら……『シオンさん! 油売ってないで手伝ってください!』……相談には乗るから。じゃあ悪いが、呼ばれたんで行ってくる」


 ラミリアに呼ばれたんで、クリスに断って仕事に戻ることにした。



 ――――


「冒険者や商人が減って、一般人が増えてきたな」


 昼過ぎになると、最初の並びは消化され、新たに並び始めた客層は一般の人が増えていた。


「今からが本番なのかもしれないな。この客をどこまで掴めるかが勝負になるだろう」


「なら、既に失敗かもしれませんよ? 見てください。長蛇の列に、飽きて帰る人や、並ぼうとして諦める人が出てきてますよ」


 確かにこの並びに嫌気がさしている客も見受けられる。興味はあるが、何も知らない商品の為に何時間も待ちたくはないだろう。


「うーん、何か対策が必要かもな」


「とりあえず、長時間待っている人に、お茶を配って様子をみてはどうでしょう?」


 確かに。今は初夏。真夏ほど暑くはないが、それでも晴れている中待つのはしんどいだろう。


「そうだな。熱中症とか心配だしな。シャルティエ!!」


 俺は列を整理していたシャルティエを呼び出した。


「何でしょうシオン様?」


「並んでいる客の体調が気になる。誰でもいいから、紙コップと冷たい麦茶を配るように言ってくれないか? あと、紙コップを捨てるゴミ箱を忘れないように」


 紙コップをそこら中に棄てられたら、近隣迷惑になる。


「畏まりました。それと、出来るだけ日陰の方がよいと思いますので、列を移動させてもよろしいでしょうか?」


「ああ、確かにその通りだ。だとすると、建物の影になる裏側へ……一旦馬車と車をどかして、あそこを広場にするか」


 厩舎ごと転移させれば問題ないだろう。


「そうだ! リン、厩舎を転移させるので、そこに出来た空間で芸をしろ」


 とりあえず客を飽きさせなければいいんだ。リンならこの無茶振りも何とかしてくれるはずだ。


「はぁ!? 何を言ってるんスか? 芸って……シオン様は私を何だと思ってるんスかねぇ?」


「いいじゃないか。並んでいる間の暇潰しだ。踊りでも漫才でも歌でも何でもいいぞ。別に完璧じゃなくてもいいんだ。並んでいる時間潰しが出来ればいいんだから」


 寧ろ完璧で列が止まる方が問題だ。程よく時間を忘れてくれる程度でいいんだ、

 それにリンが踊れるのは前回の戦いで知っている。


「仕方ないっス。その代わり、ホリンさんとスーラさんを借りてもいいっスか?」


「別に構わんが……何するんだ?」


 リンは俺の問いに答えず、不敵に笑った。



 ――――


 シャルティエの迅速な対応により、並んでいる客に麦茶が提供された。この日差しの中で、冷たい麦茶は染み渡るだろう。


「なぁ? 何でここにティティがいるんだ?」


 そして、何故か目の前にメイド通信隊に所属しているティティがいた。


「リンちゃんのお手伝いだよ! リンちゃんにお願いって頼まれたんだぁ!」


 確かにティティはノリがいいし、助手としては最高かもしれん。俺も以前メイド達とゲーム大会をしたときは助手として助けてもらった。


「そっか。頑張れよ」


「うん、楽しんでくるね!」


 ティティはそう言って、両手を広げキーンって言いながらリンの方へ走っていった。……相変わらず元気なやつだな。


 そして、肝心のリンはというと……チャイナドレス風の衣装を着ていた。スリットがパックリと空いており、体のラインがハッキリしていて、かなりセクシーだ。……仕方がないとか言ってた癖に、やる気に道溢れているように見えるのは気のせいだろうか?



 ――――


『はーい! 並んでいるお客様ちゅうもーく! 並んでいる間の暇潰し! 私ティティと、踊り子リンが、皆様の時間を少し貰っちゃうよ! 少しだけ付き合ってね』


 ティティの言葉と同時に音楽が鳴り響く。もちろん近隣迷惑にならない程度に、音量は控えめだ。


 そして始まるリンのダンス。見るものを惹き付けるいい踊りだ。

 もしかして、客が動かなくなるんじゃないかと懸念したが、ダンス自体は約五分で終わる。

 どうやら列を考慮して、短いスパンで色んな芸を披露していくようだ。

 芸が終わる度に進んでいく列。芸も踊りだけでない。リンは踊ったり、目隠しをして、針を遠くのリンゴに投げ刺す。

 他にもホリンやスーラを火の輪に潜らせ……って何やってんの!? どうやらスーラもホリンも納得しているみたいだからいいけど。

 ホリンとリンの射的に、分裂したスーラのお手玉に玉乗り。

 この一角だけまるでサーカスのようだった。


 客も並んでいるのを忘れたかの様に魅入る。そこをティティが持ち前のMC力を活かして、列の進行を妨げるようなことはしない。


 どうやらガッチリと客の心を掴むことに成功したみたいだ。

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