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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第89話 弱音を吐こう

「お帰りなさいませシオン様」


「ああ、ただいま」


 今回は予め帰る前に連絡していたので、転移場所でルーナが待っていた。


「今日は慌ただしくて悪かったな。だが、お陰でもう問題はないと思う」


「左様ですか。詳しい話は後程じっくりと聞かせていただきます」


 ルーナの目が怪しく光る。絶対に逃がさないといった感じだ。だが今回の俺はちょっと違う。


「いや、すまないが、今日は早く休みたい。例の話はこの中に入っているから、自分で確認してくれ。じゃあな」


「えっちょっシオン様?」


 俺はさっきのマチルダとの会話を録音していたので、それをルーナに投げ渡す。せっかく帰ってきたのに、ここでお説教コースで時間を潰すのはごめんだ。


 背後から何やらルーナの叫びが聞こえたが、気にせず自室へと戻ることにした。



 ――――


 自室でシャワーを浴びて一息つく。

 そういえばスーラも居なくて一人で夜を過ごすのは、こっちに来た初日以来じゃないか? 次の日からはずっとスーラと一緒だった。


 スーラと二人でも会話自体はそこまで多くない。会話がなくてもお互い意思疎通ができるくらい一緒にいるからだ。だからか……いないと少し寂しく感じる。


 まぁ今日は嫌なことがたくさんあったので、全て忘れるためにやけ酒でも飲んで寝るか。

 そう考えていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「お休みのところ申し訳ございません。シオン様、少しよろしいでしょうか?」


 ルーナだ。シャワーも浴びて少しは落ち着いたし、スーラもいなくてちょっと寂しかったので、俺は彼女を招き入れた。


「ちょうどよかった。一杯付き合ってくれ」


 一人で飲むのも少し味気ない。折角だから付き合ってもらおう。


「あの、わたくしまだ仕事が……」


「城主に付き合うのも仕事の内ってね」


 これは嫌な上司の常套句のような気がする。まぁ今日だけは許してもらおう。


「……どうされたのですか? わたくしは追い出される覚悟で来たのに……先程と大違いですよ」


「シャワーを浴びてさっぱりしたからかな。落ち着いたし、一杯飲んで寝る予定だったんた。なら……話し相手が欲しいだろ」


「仕方がありません。一杯だけですよ」


 ルーナが付き合ってくれるので、グラスを二つ用意した。やはり、こんな時は部屋に冷蔵庫があって良かったと思う。


「……シオン様? このお酒は少し強くございませんか?」


 俺が用意した酒はウイスキー。普段飲むビールや日本酒、焼酎に比べるとアルコール度数は高い。


「ああ、そういえばそうだな。まぁ今日はそういう気分だったんだ」


 気にせずグラスに注ぎ、ルーナへと渡す。


「はっまさかシオン様! いつも飲まないような強いお酒でわたくしを酔わせて……」


「違うから。はぁ、まあいいとりあえず乾杯しよう」


「むぅ。ノリが悪いですね。……それ程嫌なことがございましたか?」


 俺はルーナとグラスを合わせ乾杯をする。


「そうだな。今日は本当に嫌なものを見た」


「……奴隷市場ですか?」


「そう……だな。それに盗賊のアジトもそうだ。正直、見たくはなかったよ」


 アジトや店に入ったときの臭い、怪我も治されず、食べ物も着る物もろくに与えてもらえない。

 人を人とも思わない仕打ち。なぜ同じ人間にあんなことが出来るのか?

 あの奴隷たちが一体何をしたというんだ? ただ悪人に連れられて、売られただけの人。

 中には犯罪者もいたかもしれない。しかし、それでもあの仕打ちはないだろう。


 俺だって人をたくさん殺しているから、こんなこと言えた義理じゃない。

 ただ……それでもやっぱり嫌なものは嫌だった。


 そして、過去に奴隷として捕まったスミレ。助かったから良かったものの、一歩間違えれば、スミレもあんな仕打ちをされていたという事実が重くのしかかる。

 ルーナ達魔族だってそうだ。もし魔族が捕まったとしたら、もっと酷い仕打ちをされるだろう。

 そう考えただけで全てをぶち壊したくなった。


「シオン様……少し厳しいことを言いますが、現実なんてこんなものです。シオン様は理想を追い求めすぎなのです」


「これが現実……か。確かにそうだな」


 確かにこれが現実だと知っていた。地球にいた頃からソータに言われていたし、こっちに来てからも散々言われた。だが、いざそれを目の当たりにすると、衝撃を受けずにはいられなかった。


「この現実が嫌なら、シオン様が頑張って変えてくださいまし。このシクトリーナのように」


 俺が変えていく……か。もちろん全てが変えられるとは思わないし、別に無理矢理支配しようとも思わない。

 だけど、少しずつ協力していけば……いずれここのようになれるかも知れないな。


「ありがとうルーナ。少し気が紛れたよ」


「いえ、お力になれたなら何よりです」


「それで、ルーナは何しに来たんだ?」


「えっ?」


 俺の言葉に大げさに驚く。


「えっ?」


 その驚き方に俺の方が驚く。


「えーと、シオン様の様子がおかしかったから、様子を見に来ただけですけど……」


 あれ? てっきりさっきの録音の件だと思ってたのに……って心配されるほどだったのか?


「……そんなにおかしかった?」


「いえ、わたくしが何となくそう感じただけです。実際、他のメイドは何も思わなかったようですし」


 いつも一緒にいたルーナだから気づけたって所か。あ、もしかしたらスーラも気がついてたかもな。だから何も言わずに一人にさせてくれたのか? ……やっぱり出来た相棒だ。


「そっか。ありがとな。もう大丈夫だ。ルーナはこれから仕事に戻るのか?」


「……折角ですので、ついでにこのまま報告致しますね」


 どうやら報告することはあるらしい。


「まず、キンバリーへ遊撃隊を派遣いたしました。サクヤとシグレの二人です。主に過激派と穏健派の状況を伝えるように言っております」


 おっ? サクヤが行ったのか。どうやらリンは免れたようだな。


「ってことは、さっき渡した録音は聞いてくれたようだな」


「ええ、過激派というのは……全く用心深いというか、只の被害妄想というか…」


 呆れたように言うが本当にそうだと思う。


「シオン様はこれからどうされる予定で?」


「録音にもあったように、マチルダを連れてハンプールへ行く予定だ。そこでバルデス商会と交渉しながら情報を集める」


「関わる予定で?」


「過激派が勝ったら困るから、穏健派の手伝いはしたいが、積極的に関わる気は今のところない」


 あくまで当事者の問題だから、俺達が出しゃばったら後々困るだろう。とはいっても、多分関わるんだろうな。


「左様でございますか。ですが、いつどうなるか分かりません。重々お気をつけください」


「分かったよ。じゃあ俺は寝るとしようかな。明日は朝一で戻るから」


 俺は話が終わったつもりだったんだが、ルーナは動かない?


「ん? まだあるのか?」


「わたくし強いお酒を飲んでますよ? きっと何があっても明日には忘れてますよ。……襲わないんですか?」


「馬鹿言ってないでサッサと出て行け!」


「ああ、シオン様!? 無理に動かしたら、本当に酔いが回ってしまいます!」


 騒ぎ立てるルーナを無理矢理追い出す。

 ともあれルーナのお陰で少し吹っ切れた気がする。おかげでゆっくり寝られそうだ。

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