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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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閑話 リニューアル前日(姉の登録)

今回は閑話。前回の話から次の日、リニューアル前日のサクラ視点です。

「へぇ。これがこの世界の町なのね!」


 考えたら私はスミレのいるエルフの村以外に、シクトリーナから出たことがなかったわ。

 それにしても、ここもシクトリーナ城下町に負けず劣らず賑わってる気がするわね。


「元々国境から一番近い町やから活気はあるんやけど、今日はまた一段と凄いと思うで。まぁ原因はこの店やろうけど。チラシ配りが大成功したみたいやな」


 ミサキの言う通り、町行く人々はこの店をチラチラと見ている気がする。これはシオンの言ったように明日からは忙しくなりそうね。


「で、サクラ姉さんはどこ行くんです?」


「ラミリアと冒険者の登録をしようと思ってたんだけど……ラミリア知らない?」


「ラミやんなら、さっきまで一緒にいたから、その辺にいると思うで」


 ラミやん……なかなか素敵な響きね。私が使ったら……止めときましょう。私のキャラじゃないわ。


 私はミサキに礼を言ってラミリアを探した。



 ――――


「ふんふふーん」


 私は鼻唄混じりに町中を探索する。やっぱり初めての町って、何があるか分からないから歩いてるだけで楽しいわね。あっ、屋台がある。


「おじさーん、なに売ってるの?」


「おう! いらっしゃい。ウチは美味しい串焼きを売ってるぞ。どうだい? 一本買っていくかい?」


 確かに美味しそうな匂いがするわね。見た感じ、焼き鳥みたいだけど何の肉かしら?


「おじさん、このお肉は何の肉なの?」


「これかい? ホーンラビットの肉だ」


「ホーンラビット? 食べたことないわね。一本頂戴」


 私もルーナからお小遣いは貰ってるから、これくらいなら買えるわ。


「あいよ! ほれ、熱いから気をつけて食べな!」


 私はおじさんにお金を払いながらホーンラビットの串焼きを受け取る。

 早速一口……うわっ、噛んだ瞬間に肉汁がじゅわっと口の中に広がる。


「おじさん。これ美味しいね」


「だろう?」


 私の言葉に、おじさんは笑顔で答える。


「でも、これ塩だけじゃなく、タレもあったらもっと美味しいかもしれないよ。それに、これも七味唐辛子があればまた違った感じでいいかもね」


「何だいそりゃ?」


 さっきまで笑顔だったのに、途端に怪訝な表情になる。もっと美味しいはおじさんに失礼だったかな?


「そのままの意味よ。これも十分美味しいけど、味付けがこれだけだと二本目以降は飽きちゃうでしょ? 別の味付けもあった方が、もっと売れると思うわよ。七味は売られるか分からないけど、ソースは明日、バルデス商会の本店で何種類か販売されるから使ってみたら?」


 せっかくだから私も明日のリニューアルを宣伝しておいた。焼き鳥のタレとは少し違うけど、焼肉のタレは販売するって言ってたから、似たようなものでしょ。違うくても、そこから先は自分で味を作らないとね。



 ――――


「あっ! いた、おーい! ラミリアーー!!」


「へっ? え……サクラさん!? どうしてここに?」


 私がラミリアに声を掛けると、ラミリアは凄く驚いてくれた。ふふーん、私がここに思わなかったでしょ。


「来ちゃった」


「来ちゃったって……えぇ? 開店は明日ですよ?」


 ラミリアは、私が明日来ると思ってたみたい。


「だってシオンが明日は忙しいって言うから、遊ぶなら今日かな? って」


 シオンも今日は城にいるから、私がいなくてもいいしね。


「はぁ。それで町を歩いてたんですか?」


「うん。ラミリアを探して、フラフラとしてたの」


「私を探してたんですか? 何か用事が?」


「うん、一緒に冒険者になろうと思って?」


「はぁっ!?」


「だって、ラミリアも今後シオンと旅を続けるんでしょ? なら、冒険者になってた方が色々と便利じゃない?」


「それはそうですが……」


「じゃあいいじゃない! 行きましょ!」


「ちょっ! サクラさん、分かりましたから。服! 服を持ってます!? 伸びるから、引っ張らないでーー!!」


 私はラミリアを引っ張りながら冒険者ギルドへと向かった。



 ――――


「全く……。ギルドの場所も知らないのに、何処に行く気だったんですか!」


 ラミリアは私が引っ張ったせいで、乱れた衣服を直しながら文句を言う。


「いいじゃない。こうして辿り着いたんだし」


「私が案内したんですけどね!」


「あーはいはい。ごめんなさい。さっ、じゃあ入りましょう」


「ちょっ! だから引っ張らないで……あーもう! 全然反省してないじゃないですか!!」


 私はラミリアを引き摺ってギルドの中へと入った。


 ギルド内は……へぇ。こんな風になってるんだ。

 あっ! 食堂の奥にセラ達がいる。リーダーのセラと幼馴染みのイオンズ、猫の獸人リャンファンの三人は知らない冒険者の人達と話している。

 声かけた方がいいかな? いや、邪魔しない方がいいよね。

 まずは私も冒険者になろっと。



 ――――


「いらっしゃいませ。このギルドへは初めてですよね? ご依頼でしょうか?」


 受付の女性が笑顔で応対してくれる。私達を見て初めてって言ってくれたけど……この人は全員の顔を覚えているのかしら。だとしたら、かなりヤリ手だわ。

 それにしても……受付は三人いるみたいだけど、どの子も可愛いわね。やっぱり受付は美人って決まってるのかしら?


「私とこの子の冒険者登録をしたいんだけど、えーと、クリス? だったかな? もしかしたらちょっと違うかも知れないけど、受付に似たような感じの名前の人がいない?」


「クリスは私ですが……何かご用でしょうか?」


 どうやら目の前の子がクリスだったみたい。でも、突然知らない人から名前が出たことで不審がらせちゃったみたい。


「貴女がクリスなの? じゃあ貴女に私達の冒険者登録をお願いしたいんだけど」


「何故私なのでしょうか? 別に登録ならどの受付でも可能ですが」


「昨日、シオンが来たでしょ? あの子が冒険者登録するならクリスにお願いするといいよって」


 私がシオンの名前を出した瞬間に、クリスの顔が強張った。


「あの……アナタはあの人とどんな関係で?」


「ん? 姉だけど?」


「あっあね? お、お姉様ってことですか?」


「ええ、そうだけど」


「ねぇ、ゴメン。ちょっと席はずすね。……お二人とも。冒険者登録を致しますので、奥の部屋へどうぞ」


 クリスは隣の受付に断りを入れると、私達を奥の部屋へと案内をした。



 ―――――


「ちょっと何なのよ!! 貴女達は私を困らせて何が楽しいのよーー!!」


 クリスは個室に入るや否や大声で叫んだ。


「えっ何々? どうしたのよ一体」


「いいから! あの男はどこ?」


「あの男?」


「あんたの弟よ! ったく、変なこと押し付けて……。一回文句言ってやらないと」


 ちょっとぉシオン。一体この人に何したのよ? 本当にこの人が協力者なの? なんか、さっきと性格が変わってるんですけど?


「シオンは明日に備えて、一旦城へと帰ったけど?」


「はぁ? 何でよ? 城ってシクトリーナでしょ? どうやって帰るのよ」


「いや、転移で一瞬だけど」


「……そういえば元々転移の魔王の城だったわね。ったく、どんだけ自由なのよ」


「あ、あの……」


「ん? ああ、冒険者登録ね。やっておくわ。二人ともCランク冒険者でいい?」


 随分と簡単に言うけど……あれ?


「えっ? シオンからは試験があるって聞いてるけど」


「そんなの、やったことにすればいいじゃない!」


 ねぇ。この人、ギルドの受付して本当にいいの?


「昨日いたアイラが一番弱いって自分で言ってたから、どうせお二人はアイラよりも強いんでしょ!」


 アイラったらそんなこと言ってたの? あの子はまだ修行し始めたばかりだから気にしなくてもいいのに。


「確かに私達はアイラより強いけど……ねぇ」


「言っておきますが、シクトリーナの人達と一緒にしないでください。私はサクラさんやシオンさんのように無駄に強くはないですよ」


「無駄って何よ無駄って!」


「あら、アンタはシオン達の仲間じゃないの?」


「仲間と言えば仲間かもしれません。ですが、シクトリーナの人間ではありません」


「そうなの? じゃあ念のため身分証カードを見せて頂戴。持ってるでしょ?」


 クリスに言われてラミリアはカードを提示する。


「あら? ラミリアって持ってるの? この間まで持ってなかったじゃない」


「まぁ必要なかったですからね。ですが、今後は必要になるかもしれないと、エキドナ様に言われましたから作りました。ほらシンフォニアには作る施設がありますから」


 そういえば冒険者ギルドとか残ってたから、人はいなくても道具はあるんだ。


「へぇじゃあ出身地はどうなってるの?」


 赤の国の首都の名前って何だったかしら? 私の疑問にはラミリアではなくて、クリスが答えてくれた。


「シンフォニア……エキドナ様……アナタ一体」


 どうやらカードの出身地はシンフォニアになってるみたい。ちゃんと変わるのね。


「私は【重奏姫】エキドナ様の親衛隊隊長をしておりますラミリアと申します」


「……何で親衛隊の隊長がこんなとこにいるのよーーー!!!」


 クリスの絶叫が部屋中に響き渡った。……慣れてくると、この子面白いキャラよね。



 ―――――


「うふふ。これで私も冒険者なのね」


 あの後、部屋で簡単に説明を受けた後は無事に冒険者にしてもらうことが出来た。職業は【拳闘士】、シオンと同じ【魔物使い(テイマー)】も考えたけど、私は日頃あの子達(熱子と岩子)を連れまわさないし、姉弟揃って同じ職業は面白くないしね。

 ラミリアは【剣士】にしたみたい。普通過ぎて面白くないわ。


 試験に関しては、昨日シオン達の試験を受けた人の名前を借りて合格することにしたらしい。

 誰だか知らないけどありがとう! ……でも本当に良かったのかなぁ?


「いいですか? 絶対に悪さしないでくださいね?」


 受付に戻ったクリスが念を推す。全く私を何だと思ってるのかしら。


「いやね。するわけないじゃない。でも……せっかく冒険者になったんだし、何か依頼したいわね……あっそうだ!」


 私はまだ奥にいたセラ達に声をかける。


「セーラー! ちょっとこっち来てーー!!」


「!? 姉御!! なんでここに?」


 セラ達は突然大声で呼ばれてキョロキョロと見渡し……私を見つけると慌てて受付までやってきた。


「冒険者になりに来たのよ。ほらこれ」


 私はドヤってカードを見せる。


「本当だ……。しかもCって……」


「ねっ? だから今から依頼に行きましょう!」


「はぁ!? 今から依頼って俺達とですか?」


「何よ? 嫌だって言うの? それとも今冒険者になったばかりの二人で依頼に行けって言うの?」


「ちょっとサクラさん!? 私は行く気ないですよ?」


「えーなんでよ? ノリが悪いわね」


「何でって……寧ろ今から行こうってのがおかしいんですからね?」


「姉御……俺も今日は止めておいた方がいいと思いますよ」


「えー! セラまでそんなこと言うの? もういいわよ! 一人で行くから」


 ラミリアもセラ達も行こうともしない。いいもんいいもん。一人だって行ってやるんだから。


「アンタ……あの【黄金の旋風】と知り合いなの?」


 私が依頼を受けようと依頼書が貼ってある場所に行こうとすると、その前にクリスが驚いて話しかけた。


「うん、だってセラ達ウチの住人だし。アイツ等が今回ここに来たのも、明日の手伝いの為よ」


「くそ……奴等は普通の冒険者だと思ったのに……」


 ボソッと私以外に聞こえないようにクリスは呟く。


「貴方達【黄金の旋風】って、シクトリーナの関係者だったのね?」


「えっ? ……えーと」


 あっ突然の事でセラがどうしたらいいのか悩んでる。


「大丈夫。クリスだけは協力者だから」


 私がそういうと、セラが明らかにホッとした。


「そうですね。ここにいる姉御……サクラさんは俺達の師匠的立場の人です」


「Aランク冒険者の師匠って、やっぱり意味が分からないじゃない」


「ちょっと!! セラさん達がいるから私はいいですよね。帰りますよ!」


 こっちで話していたらラミリアが帰ろうとする。


「ちょっとー。ここまで来たら、皆で一緒に依頼をしましょうよ」


「ちょっとサクラさん!? だからそれ止めてください!」


 またもや服を引っ張る私に、ラミリアがうんざりしている。いや、決してわざと引っ張ってるわけじゃないのよ。ラミリアが体形が分からないようにって、大き目の服を着ているのが悪いんだからね! 全く巨乳の癖に……。


「はぁ。姉御、ひとまず初めてなので簡単な討伐依頼を受けますよ。……あっこれなんかいいんじゃないですか? ホーンラビット討伐」


「ホーンラビット!? あの美味しかったやつ! いいわね、それ行きましょう!」


 私はさっき食べたホーンラビットの味を思い出す。うん、今度はタレをつけて食べてみたいな。


「あの……姉御。討伐と素材納品だから俺達は食べれないですからね……って聞いてます?」


 聞いてるわよ失礼ね。でも、今度アレーナに焼いてもらおうかしら。


「本当、姉弟揃って無茶苦茶ね。……アナタたちも大変そうね」


「分かります? ……クリスさんもその内慣れますよ」


「慣れたくないんだけど……でも嫌でも慣れなきゃいけなさそうなのよね。はぁ」


「ま、退屈しなくて済むことは保証しますよ」


 何やらクリスとセラが私をダシに意気投合している気がする。ちょっと面白くない。


「むー早く行くよ!」


「あーもうだーかーらー!」

「ちょっと姉御離して!!」


 私はセラとラミリアを引っ張って狩りに行った。

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