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ロストカラーズ  作者: あすか
第五章 黄国内乱
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第88話 マチルダの話を聞こう

「私はキンバリーである方に仕えておりました」


「キンバリーって言うと、黄の国の王都だったよな」


「ええ、そうです。そこで、働いていたのですが、最近国の情勢が悪くなっておりまして……」


「それは……」


「赤の国が滅んだからです。それから三国同盟が発表されたのも原因でしょう」


 耳が痛いな。


「キンバリーでは魔族が攻めてくるから、先に攻撃と考える過激派と、何もしなければ問題ないとする穏健派に別れておりまして……」


「えっ? そんなことになってんの? 何で? だって三国同盟は特に攻めてこないでしょ」


 攻める必要ないし。考えたこともないよ!


「しかし、魔王が三人も組んで同盟を結ぶことは、過去にも例がないと、国中で話題になっております。そもそも、魔王同士は仲が悪いから、人間の国に攻めてこないって言われておりましたから」


「そうなの?」


 マチルダの言葉を聞き、思わずリンへと問いかける。


「そうっスね。あのヘンリーを見たら分かると思うっスけど、元々仲がいいとは言えなかったっスね」


 いつの間にか言葉遣いが冒険者モードに戻ってる。もうこっちが素なのかもしれない。


「でもシエラとエキドナは仲がよかったんだろ?」


「あの二人が別だっただけっス。実際、エキドナ様とゼロ様はあまり仲良くなかったっスよね?」


 確かに今はともかく俺が初めて会ったときも単なる知り合い……って感じで、そこまで仲がいいとは思わなかった。


「じゃあ事実かどうかはともかく、魔王が三人仲良くなったから、攻めてくると思ってるのか?」


「過激派はそう思っているようですね」


 なんてこった。三国同盟、完全に裏目じゃね?


 ちなみにマチルダはまだ俺達のことは何も知らない。それに俺達のことは詮索しないように言ってある。だが、もし俺が張本人だと知ったらどう思うか……それ以前に、既にバンバン情報を与えてる気がする。詮索するなと言っても、これじゃあ気づかれても仕方ない。まぁ気づかれたらその時はその時だ。


「それで、それがマチルダさんにどう関わってくるんだ?」


「はい、私の主人は穏健派でございました。ですので、過激派が襲いかかってくる可能性があり、主が私にお嬢様と坊ちゃまを連れてウェイバリーに行くように申しつけました」


 要するに内乱か。穏健派を潰して過激派が主導権を握ろうってことだな。


「ウェイバリーって?」


 聞き覚えのない町だ。


「確かキンバリーの近くにある町やった覚えがあるで」


 答えたのはミサキだった。流石ミサキ。黄の国に住んでたから、その辺りの地理には詳しいみたいだ。


「そうです。キンバリーの隣にある町でございます。そこに主の親戚で、信頼できる方がいると言われましたので、お嬢様と坊ちゃまとお忍びで出かけることになりました」


「あ、分かった。その都市に行く途中に盗賊に襲われたんだな」


 ありがちなパターンだ。


「いえ、違います」


 あ、違った。くそっいらん恥をかいてしまった。もう憶測ではなすのは止めよう。


「無事にウェイバリーには辿り着けました。ですが、頼りにしていた方は、すでに過激派に取り込まれておりました」


 それは……鴨が葱しょってやって来た感じか。


「私は二人を連れて逃げ出しました。ですが、ウェイバリーを離れても、もう他に頼れるところはなく……」


「一旦帰るわけには……駄目だよなぁやっぱり」


「ええ、キンバリーへ帰るのは、せっかく逃がしてくれた主に背くことになります。それに、万が一帰って人質にでもなれば、主の迷惑になります」


 そうだよな。それをさせないように逃がしたのに、戻ったら全てが台無しか。


「それで、私は一旦この国から脱出して、青の国に亡命しようと思いました。その為に国境沿いの町へ向かっていたのですが、途中に過激派の追っ手に追われて、坊ちゃまとお嬢様と、うっ……離ればなれに」


 思い出したのだろう。マチルダは途中から嗚咽の声が漏れていた。


「その二人の行方は分からないのか?」


「ええ、もし捕まったのなら、殺されていることはないでしょうが、離れた後に、私のように盗賊に捕まっていたら……くっ」


 最後はもう声になっていなかった。


「ならこの紋章は……」


「はい、主の紋章です。本来なら坊ちゃまが引き継ぐのでしょうが、旅の間は私が持っておりました」


 過激派に潰されそうになるってことは、随分と偉い貴族なんだろうな。


「それは分かった。で、何で黄の国にいるはずなのに、こんな元赤の国の端っこまで来ているんだ?」


「あの盗賊は、私を元々黄の国で捕まえました。ですが、紋章を見て、その価値に気がついたのでしょう。この国に売りに来たようです。私はその……道中の慰み者というか、世話をさせるために……」


「すまん。もういい。辛い話だったな」


 ちょっと配慮が足らなかった。おそらくさっきの町の権力者にでも、この紋章を売ろうとしたのだろう。で、俺が奪い取ったとそんなところか。そりゃあ相手も必死になるな。で、マチルダは町に到着したから、奴隷商人に売ったってところか。


「いえ、別に私のことは構いません。それよりもお二人のことが気がかりで……」


 あんな目に遭って、なお自分のことよりも別れた二人のことを……この人、本当に強いな。


「それでその……私は奴隷として買われたわけですが……傷も治して頂いて……」


「ああ、さっきも言ったが、それは別に気にしないでくれ。奴隷も契約は破棄してるし、自由にしてくれてかまわない」


 ちょっと前、この野営地に来たときは本当にすごかった。


 俺が車から降りると、マチルダが涙を流しながら土下座で俺に感謝を述べた。

 まるで俺を神かなにかと勘違いしているようだった。

 挙げ句の果てに、お礼に何も差し上げれないからと『盗賊に汚された汚い体ですが……』とせっかく着た服を脱ごうとする始末。

 それを止めると『やはりこんな汚れた体では……』と言われ、慰める羽目になる。

 そして背後に感じる視線。リンの冷たい視線に、ミサキの楽しんでいる視線、『はぅぅ大人の会話だよ』と恥ずかしがりながら、手で見えないように顔を隠すが、指の隙間からこっそり覗いているレンの視線。そして何を考えているか分からない、無表情のアイラの視線。


 そんな状況から必死に説得し、夕食の準備をするからと逃げたのだったが……。


「マチルダさん。俺達は貴女をどうにかするつもりはありません。紋章もお渡しします」


 俺は持っていた紋章をマチルダへと返す。


「とりあえず今後のことについて話しますね。元々俺達は黄の国のハンプールって町に行く予定でした」


「ハンプール! 私も行こうとしていた町です。あそこからなら、青の国へ亡命しやすいと思ったので……もしかしたら、お二人がいらっしゃるかもしれません」


 そうか、盗賊や過激派に捕まってなかったら、ハンプールにいる可能性が高いのか。


「そうですか。ではハンプールまでは一緒に行きましょう。その後は、正直こっちもどうなるか分からないので、お手伝いできる保証はないです」


 あくまでも俺達の予定はバルデス商会の取り込みだ。もちろん二人を探すのは吝かではないが、それを最優先の確約は出来ない。


「いえ、十分です。助けていただいただけでも十分なのに、ハンプールまで送って頂けるなんて……」


「なら決まりだな。ハンプールまでの短い期間だけど、よろしく頼む」


「こちらこそ……出来ることなら何でもしますから、どうぞよろしくお願いいたします」


 いつもなら何でもに反応したいところだけど、今はシャレにならない気がするのでスルーする。


「ん? 何でもやて?」


「えっ? ……ええ」


 が、それをぶち壊すミサキ。思わぬ食いつきに、若干引くマチルダ。


 俺はミサキの頭をはたいて立ち上がる。


「ちょっ!? 暴力はアカンて」


「そんなに痛くしてないだろう。ツッコミだよツッコミ」


「ああ、そんなら……って、ほなもっとツッコミらしいツッコミをかまさんかい!」


「……俺にはミサキのようなキレのあるツッコミは無理だよ。と、今日の所はこれで解散でいいかな? 俺は一旦城へ戻ろうと思うんだが……」


「えっ? 戻るんスか?」


「ああ、一晩だけな。食料や、お小遣いの補給と報告。あとちょっと疲れたから休みたい」


 旅に出てから俺は夜は見張りか運転席での就寝が続いた。一応キャンピングカーはリビングも使えば最大七人は寝ることができるが、流石に女性四人の中に混じって、男一人は無理だった。


「今日の所は結界石を使って……何か問題があればすぐに連絡をくれ。一応、ホリンとスーラは置いていく」


 一度使うと半日は外敵から身を守ることが出来る結界石。それに加えて、ホリンとスーラが居れば、俺が居なくても問題ないだろう。


「分かったっス。くれぐれもルーナ様によろしく言っておくっスよ!!」


 リンは進退がかかってるからな。まぁもう無理だと思うけど。ただ下手にサクヤに来られても困るし、フォローはしておくか。


 サクヤはな……別に悪いわけじゃない。メイドとしての実力は随一らしいし。ただ、遊撃隊でヘンリー側を調査していたから、リンやセツナと違い、あまり接点がなかった。

 そして、これが問題なのだが、サクヤはルーナの直属の弟子的位置にいる。第一弟子がシャルティエで第二弟子がサクヤだ。


 で、第一弟子のシャルティエがいつもふわーっとしてるんで、育て方を間違えたと反省したルーナは、サクヤに対してはガッツリと鍛えたそうだ。

 その結果、サクヤはルーナの分身とも、第二のルーナとも呼ばれている。

 ただし、シルキーの中では若い方に当たる。その為、いくらルーナの様に実力があろうと上に立つには早すぎると判断されている。


 そんなサクヤがリンの代わりに来たら……今のまったり空間がなくなってしまう危険性がある。それだけは回避したい。


「分かった。ルーナにはリンはしっかり働いてるって言っておくよ」


 俺は力一杯リンへ返事した。


「頼むっスよ!!」


「あ、シオンさん、私の部屋に入ってもいいので、水筒の水を補充してきてください」


 はう! って言いながら、レンが水筒を突き出す。俺が結構貰ったから、空っぽになったんだろうな。


「分かった。第一に頼んで入れてもらうよ」


 俺達の不在の時は、第一が毎日部屋の掃除をしている。彼女たちにお願いすれば、補充してくれるはずだ。やはり、本人の許可があっても、女性の部屋に入るのは気が引けるもんね。


「他に何かある奴はいるか?」


「ウチは特にないわ。欲しかったら自分で帰るし。あっでも美味いもの持ってきてな」


「私も特に必要ない」


「まぁ扉をくぐるだけだからな。いつでも帰れるか」


 本来なら毎日帰ってもいいくらいだ。ただ……それをしたら旅ってイメージじゃなくなるから、皆なんとなく遠慮してしまうんだ。


 だが、今日はそうもいかない。報告もあるし、物資の補充もある。そして何より今日は嫌なことが多かった。盗賊のこと、そして奴隷のこと。人の嫌な部分をこれでもかってくらい見せられた。だから今日は一人でゆっくりと休みたい。


 というわけで俺はシクトリーナ城へ一旦帰った。

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