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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第99話 試験を受けよう

 俺達が受付へと戻ると酒場の方が妙に騒がしい。


「あーーまた負けた!!」 

「よっしゃ勝ったぞ」

「あっ一と、絵札ってことはこれ21よね? ってことは、これ倍返し? やったー!!」


「ふっふっふっ。どうっスか? まだ続けるっスか?」


「……どうやらこの騒ぎは、お仲間が原因のようね」


 何故か俺がクリスに睨まれた。俺は黙って後ろからリンへと近づく。


「さ、他に参加者はいないっスか? いないなら次のゲーぶしっ」


 俺は後ろからリンを思いっきり叩いた。


「リン? 何をしてるのかな?」


「ちょっ、シオン様。痛いじゃないっスか」


「痛いじゃない! この騒ぎは何だって言ってるんだ」


「いや、ちょっとトランプの宣伝でもしようかと……シオン様目が怖いっスよ」


「トランプの宣伝はまあいい。だけど……賭けをするんじゃねーー!! ってか、やってたのブラックジャックだろ? 今回の販売で紹介しないゲームじゃねーか! 遊ぶなら、せめて紹介するゲームで健全に遊べよ!!」


 ったく。今回は健全に売る予定なんだ。それをいきなり不健全にしてどうする。


「うう、申し訳ないっス。っことで怒られたので、今回はここで終了っス」


「はぁ!? それじゃあ負けっぱなしじゃないか!」

「俺は結局損はしてないからまぁいいか」

「ふふふ、儲かっちゃった」


「もしまだやりたいなら、明後日にバルデス商会のリニューアルで、このトランプを販売するから、買うといいっス。この遊び以外にも、色々と遊べて楽しいっス。あと、賭けない方がワイワイ楽しめて面白いっスよ」


 そう言いながらリンはテーブルの上を片付ける。賭けない方が……って言うくらいなら、最初から賭けさせるなよ。ってか、これは……トランプの説明書にブラックジャックの追加はした方がいいな。


「それじゃあマイクとゲイル。ちょうどいいから、今から二人でこの人達のCランク昇格戦の相手をしてあげて」


 たった今までリンが相手をしていた男に声をかける。もう一人は女性だから外したのだろうけど、彼らはCランク冒険者なのか?


「俺達か? 残念だが、今の勢いで酒が入っちまってる。すまないが他を当たってくれ」


 確かにテーブルの上には、明らかに酒が入っていたであろう空のジョッキがある。流石に飲んでいるなら試合できないだろう。ってか、飲みながら賭けって……すでにここは典型的な駄目空間と化してたのか。


「ねぇ、それじゃあ僕がやってあげるよ」


 そこに声を掛けてきたのは、トランプ勝負を後ろから見ていた男。年は二十代後半か? 見た目的にはあまりゴツくないので、目の前にいるマイクやゲイルよりも頼りないイメージを受ける。


「えっ? リューが? でも貴方じゃ……」

「良いじゃん別に。あのクリスがCランクに推す人物なんだろ? ねっ、君は僕が相手でもいいよね?」


 クリスの言葉を遮って、リューと呼ばれた男が俺に同意を求めた。


「俺は冒険者になれれば、相手は誰でもいいんだけど」


「よっし、決まりだ。じゃあ早速訓練場へ行こう」


 そう言って、リューは俺の肩を組んで歩き出す。ずいぶんと馴れ馴れしいな。ってか、もし俺じゃなく、アイラの肩を組んだら……この男は命拾いしたかもな。

 ちなみにスーラはリューの手が肩に当たる直前に、素早く頭に移動した。……うん。触られたくなかったんだな。


「あーーもう! どうなっても知らないからね」


 クリスは呆れたような……いや諦めたような声を出しながら付いて来た。


 ――――


「クリスちゃん。何でギャラリーがいないんだい?」


「馬鹿、マイクやゲイルならともかく、リューが相手なら見せられるわけないじゃない! 今後の冒険者人生に関わるわよ」


「別に僕に負けたところで、新人君の冒険者人生に大きな差はないさ。ねぇ?」


「いや、ねぇと言われても、俺はアンタのことを何も知らないんだが?」


「えっ? そうなのかい? 僕もそれなりに有名だったつもりだったけど、まだまだだね。僕の名前はリュート、皆、僕のことをリューって呼んでるけどね。こう見えてもSランクの冒険者なんだよ」


「S!? そうなの?」


 俺は思わずクリスに確認する。


「ええ、確かに彼は、この国に五人しかいないSランク冒険者。【神速のリュー】よ」


「へーじゃあ強いんだ。楽しみだな」


 Sランクの冒険者なら結構強いはずだ。確かSの中には魔力値が一万を超える者もいるって聞いたこともある。俺に比べると大したことはないが、人間としては間違いなく最強の方だろう。


「シオン……私が先に行く」


 Sと聞いてちょっとやる気が上がってたが、俺よりも早くアイラが一歩前に出る。どうやらアイラも興味があるようだ。確かに実戦経験の殆どないアイラにはちょうどいい相手かもしれない。


「分かった。ただし、魔法は禁止だ。それから致命傷もだ。いいな」


「……矢は?」


 アイラの武器は弓だ。矢を魔法で出し遠距離からの攻撃を主とする。そのため、通常の魔法は炎の壁など敵の攻撃から身を守る魔法が多い。……筈なのだが、前回は、何故かその壁が動いて攻撃していた。

 また、右手には簡易クロスボウも用意しており、近距離でも咄嗟に矢を放つことが出来る。こちらは連射式になっており、矢を素早く出せば、あまり時間が掛からず発射できる。ただし威力はそこまで強くはない。


「なら武器だけは有りってことで。でも付与は駄目だぞ」


「むぅ難しい」


 武器の召喚はこの世界では魔法の基本のようなものだが、その召喚された武器は自分の属性を引き継ぐ。

 俺だと、必ず何かしらの毒の効果を持つ武器しか出せない。

 まぁそれにも抜け道があって、俺なら毒じゃなくて、毒消しの効果や魔法無効の効果を付与させれば人体に影響はない。


 アイラの場合は、赤の属性だから炎が得意だ。だから矢も火の矢を中心とした矢が多い。

 その為、付与なしの普通の矢の召喚と言われても困るのだろう。

 仕方ない少しだけ助言してやるか。


「アイラ、ルーナを思い出してみろ。ルーナは銀製品を自由に出せるよな。そして銀製品なら付与はしてもしなくても関係ない。むしろどんな付与もし放題だ」


 考えたら、あれも十分チートだよな。銀製品を自由に召喚して、その銀製品には銀に関係なくどんな付与も行うことが出来るんだから。


「でも赤製品とかない」


「別に赤い物は色々あるだろ。例えば銀と同じ鉱石にも。まぁ分からなかったら今回は火傷しない程度の熱を付与すればいいよ」


 アイラは熱の調整は出来るはずだから、最悪それでどうにかしてほしい。


「ん、分かった」


 おっ、どうやら何か思い付いたようだ。


「おいおい。僕相手に魔法禁止だなんて随分と余裕だね。仮にもSランクだよ? 舐めてもらっちゃあ困るんだけどね。君も気にせず魔法も使っていいんだよ?」


「……そう言ってるけど?」


「気にしないでいい」


 アイラは素直すぎるのが欠点だな。


「ふぅやれやれ。仕方ないね。実力の差を見せた方が早そうだ」


 リュートの言葉はこっちが言いたいくらいだった。まぁすぐに目が覚めるだろう。


 さて俺はSランクの冒険者の実力がどの程度か見学しますかね。



 ――――


「流石Sランクの冒険者だな。ちゃんとアイラの動きに付いていけてる」


「いや、こちらとしては、Sランクをあんな子ども扱いするあの子に驚きなんですけど?」


 俺はクリスと一緒にアイラとリュートの戦いを観戦している。


 状況は勿論、アイラの方が圧倒的に優勢だ。

 リュートは流石に神速の二つ名が付いているだけあって、素早い動きでアイラの弓を避けてる。だけどそこから前には進めない。

 アイラの矢を放つスピードが桁違いに早いのだ。一回の弓で何本が同時に放ってるんだ? なんとか避けて、次の弓を引くタイムラグを狙おうとしても、その間に今度はクロスボウが飛んでくる。

 結果近付くことが出来ない。


 ちなみにアイラの矢を確認したが、赤い矢で矢尻がルビーで出来ていた。もしこれが召喚じゃなかったら随分と豪華な矢だなぁ。

 アイラは赤い鉱石として、ルビーをイメージしたようだ。結果、鉄よりも硬度がある強力な矢が出来上がってしまった。これがルーナのように、自由に付与が出来るようだったら……かなり強力じゃね? ってか、必要ないと思ってたけど、俺も紫の鉱石を調べて召喚できるようになろうかな? 紫はアメジストだっけ?


「くそっこんなはずじゃ……」


 リュートに焦りが見える。本当ならすぐに決着がつくと思ってたんだろうな。


 ……あれだ。今のリュートはルーナと模擬戦していた時の俺に似ている。飛んでくるナイフを避けることに必死だった頃の……あの時は本当にどうしようもなかったなぁ。


「うん、大体分かった」


 何が分かったんだろう? 相手の動きかな? それともルビーの矢のイメージかな?

 遊びは終わりとばかりに、アイラは矢を放つのを止めると、リュートが反応出来ない速度で詰め寄る。


「……チェックメイト」


 リュートは何も反応出来ないまま、矢を首筋に当てられる。誰が見ても分かる、完全敗北で試合終了だった。それを見てクリスがパンパンと手を叩く。


「はい、じゃあ試験は終わりね。これでアイラさんはCランクの冒険者。ね、いいでしょうリュー? ……リュー?」


 しかしリュートからの返事はない。


「…………おかしいじゃないか!? だって僕はSランクなんだよ! なのに何で負けるのさ!」


「ランクなんか関係ない。貴方が弱いだけ」


 おお、アイラ辛辣だな。


「なっ……くそっ!」


 リュートとしては言い返したいところだろうが、手も足もでなかったから言い返せない。


「おい! クリス。コイツ等一体何者なんだよ!! 明らかにおかしいだろ!?」


 さっきまでの余裕がないのか、リュートの口調が変わっている。こっちが素なのかな?


「リュー、冒険者はお互いの詮索はしないってのがお約束よ。それに、リューより強いくらいでおかしいも何もないでしょ」


 クリスの言い分にリュートは悔しそうに歯噛みする。


「大体さ、何で僕に勝つような奴がCなんだよ。BやAでいいんじゃないか!」


「何言ってるのよ。冒険者登録時のスタートはどんなに良くてもCが最高だから。それにBよりも上になると、実力だけでなく実績や人柄も必要になってくるから、どうしても……ねぇ」


 その『ねぇ』は誰に向けて言ったんだ? 俺に言われても困るんだが?


「いいじゃんそんなの。それよりも、Cに負けたとか言われたら僕が困るんだけど」


「だからギャラリーが誰もいないんじゃないの。これでリューが負けたことは誰も知らないでしょ」


「……今後の冒険者生活に関わるって、僕のことだったのかよ。くそっ!」


 ギャラリーが誰もいない理由が最初から自分の敗北前提だと気が付いたのかリュートは、怒ってその場に座り込む。


「よし、じゃあ次は俺の番だな」


 俺がそう言うと何故が皆黙る。ん? どうしたんだ?


「やる意味なんかないだろ!? どうせアンタもこの子と同じくらい強いんだろうが!!」


 リュートは座ったまま自棄になって言い放つ。


「違う。同じじゃない。だって私はまだシオンに手も足も出ないから……。私は仲間の中で一番弱い」


 そう言って、少し落ち込むアイラ。確かに戦闘員の中ではアイラが一番弱い。ただ、それはアイラがまだ訓練を初めて数ヶ月しか経ってないからだ。アイラは向上心は人一倍あるので、これからもっと強くなっていくだろう。


「「………」」


 アイラの言葉を聞いて、クリスとリュートは絶句する。


「アンタ……どんだけ強いのよ」

「や、やるわけないだろ! 敵うはずがないじゃないか!!」


「えええっ!? じゃあ俺、冒険者になれないの?」


「アンタ……だから何のためにここを閉鎖してるのよ。アンタもリューと戦ったことにすればいいでしょ。で、もちろんリューが勝ったことにするけど、問題ないわよね? 負けたけど、実力はあったから今回は二人ともCランクになる。これで良いわよね?」


「負けた僕には選択肢がないだろ。もういいよそれで」


 リュートは投げやりに返事をする。一応Sとしてのプライドもあるようだ。


「そういえば、この国にはあと四人もSランクがいるんだろ? リュートと比べてそいつらの実力はどうなんだ?」


「……職業が違うから、正確な強さは分からないけど、パーティーだったときは僕が一番下だったのは確かだ」


 こいつ……四天王の中でも最弱ってポジションのやつか!? いや、Sランクは五人だから四天王ではないか。って、驚くところはそこじゃないか。


「何? Sランク同士のパーティーだったの?」


「ああ、アンタは知らなそうね。いいわ、説明してあげる」



 ――――


 元々この国にはSランクの冒険者は一人しかいなかった。

 だけど数年前に【時の咆哮】と呼ばれるドラゴンがこの地に現れた。

 魔物のランクはEが最低。Sが最高ランク。このドラゴンは間違いなくSランク、それもSの中でも見たことがないくらい強かった。

 そのドラゴンは、後にこの国初のSSランクの魔物認定を受けた。冒険者カードのシステム状、表記はSのままだが、Sの中でも区別をつける必要がある。そう思わせるほどの事件だった。


 そのドラゴンはかなりの被害を出したが、当時のSランク冒険者とAランクの冒険者、それから国の兵士らが協力して、何とか討伐することができた。

 その時にトドメを刺したのが、当時Aランクの冒険者ケインだ。リュートはケインと同じパーティーだった。


 冒険者のランクを上げるには、そのランクと同じランクを倒す必要がある。ケインのパーティーは見事にその資格を果たしたのだ。

 その為、ケインと同じパーティーの冒険者はSランクの冒険者へと昇格することになった。


 そして元々Sランクの冒険者は、この国では唯一のSSランクの冒険者を名乗ることになった。


 ――――


「だから今、この国のSランク冒険者はケインや僕、当時同じパーティーだった五人だけなんだ」


 この国には、リュートと当時冒険者仲間だった五人がSランク、それとSSランクの冒険者が一人いる訳か。


「でも、確か魔物の討伐って、参加するだけで条件が手に入るんだろ? もっと昇格する冒険者がいてもよかったんじゃないか?」


 さっきの昇級の説明だとそうなる気がするが。


「それはちょっと違うわ。参加するだけじゃなくて、討伐した後に、冒険者カードに討伐履歴が記載された人だけなの。この時の【時の咆哮】が討伐に記されたのが、冒険者の中では今のSSとケインのパーティーだけだったのよ」


 へー。参加するだけじゃ討伐履歴には入らないのか。ってことは、相手に与えたダメージ量などが関係するのかな?


 中々興味深い話だった。ってか、そのドラゴンの話は依然聞いたことがある気がする。確かその戦いの影響で、ゲートが開いて、ミサキとレンが巻き込まれたんだったよな。

 そう考えると、ちょっと複雑な気分だ。

 つーか、SSランクの魔物ってどれだけ強いんだろう? 偽ヘンリーが表記上Sだけど、あれはSSなのかSなのか? まぁ仮にあれより強いとしたら……人間も結構強いんじゃね?


 ま、これで俺もその冒険者の仲間入りだ。まぁ活動は……クリスからの強制依頼以外はする予定はないけど。

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