第92話 店に潜入しよう
ミサキのお陰で、無事町の中へと入ることが出来た。
キャンピングカーもバルデス商会本店なら、馬車のスベースに置けるので問題ないらしい。
まぁそこに行くまでに、かなり注目を浴びているが……。
「ここか。大きいな」
辿り着いた場所は、三階建ての建物だ。付近の建物は全て一階か二階建て。頭一つ飛び出していた。
「これでも他の商店と比べると小さいんやで。見てみい」
ミサキが指さした方向は……確かに同じくらいの大きさの建物が並んでいる。
「あそこがこの町で一番盛り上がってる商店街や。ウチじゃ、あの一等地に本店を建てる財力がなく、支店を建てることしか出来ん小さい商会なんや」
支店を建てれるなら本店でも……と思わなくもないが、おそらく建築費などが、一等地じゃかなりの高値なんだろう。
シクトリーナだったら錬金術で一発でも、ここはそうじゃない。そう考えるとドルクが来てくれたのはかなり有り難かったな。
「んで、確かに店が閉まってるな。どうするんだ?」
入口はシャッターが閉まっていて、しばらく休みますの張り紙。理由は書いてない。
「とりあえず入ってみよか。裏に従業員入り口があるから、そっちに行こか」
「よし、じゃあまずは俺とミサキだけで行こう。レンはリン達を呼んで来てくれ」
町に入ったんだから、もう連れてきても大丈夫だろう。
「はう! 分かりました。呼んできたらすぐに追いかけます」
そう言ってレンは急いで城へと戻った。俺はミサキの案内で裏口へと向かう。
「裏口は魔法で鍵が掛かっとるけど、身内は外せるようになっとるんや」
「魔法?」
鍵の魔法ってことか?
「せや、商人の店ともなると、防犯は一番気をつけなアカン部分や。いつ何時泥棒にあうか分からん。そこで、店を出したら、商業ギルドが侵入者を防ぐ魔法を掛けてくれるんや。これで許可あるもんしか鍵を開けることが出来んようになる。勿論、魔法を使ったギルドの者も入れん」
商業ギルドってそんなこともしてくれるんだ。シクトリーナに商業ギルドを作るときの為にも、ここで色々と教えてもらいたいな。
「魔法って解除されたりしないのか?」
「この魔法は無理に進入したり、解除しようとすると、ギルドに連絡が行くようになっとるんや。んで、警備に連絡がいって、捕まるいう仕組みなんや。それが分かってるからやろうか、そもそも泥棒なんて滅多に現れん。解除された言う話は聞いたことがないかも。……ほい、開いたから入ろ」
ミサキは俺と話ながら鍵の解除をやってた。
「鍵が開いたら、閉まるまでは誰が通っても大丈夫や。せやから泥棒や強盗に気いつけるなら、この瞬間やな。まぁすぐに閉めればええだけやし、問題はないけどな」
店の中は明かりが付いてない。見た感じは無人だ。……が、上の階に複数の人の気配がする。
「ミサキ、上に何人か人がいるみたいだが、普段は何人この家に住んでるんだ?」
「店が閉まっとるなら、従業員はおらんやろう。住んどるのは兄やん夫婦だけのはずや。まぁウチらがおらん間に、子どもが出来た可能性はあるけど」
「気配だけだから、詳しくは分からんが、少なくとも確実に二人よりは多いな」
それに多分赤子ではない。赤子ならもっと気配は薄いはずだ。とすれば……間違いなく他人がいる。
襲い掛かってくる分には返り討ちにすればいいだけだが、もし人質になっていれば厄介だ。俺達は慎重に行動することにした。
「シオンさん。透明になったらどうやろか?」
トオルの魔法結晶があるので、キューブを使えば透明になることも可能だ。
「止めておこう。相手が手練れの場合は、すでに気づかれてる可能性が高い」
もし透明になるなら、店に入る前にしないと意味がない。そもそも扉を開ける時点で誰かが入ったのはバレるので。警戒されるのがオチだ。
俺達が階段へと移動し始めたその時、階段から降りてくる足音が聞こえた。
「ねぇあなた。本当に誰かいるの?」
「静かに。物音がしたのは確かなんだ」
「兄やん!!」
突然ミサキが大声を出す。
どうやら階段から降りて来たのはこの店の持ち主の夫婦だったようだ。
「「えっ!?」」
ミサキは二人に向かって階段をかけ上がり、男に抱きつく。
「兄やん! ただいま!! 姉さんも!! ただいまやで!」
「ミ、ミサキ? ……本当にミサキなのか?」
「うそ……ミサキちゃん?」
「せやで! ミサキや!」
男の方は抱きついてきたのがミサキだと分かるとギュッと抱き締め返す。
女性の方は目に涙を浮かべている。
「ミサキ!! 無事だったのか!? よかった……本当に良かった」
「ちょっ!兄やん痛い!!」
「ああ、すまない。でも、本当にミサキなんだな」
ミサキの帰りを本当に喜んでいる。やはり息子の方も底抜けにいい人みたいだな。
――――
ここはバルデス商会の二階、商会主であるバルデスの息子であるミハエルさんの仕事部屋だ。
ちなみに三階が生活空間になっているから、家族以外は立ち入り禁止らしい。
そして、三階にはまだ人の気配がある。俺達からは隠しているようだが、今は詮索はしない方がいいだろう。
ここにはミハエル夫妻と俺とミサキ、遅れてきたレンとマチルダ、待機させていた三人もいる。
レンも二人に会うと、泣きながら再会を喜んだ。
二人とミハエル夫妻がひとしきり喜んだ後に、ミサキがこの店を出てからの経緯を話した。
行商で旅を続けていくうちに赤の王都へ行ったこと。
そこでアンデッドに襲われたこと。親代わりのバルデスの死。
「そうですか。父さんはもう……」
「ホンマにごめん。オトンは死んだのに、ウチらだけ生き延びて……」
ミサキが謝るとミハエルさんは立ち上がって怒りだす。
「何を言うんだ! 父親が娘を助けるのは当たり前だろ!! 父さんだって、可愛い娘達が助かって喜んでいるはずだ。だから……ごめんじゃなくて、ありがとうって言え」
「兄やん」
「ミハエルさん」
二人はミハエルさんをしばらく見つめあう。
「そうやな。オトンにはちゃんとお礼を言わなあかんな」
そう言ってから二人でありがとうとお辞儀した。
「シオンさん……でしたか? この二人を助けていただいて本当にありがとうございます」
二人の後で、ミハエルは俺に深々と頭を下げた。
「よしてください、俺はお礼を言われるような人じゃない。助けたのは……この二人が同郷だったからだ。そうじゃなかったら見捨てていたかもしれない」
「同郷……ではもしかしてシオンさんも?」
「ああ、異邦人だ」
俺の言葉にマチルダがハッと息を飲むのが分かった。
今ここにいるメンバーでそれを知らなかったのはマチルダだけだ。というか、そんなことよりも大きな秘密はあるけど……ってか、異邦人は気がつかなくても、転移とか使いまくってるし、魔王関係は気づいているかもしれない。
「驚いたか?」
「……少し。ですが、シオン様が誰であれ、私を助けてくれた恩人に変わりはありません」
そんな俺とマチルダの会話にミハエルさんは笑う。
「ふふ、シオンさん。どうやら同郷ではない方も助けているようじゃないですか。きっと二人が同郷でなくても助けたと思いますよ」
「せやで、元はウチらが誰か分からんのに、オトンの声で助けに来てくれたやんか」
くそっ。皆ニヤニヤしてこっちを見やがって。俺は照れるのを必死で隠した。
「まぁそういうことにしてくれるなら嬉しいな」
「……シオン様、照れてるっスね?」
それをぶち壊しにするリン。
「こらっリン! 余計なことを言うんじゃない!」
「ははは、ミサキとレンは、本当にいい人に助けてもらったみたいだ」
ミハエルさんは嬉しそうに笑うが、本当にいい人は貴方達親子だと言いたい。
「それで、ミサキとレンはこれからどうするんだ? 戻ってきて一緒に頑張るか?」
多分一緒に働きたいんだろうが……戻ってこいとは言わない。あくまでも二人の自主性に任せるようだ。
「ウチらはこのままシオンさんの所におるつもりや」
「そうか。……まぁここは二人の家でもあるから、何時でも帰ってきていいからな」
「それやけど、ウチらが今回来たのは、オトンの話ともうひとつあるんや」
「もうひとつ?」
「せや、実は……」
「ミサキ、その先は俺が話す」
ミサキが先に話そうとしたので、慌てて止める。
ミサキも特に怒りもせずに大人しく引っ込む。
「実は用があるのは俺の方なんです。ミサキとレンにこの商会のことを聞いてお願いしたいことがありまして」
「お願い……ですか?」
ミハエルさんは少し怪訝そうな顔をする。
「ええ、お二人……いえ、バルデス商会をスカウトしたいんです」




