第87話 夕食を食べよう
「リン、そっちの様子はどうだ?」
今日の夜営地を決め……といっても、寝泊まりはキャンピングカーの中。
食事に関しては、この人数だと手狭になるので、外で食べる。
それも、折り畳み椅子とテーブルを準備してるし、料理は車の中。
ガチの旅をしている人が見たら、間違いなく怒られる状況だ。
ちなみに食事当番は俺。別に料理は好きだからいいけど、リン……城主に料理当番させるメイドってどうよ?
以前、それをリンに言ったら『美味しく出来る人が料理するのが一番っス』と言いやがった。自分で覚える気は全くないらしい。
ったく、よくそれで潜入捜査なんて出来たな。と思ったが、普段は宿や店で食べるため、自炊する必要はないらしい。
まぁ本物の冒険者は依頼で野営などをするのだが、リンはあくまで冒険者の振りなので、泊まりの依頼はしない。せいぜいカモフラージュで、日帰りの依頼をするだけだ。
そしてアイラとミサキ。彼女達も料理は全くしない。完全に俺任せの状態だ。
アイラは包丁捌きはともかく、火加減が苦手で、焼き物も煮物も全て常に焦がす。スミレも当時根気よく教えたようだが、火の扱いだけはどうしても駄目だったようだ。
まぁ火を使わない料理なら何とか……と言いたいところだが、それだとサラダ位しか出来ない。それでアイラは料理をすることを完全に諦めたようだ。
ミサキは最初からやる気がない。『ウチには立派な嫁がおるからな』らしい。
その嫁であるレンは、唯一俺を手伝ってくれる。それにミサキが言うように、料理は得意のようで、手際がいい。
もちろん一流という意味ではなく、家庭的な料理を作るという意味だが。
まぁ俺もプロじゃないので似たようなものだ。
そういうわけで、今回の旅の料理当番は基本的に俺とレンだ。
料理は夜に作って、朝は残り物を温めるだけ。昼は時間がないときは、おにぎりや乾物など簡単なもの、時間があるときはちょっと豪華に……って感じだ。
今日の夕食はマチルダもいるため、野菜をたっぷり煮込んだポトフ。ベーコンとウインナー両方入れた豪華版だ。奴隷生活であまり食事を取れてなかっただろうが、これなら胃にも優しいし、栄養もある。
俺が日本にいた頃は、コンビーフを使ってたな。コンビーフ自体はこの世界にも似たようなものがあるが、缶詰がないからな。ブロックでは持ち歩きたくない。
そういえば、缶詰自体は日本の技術を使わなくても、この世界の技術で作ることは出来るみたいだ。この辺りもバルデス商会と取引できるようになってからかな。
ポトフ以外は、無難にパンにした。おそらく米は食べたことがないだろう。
それだけだと少し寂しく感じたので、オムレツを作ることにした。
「シオンさんは相変わらず手際がいいですね」
「ん? レンだって似たようなものだろ?」
「私は……この量を一人で作ると、倍の時間が掛かっちゃいます」
「あー」
レンは一つ一つは手際がいいんだが、同時進行が出来ない。一つの料理の途中に、並行して他の料理を作ろうとすると、途端に『はぅ』ってなる。
しばらく煮詰めたり寝かす必要がある場合も、気になって手が疎かになるそうだ。
だから俺みたいに、ポトフを火にかけならがら、オムレツの準備を……ってことが出来ない。そのため手際がいいと感じるんだろう。
「俺だって最初は出来なかったさ。毎日料理を作るようになって、ようやく出来るようになった。レンも数をこなせば出来るようになるよ」
両親が死んでから姉と二人で暮らし始めて数年。ようやく母親の味に追いついてきた気がする。
「そうかなあ?」
「ああ、それにこの旅の間は、俺がちゃんと教えてやるから」
「はう! ありがとうございます」
なんか弟子が出来たみたいで嬉しい。よし、レンを立派な料理人にしてやるぞ!
――――
「美味しい……」
マチルダが一口食べた後の感想だ。口に合って良かった。
「せやろ。たくさんあるからいっぱい食べてな」
うーん、たくさんあるのは事実だし、おかわりも問題ないんだが……何でミサキが言うんだ? お前は何もしてないだろ!!
ただ、それを指摘したところで『ええやん別に』と言われるのが目に見えてる。
「……おかわり」
「……アイラ。おかわりは構わないが、三杯目はそっと出すのが礼儀だぞ」
体はいつも動かしているので、たくさん食べるのは健康的でいいのだが、もう少し女性としての恥じらいを持って欲しい。
「ん??」
いや、そのはてな顔は反則級に可愛いけどさ!
「ああ、やっぱいい。言っても変わらないや」
アイラには何を言っても無駄だろう。仕方がないから、おかわりをよそってやることにした。
「ウチもおかわりやで!」
ミサキがレンに器を渡す。
「お前は……自分で行けばいいだろう」
「そんなんアイラもやないか。贔屓は駄目やで」
俺が文句を言うと、ミサキがすかさず反論。その間にレンがおかわりをよそう。本当にレンはミサキには出来た嫁だ。
「……太るぞ」
「そ、そ、そそんなことあらへん。ちゃんとルーナと特訓して汗かいてるし!」
「ミサキちゃん。旅に出て特訓してないよ。殆ど車に乗ってるだけだよ」
旅に出ても、毎日城の時と同じように食べてる。今は大丈夫だけど、そのうちヤバくなるぞ。
「はっ!? そうやった。ウチ、旅に出てから殆ど動いてへん。でもそれやったら、レンやアイラだって……」
衝撃の事実に気づいたかのように固まる。ってか、言われなくても気づけよ。
そして仲間を増やそうと画策する。ってか、アイラはともかく、レンはそこまでたくさん食べてないからな?
「はぅ。私はそんなにいっぱい食べないし」
案の定レンが反論する。それを受けて『ぐぬぬ』と唸るミサキ。
「私は今も毎朝朝練してるから」
「朝飯の時間まで寝てるミサキは知らんと思うけど、アイラとレンは俺と一緒に朝練してるからな」
「なんやて!? ホンマか?」
ミサキがレンに詰め寄る。
「はぅあ! ……朝練って言っても、私はご飯の準備前に、軽く体操と魔法の練習をするくらいだよ」
アイラは俺と簡単な模擬戦、レンは軽く体操と体を魔力の操作の練習をやっている。
ちなみにリンは、その時間を利用して定時連絡や荷物の在庫調査を行っている。ぐーたら寝ているのはミサキくらいなものだ。
「そんな……ウチだけ除け者にして、そんなことしとったんか?」
二人に向かって裏切り者とでも言いたげなミサキ。
「いや、ギリギリまで寝てるだけだろ。皆は普通に起きてるぞ」
「ウチ、ウチも明日から頑張る! だから今日はおかわりを頼むで」
あっ、それでも食べるんだ。まぁいいけど。
「マチルダさんは? まだ食べます?」
突然話を振られてマチルダは驚く。
「い、いえ十分です」
「お口に合いませんでしたか?」
美味しいとは言ってくれたけど、器の中はあまり減っていない。
「いえ、そんなことは……こんなに美味しい料理は初めて食べます。ただ……」
やっぱり彼女は何か抱えているんだろう。
「本当は食後に話を聞こうと思ってましたが、食事をしながら聞いた方が良さそうですね。よかったらマチルダさんの話を聞かせてください」
多分話さないとマチルダが落ち着かない。俺は彼女の話を聞くことにした。




