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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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閑話 ある傭兵の考察

今回は閑話です。

マチルダを連れて町から逃げ出した後の名もなき傭兵の一人称です。

あくまで傭兵の考えなので、真実とは限りません。

「逃げられただと!?」


「申し訳ありません。一体いつの間に町の外へと逃げ出したのか……」


 入口はずっと見張っていたが、確実に門は通っていない。この町の出入りはあの門だけだ。

 まさか壁を越えたのか!? いや仲間がずっと見張ってたんだ。そんな目立つことをすればバレるに決まってる。それにあの男の仲間の女があの壁を登れるわけがない。


 であればやはり門から抜けて行ったのだろうが……。


「で、倒れていた奴らは?」


「今は回復して、持ち場に戻っております」


「やはり毒で死ぬとは嘘だったではないか!? だから無理やりでも、残った女を連れ出せと言ったのだ」


「いえ、毒には間違いなく侵されておりました。毒になった者から話を聞くと、どうやら例の男が魔法を使って回復してくれたと……」


「ふん、わざわざ助ける必要があるか! どうせすぐに治る筈だったに違いない」


 いや、あんな毒は見たことがなかった。魔法が使われなければ確実に奴等は死んでいただろう。きっとあの場所で何かあったに違いない。


「で、その男が例の物を持っているのは間違いないのか?」


「いえ、それも分かっておりません」


 あの盗賊達を倒したのは間違いなく例の男だ。盗賊は見たこともない乗り物の奴に襲われて、アジトの場所を吐かされたと言っていたから間違いない。

 実際にアジトの近くに行くと、確かに見たこともない乗り物に乗った連中がいた。


 そこで例の男が登場だ。男はアジトに行ってたらしい。

 が、男は見るからに手ぶらだ。すでにこの怪しい鉄の荷車に入れたのか? いや、そんな気配はなかった。確実に手ぶらで帰ってきていた。

 男はアジトには何も無かったと言ったが、果たして本当なのか?

 どうにかして持ち帰ったのではないか? それともどこかへ隠したのではないか? 他に仲間がいて持ち帰ったのではないか?


 いや、本当に何もなかった可能性はないか?


 そもそも盗賊が交渉場所をあそこに選んだのも気になる。それに肝心の物をアジトに置いてきたというのも謎だ。

 本人達は誰もいない場所で交渉したかったと言ってるし、今回は値をつり上げるだけで取引はするつもりがなかったから持って来なかったと言っていた。

 本当にそんなことがあり得るのか? 交渉に失敗すると、元の金額でも取引できなくて、結果盗賊が損をするだけだぞ。


 それにあの場にいた盗賊は、殆どがこの国の近くで新たに集められた盗賊だった。元からいた盗賊の仲間の行方は分からない。

 もしかしたら例の男の言うことは本当で、盗賊の仲間が持ち逃げしているのかもしれない。


 どうやらあの盗賊達もまだ何か隠していそうだ。


 だが、例の男も怪しいのも事実だ。

 町に来て監視していたが、町の探索は仲間に任せて、本人は奴隷市場に行っただけだ。

 しかし、その奴隷市場では結局奴隷は買わなかったという。

 監視していた者も、入るときも出るときも一人だったのは確認しているし、店の親父に確認しても男が誰も買わなかったのは確認が取れている。


 奴は何故奴隷市場へ行った? 何故買わなかった?

 もしかして誰かを探していた? 誰を?

 店の親父に聞いたが、例の物を持っていた盗賊が売った女は死んだらしい。

 本当か? もしかして買われたんじゃないのか? 例の男が買ったんじゃないのか?


 念のため盗賊に聞いてみると、売った女は死んでもおかしくはないくらいの重傷だったらしい。

 散々遊び倒して飽きたから今度は目を抉ったり、顔の骨格が分からなくなるくらい殴ったりと、痛めつけて遊んだらしい。

 聞いているだけで顔をしかめてしまう。そんなことをして何が楽しかったのだろうか。


 奴隷市場の親父の言う事とも一致するし、死んだというのも納得できる。少なくとも遺品として売られた当初に着ていた服はあった。


 そうなるとやはり例の男は女が死んだから何も買わずに出て行った? それとも全く関係なかったのか?


 そもそもがあんな乗り物に乗っている時点で怪しすぎる。本人は商人だと言っていたが、それも疑わしい。そもそも商人が盗賊を全滅出来るのか?


「くそ……あれさえあれば、今頃はこんな場所にいることすらなかったはずだ。あの国に厚く取り入れてもらえる筈だった。ようやくこの俺にも運が向いてきたと思ったのに……」


 俺の雇い主であるこの町の領主は、元々赤の愚王に媚びを売って甘い汁を吸い続けていた。

 だが、魔族に国が滅ぼされ、他国からも見放され孤立した。

 今まで何もしなくて楽ばかりしていた為、今のこの自給自足の生活に我慢が出来なかった。

 だが、他国へ移住しようにも、他国では貴族の称号は剥奪され、ただの一般人扱い。

 プライドだけ高い彼にそれは到底許容できるものではないらしい。


 俺は例の男に関して数少ない情報を整理することにした。

 まずあの男の名前だ。あの男がやって来た時に女は何と言っていた? 『シオン様! 帰ってきたんスか!?』だ。あの男はが上の存在なのは間違いないらしい。

 だとすればあの男は貴族なのか? それともあの女も奴隷だったのか? いや、奴隷の首輪は付けてなかった。だとすると地位が高い可能性がある。


「なぁ、シオンって名前に聞き覚えがあるか?」


 俺は仲間に男の名前に聞き覚えがないか聞いてみた。もし有名な者なら、そこから何か情報が手に入るかもしれない。


「は? いえ特には……いや、妙に聞き覚えがあるような? 確か最近…………あっ!」


 仲間が思い出した情報を聞きながら、俺は顔が強張っていくのを感じた。

 マズいマズい。例の男が本当にあの人なら俺達は……いやこの町自体が終わっても、おかしくなかった。俺達は見逃されたのだ。


「くそっ! 何としても取り返さなくては……いいか! 絶対にその男を見つけてここに連れてくるんだ。いいな!」


 雇い主の言葉に俺は探しに行く振りをして、全てを捨てて逃げることにした。

 これ以上付き合っていられるか!! せっかく見逃されたのだ。下手に刺激して、虎の尾を踏む必要はない。

 とりあえずここではないどこか遠くへ……俺は他国へ行くために、国境沿いの町を目指すことにした。

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